「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ~」
いつものやんわりとした声でシロに見送られる朝。天気は晴れと言うほど青空が見えてなく、少し雲りがかっていた。
傘は、要らないか。
曇ってこそいるがそこまで心配するほどじゃないだろう。
学校。
「お、村崎か、おはよー」
「おっはよー」
「やっはろー」
「おはぽよー」
「あげぽよー」
「色々変わってるぞ、おはよ」
朝から元気な藤sに挨拶を返して自分の席に座る。
しかしぽよって死語じゃないか?
「土日何してたー?」
「シロと買い物行ってた、あと姉さんが帰ってきた」
「ハァーン」
「なんだよ」
何とも言えない渋い顔をされた。
「けどそれにしてはやけに清々しい顔してんな、なんか進展でもあったか?」
加藤の言葉に少し驚いたがまたすぐに切り替えて言葉を返す。
「あぁ、うん。姉さんと仲直り出来た。シロのお蔭でね」
「へぇ、そっか、そりゃ良かった」
おどけた感じはなく真面目な顔で言うものだから一瞬誰? と思ってしまった。
そうこうしてたら担任の先生が教室に入ってきたので話を切り上げて座る。
「おーうお前ら座れよー。朝の
なんで一昔前のマガ〇ンに出てきそうな台詞なのか。
ぼー、としながら連絡事項を聞いていると、ふと視線のようなものを感じた気がした。
「・・・・・・・・・?」
なんだろう、虫にでも噛まれたか?
「ご主人・・・・・・」
村崎家。
洗濯をしていたシロはふと手を止めて窓の外を眺めた。空は朝のような雲の多い晴れではなく薄い灰色に染まった曇り空に染まり、空気が湿ってきた。
「ちょっと降りそう……」
洗濯物外で干せないかな、と思いつつ降らないように祈る。
自分の主は今日は雨具を持って行っていない。そんなときに雨が降られては最悪だ。もしものときは自分が傘でも届けようとは思っているが、前回迷子になったのでちょっと怖い。
「こ、今度は迷わず行きますから・・・・・・」
誰に向かって言ったのか分からない一人言は家の静けさに消えた。
学校、昼休み。
「おぉ、降りそうな天気・・・・・・」
どんよりとしだした空を見てそう呟く。
今日は傘を持ってきてない、もし降ったら大惨事は免れないので降らないでほしい。もしくは小雨迄に留まってくれたら幸いだ。
「今日は降水確率高かったから多分降るぞ」
「マジか」
加藤の言葉に俺の祈りは虚しく意味を無くした。
こんなことなら折り畳み傘でも入れておけば良かった。しかし今そんなことを嘆いても何の役にも立ちやしない。濡れて帰るか・・・・・・。
そう思っていたら一滴、また一滴と雨粒が落ち、次第にそれは小雨から本降りに変わった。
「うへぇ・・・・・・」
「ひゃーこれは凄い」
中々に強い雨で気が滅入る。雨雲を見てもどこも分厚く広がっていて通り雨と言う分けでもなかった。
「最悪だ・・・・・・」
「シロさんに届けて貰えよ」
加藤が呑気にそんなことを言ってきた。
「届けてって、前にシロが迷って泣きながら学校に来たの忘れたか?」
「あー、あったな」
お互い何ともいえない顔で振り返る。
俺が忘れた弁当をシロが届けようと試みたところ、道に迷い半ば強引に学校を目指し、なんとか到着はしたがメンタル的にボロボロになっていた。
そんな事があってシロに傘を届けてもらうと言うのは些か難しいものがあるのではと危惧している。
「ま、最悪俺ら二人で帰るか」
「不本意だけど仕方ない」
「んなこと言うなら入れてやんねぇぞ」
「ごめん悪かった」
お礼に今度何か奢ってやろう。
村崎家。
玄関前でシロは傘を握りしめて家を出てしっかりと鍵を閉める。
「鍵はちゃんと持ってる、うん、傘もあるね、うん、よし」
自前のキリン装備を身に着け、持ち物チェックをする。
鍵持った、傘持った、アイテムも一応ある。
大丈夫・・・・・・だと思いたい。
「早いとこ渡しに行こっと、今度はぜってい迷いませんっ!」
一人意気込み、『千里眼』で見えている主が居る方角に向かい走り出した。
前回のような失敗はしない、そう誓う彼女だった。