「あぁぁぁ・・・・・・」
シロが現れ、衣類を買い、弁当を忘れたと思ったらシロが届けてくれたが注目と殺意を浴びた。
端的に言えば色の濃い日が続いてしまって体が変に疲れている。
以前弁当を届けてもらって数日経ったが、それ以降クラス中の男女から質問攻めにあった。
そのせいで授業間の休みや昼休み、放課後などに俺の周りに人がいないことが無かった。それまでクラスの陰キャのゲームオタという存在で、人と話すこともあまりなかったのに会話を余儀なくされ軽く喉が枯れた。
「はぁぁぁ・・・・・・・・・」
「マスター、大丈夫ですか?」
ソファーに寝そべって項垂れていると、シロが
「なぁ、よくそのモンスター図鑑読んでるけど、やっぱ気になるの?」
「そうですね、倒したことのあるモンスターだったり、見たことのないモンスターとかが見れて楽しいです!」
「そっかぁ」
まぁリオ夫婦の希少種だけは出てくるが、ストーリーの進行上必要なためだと思えば仕方ないのかもしれない。そのためもあってかXXはシリーズ史上最多数のモンスターが登場するのでボリュームはかなりある。ありすぎて困るぐらいある。
「マスターは今日はゲームをなさらないのですか?」
「あぁ・・・・・・やってたんだけどさ、十分と経たずに三乙したからやめた」
「そ、それは・・・・・・」
シロが二階から降りてくる前にちょっとモンハンをしていたが、気づかない間に三乙して画面にクエスト失敗の×印のマークが表示されていたので、今は休息と療養を兼ねて横になっていた。
テレビも面白い番組ないしなぁ・・・・・・何しようかな・・・・・・。
ぐるりと部屋を見回し、シロに目が留まる。
正確には彼女が読んでいる本に。
「それ番号いくつのやつ?」
「えっと、4G・・・・・・ですかね?」
俺がこのモンスター図鑑を買いだしたのは大体2ndGのころから。
はじめは単純にアイテムの入手確率とかが知りたくて買っていたが、ネットで調べれるようになってからはただ眺めるだけに買っていた。内容もほとんど読んでいないのであまり知らない。
4系か、極限化とギルドクエストがあるやつか・・・・・・。
「村がいっぱいあるんですね!」
「XXにも村結構でてくるだろ」
XXでは歴代の、
各村を拠点として活動ができるので、自分に思い入れのある村をホームとする人も多いと聞く。
4も拠点を変更できるが、XXのそれとは違ってストーリーの進行上必ず訪れて暫くその村に居座る。そこで問題を解決して次の村、また次の村へと進んでいくのだ。
Xでは話を聞きに行くだけで、村に居ようが居まいが話の流れに一切の影響は無い。
それぞれに利点があって味わいが違うのでどちらが良いとは言えない。
「やべ、考え込んだら眠く……」
「お休みになられますか?」
何かしていて眠くなってきてそのまま寝てしまうなんてこともよくあるが、今日はさらに疲労感も相まってさらに眠気が増してきた。
「シロ、悪い、しばらく寝る・・・・・・」
「あ、ぁ、えっと、じゃあ・・・・・・」
「私の膝をお使いください・・・!」
唐突に何を言い出すのだこの娘は、と一瞬思ったが、どうにも眠気が勝って思考停止一歩手前の俺にはもう頭を預けて寝るしかなかった。
「んじゃ遠慮なくー・・・」
「ひゃあっ!?」
おぁあ、柔らかい。一瞬びくっ、と力んだせいか硬くなったが、またすぐに緊張が解かれてマシュマロのような柔らかさになった。
あぁ、良い・・・・・・。
俺は意識を手放した。
◆
マスターが眠そうにしていたので思い切って膝枕というものを勧めてみたらふらりと横になって寝てしまった。
いつも少し眠そうな顔をしていたが、今日はいつにもましてかなり眠そうにしていた。
部屋を覗いたとき寝ながらゲームをプレイしているのを見て一層心配になった。
「マスター・・・・・・」
自分の膝の上に頭を預けて寝入る少年の髪を優しく撫でる。
少なからず迷惑を掛けていると思ってはいるが、恩返しをしようとしても掃除や洗濯が関の山で、土地勘もない自分では道に迷ってしまって一人で買い物も出来ない。
今している膝枕も見方を変えればただの罪滅ぼしだ。
私と背丈は変わらない。何か特別なものがあるわけじゃない。ゲームが好きな男の子。
私のマスター。大好きなマスター。ずっと一緒にいたい。隣にいたい、寄り添いたい。
けど、自分のせいで面倒事を背負わしてしまっているのはとてもつらい。
「もっと、頼ってください・・・マスター・・・」
その言葉は静かな部屋の中に消えた。
◇
「ん・・・・・・」
今何時だろ・・・?
壁に掛けてある時計の時刻を確認したら午後の四時半を過ぎたぐらいだった。
とても良い膝枕で寝起きが良いが、昼寝程度なので少し寝たりない感じだ。
「ん~・・・・・・」
起き上がろうとしたが、身体に何か絡んでいる。
シシロの腕が俺の頭と胸あたりに添えられてあって横になっている態勢もあって抜け出せない。
「シロー、放してー」
呼びかけるが反応がない。
「シロー?」
頭の向きを上に向けてみると、案の定寝ていた。
こくり、こくり、と船を漕いでいる。
「ましゅたぁ・・・・・・」
寝言なのか呂律が回っていない。
やれやれどうやって抜けようかと考えていると、顔に滴が落ちてきた。
「なんだ・・・・・・?」
ふと上を向くと、シロが涙を流していた。
静かに、ポロポロと涙を流し、小さな声で呟いている。
「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
目の前の少女はとても辛そうに、苦しそうに、泣きながら謝罪を繰り返していた。
次から次に涙が零れ、俺の顔を濡らしていく。
シロが来てから確かに色々あったが、心から彼女を嫌うことは一つもなかった。むしろ楽しかった。いつもの同じような毎日を繰り返していた俺の前に突然現れてきてからは衝撃の連続だった。
「そんなことないよ」
腕を伸ばし、彼女の白い頬を撫でる。
「確かに疲れちゃったけど」
涙を拭ってやる。
「君が来てくれたおかげで毎日が楽しいんだ」
聞いていないが、聞いていないからこそ、本心が出た。
今まで率先して人と話そうとしなかったからか人と面と向かって会話することができなかった。
今のだってそうだ。シロが寝ているからこうやって心の内の言葉が出た。
「君が来てくれたから変われたんだよ、シロ」
「俺も、シロが好きだよ」
ゲームの自機とか関係なく、単なる好意ではあるが、この気持ちに一切の偽りはない。
いつかは愛と言える気持ちになるのだろうか。
その日がきたら、嬉しいのだろうか。
「わかんないなぁ・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ん・・・あれ、寝ちゃってた・・・・・・?」
「おはよ、シロ」
目を開けると、やわらかい笑顔でこちらを覗く少年の顔が見えた。
その顔はどこか嬉しそうで、ニコニコとしている。
「ますたぁ・・・・・・?」
「ん?」
記憶があやふやだ。自分がいつ寝入ってしまったのかわからない。膝枕をしてあげて、眠たくなってから・・・・・・どうしたんだっけ・・・・・・。
「シロ」
「な、なんでしょうか?」
「そろそろ離してくれると助かるかなぁ」
「あっ・・・。ご、ごめんなさいっ!」
ずっと置いてあった両の手を挙げてマスターを開放する。
名残惜しい気もするけど、仕方ないよね・・・・・・。
「あの、マスター」
「どした?」
「私は、マスターに迷惑を掛けていませんか・・・・・・?」
胸の内の不安をぶつける。
もし彼に負担をかけているなら少しでも手伝いたい。自分の責任なのだから。
「大丈夫だよ。確かに色々ごたごたしたけど、人が増えるときってそんなもんじゃない?」
「はい・・・・・・」
彼は笑って流すが自分の中では納得がいっていない。
現に今日は疲労が溜まって昼の間寝ていたのだから。
「それに、俺はシロが来てくれて嬉しいんだよ」
「え・・・?」
俯き気味だった顔をあげて、彼を見る。
「大好きだよ、シロ」
「・・・・・・はいっ、私も大好きです!」
その言葉で不安は消え去り、より一層彼のことが好きになった。
大好きです。マスター!