キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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二十七話 八つ当たりにお菓子を

 学生の喧騒が響く教室。

 穏やかな昼休みにパックのコーヒーを飲みながら、村崎透は今日の夕飯はどうしようか。などと考えていたら突然女子グループが目も前までやってきて声をかけてきた。

 

「村崎くーん、ちょっといいー?」

「・・・・・・。あ、俺?」

 

 まず学校で女子と話すことなんてほとんどないので一瞬誰の事かと思ったがどうやら彼女達は自分に用があるようだ。何だろう、カツアゲかな。

 

「悪いけど今は今月分の生活費しか残ってないからお金はあげられないよ・・・・・・」

「そんなじゃないわ! アンタあたしらのこと何だと思ってんの!?」

「イケてる女子連中」

 

 少し眉を寄せながらそう言うと呆れたよな顔をしてため息をつく女子たち。

 なんだろう、変なことを言ってしまったか?

 

 困惑しながら眺めていると先頭にいた女子がまーいいよ、と話を切り出して要件を伝えてきた。

 

「今度の土曜アンタ予定空いてる?」

「自宅で積みゲー攻略」

「何も予定ないね」

「いやあの積みゲー・・・・・・」

「じゃああたしら今度の土曜アンタんち遊び行くから、ちゃんんと家に居ろよー」

「あのー・・・・・・」

 

 じゃねーと手を振りながら女子達は俺の席から離れていった。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 それを傍から見ていた藤ズは俺たちもと言わんばかりの目線を透に向け、次に女子達に向けたが女子達はもう自分たちの会話に花を咲かせていた。

 男子リーダーの加藤が女子グループの入っていき、交渉を始めだした。

 

「おうおうおうお嬢さんたち、なんか面白そうな話してたじゃないの」

「なーにー加藤ー?」

 

 面倒くさいと態度で示すも男子連中は構わずやんややんやと話をしているが暫くして加藤がいい笑顔でこっちにやってきた。

 

「よ、村崎。俺らも行くことになったわ!」

 

 清々しいほと気持ちのよい笑顔でそう言ってじゃあ俺トイレ行ってる! と加藤は教室を出ていった。

 

「積みゲー・・・・・・」

 

 落胆するも時すでに遅し、自分の会話力の低さもあるが半ば無理矢理に決められてしまった。

 もう腹が立った、こうなったら徹底的におもてなししてやろうではないか。

 

 当日に備えてお茶や茶菓子を揃える透だった。

 

 

 

 

 その日の村崎家。

 

 夕食の後透は台所に立ち、焼き菓子を作るための材料を揃え、各使用する素材の分量などを量ったり調理器具を揃えたりしていた。

 

「マスター、何をされているのですか?」

 

 夕食後、何やら物音がするので来てみたら主が台所で何か作業をしている。覗いてみると薄い黄色の生地をこねていた。

 

「あぁ、うん。今度の休みに何人かクラスメイトが来るから、全力でもてなしてやろうと思って」

「そ、そうなんですか」

 

 説明を聞いてもよく分からない。おもてなしをするのは理解できるのだがなぜそんな八つ当たりでもするかのような口調で作業をしているのか。普通、自棄(やけ)になったらもっと乱雑にするのではないだろうか。それを何故に主は全力でもてなすため下準備をしている。

 

「焼けたら試食がてらに食べさせてあげるからちょっと待ってて」

「あ、はい分かりましたっ!」

 

 甘いものが食べられるならまぁいいや。

 

 

 ◇

 

 

 さて準備は出来た。

 まずはシンプルに混ぜて焼くだけ。ココアパウダーなども入れつつプレーンとココアの二種類のクッキーを焼く。

 小麦粉、卵、牛乳、砂糖、その他色々。必要ならまた色々入れればいいだろう。

 

「温度はこのぐらいで、時間は、これぐらいかな」

 

 生地をそれぞれ一口大に切ってトレーに乗せ、オーブントースターにセットして蓋を閉じ、時間と温度を設定してあとは待つだけ。

 

「よし、次の準備もしておくか」

 

 あらかじめ冷やしていたチョコチップを冷蔵庫から取り出して余っているクッキー生地に混ぜ込む。

 これもまた一口大に分けていき、トレーに乗せて焼く準備をして待っていると一枚目が丁度焼きあがったようだ。

 

「わあ!」

「まだ駄目だぞ」

「はいっ」

 

 オーブンからトレーを取り出して熱を取る。

 二枚目のトレーをオーブンに入れて再設定して開始。

 シロが目をらんらんと輝かせながらかじりつくように目の前のクッキーを眺めている。

 まだかまだかと待つ姿に笑みを零しつつ牛乳を注いコップに注いで少し冷めてきたクッキーを皿に取り分けシロの前に出してやる。

 

「よし、もう食べていいぞ」

「いただきます!」

 

 すぐさまバタークッキーに手が伸び熱さに驚きながらも美味しそうに焼き菓子を頬張っている。

 牛乳を挟みつつクッキーを頬張る、と言うことを繰り返しているシロを眺めているともう一つの方も焼き上がったようだ。

 

「こっちも出来たっと」

「~♪」

 

 至福の時と言わんとばかりにクッキーを食べているシロの前にチョコチップクッキーを出して一枚つまんでシロに向ける。

 

「シロ、あーん」

「あー、むっ」

 

 テーブルに少し身を乗り出して口を広げぱくりと一口に俺が手に摘まんでいたクッキーを食べるシロ。

 

「どう、おいしい?」

「んー、んぐっ」

 

 暫くの租借の後、ごくりと飲み込みしっかりと味を確かめていたまじめな表情から満面の笑みに変わるのを見て安心する。

 

「すっごくおいしいです!」

「そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや今日クロのやつはどうした?」

「しばらくあっちの世界に戻るって言ってましたよ」

「え、戻れるの?」

「らしいです」

「えぇ・・・・・・」

 




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 では。

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