キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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十九話 気持ちをぶつけて謝って

 なんでシロがあんなことを言い出したのかは分からないが、多分俺たちに気を使ってくれたのかもしれない。出なければ自分からあんなことを言い出すとは思えない。

 

「あの、透君・・・・・・」

「なに、姉さん」

 

 姉さんが不安そうに俺の衣服の袖をつまみ、呼んでくる。

 いつもそこまで気弱じゃないのに俺と話すとき、面と向かっての時はいつも言葉が尻すぼみになっていって途端に目を逸らす。

 それがなんとももどかしい気持ちになってあまりいい気はしない。

 

「シロちゃんはああ言ってたけどお話はまた今度でもいいって言うかそもそも私たち姉弟だしそこまでじっくり話し合うことなんてそんなにないしそれにあとはえーっとあのその・・・・・・」

「姉さん」

「ひゃい!?」

 

 なんでそんなに驚くんだ。

 

「取り合えずゲーム、しようよ」

「う、うん」

 

 昔のように仲良くなんて虫の良いことなんて言わない。けど、せめて仲直りぐらいはしてみせよう。

 

 

 ◇

 

 

「マスター大丈夫かな」

 

 買い物(デート)を終えて家に帰ってから自分の主の様子がおかしかった。

 いつもあまり表情を出してないが、それでも嬉しそうな顔を浮かべてくれていたマスターが、帰ってからはずっと暗い顔をしていた。

 それが気になって帰ってからの行動等を観察しているとどうやらお姉さんが原因のようだったのでこういった形を取った。見ている限りだとマスターだけじゃなく、お姉さんの方もマスターに何か暗いものがあるようだ。

「姉弟でこれとは・・・・・・」

 ちょっと気になる。ダメだ、人様のいざこざに首を突っ込むべきではない。

 

「頭で分かってても気になるよね」

 

 スキル 隠密発動。

 

 バレないよう忍び足で主の部屋の前まできてそっと扉に耳を添える。

 部屋からはちょっとした話し声が聞こえてくる。

 

「どれどれ・・・・・・?」

 

 扉に耳を当てて音を探る。

 何かあったら突撃することも止むをえない。

 

 

 

 ◆

 

 

 ゲームハードをテレビから差し換えて対戦方のゲームソフトを挿入する。入れたのはスライムのようなブロックを同じ色で四つ以上合わせて消していく有名なあのゲームだ。これなら加減もしやすいのですぐに終わることもないだろう。

 

「これにしよ」

 

 ゲームをセットしてテレビの前に二人で座り込む。

 スタート画面から進んで対戦モード、キャラ選択を済ませて対戦画面に切り替わる。

 

「わ、私全然上手くないよ?」

「いいんだよ、本命はコレじゃないし」

「う、うん」

 

 紡ぐ言葉もなく、お互い無言でコントローラーを操作する。

 透は慣れた手つきで配置されているボタンを押しているのに対して楓はたどたどしく、視線が画面と手元を何度も往復していた。

 

 しばらくして画面には二人の勝敗結果が表示され、透が勝ち、楓が負けていた。

 

「ぐぅ、もう一回!」

「いいよ」

 

 闘志に火が付いた楓が再戦を申し込む。

 それを受け、また画面に二人が向き合う。

 

 またも同じ結果だった。

 

「も、もう一回!」

「うん」

 

 1-7

 

「もう一回!」

 

 22-6

 

「なんの!」

 

 21-9

 

「次こそ・・・・・・!」

 

 26-7

 

「リベンジ・・・・・・」 

 

 29-1

 

「・・・・・・・・・」

 

 33-4

 

「もうやだ・・・・・・おうち帰る・・・・・・」

「姉さん、うちここだよ」

「やぁーだぁー」

 

 姉がそろそろガチ泣きしそうだったのでここら辺でゲームを終了させる。

 ある程度手加減はしていたが、自爆されてそのまま勝手にお邪魔ブロックを勝手に積み始めたあたりから大体察した。

 

「姉さん」

「・・・・・・なにー?」

「もう一回しよ」

「えー・・・・・・」

 

 露骨に嫌そうな顔をしている。

 せめてもう一線、と手を合わせてお願いしてみる。

 

「お願い」

「・・・・・・次で終わりね?」

 

 渋々といった感じで汲み取ってもらえた。

「ありがとう」

 

 なんとか了承がとれたのでまたゲームを再開する。

 

 無言でプレイする空気を割って、姉のほうは向かず、そのまま画面を見ながら声をかける。

 

「あのね、楓姉さん」

「なぁに?」

「俺、姉さんに謝りたかった」

「何を?」

 

 平凡な自分、追いつけない自分、情けない自分、諦めてしまった自分。

 すぐ思いつくものだけ見ても酷いものだった。

 

「俺が勝手に姉さんを引け目に感じて勝手に色々嫉妬したり諦めたり・・・・・・」

 

「言っとくけど透君は私よりすごいんだよ」

「え?」

「え?」

 

 思わず変な声がでてしまった。

 自尊心なんてほとんど捨ててしまったので自分が凄いなど微塵も思ってない。

 なのに姉は俺のことを凄いなどと言った。

 

「どうしてかって? まずゲームが上手い」

「はぁ」

「家事が出来る」

「まぁ一応」

「可愛い!」

「知らないよ」

 

 なんで最後力を込めて言ったのか分からない。

 

「透君は私より上手くできることなんていっぱい持ってるよ」

「全然ないよ、勉強も運動も、人付き合いも・・・・・・」

「あーもう!」

 

 姉さんは立ち上がり、俺を見ながら熱弁を始めた。

 

「学校の成績とか人の目とか自分がどうこうとか全く関係ないよ!」

 

「透君は透君で私は私だよ。いくら姉弟だからって同じ人間じゃないのは誰でもわかるよ」

 

「確かに透君は私の弟だけどそれが理由で『私と同じように』なんておかしいじゃん」

 

「見ず知らずの他人の言葉に負い目感じて必要でもないのに無理に良くしようなんてそれじゃあ持たないよ」

 

「そのせいで透君が笑わなくなったのが私一番嫌」

 

「私のせいで透君が壊れちゃったと思うと私も普通に笑えなくなっちゃった」

 

「周りが悪いと思っても結局期待をさせてたのって元を辿ると私なんだもん。そりゃ嫌いにもなっちゃうよ、仕方ないよ」

 

 そんなことない、と言おうとしたけれど、言葉は出なかった。自分でも姉さんに暗い感情を持っていたのは事実だし、それも一つの原因でもあった。

 

「姉さん・・・・・・」

 

「だから、今まで、散々迷惑、かけちゃって、ごめんなさい・・・・・・!」

 

 深く頭を下げる姉に困惑しつつも、俺も口を開く。

 

「確かに姉さんに負い目を感じてた」

 

「けどそれももう止めたんだよ」

 

「昔のことを謝りたくて、仲直りしたくて、また二人で笑いたくって・・・・・・」

 

 熱いものが喉を刺す。顔がどんどんと熱くなってくる。

 

「姉さんが嫌いなんじゃない、嫌いになりかけた自分が嫌いだったんだ」

 

 目から涙が溢れ、それは止め処なく流れていく。

 

「だから・・・・・・だから、俺も、ごめん、心配かけさせちゃって、ごめんね・・・・・・」

 

 

 そのあと、二人とも気が済むまで泣いた。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

「「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません・・・・・・」」

 

 二人とも向き合ってお互いに土下座で謝る。

 いくら姉弟とは言え、人の前で大泣きするなど子供のとき以来だ。

 

「その、お互い暗いものは言い合ったし、もう寝よっか?」

「そう、だね」

 

 これ以上は気恥ずかしいのでそそくさと寝床に行く、ところで姉さんが待って、と声を出した。

 

「今日は久々に、二人で寝よっか、シロちゃんの断りもちゃんとあるしね 」

「う、うん」

 

 ちょっと恥ずかしいが、まぁ今日ぐらいはいいだろう。

 

 

 

「ありがとう、姉さん。おかげで気持ちが楽になった」

「うん、私もだよ。透君」

 

 二人の顔にはもう暗い雲はかかっていなかった。

 

 

 

 

 扉前。

 

 

「あ、終わったみたい」

 

 ずっと扉に耳を当てて中の会話をガッツリ盗み聞きしていたシロは二人の会話が途絶え、寝息が聞こえたあたりでそっと中の様子を『千里眼』で確認し、二人ともとても良い顔で寝ていたので自分も部屋に戻り、床についた。

 

「おやすみなさい、マスター、お姉さん」

 

 静かな声で、眠る二人にそう告げた。その顔には心配の表情は出ておらず、安心した笑顔があった。 

 


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