キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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二十話 走り抜けての脱力感

 やっちまった。

 それは起きてから気がついた。

 今俺はベッドの上で二人が密着した状態で寝そべっている。姉さんに手足を絡められていて動こうにも動けない状況になっていた。抜けようにも体格差的に無理を察した。

 

「デシャヴ感あるな・・・・・・」

 

 今はまずこの状態いら抜け出さなくてはならない。

 そのためにも姉を起こすことが先決だ。

 

 と、思ったら扉からノックが三回響き、シロがゆっくりと入ってきた。

 

「おはよーございまぁーす」 

 

 間延びした声でそう言いながらまだ眠たそうなシロは俺を見ると何やらにまっ、と微笑んできた。

 

「おはよ、て、何だよその顔」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 意図が読めず少し困惑していたが、「よく眠れましたか?」と言う一言で納得がいった。

 

「うん、お陰ですっきりした。ありがとう」

「私は何もしてませんよ」

 

 流れる沈黙。ちょっと気まずくなっていると不意に体に絡められていている姉の手足に力が入り、俺は姉さんに引き寄せられた。

 

「ふぅーん、シロちゃんにはそんな顔するんだー。ふーん」

「おはよ、姉さん。て、苦しい、苦しい」

 

 今なおジト目で俺を抱き締める姉さんの対処に十数分費やして何とか開放してもらえた。その間シロは「朝ご飯作ってきますね」と言いながら部屋から出ていき、助けてはもらえなかった。

 

「俺らも降りよ」

「うん」

 

 

 二階から降りると丁度朝食を作り終えたシロがエプロンをほどいていた。

 

「あ、ちょうど今ごはんが出来たましたっ!」

「ん、ありがとう」

「シロちゃんの手作りか・・・・・・お味はどうかな」

 

 三人が席についていただきます、と手を合わせ、朝食に手をつける。

 

「どうですか、上手に出来てますか・・・・・・?」

 

 ちょっと不安げに聞いてきたシロの頭を撫でながら「美味しいよ」と素直な感想を述べる。目玉焼きとトーストとサラダと言うシンプルなものだがこれだけ出来れば上出来だろう。

 

 

 

「ん、ご馳走さま」

「ご馳走さまでした」

「お粗末様でした」

 

 食べ終えて皿洗いは俺がするよと言ったがシロも手伝うと言い、姉さんも手伝うと言い出したので皿洗いは俺が、拭くのをシロが、食器棚に戻すのを姉さんがして、あっという間に終わった。

 

「じゃあ、私は昼前に帰るから、荷物まとめてくるねー」

「うん」

 

 そう言いながら姉さんは部屋に戻り、俺は各部屋に軽く掃除機をかけたあとリビングでゲームに勤しんだ。

 

 暫くしてトランクを持った姉さんが部屋から出てきて、玄関前に移動していたので見送るため俺も玄関に出る。

 

「んじゃ、行ってきます」

「ん、いってらっしゃい。気を付けてね」

「いってらっしゃいませ!」

 

 二人で言葉をかけると姉さんが思い出したかのように俺に近づき、ぎゅう、と強く抱き締める。

 

「んっ!?」

「ん~、ぷはぁっ。じゃ、行ってくるね!」

「う、うん」

 

 小走りに家を飛び出る姉を見る。今までの張り付けたような笑顔ではなく、心からの笑みが浮かんでいるような気がした。

 

「元気良いなぁ……」

「ふふっ」

 

 姉さんがアパートに戻り、家は再び俺とシロの二人だけになった。シロは寝間着から着替え、今日は私服ではなく装備を着ていた。

 

「キリンSか」

「はいっ!」

 

 何故だろう、以前までキリンSを見ても特にそこまでの高揚感を覚えなかったはずなのに今目の前にして見ると胸の中で何か熱いものが(たぎ)っている感じがした。

 何だろう、恋だ愛だとかそんなもののようで何処か違っているこの感情を言い表すことが難しかった。

 

「ん、マスター、どうしました?」

「いや、何でもない、なんでも・・・・・・」

 

 これ以上は気持ちが変になりそうだったので思考を切り替える。

 今日は日曜日、何か用事があるわけでもなく暇なのでダラダラと惰性の極みを目指そうと思っている。

 

「今日は遊ぶ」

「はぁ」

 

 自室に行きnew3DSを構えてデータをロード。

 使うのはデータ1のシロ―――

 

 ではなくデータ2。

 

「さて、育成しますか」

 

 データ2はデータ1のシロとは違い、遠距離武器をメインでプレイしている。

 最近になって始めたガンナーだがこれがなんとも面白い。射撃と言われてどこか小難しく考えてしまうかもしれないが弾はまっすぐ跳ぶしダメージはほぼ均一なのでどの弾をどれだけ撃てばこのモンスターが倒れるかとかも分るのでダメージ計算がしやすい。

 そこからスキルを決めていくので自分にあったスキル構成とかが出てきて人によってプレイスタイルが変わってくるというのはとおても面白い。

 

 まぁこのゲームにおいてはブレヘビィ一択と言っていいほど火力が偏っているのが辛いかな・・・・・・。

 

 データを読み込んでゲームを開始する。

 手慣らしにライトで鳥竜種あたりを狩る。

 ガンナー、というかこういうゲームにおいて大事なのは『もう一発いける』を控えることだ。どんなスタイルや武器でも欲を出さず堅実にいけば被弾が減り、攻撃回数が増えて結果的に速く狩れる。ただしブシドーは除く。

 

「よし」

 

 まだ慣れていないので少し時間は掛ったが難なく倒せた。

 最大火力のヘビィに持ち替え、飛竜種に挑む。

 先ほどとは違い、押し黙り、顔から表情が消える。

 最短距離でメインターゲットが居るエリアまで進み、手前で武器の用意をする。

 

『ギャァアアアアアア!!!!!』

 

 発見されたSEが鳴りモンスターがこちらを向いて咆哮を上げる。

 それをイナシで避けて攻撃態勢に入る。ブレイヴの弱いところは攻撃の出だしに火力が盛れないところだ。このスタイルの専用ゲージがあり、それをためない限りブレイヴというのは全スタイルに劣る劣化スタイルと言っても過言ではないだろう。

 しかし逆に言えばゲージさえ溜まれば強攻撃出し放題のぶっ壊れスタイルでもある。

 そのあたりの調整がよく出来ていて使っていて楽しい。

 

「・・・・・・ふぅーっ」

 

 討伐完了し、ゲームクリアのファンファーレが鳴る。

 やっぱりガンナーは楽しいなぁ・・・・・・疲れるけど。

 

 

 

「浮 気 で す か ?」

「ッ!?」

 

 突然後ろからシロがハイライトオフの目でそんなことをきいてきた。

 何だよ浮気って。

 

「どうしたの、突然」

「マスターが射撃武器を使っていたので気になって」

 

 どうしてそんなに淡々と語るの。さっきまでふんわりしてたじゃん。怖いよ。

 

「コレはどういうことですか」

「どうって、大げさだなぁ。ボウガンが強いって聞いたから試しに作ったデータだよ。一応ランク開放してテンプレ装備作ってある程度自分なりにカスタムはしたけど」

「ふーん」

 

 なんだか朝の姉さんと同じ対応してるなあ。

 シロは剣士で育ててきたので遠距離武器には何か線引きとかがあるのだろうか。シロでも弓は触れた程度で使ってはいた。すぐ飽きたけど。

 

「私みたいにそのデータからも出てこられたら厄介なので」

「おい怖いこと言うな」

 

 これ以上増えたら本当に困るぞ。

 まさか、無いよね・・・・・・?

 


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