キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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十話 届け物

「鍵は閉めた。鍵持ってる。お弁当も持ってる。よしっ」

 

 主が忘れていったお弁当を届けるため、シロは家を出て学校へ向かおうと考えた。

 

「スキル使ってもいいよね・・・・・・?」

 

 ポーチの中をまさぐって二つの珠を取り出した。

 茶色い珠、千里珠と双眼鏡を取り出して覗きこむ。 

 

「マスターの位置は・・・・・・ふむ、ふむ」

 

「マップは・・・・・・ふむふむ、うへぇ・・・・・・」

 

 狩猟地に比べるとかなり入り組んだ地形に思わず声が出た。

 

「けど、ちゃんとマスターにお弁当届けなきゃ!」

 

 自分の主に弁当を届けるべく、シロは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこ・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷子になってしまった。

 

「地図通りに来たと思ったのに・・・・・・」

 

 装備を身に着けていないのでスキルが常時発動していない。

 それによりある程度進んだら珠と双眼鏡を取り出して現在地とマスターとの距離を確認しながら進んでいた。

 

「大きい道はもっと向こう・・・・・・?」

 

 道を間違えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁーーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 

 学校

 

 四時間目

 

「で、この時期は株価が値上がりしてしまい・・・・・・」

 

 歴史ってすっごい情報量多くて眠いよね。

 

 30秒おきに欠伸が出そうになり、それを噛み殺しては睡魔と戦っている。

 

 モンハンにおける睡眠状態というのはかすりダメージを喰らえば直ぐに目を覚ましたが、リアルでそんなことをそう簡単には出来ないのだ。

 

 ダメだ、気を抜いたら意識が持っていかれそうになる・・・・・・。

 

 くらりくらりと舟を漕ぎそうになっていると、廊下からパタパタと誰かが走ってくる音がした。

 

 見回りの先生かな?

 

 気にも止めず、少し眠気が覚めた頭で授業に復帰しようと思ったら、突然教室のドアが開けられ、忙しなく歩いていた人物が乱入してきた。

 

「・・・・・・は?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 シロが入ってきた。

 教室内の全員が唖然としていた。

 

「トオルくぅぅぅぅん!!!」

 

「うわぁあ!?」

 

 突然シロが現れた、と思ったら泣きながら飛びついてきた。

 

「うぅ、ひぐっ・・・・・・」

 

「ど、どうしたっ!?」

 

 状況に困惑しながらも泣いているシロの背中を摩り、落ち着かせる。

 なんとか落ち着いて、ぽつりぽつりと話してくれた。

 

「どうした・・・?」

 

「お弁当を、届けようと、思って・・・・・・」

 

「うん」

 

「歩いてたら、道に、迷っちゃって・・・・・・」

 

「うん」

 

「地図、見ずに、千里眼だけ、で走って来ました・・・・・・」

 

「そっか」

 

 事情を聞いてなんと言えばいいか。

 

「あぁ、うん」

 

 もともと俺のせいでこうなったのか・・・・・・。

 

「トオル君・・・・・・」

 

 シロは頑張って届けてくれたんだよなぁ。

 なら、お礼を言うのが良いよね。

 

「ありがとう、シロ」

 

 頭を撫でてやりながら、そう言った。

 

「はいっ・・・・・・!」

 

 それまで目尻に涙を浮かべていた顔は、元気を取り戻してにっこり笑っていた。

 

 まぁそれはいいんだけどだからと言ってくっつくのはどうなんだろう。

 回りの視線が痛い。

 

 この前遊びに来た連中はニヤニヤしていて、他はヒソヒソと何か言っている。

 先生は「授業・・・・・・」と焦りながら呟いていた。

 

「村崎、お前・・・・・・!」

 

「仲間だと思っていたのに・・・・・・」

 

「処す? 処す?」

 

「ギルティ」

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

「お、そうだな(便乗)」

 

 何やらクラス中の男子から反感を買ってしまったようだ。

 

「わぁーお」

 

「ひぅっ・・・・・・」

 

 生きてシロの顔見れたらいいなぁ。

 

 そう思いながら、俺はただ時間が過ぎるのを待った。

 

 

 ややあって昼休み。

 

 弁当を届けにきて帰りは大丈夫なのか本人に聞いてみたら案の定「分かんないです・・・・・・」と暗い返事が返ったきたので午後の授業が終わるまで学校に居てもらうことになった。

 そして今は弁当を食べている。

 俺の隣ではシロが先ほど購買で買ってきた菓子パンと牛乳を飲み食いしている。

 昼休みになったと同時、シロのお腹からぎゅるる、と鳴り、俺が買ってこようとしたら周りのクラスメートが譲ってくれた。

 初見の相手だが良く思ってくれているようで俺としても良かった。

 ・・・・・・男子生徒からの視線はかなり痛いものになっているが。

 

「ご馳走様」

 

「ごちそうさまでした」

 

 二人とも食べ終わり、仮眠でもとろうと思ったら、クラス中の生徒が俺たち二人のもとに集まってきた。

 

「二人はどういう関係!?」

 

「恋人?」

 

「シロさんだっけ? 髪白いけどどっかの国の人?」

 

「なんで村崎みたいなゲーマーがこんな美人と付き合ってんの!?」

 

「よし、シベリア送りだ」

 

「うるせぇ!」

 

「え? えぇ?」

 

 シロは女子たちに囲まれ、質問攻めを受けている。

 俺は男子連中からの嫉妬の攻撃をなんとか回避しながら逃げていた。

 なんだこの差は。

 

 そしていたら昼休みは終わった。

 

 午後からの授業は空き教室から椅子を持ってきてシロも一緒に受けた。

 各先生に一言断りを入れてシロにも大人しくしておくように言っておいた。

 

そして放課後。

 

 夕方に入るかというような時間。

 俺は部活には入っていないのでまっすぐ家に帰っている。

 いつも一人だが今日は隣に一人、シロがいる。

 

「今日は、ごめんなさい」

 

 少女は申し訳なさそうにそう言った。

 

「何言ってるの、お弁当届けようと頑張ってくれたんでしょ?」

 

「でも・・・・・・」

 

「でももないよ」

 

 頭を撫でながら言う。

 

「本当に嬉しかったよ、ありがとう」

 

 彼女は照れくさそうに俯き、顔を上げて微笑む。

 

「はい、マスター・・・・・・!」

 

 やっぱりこの娘は笑ってるほうが可愛いな。

 

 改めてそう思う今日だった。


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