キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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十二話 やり返し

 あれ以来シロが積極的になった。

 家に居るときはよくくっついてくるし、学校に行くときは以前のようにハグをしてくる。しかも強めに。スキンシップをしてくることが増えた。というかレベルが上がった。

 

 ここまでならまだいい。まだ。

 

 あろうことか寝るときも一緒に寝ようとしてくる。

 最初に一緒に寝て以来理性が弾けそうだったので布団を空いている部屋に持ってきてそこで寝てもらっているが、たまに夜中に俺の部屋に入ってきてベッドの中に潜り込んでくる。追い出そうにも体に抱き付いてきて離れないので追い出せない。

 空き部屋に布団を敷いたときに俺がそっちで寝ようかと提案したがそれではナニかあるようでベッドは俺が使っている。ナニがあるのかは知らない。

 

 今日はふつうの平日なので俺は学校がある。

「じゃあ、行ってきます」

「あ、待ってくださいっ」

 家を出ようとして引き止められ、シロが駆け寄ってくる。

 振り向くと可愛い笑顔を浮かべたシロにぎゅっと抱きしめられた。

 スキンシップが増えたとは言えまだ数日、未だにこの習慣に鳴れない。

「・・・・・・シロ、もういい?」

「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・・・・」

 たっぷり三十秒、抱擁から解放されて名残惜しいようなほっとしているような、不思議な気分だ。

 朝から心拍数を上げられ今後のことも考えて慣れないといけないな、と改めて実感する。

 止めさせようとして注意したら泣きそうな顔をするので一度言って以来まったく注意をしていない。

「ん~・・・・・・はい、もう大丈夫です」

「ん、じゃあ行ってくるよ」

「はいっ、行ってらっしゃいませ!」

 元気な見送りを受けて家を出る。

 

 

 ◆

 

 

 学校。

「はぁぁ・・・・・・」

 学校に着いて早々にため息が出る。

 最近ため息を吐くのが癖になっている。いや、前からあったけど、頻度が上がっているのか。

「どうした村崎、朝からそんな大層なため息ついて」

「あぁ、おはよう加藤・・・・・・実はシロがさ・・・・・・」

 親友の加藤に声を掛けられそちらを向く。

 清々しい顔で挨拶をしてきたが俺の顔を見て神妙な顔をしてきた。

「お前の彼女さんがどうしたって?」

「彼女・・・・・・それは置いといて、実は最近シロによくくっつかれる」

「なんだその超羨ましい悩みは」

「ゲームヲタのコミュ力の低さを舐めるなよ」

「自慢げに言うことじゃないよな」

 一人で過ごすことが多く、家に親がいることが本当に少ないので会話なんてほとんどしていないというのに「やったねたえちゃん!家族が増えるよ!」なんて言われたら対処しようがない。てかこれトラウマなやつだ。

「お前ら席につけー。SHRすんぞー」

「あ。じゃあ後でな、村崎」

「あ、うん・・・・・・」

 長い一日が始まるなぁ。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 昼休み。

 生徒達は各々の過ごし方をしていた。

 昼食を摂るもの、睡眠にあてるもの、早々に食事をすませ遊戯に浸るもの。

 俺は重たく弁当の中身を口にはこびながら加藤に相談を持ちかけていた。

「で、朝の続きだ。シロさんがどうしたって?」

「身体接触してくることが多くなったんだ」

 もそもそと弁当を食べながら質問にこたえる。この弁当も以前は自分で作っていたが、最近は半分ほどシロが作るのを手伝ってくれるようになった。

 対して加藤は購買のパンとパックのジュースだ。内容は惣菜パン二つに菓子パンが一つ、飲み物は緑茶だった。

「今日弁当じゃないんだ」

「親が寝坊して作ってもらえなかった」

「そっか」

「それはいいんだよ!」

 世間話をして気分を紛らわそうと思ったがそうはさせてくれない。

「お前が彼女とイチャつくのは大いに結構だ。腐れ縁として喜ばしい」

 が、と加藤は続ける。

「村崎、お前が受け身になりすぎてどうする!たまには自分からいってみろ!ゲームの時のお前みたいに!」

「でも・・・・・・」

「でももだってもあるか!」

 親友の言葉が今は耳に刺さるように痛く感じる。

 人との関わりを避けてきたツケが今回ってきたのかな・・・・・・。

「・・・・・・今日、帰ってやってみる」

「よし、いけっ!」

 覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 自宅。

 

 なんだか帰りの足取りが重たかったが、加藤の言葉を思い出すと不思議と重りが取れた感じだった。

「ただいま」

 玄関のドアを開ける。

「おかえりなさぁ・・・・・・い?」

 パタパタと奥から駆け寄ってきて腕を広げてきたシロを、逆に抱きしめて受け止める。

「あの、マスター?」

「・・・・・・・・・」

 何も言わずにただ抱きしめる。というか言葉が出ないぐらい恥ずかしい。

「その、無言でいられると・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 まだやめない。

「マスター・・・・・・?」

「・・・・・・・・・」

 まだ。

「うーー・・・・・・」

 強張っていたシロの体から力が抜けていく。

 それと同時に全身が熱くなっているのが服越しで伝わってくる。

 抱く力を強めて、もっと密着する。

「ぁぅ・・・・・・」

 正直俺自身羞恥心で死にそうだ。

 そろそろ止め時か? 

 そう思って体を放してシロの状態を確認する。

「ぅあ・・・・・・?」

「・・・・・・やり過ぎた、かな?」

 とろん、と蕩けた顔で顔を真っ赤にしながらふらふらとするシロが出来上がった。

「おーい、だいじょう・・・・・・ぶ?」

「・・・・・・きゅう」

「わっ」

 こっちに倒れてきたので受け止める。

 耳の先まで赤くしてユデダコ状態にしてしまった彼女を抱えてリビングまで運ぶ。

「よっ・・・・・・うおっ、いくら女の子でも、人間一人抱えるってなったら、それなりの重量が・・・・・・」

 絶対本人が起きている前で言えないことが出てしまったが、幸いと言うか気を失っているのでありがたかった。

 

 

 

「これでよし、と」

 ソファーにシロを寝かせて伸びをする。

 唸りながら眠るシロの頭を撫でながら、起きたらどうしよう、と考えてとりあえず加藤に某メールアプリで報告する。

「抱き返したらシロが倒れた、と」

 文面で見たら大分初心な気もするけど、実際そうだし気にしなくてもいいか。

 シロの頭を撫でてやりながら自分もソファーに座って休む。

 少ししたら加藤から返信がきた。

『お前だけかと思ったらシロさんもかよ。もう結婚しろよ』

 あの野郎好き放題言いやがって。

 けど実際こんな状態になっているので反論できない。

「まぁ、これもいいのかな・・・・・・」

 自分の中で嬉しく思っているのも事実、なら別に気にしなくてもいいのかな。

 免疫つけなければいけないのは確かだけど。

 

「じゃないと理性が持たないよ・・・・・・」

 

 本能の制御に悩まされるなぁ・・・・・・。

 

 

 

 


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