キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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十八話 二人の仲

 キッチン周りで二人の男女が忙しなく動く。

 

「シロ、皿出しといて」

「はい!」

「サラダ出来てる?」

「今出来ました」

「ん、こっちももう少しで出来るから」

「わかりました!」

「・・・・・・・・・」

 慌ただしく動く長い白髪の少女と調理をしている黒髪の少年。私の弟。マイブラザー。透君だ。

 

「よし、完成」

「はふぅ・・・・・・」

 

 額の汗を拭い、軽く調理場の掃除をしてからテーブルに夕飯を並べる姿は様になっていた。

 

「姉さん、夕飯できたから食べるよ」

「う、うん」

「お腹空きましたあー」

 

 それぞれが席に着いたところで「いただきます」と合掌し、料理に手を付ける。

「何これおいしい!」

「そんなに驚くことないでしょ」

「おいひいれふ!」

「飲み込んでから言おうな」

 しばらく咀嚼したあとごくっ、と飲み込んでから再度おいしいです! と感想を述べるシロの頭を撫でる透。

 それをちょっとうらやましそうに眺める楓。

 

「・・・・・・二人は付き合って何年目?」

「んー、二、三週間ぐらい?」

「にしては随分と息が合ってるようで・・・・・・」

 

 そうかな。と何でもないように言う透に面白くないと思ってしまう自分の心がやるせなく感じてしまう。

「この後透君の部屋に行ってもいい?」

「いいけど、姉さん今日は帰らないの?」

「うん、明日くらいに戻ろうと思ってるよ」

「そうなんだ」

 素っ気無く返されてちょっと落ち込む。

 しかし、今日のうちに確認できることは出来るだけ探さねばあるまい。

 家族として、姉として、透君大好きとして!

「お風呂沸かしといたから姉さん先入って」

「あ、はい」

 

 

 ◇

 

 

「はぁぁあぁぁ~~~~・・・・・・・・・」

 長い息を吐いてゆっくりと湯船に肩まで浸かる。

 一人暮らしを始めてからお風呂は大概シャワーだけで済ましていたのでこう、ゆったりとお湯に浸かるのは大分久々だ。

「極楽ぅ~・・・・・・」

 熱すぎず温すぎず、とても丁度良い温度に設定されている湯船は最高に気持ちの良いものだった。

「て、そっちじゃない」

 危ない危ない。もう少しでお風呂の気持ちよさに溺れるところだった。風呂だけに。

 

 一人になる時間が出来たのであの白い女の子についての考察を始める。

 

 あの娘は誰か?

 二人の言い分から考えると友達以上恋人未満ぐらいの距離感であることが窺える。

 

 仲の良さは?

 新密度は高いがお互いどこか初心なところがあるのでまだそこまでの時間は経っていないと推測する。

 

 ヤっているのか?

 本人の口からはまだ聞けていないがこれも重要な議題項目だ。前述の通り出逢ってからそこまでの時間が経っていないところから思うにまだ行為には及んでいないはず。それに透君って結構恥ずかしがり屋さんだしね。

 

 さて、ある程度の考察と予想は出来た。あとは真偽を確認して透君とちゅっちゅっするのみ!

 待っててね透君、お姉ちゃん頑張るから!

 

「ちょっと・・・・・・のぼせちゃったけど・・・・・・」

 

 何とか浴室から出て湯中りした体を冷まして透君にお風呂を譲るとシロちゃんも一緒についていこうとしていたので必死に止めた。透君も止めていた。

 

 

 透の部屋。

 

「来たよー」

「うん」

 

 部屋に入ると透君はテレビ画面に向いてゲーム機のコントローラーを操作しながら向きを変えず返事をした。

 

「何してるの?」

「ダ〇ソ」

「う、うん」

 

 自分で聞いておいて何だが分からなかった。

 本棚の前に移動し、借りていたゲームソフトとその攻略本を本棚に居れる。

 次はどれを借りようかと思いながら自分の弟のことを考える。

 

 そもそも私はあまりゲームに詳しくない。

 もっと言うとゲーム機とかにも疎いし会社名も任〇堂とかSEG〇ぐらいしか分からない人間だ。

 そんな私が何故ゲームをしているかと言うと、お察しかも知れないが弟が関係している。

 昔透君に言われた。ゲームばかりで構ってもらえず、ゲームを辞めてはどうか? という私に対して弟君は。

 

『知りもせずに嫌う人は嫌い』

 

 その言葉が刺さり、それ以来こうして透君からゲームを借りるようになった。

 怖そうなものは避けて、可愛いものや遊びやすそうなものを選んでやっているが、それでも中々思うようにプレイできない。

 噛り付くようにムキになってやっと一つの面がクリアできる程度の腕前の私にとって、難なくゲームをプレイできている透君を見ていると遠い存在に見えてくる。

 でもゲームを通して仲良くなろうと思っているだけなのでそこまでの腕前は必要無いのでは? と思うかもしれないが、そこは個人的に譲れないところなのでスルー。

 あぁ、もっと透君とお話ししたいな。

 

 

 ◆

 

 

 俺は姉さんが好きではない。

 昔から姉は何でも出来た。勉強も、運動もそつなくこなし、人当たりも良く、老若男女様々な人に愛されていた。

 

 当然姉がそんななら弟も気になるだろう。

 残念ながら俺には勉学の才能も運動神経もずば抜けてはいなかった。

 オトナは勝手に俺を哀れな目で蔑み、感嘆し、憤りを覚えていた。

 姉に追いつこうと頑張っていたときもあったが圧倒的な実力差を思い知っただけだった。

 

 いつから死んだ目になったのか忘れた。

 コントローラーを弄りながら昔のことを思い出した。

 姉さんは悪くない。悪いのは俺だ。そう言い聞かせても割り切れないものが渦巻いてた。

 

「透君、この敵ってどうやって倒すの?」

 姉さんが携帯ゲーム機の画面を見せながら質問を投げてきた。

 ゲームの画面をポーズ画面にして姉さんの方を向いて解説をする。

「そいつは攻撃にパターンがあってね・・・・・・」

 あーだこーだとざっくりした説明をしてやり、立ち回りとかを教えてあげたら「ん、わかった。やってみる・・・・・・!」と意気込みながら姉さんは俺のベッドに寝転んでそのままポチポチとゲームを再開した。

「なんで部屋に戻らないの?」

「ココが一番集中できるのだー」

「・・・・・・荒らさないでね」

「はぁーい」

 以前無理やり降ろそうとしたら寝技を掛けられて手も足もでなくなったので力による行使はしないようにしている。けど口で言っても降りてもらえないので半ば諦めている。

「マスター居ますか?」

「ん、いるよ」

 そうこうしていたら失礼します。と一言添えてシロが部屋に入ってきた。

 一人部屋に俺と姉さんとシロの三人。

「マスター、借りてた本を返しに来ました

「うん、じゃあ元のところ戻しといて」

「分かりましたー。あとまた借りていきますね」

「うん」

 本を片手に持ったシロは自然な流れで俺の横に座った。

「何でだよ」

「はい?」

 本当にわかってないのか首をかしげてこちらを見つめる少女。

「なんでさも当然のように俺の隣に座るの」

「居たかったので」

「あ、そう」

 納得は出来ないが理解だけはしておこう。そして俺が折れよう。あとが面倒だし。

「なんでそうなるの!?」

 姉さんが声を荒げながら上体を起こして抗議してきた。

「なんでって言われても、割と最初からこうだったし、少し慣れただけだよ」

 実際初っ端朝チュンで風呂でお互い裸は見た(事はしてない)し、一緒に過ごすことが多いから感覚がおかしくなっている自覚はある。

 たった数週間でここまでのイベントをこなしている自分が少し怖くなってきた。

 あっこらほっぺすりすりするな。

「ずるい!」

「知らないよ」

「はふぅ・・・・・・」

 アウェー感が否めない一人は今はスルーしておいてこの姉をどうしようか。珍しく姉が駄々をこねた。外で気を使っている分家ではだらけきっているので時たまこう言うことが起こる。

「聞き遅れたけど二人ってどこまでいってるの・・・・・・?」

「それ友達にも聞かれたよ」

「いいから、どこまでヤってるの・・・・・・!?」

 なんでそんなに凄むんだよ姉さん。

「一緒に寝たとか、そんなぐらいだよ」

「ね、ねね、寝た・・・・・・」

 あ、絶対勘違いしてる。

「寝たって添い寝しただけだよ」

「あ、そうなんだ。て、私最近透君と一緒に寝てないよ!」

「そりゃ避けてるんだから当たり前でしょ」

 ガーン。と大げさなリアクションで四つん這いで落ち込む姉。

 高校生と成年した女性が一つのベッドで寝るって何か危険な臭いがする。

「なら今日は一緒に寝てよ!」

「やだ」

「」

 俺もビックリするほどの速さで答えた。

 言われたほうの姉はハイライトオフで固まっている。

 髪をくわえて変な角度に頭を傾けて虚ろな目をして見つめられるとかなり怖いので止めてほしい。

「あの、マスター」

「なに?」

 シロが俺の服の袖を引っ張ってきたのでそちらを向くとシロが割りと真剣な表情をしていたのでコントローラーを置いて向き合う。

「マスター、お姉さんと一緒に寝てみては如何でしょうか?」

「っ!?」

「し、シロ? どうした急に」

 突然の言葉に思わず動揺してしまう。

 まさかシロからそのような言葉が出てくるとは思っていなかった。

「一緒に寝るとまではいかなくても、今夜はもう少しお話していく、と言うのも良いと思います」 

「う、ん・・・・・・」

 もしかしてこの娘は俺の心情を読んでいるのか?

 確かに仲睦まじくとはいかなくてもこの軋むような姉弟仲を何とかしたいとは思っていた。けれど今まで言い出す勇気が俺には無かった。

「分かったよ、今夜は姉さんと、寝るから・・・・・・」

「と、透くん・・・・・・?」

 

 シロが背中を押してくれたお陰で話す切っ掛けが出来た。

 ならちゃんとけじめを着けないといけない。

 

 今夜は長くなりそうだ。

 

 


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