「わぁー!」
シロを連れていつぞやの大型小売店に来ていた。
「元気だねー・・・・・・」
「トオル君とのお出かけですから!」
「うんー」
外なので俺の名称はマスターからトオルに変えられている。
しかしあまり大きな声を出すのはあまりよろしくない。他の人の迷惑になるしただでさえ素で目立つのに余計目立ってしまう。
「ちゃんと買い物は付き合うから、もう少し気持ち抑えて、ね?」
「ん、はい、わかりましたっ」
にぱ、と笑うその笑顔はかなり眩しかった。
「で、具体的にシロは何か欲しいものでもあるの?」
買い物に連れて行ってください、と言われたが何を買うのかは言われていない。
「お家以外でトオル君とも接していたくて、特に欲しいものは無いんです」
「う、うん。そっか」
どうしよう、目的がない。
「じゃあ、適当に服とかみて回ろっか」
「はいっ」
衣服店舗。
デパートの衣装コーナー。様々な店舗が入っており多種多様な衣類や履物などが小奇麗に並んでいる。
「トオル君、どうですか?」
現在、以前シロの服を買いに来た服屋に来ている。
「うん、いいと思うよ」
店に入って色々見て回っていると前と同じ店員さんが出てきてあれよこれよとシロに服を着せている。
ジャンルは一定ではなくシンプルなものや派手なものまで着せていた。細かい装飾などは分からないが大まかに似合う、似合わないは見てとれている、と思う。
しかし露出が多いものは如何なものか。目のやり場に困るので控えてもらいたい。
「まぁ、本当にお似合いですわぁお客様ぁ・・・・・・」
「あ、ありがとうございます」
うっとりした表情で着飾ったシロを褒める店員さん。大丈夫かこの人。なんか妙に熱っぽいぞ。
「宜しければこちらも試着をお願いしますッ」
ビシィッと言い切る姿は勇ましかった。
「あの、はい、分かりましたあ」
迫る店員さんに負けたシロはおずおずと試着室に手渡された服を持って戻っていった。
「いい、凄くイイですよお客様ァァァーーーッ!!!」
一人奇妙な冒険でもしそうな勢いで写真を撮っている店員さんを尻目にシロを見る。許可は取っていたがほぼ脅迫じみていたのでもしもの時は止めるか逃げよう。
現在シロの着用物は腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートに、白いブラウスという出で立ち。
まぁ、世間一般で所謂『童貞を殺す服』と言われる衣装に身を包む彼女は何処か神秘的で妖艶なオーラを纏っていた。
「トオル君!」
「な、なに?」
仄かな羞恥を醸しながら上目使いに聞いていた。
「どうですか? その、似合って、ますか・・・・・・?」
「・・・・・・ッ!」
頬を赤らめ、恥ずかしながらも俺に感想を求めてくるその姿に心臓が張り裂けそうになった。
「うん、すごく、似合ってる」
「なんで片言なんですかっ!?」
「大丈夫、大丈夫だから」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」
俺より大変なことになってる人がいた。
「ちょ、ちょっとお腹空いたし、休憩しない?」
「わかりました!」
あの服は結局購入した。
別に邪な感情なんて噛んでないから。ただただシロの私服を買っただけだから。
ちなみに今のシロの服装はそのままブラウスを着ている。
目のやり場に困っているのが現状。
ある飲食店。
フードコートにて昼食を挿もうと、どこかいいところはないかと二人で探す。
「トオル君、ここは何ですか?」
「カフェか、良さそうだね。入ってみるか」
「はいっ」
店の入り口の扉には鈴が付いており、ドアを開けたら鈴の音が鳴った。店内はアンティーク調で大人しく、落ち着いた雰囲気を出していた。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「二人です」
「はい分かりました、お席の方へご案内いたします。二名様入りまーす!」
店員さんに案内され、窓際のテーブル席に案内される。
「ご注文の方決まったらお呼びください」
メニュー表を渡され、どれにしようか選ぶ。
「パスタかグラタンか」
「うぅん? ん~・・・・・・」
どちらにしようか迷うな。パスタは最近食べたし、グラタンにするか?
「よし決めた」
「私も決めましたー」
どうやらシロも決まったようなので店員さんを呼ぶ。
「すみませーん」
「はーいただいまー」
「クリームパスタ一つ」
「サンドイッチをお願いします!」
「かしこまりました、少々お待ちください」
注文を取った店員さんが奥に消えていく。
「サンドイッチか、良さそうだね」
「んふふー」
にこにこしながら頬杖を突いているので見たところかなり期待しているよう。
「サンドイッチ好きなの?」
「はい、向こうに居た頃も好んで食べてました」
モンハンのメニューとか最近まったく見てなかったな。酒とチーズだけを頼んでたあのころならまだ見てた記憶があるが今はセット名すらおぼろげになっている。今度確認してみよう。
「お待たせいたしました、クリームパスタとサンドイッチです」
「わぁ、いただきます!」
「いただきます」
「ごゆっくりどうぞー」
店員さんは料理と注文票を置いて戻っていった。
目を輝かせながら出てきた料理を食べる彼女を宥めながら俺もパスタに手をつける。
ふむ、ソースが濃厚でパスタとよく絡んでおり、クリーミーでありながらくどくないないように胡椒が塗してあり、味が纏まっていて美味しい。今度家で作れるか試してみようかな。
「・・・・・・・・・ゴクッ」
「・・・・・・ほしいの?」
「ふあ!? い、いえ、そういうわけれは・・・・・・!」
「よだれ拭きながら言っても説得力ないよ・・・・・・」
慌てて口元を隠しているが見えてしまったのでもう改める余地はない。
「いいよ、ほら、あーん」
「あー」
フォークで一口分巻き取り、シロの口へ運ぶ。
「む、ん・・・・・・おいひいれふ」
「感想は飲み込んでから言いなさい」
「んぐ、美味しいです!」
「ん、そか」
やべ、自分でやっておいてなんか恥ずかしくなってきた。
「トオル君も、一口どうぞ!」
シロはそう言いながらサンドイッチを持ってずい、と俺の前へ向けた。
「いや、その・・・・・・」
「どうしました? おいしいですよー」
一瞬の躊躇いがあったが、ここは折れることにした。
「あ、あーん」
「どうですか?」
「うん、おいしい・・・・・・」
「そうですか、ですよね!」
味なんて分からなかったが、シロが言うのなら美味しいのだろう。そうしよう。
それと周囲の目線が痛い。あまり睨むのはご遠慮願いたいが、向こうとしてはそうもいかないのだろうか。つらい。
「甘い、これブレンドコーヒーのはずなのに・・・・・・」
「誰だよ俺の紅茶にミルク入れたの」
「スイーツを頼むべきではなかったか・・・・・・」
「おrrrrrrrr」
申し訳なさでいっぱいになってきた。
俺達は食後に頼んでいたコーヒーをさっさと飲み干し、綾足に店を出て行った。
自販機でジュースを買い、近場のベンチに腰掛ける。
「はぁ・・・・・・」
「ふぅ・・・・・・」
喉を潤して一息つく。
「疲れた・・・・・・」
さほど回ってもないのにこの疲労感。外気にあまり触れてない証拠かな・・・・・。
「大丈夫ですか、トオル君」
「あーゲームしたい・・・・・・あ、そうだ」
「?」
こういう所はだいたい置いてあるものだろう。
「シロ、悪いけどちょっと付き合って」
「へ? はいぃー」
ゲームセンター。
沢山の筐体が立ち並び、それぞれからSEやBGMなどがかなりの音量で流れている。
「わぁぁー!なんだかすっごくキラキラしてます!」
キラキラした目であたりを見回すシロ。やはり物珍しいのか。
「トオル君、いろんなものがあります!」
「そうだね」
さて何からしようか。STGか? カートか? クレーンか? 迷うな。
「手慣らしにメダルでもしようか」
「めだる?」
「そう」
小さなメダルゲームの筐体の前に座る。今回は目押し。
「ここにさっき換金したメダルを入れてゲーム開始」
「ほうほう」
メダル入れに一枚メダルを入れる。
「で、ミニゲームをクリアすれば」
じゃらら、と軽い金属音がして筐体から獲得分のメダルが出てきた。
「こんな感じでメダルがもらえる」
「なるほど!」
「勝った分でまたゲーム」
そう言ってまたメダルを投下。勝利。増えるメダル。
これのループ。
最初十枚程度だったメダルがどんどんと増え、バケツが一つ、また一つと増えていった。
「こ、これいつまでやるんですかぁ~!?」
「空になるまで」
「えぇぇ~~!?」
あの後筺体内のメダルを出し切ってカウンターに預けた。
さて次は。
「STGかな」
「えすてぃーじー?」
「そう」
大画面の前に二つの大きめの拳銃の形をしたコントローラーがあるゲームのところに来た。
「百円入れてゲーム開始」
銀色の硬貨を一枚入れてゲーム開始。ストーリーとかはスキップ。操作説明は要点だけ観てスキップ。
銃口を画面内の敵に向けてトリガーを引く。
「序盤ヘッドショット、いいね」
「おぉー!」
すべての敵を撃って各ステージのボスを撃破。
「被ダメ瀕死ギリギリ、危なかったー」
「すごいです、トオル君!」
「よし次だ」
「はいっ」
ハンドルとレバーとシートがあるこれまた特殊な形の筺体。イラストは赤を基調にしたカラーリングの配管工がメインキャラのゲーム。世界中で人気らしい。
「カート系は面白いよねぇ」
「かーと、かーと?」
シートに乗って百円硬貨を入れる。
「シロも隣に乗りなよ、諸々の説明はするから」
「で、では失礼します」
そう言って俺が座っている座席に座ってきた。
「いや、あの、俺の隣の空いてるほうに、ね?」
「す、すみません!」
慌てて空いている座席に座り込むシロ。
「はい、右側の入れ口に入れて画面の説明見ながら進んでね」
「はいっ・・・・・・!」
わたわたとシートを前にずらしたりハンドル回したりと忙しそうに操作をしているシロを見て俺も昔はこんなだったかな、と思い出に浸る。
「右を踏んだら進んで、左を踏めば後ろに行くから」
「えと、右が前で左が後ろ・・・・・・」
繰り返し暗唱するシロを横目にステージを選ぶ。
ふむ、ライトコースじゃ物足りないし、ハードじゃシロが付いてこれないだろうから、真ん中かな。
「さ、始まるよ」
「はいっ!」
3。
2。
1。
「お先」
「えぇっ!?」
スタートダッシュを決めてNPCごとシロを追い抜いて一位に躍り出る。
その後何事もなく順位を維持して俺は一位、シロは最下位になった。
「その、ドンマイ」
「うぅ・・・・・・」
終盤逆走していたこともあってゴールまで到達できなかったようだ。
「そんなしょげないで、アイス買ってあげるから」
「うう、わかりました・・・・・・」
悔しそうにしながらも了承して立ち上がる彼女をみて流石に大人気なかったかな、と反省する。
「へぇ、まだあるんだ」
そう言いながら座ったのは格闘ゲームの台。
『K,O,FIGHTER!!』と描かれたタイトルは家庭用ゲームソフトにも進出しているタイトルだったのでコンボとかはなんとかなりそうだ。
「けーおー?」
「ノックアウト、さてどこまでいけるかな」
キャラは赤色が似合う鉢巻を巻き、ボクシンググローブのようなものを身に着けたキャラクターを選択。
「目指せ百人抜きー」
初めは正面に座っていた人。
『WIN!』
次はその隣の人。
『WIN!』
ギャラリー。
『WIN!』
『K,O!』
「なんだアイツ・・・・・・」
「やべぇよ、やべぇよ・・・・・・」
「もう少しで百人抜きするらしいぞ」
黙々と台に向かってもの凄い速さでコマンドを入力するその姿は無機的で恐ろしいものがあった。
「勝った、第三部、完!」
「残念、俺の勝ち」
「ナニィィィィィィィィィ!!?」
勝利を確信した対戦相手が高らかに宣言したところをついて空中コンボを決めてやった。
『ALL CLEAR』
どうやらこの台の対戦は百回が上限らしく、台からファンファーレが鳴り響いた。
「よし、終わりー」
「お疲れさまです、トオル君!」
横で見ていたシロから労いの言葉を言われて少し赤くなってしまった。
「あ、いや、ごめん。遊び過ぎた」
「なんだぁ? 彼女持ちかぁ?」
「羨ましいねぇ」
「ヒューッ!」
「シロ、行こ、恥ずい・・・・・・」
「わっ。と、トオル君!?」
ちょっと強引にシロを連れて人混みを抜ける。
最後はクレーンゲーム。
様々な景品がガラスケースの向こうに陳列し、フィギュア、ぬいぐるみお菓子やラジコン、調味料なんてものも並んである。最後のマジか。
「好きなの選んでいいよ」
「じゃあ、トオル君を」
シロが目を細めながら腕に絡んできた。
「いや、景品でどれが欲しいかって」
「あ、す、すみません。探してきますねっ」
シロにそう言うと彼女はあれこれじっくり眺めて最終的にぬいぐるみを選択した。包帯を巻き縫い跡がある灰色がかった熊のぬいぐるみ。
「これが欲しいです!」
「ん、わかった」
五百円投入して六回プレイを選ぶ。この手のゲームは個人的に成功率が安定しないので安全策にのく逃げる。
最初は普通に掴んでみてアームの強さを視る。そのあとは景品の位置調整をして掴みやすく落としやすいところに移動させる。
最後にうまくぬいぐるみを掴んで穴に落とす。
「よし、取れた」
「わぁー」
寛大な拍手を送ってくるシロにぬいぐるみを手渡す。
「ありがとうございます!」
「ん、ゲーセンはもう満足したし、出よっか」
「はい!」
取れたぬいぐるみを店員さんに頼んで袋に包んでもらい、俺とシロはゲームセンターを出た。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「トオル君、さっきはとても生き生きしてましたね」
「そう?」
確かにちょっと楽しみ過ぎてしまったかもしれない。
しかし、表情は見て取れるほど出していないと思っていたのに。
「よく分かったね。俺ゲームするときは無表情になるのに」
「ちゃんと見てますから、トオル君のこと」
この
その反面で最近家でもゲームをしてなかったのでやり過ぎたかな、と反省する。
そもそもシロの買い物なのに俺が楽しんでどうする!?
「ごめん、俺が楽しんでもだめだよね・・・・・・」
「いえ、トオル君の楽しそうな顔が見れて私も嬉しいです!」
「う、うん・・・・・・」
健気で涙でそう。
「あ、トオル君。私アイスが食べたいです」
「アイス? あぁ」
そう言えばゲーセンに居るときに言ってたな。
「分かった、じゃあ、アイス買いに行こう」
「やった~!」
アイスを買って、そろそろいい時間だったので帰ることにした。
「アイス美味しい?」
「はむ、ん、はいっ」
「そか」
ソフトクリームを頬張り緩んだ顔をする。
「あ、そんなにがっつくと」
「いっ!? くぅぅ・・・・・・!」
「頭に、ってもう遅かったか」
アイスクリーム症候群だっけか、これ。ダイレクトにくるから慣れないんだよねぇ。
「落ち着いて食べなさい」
「ふぁい・・・・・・」
頭を軽く撫でて暖めてやる。こういう時はこうするのが一番だ。
「ん、ふぅ、はぁぁぁ」
「もう大丈夫?」
「はいっ」
よし、意識はしない。平常心を保て俺。
静かな帰り道。
「トオル君」
「なに?」
「今日はありがとうございました。わがままを聞いてくれて」
「いいよ別に」
「明日からも私、頑張れます!」
「ん、そっか」
家事を手伝ってくれるのはありがたいがおかげで元の俺の分が減ってしまいちょっと危機感を覚えていたりする。空いた時間はゲームに当てているので以前よりクリア本数が増えた。ホントに危機感を感じている。
「トオル君、家に着くまで手をつないでいいですか?」
「う、うん」
「ありがとうございます!」
するりと手を絡めてくる。
人目があったら即放しているが今は人通りも少なくクラスメイトもいないのでまた何か言われることはなさそうだ。まぁデパートで見られていたとなったらもうどうしようもないが。
「着きましたよトオル君」
「あ、うん」
考え事をしていたらもう着いてしまった。
玄関のドアを開けようと鍵を刺して捻る、が。
「あれ、開いてる?」
おかしい、出るとき確かに閉めたはずなのに。空き巣か?
「シロ、一応準備しといて」
「わかりました・・・・・・!」
シロに臨戦態勢をとらせてゆっくりとドアを開ける。
誰かいるか、誰もいないか。
「あ、おかえりー」
「へ?」
出てきたのは俺の姉だった。
「遅かったねぇ・・・・・・」