朝露乃之は勇者である   作:バロックス(駄犬

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第2章開始という事でかなり時間が掛かりました。 日常回メインでバーテックスさんは暫く待機してもらいます。というか、ゆゆゆいのメインストーリー18話の赤嶺さんノーマルで強すぎない? 皆ワンパンされるんだけど・・・。


第2章〜育まれし想い〜
第1話~変わりゆく~


――――勇者達と巫女の朝は早い。彼女の一日はまず早起きと、体力作りによる訓練から始まる。

 

 朝の五時、まだ太陽も登り切っていない大赦訓練場のグランドを駆け抜ける四つの人が居た。大きく息を乱しながら走るのが二人と、ここまでの走りを物ともしないように平然と快速な走りを見せるのが二人。

 

「ラストスパート400メートルッ! 最後まで走りぬきなさいッ」

 

 先頭に立って三人の勇者達を引っ張るのは巫女である市橋桐香である。 掛け声とともに桐香が走り出すとそれに負けじと残り三人の勇者達もペースを上げた。一分と経ったくらいだろうか、距離を走り終えた桐香がゆっくりとペースを落として呼吸を整える。

 

「相変わらず・・・命は速いわね」

 

 誰よりも先にゴールを果たしていた命に視線を移した。巫女とは他の勇者達や桐香よりも早くゴールしていた。あれだけスピードを出していたにも関わらず彼女は肩で息をするどころか、わずかに肩を上下にするくらいだ。身体能力はこの場にいる全員より高い。

 

「だぁ~、も、もう無理ぃだぁ」

 

 遅れてゴールをした二人の内の一人、琴吹静流が息も切れ切れで手を膝に当てている。朝露乃之はゴールと同時にその場にぶっ倒れていた。

 

「な、なんなのよこの巫女は・・・いつも思うんだけど、なんで巫女なのにこんな身体能力が高いのかしら? 実はアナタ、身体に加速装置とか詰め込んでないわよね」

 

「鍛えてるからに決まってるじゃない・・・こう見えて、武道系はかなり極めたわ」

 

 ふふん、と胸を張る桐香。勇者を目指す為に、彼女はありとあらゆる武道に身を打ち込んでいた。剣道、柔道、空手、ボクシング、テコンドー、ムエタイ、ストリート・・・・上げていけばキリが無いが、その鍛錬の過程で生み出された体力はもはや巫女としても規格外である。

 

「あたしは戦闘のプロよ」

 

「どこかのグレートなマジンガーのパイロットじゃないんだから」

 

「それはさておき、朝の訓練は終了よ全員水分補給をしなさい」

 

 あらかじめバケツの中に氷水を入れて冷やしておいた彼女の特性ドリンクが全員に配られる。静流はそのドリンクを口にした瞬間、梅干しを食べたのごとく口をすぼめた。

 

「ヌアァアァァァァッ」

 

「今日は特製よ、愛媛名物のみかんとクエン酸大量に混ぜ込んだ疲れもぶっ飛ぶスポーツドリンクッ」

 

「し、舌がぁぁあ! 頭がぁああああ! 喉がぁああああ!」

 

「・・・・」

 

のたうち回る静流の横で無言を貫いていた命だったが身体全体がガタガタと震えていた。相当に酸っぱいらしい。

 

「フフフ・・・知らないのね静流。 愛媛みかんには魔法の成分、クエン酸とミネラルがそりゃもうたっぷり含まれているの。 これは疲労回復にはもってこいなワケで、そこにダメ押しで別売りのクエン酸サプリを粉末にしてぶち込んでおいたわ・・・見なさい、この効果を」

 

 

 そう言う桐香が長椅子で横になっていた乃之の口にペットボトルの口を含ませた。液体が口の中へ入り込んだ瞬間、死んだ目をしてた乃之が目を見開き、あまりの強烈な酸っぱさに長椅子から転げ落ちる。

 

 

「死人も生き返らせるわ」

 

「それもう拷問よ」

 

「もう許してください、ごめんなさい、なんでもします」

 

 涙を浮かべる乃之の眼には明らかに影が残っていた。どう見てもトラウマを植え付けられたようである。

 

 

「それにしても・・・勇者と同じメニューをこなすって、変わってるわねアナタも・・・体力的に変態だけど」

 

「別に、いいじゃない」

 

 初めての御役目を終えたその後の事である。桐香は唐突に訓練に参加し始めることが決まった。静流との決闘後、勇者達の育成プログラムは桐香が作成することになったのである。これは大赦の訓練係と相談を重ねて決定したことだった。

 

 ちなみに決定した理由としては彼女の、桐香の巫女としての能力と大きな関係があった。精神体として樹海の中を行動できる桐香は誰よりも勇者達の動きを観察できる存在である。故に、今の勇者たちに何が足りないのか、改善すべき点はどこなのかを桐香を通してトレーニング内容を見直して次回の戦闘に繋げることが今の桐香の役割だ。

 

 何よりも、勇者と共に訓練をしたいというのは桐香自身が提案したことだった。今まで信頼することをしてこなかった勇者達を今度は信頼し、彼女たちの事をもっと良く知りたい、と。

 

「んじゃ、後はストレッチして汗ふいて全員ちゃんと登校しなさいよ」

 

「え、市橋さんは・・・」

 

「いい汗かいたからねー、滝に打たれてから行くわよ・・・巫女としての日課もやってるから。 あと、乃之」

 

「え?」

 

と、乃之に向けて桐香は強めの口調で言う。

 

「名前! もう桐香でいいって言ってるでしょうに!」

 

「あ、わあわわわ・・ご、ごめん! き、きりちゃん!」

 

「き、きりちゃん・・・!?」

 

乃之のまさかのあだ名呼びに桐香の顔が少しだけ赤くなった。今まで呼ばれもしてこなかったまともなあだ名に恥ずかしさを感じ、思わず頭が熱くなる。

 

「あらきりちゃん、そんなに恥ずかしいのかしらきりちゃん、イガリマと巨大鎌とか振り回さないのかしらキリちゃん、語尾にデスってつけなさいよキリちゃん」

 

「・・・・・」

 

 

悪乗りしている静流に怒りの視線を向けると一呼吸を置いた後に、桐香は非情の一言。

 

 

「静流だけ腕立て200回ね」

 

「ちょっ!?」

 

「登校する前に終わらせなかったら寮の部屋の中でやらせるわよ・・・解散ッ」

 

もともと用意していたであろう自転車に乗って、桐香は一目散に駆け抜けていく。

 

「ふふふ、ここで姿を消したのは間違いだったわね桐香・・・・こんなの元からやるつもりもないわよ!」

 

と、悪の笑みを浮かべる静流。訓練を提案した本人がいないとなれば適当にやったと言って誤魔化すつもりでいたのだが。

 

「え? アレ? 乃之さん、命? どうして私の肩を掴んでるの?」

 

「あれ多分かなりキレてるからちゃんとやった方がいいよ・・・かわいかったけど」

 

「え、かわいい?」

 

 ときどき、乃之が良くわからなくなる静流であった。

 

「一応、静流ちゃんのお目付け役として私がついてるから・・・うん、ちゃんとやってるかとかも後で報告するつもり。 同じクラスだし」

 

ジーザス、と静流は落胆する。この世に神はいないのか、と。こうして、腕立て伏せが始まった訳だが。

 

「え? ちょ、乃之さん? なんで私の背中に乗ってるの!? 命も私の両足持って・・・これじゃ腕への負担が・・・ギャァァァァ!」

 

「じゃあ一回目―――――」

 

「無視してんじゃないわよォォォオオォオ!!」

 




日常はどっちかというと短編みたいな感じになりそうですね。食事の話とか、それぞれの出身の話とか、寮での勇者たちの生活とか。 巫女さんはここから難易度下がってどんどんデレてく予定。
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