キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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十三話 スランプ

 翌日。

 

 シロがよそよそしい。と言うか顔を合わせたら赤面して目線を逸らす。会話は最低限で起きたときに俺のベッドの中にも入っていなかった。

「じゃ、学校行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ・・・・・・」

 重苦しいことこの上ない。

 何とか打開せねば・・・・・・!

 

 

 ◇

 

 

 マスターが学校に行かれました。

 いつも笑顔で見送っているのに今日は顔も合わせられません。

 目線が気になってチラチラと見てしまい、目が合うと顔を逸らしてしまいます。

「どうしちゃったんだろ、私・・・・・・」

 お会いしたときから好きと言ってきました。

 自分の好意を伝えてきました。

 スキンシップもそれなりにしてきましたが、いざ自分がしてきたことをされたらとても恥ずかしくて・・・・・・。

「思い出したら、また恥ずかしい・・・・・・」

 家事しなきゃ・・・・・・。

 

 

 ◆

 

 

 学校。

 

「加藤ぉぉ~・・・・・・」

「おうどうした幸せ者この野郎」

「お前は貶したいのか祝いたいのかどっちだよ」

「両方だよ」

「これはひどい」

 朝のHR前の友人との会話で少し傷ついた。

「シロさんが倒れたって言ってたけど、大丈夫だったのか?」

「うん、まぁね・・・・・・」

 加藤の一言で教室が騒めいた。

 

「シロさんが倒れただぁ!?」

「え?」

「嘘だろ村崎」

「待って」

「な、なんだってぇーッ!?」

「話を」

「なんだって、それは本当かい?」

「聞いて」

「生かしてはおけねぇ!」

「待てって」

「磔刑にしろォッ!!」

「おい」

「「「「オォーーーッ!!!」」」」

「止めろお前らぁーーー!!!」

 その後先生が来るまでやんややんやと吊るされて、昼までの体力が全部持っていかれた。

 

 

 ◇

 

 

 村崎家。

 

「お掃除終わった、洗濯機も止まったし洗濯物・・・・・・」

 ふらふらと脱衣所に行って洗濯機の蓋を開ける。

「あれ、こんなに色薄かったっけ・・・・・・?」

 洗剤の量を間違えてしまった。どうしよう、色物が大分薄くなっている。

「やっちゃった・・・・・・。他ので挽回しないと!」

 お風呂場掃除。

「わっ、洗剤が・・・!」

 お料理。

「えっと、油を入れて・・・・・・て、火柱がぁーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁあぁぁぁ・・・・・・・・・」

 何でだろう? 上手くいかない。いつも難なくこなせることが今日は全然上手くいかない。どうしてだろう?

「まだ引きずってるのかな・・・・・・。本当にどうしよう・・・・・・」

 ……とりあえず、片付け、しなきゃ。

 荒れた部屋とキッチンを見て切にそう思うシロだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 放課後。

 

 疲れた。あいつら手加減を知らねぇのか畜生。朝からもみくちゃにされて一日中いじられていた俺は放課後になったのを伝えるチャイムが鳴ったのと同時に荷物を片付けて即行で教室を抜け出した。何人か追ってきたが振り切った。

 

 さて、シロは大丈夫だったかな。それが一番心配だ。

「ただいま・・・・・・ってうわぁっ!?」

 家のなかがメチャクチャになっていた。

 部屋は荒れ、花瓶は割れて破片が散乱しキッチンからは焦げ臭い匂いがしてくる。

 何が起こったんだ?

 ひとまずシロの安否を確認しなければ!

「シロ、大丈夫かっ!?」

 呼び掛けるとソファーの上に踞っていたシロが起き上がり、ゆっくりと此方を向く。

「ますたぁー・・・・・・?」

「お、おい、本当に大丈夫か……?」

 恐る恐る近づいていくと、ぶわっと涙を流しながら飛び付いてきた。

「まじゅだぁぁあああああああああああああ!!!!!」

「うわぁ!?」

「うわぁぁああああぁぁぁあん!!!」

 抱きついて、泣きじゃくる。

 おいおいと泣きわめくその姿は、まるで幼子のようだった。

 そんなシロを抱き締めて落ち着くまで頭を撫でてやった。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

 暫くして、泣き止んだシロに何があったのか聞いた。

何でも昨日俺がやった行為のことを引きずっていて、それが気になって作業に集中できずに失敗が続いて、焦って負の連鎖に繋がってしまったらしい。

「ごめん、なさい・・・・・・」

「それはいいんだ、怪我はしてない?」

「それは大丈夫です・・・・・・」

「そっか、よかったぁ・・・・・・」

「あの、怒らないんですか・・・・・・?」

「故意じゃないなら注意だけだ」

「そう、ですか」

 思わず安堵して力が抜ける。あの大惨事を見たときは何事かと思ったが、シロが無事で本当に良かった。

「ひとまず、掃除するか」

「はい・・・・・・」

 割れ物は注意しながら大きい破片を拾い、細かいものは掃除機で吸い込む。乱れた家具は整頓して、キッチンの鍋等は水に浸けて汚れがふやけてきたらたわしで擦る。

「よし、こんなもんか」

 ふぅ、と息を吐いて汗を拭う。

「ごめんなさい、マスター・・・・・・」

「いいって、それより夕飯作るから手伝ってよ」

 

「え、でも、また失敗しちゃうかも・・・・・・」

「大丈夫だって。俺がいるんだから」

「・・・・・・はいっ」

 

 夕飯は簡単にパスタにした。

 美味しいごはんを食べているときが一番の幸せと言ったのは誰だったか、確かにその通りだと思う。

 目尻に涙溜めてたシロが今はいい笑顔で飯食ってるんだから。

「美味しい?」

「むぐ、はいっ!」

「ん、よかった」

 うん、いつも通りに戻ったようでよかった。

「お風呂どうする? 先入る?」

「あ、後からでいいです」

「ん」

 

 

 風呂。

 

「ふぅ・・・・・・」

 湯船に浸かって今日の疲れを癒す。

 シロが心配で相談してたらなんか話が飛躍して大変なことになった。

 帰ってきたら家が惨事になってて肝が冷えたけどシロが無事で本当に良かった。

「シロの写真撮って送ってやろ」

 とびきり笑顔のやつ。

「あの、マスター!」

「んー? て、シロっ!?」

 シロが勢いよく風呂場の扉を開けて入ってきた。

 タオルで隠しているが、それはそれで・・・・・・待て危ない、それはキケンだ。

「お、おお、お背中をお流しさせてくらしゃいっ!」

 嚙んだ。あ、顔真っ赤んいしてる。俺も恥ずかしかったけど今のでちょっと冷静さを取り戻してきた。

「まぁ、身体流して浸かりなよ」

「・・・・・・・・・はい」

 

 デジャヴ。

 この前もこんなことがあったな。それはいい。シロと並んで浴槽に浸かり、お互い出来るだけ顔を合わせないようにしている。気恥ずかしいことこの上ない。

「シロ、今日はどうしたんだ?」

「マスターのことを考えたら、胸が締め付けるように痛くなって、いつも以上に張り切ったら、空回りして、それで・・・・・・」

「うん」 

 歯がゆいと言うか、歯が浮くような気分だ。

「シロ」

「何でしょうか」

「あまり考えるなよ。ステ振り間違えたような行動とか思考回路だと短時間で使えなくなるんだから」

「?」

「悩みすぎたらまず立ち止まって落ち着け」

「はいっ」

「よし、いい返事だ」

 なんとも言えない言葉を掛けた気がするが、まぁいいだろう。

「じゃあ、先に上がるぞ」

「あ、はい」

 

 

 

 自室。

 髪を拭きながらベッドに座る。俺の後ろをシロがついてきて俺の隣に座る。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「なんでいるんだ」

「へ?」

 立ち上がって

 すっごい自然に部屋に入ってきたぞこの()

「今日は、一緒に寝たいんです。マスター、お願いします・・・!」

 まぁ、減る物(物体)はないけど。

「お願い、します・・・・・・」

 あ、もう無理。

 

「ん・・・・・・。わかった、いいよ。おいで」

「・・・・・・はいっ!」

 減る物(精神)は捨ててしまおう。

 我慢だ、息子よ。この雰囲気を壊してはいけない。

 

 添い寝することを許容し、初めてシロが来た時のように二人が一つのベッドで寝る。いつも積極的なシロは今は遠慮がちに距離を開けている。これじゃあまだダメだと思い、こちらから密着する。

「ま、マスター?」

「シロ」

「は、はい」

「このままいさせて」

「んう、はい・・・・・・」

 寝ろ、鎮まれ、覚醒するな。

 頼むから今大地に立とうとしないでくれ息子よ。

 

 翌日、気を紛らわすのに必死であまり眠れなかった俺に対して、シロは調子が戻ってすこぶる元気になっていた。

 

 

 


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