何とか生きて教室に帰還したら昼休み終わりのチャイムが鳴った。
「あのお、大丈夫ですか、トオル君・・・・・・?」
「九死に一生、いやお情けだった・・・・・・」
完全に殺る目をしていた。
嫉妬なんて生半可なモノじゃない、明確な殺意を持っている目をしていた。
「ん、もう、平気」
「ご主人・・・・・・平気?」
「死んではいないから大丈夫、だと思う」
実際そこまで大きな怪我は無かった。
どこぞの地球人のように起爆生命体によって命を落としたりはしていないので多分セーフだろう。
「午後の授業があるから二人とも大人しくしててね」
「はいっ」
「わかった・・・・・・」
またも椅子を借りてきて先生に説明と謝罪をしていった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
六限目の終わりのチャイムが鳴る。
「よし、今日の授業はここまで。みんな気を付けて帰れよー」
「「「ありがとうございましたー」」」
それぞれ席を立ち荷物をまとめたりしはじめた。
「トオル君、まだ降ってますけど」
「あー、そうだね・・・・・・」
窓の向こうはまだ暗い雲が雨を降らしていた。
「あー、どうするよ村崎ぃ」
「そだな、俺はシロが持ってきてくれた傘あるし、それで帰るよ」
「いやまぁお前がそう言うならいいんだけど」
加藤がクロを見ながら言葉を続ける。
「三人で一本使うのか?」
「・・・・・・・・・」
言葉に詰まった。
シロとならまだ帰れたかもしれないが三人となれば一本の傘では大分狭いことになると思われる。
では誰か出る、つまり濡れて帰るか?
そうしたもので悩んでいるとクロが口を開いた。
「ご主人、私はいい」
そう言いながら窓に身を乗り出した。
「おい、ここさんが・・・・・・!」
「またね」
「い・・・・・・」
ひょいと何も物おじせず飛び降りたくノ一。
慌てて窓に駆け寄って下を見るがそこにはもう誰もいなかった。
「大丈夫かな・・・・・・」
止まない雨音の中そんな言葉が出た。
「・・・・・・帰りましょうか、トオル君」
「あぁ、うん」
シロに促され、俺も帰る支度をする。
教本をカバンに入れて教室を出る。
踊り場を降りて生徒玄関に行く。
「じゃ、先に帰るぞー」
「あ、うん」
じゃあの、と手を振りながら加藤は学校を出た。
何故にあんな労わるような眼で眺めてきたのかは聞かないようにしよう。イライラしてくる。
「トオル君!」
先に外へ出て振り返ったシロが俺の名前を呼ぶ。
両手で持った傘を肩にあてがい、柔らかな笑顔で見返るその姿は、可愛らしさと可憐な美しさを合わせたような、形容し難い妖艶さと呼べるものがあった。
「・・・・・・・・・」
「トオル君?」
「はっ・・・・・・!」
いかん、軽く見惚れていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん、大丈夫、大丈夫だから!」
熱くなった顔を誤魔化すように自分も早々に靴を履き替えてシロの持っている傘の中に入る。
「じゃ、行きましょう!」
「う、うん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
帰り道、何も会話がない。
凄く気まずい。
数週間一緒に過ごしたがこうも急に静かになると何も話せなくなるのが辛い。
話題・・・・・・話題・・・・・・あ、そうだ。
「なぁ、シロ」
「はい、何でしょうか」
声を掛けられぱっと顔を向けるシロ。
「今日いきなり出てきたクロ、どう思った?」
「クロ、あの急に攻撃してきたハンターですか?」
「うん。あの娘」
「正直好意は持てません」
「あーやっぱり・・・・・・」
まぁ当然だろう。
急に出てきて名乗りもせずこっちに攻撃してくるなんてゲームなら明らかな地雷行為だ。
ゲームならまだしも現実であんなことすれば一発アウトで鉄の輪っかを両手に掛けられてそのまま鉄格子の向こうに繋がれるわ。
相手がシロだったからまだ良かった・・・・・・。
「しかも窓から飛び降りてどこか行っちゃったし、大丈夫かな・・・・・・」
「並大抵では死なないとは思いますが、どうでしょう・・・・・・」
不安はあるがあのタフさならそこまで問題は無いだろう。
そう思わないとやってられない。
思いふけっていると突然シロが立ち止まった。
どうしたのかと思ってシロの方を見たら恥ずかしそうにちらちらと目線を合わしたり外したりしながら聞いてきた。
「あの、トオル君」
「どうした?」
意を決したのかぎゅっと手を握って話す。
「トオル君は、子どもが欲しいとか思いますか?」
「な、シロッ!?」
急に何言いだすのこの娘!?
「だって、あの時クロさんが子供が欲しいって・・・・・・」
「あれはアイツの勝手な話だから!」
「でも、でも、以前トオル君のお部屋から出てきた本にもそのような事が描かれてましたし・・・・・・」
「それは内藤が置いていったやつだから」
そう言えばそんなこともあったな・・・・・・。
あの時はシロの尻尾を弄り倒して大変なことになった。
「それで、もしトオル君がその、
「いや、溜まってないから、そんなことないから」
赤らめた頬に手を当て、身体をもじもじさとせながら口走るキリンの少女。
何故か分からないが少し悲しくなってきた。
「とにかく、俺はそんなことは思ってないし、子どもとかまだ作る気はない」
「うぅ、そうですか・・・・・・」
真正面から全否定されてうなだれるシロ。
少し言い過ぎたかな・・・・・・。
「シロ、焦らずゆっくりいこう、ね?」
「う、はい」
どうやら分かってもらえたようだ。
シロは少し考えて一つのアイデアを出す。
「では、折角相合傘をしているのですし、もう少し近くにいても、いいですよね?」
「いや、あのそれは」
問答無用というように肩が密着するまでシロは俺に接近し、今にも抱き着かんとするほど近くに来ていた。
「それに、こうでもしないとトオル君が濡れっぱなしでしたし・・・・・・」
「あははは、ばれてら」
流石に人を二人入れる容積というのは厳しかったのか少し距離を開けただけで少し肩が出るくらいだった。
まぁその程度なら濡れてても大丈夫だろうと思ってたし、何より触れたままだと言うのがちょっとメンタル的に持ちそうになかったにので離していたのだが、シロから来られては逃げ場がない。
なら素直に諦めよう。
「濡れないようにと持ってきたのに、トオル君が濡れてはいけません!」
「うん、わかった、気を付けるから、あまりグイグイ押し付けないで」
小振りながらもしっかりとした双丘が満遍なく当てってくるので恥ずかしくて顔を合わせられない。
多分耳まで赤い気がする。落ち着け、意識するな。
「んふ~~」
「ご機嫌なようで・・・・・・」
腕にくっつき、少しゆっくりとした速度で歩く。
最近退屈しないなぁ、とか思いながらシロを見て、幸せそうな表情をしているなーとか考えてたらいつの間に家の前に着いていた。
「ほら、着いたから一旦離れようか」
「うー、分かりました」
玄関の鍵を開けがちゃりと扉を開ける。
「おかえりなさい、ご主人・・・・・・。 ご飯にする・・・・・・? お風呂にする・・・・・・? それとも、こ・づ・く・り・・・・・・?」
バタン。
どうしよう、家に痴女が不法侵入キメてた。
「それは酷いと思う・・・・・・」
「なんでウチに居るんだクロ・・・・・・」
すかさず玄関を開け、半開きの目を潤ませながら上目遣いに俺を見てくる。
頭が痛くなってきた。
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では。