なんか色々あったので投稿も遅れてしまいました。
ランキング入ってたとかいつの話だよ……。
そんな訳で日刊ランキング最高4位だったのを記念して書きました。
ではどうぞ。
またも登場屍モドキさくしゃです。
今回は以前日間ランキングで4位に入ったということでお祝いだよ。
本当にありがとうございます。
それで、何がしたいんだって?
それはね・・・・・・。
「マスタ~」
重要人物ぎせいしゃちゃんが来てくれたようなので早速やってしまおう。
「ますた・・・・・・て、あなた変態さんですね!?」
その通りだよー。じゃあ説明も惜しいからいきなりぼんっ。
「きゃあ!?」
うふふふ。
ボクの一声と共にぼふんと煙が立ち込め、煙はたちまちシロちゃんを包み込み噎せる声が一度止んだと思ったら暫くして声が重複し出す。
煙が晴れてそこに立っていたのは。
「げほっげほっ! 何これ・・・・・・」
「急な煙幕とかついてません・・・・・・」
「けほっ、むせるわぁ~」
「んん・・・・・・、なんなんだい一体」
「「「「え?」」」」
現れたのは四人の各キリン装備を着た女性ハンター達。
順にキリンS、キリンR、キリンX、キリンXRを装備している。
「アンタたち誰!?」
「こ、こっちの台詞、なんですが・・・・・・」
「あらら、おかしなことになったわねえ~」
「随分なことをするじゃないかキミ」
多種多様な反応を示すキリン娘達。
オーバーな反応をするのはキリンS娘。
逆に気弱に肩を狭くしているのはキリンR娘。
おっとりして二人を眺めているのはキリンX娘。
全員を見回してやれやれと首を降るのはキリンXR娘。
素晴らしい・・・・・・。
正に絶景、正に桃源郷。
理想は此処にあったのだ。
さて、見たいもの見れたしボクは早々に退出してしまおう。
それじゃあ、お楽しみにぃ~。
不意に透の体ががくんと脱力し、それまで憑依っていた誰かの面影は消え去りいつもの気怠けな彼の戻る。そして目の前の修羅場も超えた渾沌とした状況に一度目をこすり、再度目視した時にはくら、と頭を朦朧とさせる感覚が襲った。
「マスター!」
「ご、ご主人様・・・・・・!」
「トオルくーん」
「マスター君」
目の前にはそれぞれのキリン装備を着たそれぞれの女性。
「なんだこれ」
「なんだこれ」
混乱する視界からせめてもの逃避の為、上を向く。
天井は変わらない。
喧騒は姦しくなった。
◇
状況を整理しようじゃないか。
不定期で起こる気絶から目が覚めたら四人のキリン装備の女性が居る。しかも全員が自分のことを認識してそれぞれの呼称で呼んでくる。
「まずシロだろ?」
「なに?」
「それでシロに」
「は、はい」
「次はシロと」
「なにかしら~」
「最後のシロ」
「なんだい?」
うん、意味わかんない。
これは中二病の知り合いに切れる女の子も絶叫するぐらい意味わかんない。
増えた。いや分裂した?
そんなのどっちでもいいよ。
なんで増えちゃってんだよ。
四人だよ四人。
対処しようがねぇよ!!
「はぁ・・・・・・」
今日一番のため息が漏れ出る。
「まず確認するが、君たちは全員シロ、と言う認識でいいの?」
「よくわかんないけど、アタシはシロだよ。マスター!」
元気の良いキリンSのシロが返事をする。
活発で笑顔が絶えず、そえとスキンシップも多い。甘える猫のように頬を摺り寄せてきて、目を細めて気持ちよさそうにするキリンSのシロの頭をとりあえず撫でる。肌の露出面積が多いインディアン風のその装備でそう抱き着く様にくっつかれると耐えられるものも耐えられないので控えてもらいたい。止めてって、止め、あっ。
「あ、あの。あまり引っ付いてるのは、いけない、かと・・・・・・」
「お、おぉ」
「なによ」
おどおどしながら控えめにそう言って、後方から俺の服の裾を遠慮がちにつまむのはキリンRのシロ。
キリン装備の中で唯一全体が非対称なデザインのキリンRの彼女は大人しい性格なようで、ずっと忙しなく周囲を見ている。時折目が合っては慌てて視線を逸らしたりしている。
「お茶淹れましたよ~」
「あ、ありがとう」
二人の喧騒など構いもせず、一人マイペースにお茶をトレイに人数分淹れてきた女性はキリンXのシロ。
肌の面性が一番少なく、厚手のコートでも来ているようなその恰好は落ち着いた印象を与える。おさげやおっとりとした彼女の性格も相まって淑女と言う言葉がよく似合う。そう思わせる人だ。
「騒がしいね。ねぇマスター君」
「あ、はい」
ソファーに深く腰掛けて脚を組み、背もたれに腕を垂らすキリンXRのシロ。
体のシルエットがよく見えるボディコンのようなインナーに装飾を加えたような装備に身を包む彼女は随分と落ち着き払った、いやどこかキザな印象を与える風貌に冷や汗が垂れる。俺を見つめるその視線はイケメンのそれだった。やだカッコイイ。
ふぅ、カオス。
誰がどれか分からなくなってくる。
猫のように甘えるシロSをどうにかしないと、心臓と理性が仲良くお陀仏になってしまう。それだけは避けたい。
「ねぇ、シロ。ちょっと離れてはくれないか」
「えー? まだこのままがいいー」
「それはちょっと」
ダメだ、シロSは離れてくれそうにない。
見かねてシロRが頬を膨らまし、シロSを引っぺがす。
「く、くっ付きすぎです・・・・・・!」
「きゃん!? なにすんのよ!」
「男女がむやみに密着するのは、その、いけないと、思います・・・・・・!」
「アンタに関係ないでしょ!」
「むぅ・・・・・・!」
「この・・・・・・!」
一触即発、触れれば爆発しそうな空気が漂う二人。
「じゃあ勝負しようじゃんか!」
「いいです、よ・・・・・・」
Sは双剣を、Rは片手剣を取り出してぶつかり合おうとしたところでXとXRの二人が止めに入る。
「はいちょっと待った」
「おいたが過ぎますよ~」
「ひゃあ!?」
「わっ・・・・・・」
気配もなく、いつの間にか二人の前に出たXとXRが二人から武器を取り上げ、腕を固定させる。
シロSに関しては関節を決められている。
「いたたたた!」
「折れるまでは擦り傷と一緒ですよー」
「ぎゃー!」
随分とオーバーリアクションで転げまわるシロS。それをニコニコ眺めながら片手でシロSの肩関節をキメているシロXも傍から見ていると少し怖い。
シロXRも武器を手放させ、剣を握っていた方の腕を引きながら足を払い、倒れそうになったRの腰に開いていた手を回して抱えるようにしてシロRを止めていた。やだイケメン。
ええい話が進まない!
「ねぇ、シロ」
「「「「はい」」」」
「ややこしい・・・・・・」
何か打開策とか解決策とか、即席の対処法でも思いつかないか上手く回らない頭を捻ってみる。
そうだ、一人では何も出来なくても複数人ならどうにかなるかもしれない。
そう考えた透は早速スマホを取り出して某無料メールアプリで作った藤ズのグループに目の前の現状の旨を伝えてみる。
『シロが増えた。助けて』
さぁ、どう返ってくるのか。
『モルダー、あなた疲れてるのよ』
思い切りスマホをソファーに向けて投げ飛ばした。
ここまでずっと無言無表情だったので様子を見てたシロ達がびくっ、と肩を跳ねさせていたがそんなの気にしていられない。
『本当だって』
『画像も貼らずにスレ立てとな?』
こいつらウゼェ。それいつのネタだよ。
仕方ない、こんな厄介ごと知られたくはなかったが、相談しなければいけないのだから見せなければならない。
「シロ、ちょっと並んで」
「わ、わかりました」
言われて横一列に並ぶキリン少女たち。
四人を画角に収めてカメラアプリのシャッターを押す。電子のシャッター音が鳴り、画面が一瞬暗転してから四人が写った静止画が表示される。
「よし、送りつけてやる」
そうぼやいて撮影したモノをグループに送ったところ、瞬く間に既読数が全員分付いた。
しかし返信を返すものは誰一人いなかった。
「少しは俺の心労を知れってんだ」
返ってこない返信を昇天と受け取りやはりと言うか、結果的に事態を修めるのが自分一人になってしまったことに落胆する。
「一つ聞きたいんだけども、四人とも自分が分裂したって自覚とかある?」
俺の問いかけに四人それぞれが顔を見合わせ、此方に向いて頷く。
「じゃあ解決案は知ってる?」
もう一つの問いには全員渋い顔をして首を横に振った。
そんな問いかけに飽きたのか、シロSが懐に飛び込んできた。
「それよりさ! アタシと遊んでよマスター!」
「おわぁっ!?」
懲りないのか好奇心からか飛び付いたシロSを抱える。
またも怒りながら剥がそうとするシロR。しかしそれを制止させる村崎透。
「な、なんで、止めるのですか、ご主人様……!」
「マスターはアタシを取ったって事だよ」
「あ、貴女は黙っててください!」
「何をぉ!?」
「ちょっとうるさい」
「「ごめんなさい」」
取り敢えず喋らせて。
「戻る手筈も無いなら焦っても仕方ない、と思って。じゃあ堪能しようとまではいかないけど、今は重く見ないほうが良いと思った」
「簡潔に言うと?」
「一人ずつ順番に相手するから喧嘩するな」
「はぁ~い」
シロXの間延びした返事で事が決まった。
まずはSから。
愛権動物のようにスキンシップ多めでじゃれてくる彼女をあやすように撫でる。他のシロたちには後からと言うことで退室してもらっている。
「私の魅力、イッパイ教えてあげるんだからね!」
「うん」
そう言ってよいしょ、とソファーに座っている俺の膝の上に頭を乗せて寝転がるシロS。
「おいおい」
「これがいいの! ……だめ?」
うっ。
不安げな上目遣い。
拒絶もままならず撫でてあげながら良いよと許可を出す。
やった! と笑みの花を咲かせて話を始めたシロSの話に耳を傾ける。
あれが楽しかった。これが好き。あのときのモンスターが強かった。あのときのモンスターは厄介だった。そんな、彼女にとってのこれまでの出来事を赤裸々に語ってくれた。
「ね、アタシ凄いでしょ!」
「うん」
嬉々としてとても楽しそうに話す彼女に見惚れて暖かい気持ちになる。
溌剌とした性格の彼女に元気をもらっている気分だった。
暫く話したあと、話題の種が無くなったのか、それとも気が変わったのか、忙しなく口を動かしていたシロSの口が止まった 。
聞き入っていたのもあったが一向に話さなかった俺に苛立ちを覚えてしまったのだろうか。
「マスター」
「な、なに?」
間を開けてSが口を開く。
機嫌を損ねていると思いハラハラしていたが、シロSの顔は紅潮していた。
「え、S?」
「ねぇマスター」
数センチ開いて隣り合っていたシロSはずいと距離を積めて透とほぼ密着する。
血液が溢れそうになるほど心臓が跳ねて脈が加速する。
「アタシね、思ったこと言っちゃったり体が勝手に動いちゃうほうなんだ」
「うん」
「アタシね、マスターのこと大好き」
「う、うん」
「だから、ね……」
「もう、我慢出来ないの……!」
そう言ったか言ってないかの間でシロSは身軽な体捌きで透の上に覆い被り、透はソファーに押し倒されてしまった。
シロSの目が血走っている。瞳孔が開き獲物にかぶりつかんばかりに興奮した獣のようだ。
く、喰われる。直感で感じた透は助けを呼ぼうとしたとき、ドアが勢い良く開かれシロRが入ってきた。それでハッとなったシロSが気恥ずかしさで顔を赤くさせ、弁明しようとするも話を聞いてないRが走ってきた。
「ま、また貴女はそうやって、ご主人様に……!」
「違う、違うって! てか邪魔しないで!」
RがSに飛び付いて四つん這いで覆い被さっていたシロSをはね除けた。
思うところがあったのか、さっきまでのように言い合いすることはなくシロSは素直に謝罪する。
「ごめんなさい……」
「まったく、もう……。つ、次はその、私の番です、からね……」
まだ紅い顔を冷ましながらシロSは退室する。出る寸前で此方に向くと、また再燃してしまい硬直する。
「は、早くいってください!」
「わ、分かってるわよ!」
初々しく赤くなるシロSを叱り飛ばし、出ていったことを確認して息を荒くさせ肩で息をするシロR。
「大丈夫?」
「ひゃっ、だ、大丈夫、でし、です」
噛んで言い直した。
せめてフォローしてみようと顔を伏せて縮こまる彼女の頭を撫でてみると、気恥ずかしそうにしつつも目を細めて甘受している。
「少しは落ち着いた?」
「はわ、ひい。いや、はいっ……!」
「……ぷ、ふふ、そんな気張らなくていいよ」
「ごめんなさい……」
Sとは打って変わって控えめ、と言うより臆病な性格をしているシロR。シロSを犬としたらシロRはウサギのようで、必ず密着しようとしてくる。
でも時折意識を戻してはぴゅっ、と離れるので半ば無意識でやっているようだ。
「シロ、君はこの騒動で何か覚えてることはある?」
透の問いかけに、先程まで気持ち良さそうに添えられる掌を頭で転がしていたシロRはピクッと止まり、じわりと目尻に涙を溜めて震えながら首を横に振る。
「ごめん、なさい……。な、何も、わから、ない、ですぅ、うぅ……」
「いやいやいや責めてる訳じゃないから!?」
泣き止まないシロRを抱き寄せて優しく頭を撫でる。
声を圧し殺して泣く彼女を宥める。少しでも落ち着かせるのに一回座らせてから泣き止むまで辛抱強く、ゆっくりと撫でる。
少しして、しゃくりあげる声が治まり目尻を赤くするシロR。
「落ち着いた?」
「はい、なんとか……」
気分も落ち着いてなんとか話せるようになったシロRと少し話してみることにした。今度は彼女のことについて。
「シロ、君はここが怖い?」
「っ……、そん、そんな、ことは……」
ない。
その一言で詰まり、またしゅんと俯く彼女。
「今はこんな大事になってるけど、そんなに慌てるほどじゃないと思う」
「はい……」
自分の言葉がどれほど軽いか。
励ましにすらならない軽率なことを言っているのは自覚している。それでも元気付けられるのならそれでもいいか。
暫くして落ち着いたシロRは、ただじっとしながら片時も袖を離すことなく引っ付いていた。
「えへへ、こうしてると、なんだか、安心します……」
泣き止んで鼻を啜り、擦ってしまい少し赤くなった目尻をたゆませ微笑みながらそのようなことを口ずさむ。
「なら良かった」
少しの罪悪感と愛らしさが混ざり、謎の背徳的な雰囲気が醸し出される。
「あの、ご主人様」
「なんだ?」
シロRは俺のことをご主人様と呼ぶ。シロSはマスターと呼んでいた。性格なのかは分からないが呼び方は全員とも違っていてはたしてそれに意味はあるのか定かではない。
「私は。私も、ご主人様のことが好きです。優しくて、頼りになって、御側に居たいと、思ってます」
シロRは弱々しくもしっかりと芯のある声音で告白ともとれるようなことを言う。
そんな健気な姿に気恥ずかしくなる。
言った本人も思い立って自分の言ったことに羞恥心を感じたのか困り顔で真っ赤になる。Sと似てるな。
「いえ、その、そんな大それたものではなく……! いや違わなくはないけど……でもでもでも、うぅぅぅ……」
湯気が出そうなほど赤くなったシロR。
ピタリとフリーズして動かなくなった。
「し、シロ?」
「あふぅ……」
ダメかも知れない。
どうしたものかと唸っていたら、頃合いを観ていたのかすかさずシロXが来た。
「はぁーい交代の時間ですよぉ~」
「ひゅっ!?」
「うぉあ!?」
音もなく、躊躇せずシロXが入室してきた。それに身を跳ねさせてシロRが驚き飛び付いてくる。
「あら~。もしかしてお邪魔しちゃいましたかぁ~?」
「いや、大丈夫。全然大丈夫。何もないから。何一つとして疚しいことなんてないから」
これ以上無闇な接触は控えよう。
そう心に誓ってシロRに離れてもらうように促す。
彼女も慌てて飛び退きもの恋しそうに振り返りつつも「失礼しました……」と出ていった。
「お次は私の番で~す」
ずっとニコニコしていたが今はより一層口角も上がり頬もうっすらピンクに染まり、「私は現状を凄く楽しんでいます」と言わんばかりのシロX。
大人しい方かと思ったが案外アグレッシブな方だった。
ある意味裏切られた感じがするがSほどじゃなければまだ安心できるだろう。
「取り敢えず、何するの?」
「何をしましょうか~」
ゆらゆら揺れながら微笑むおっとりしているシロX。厚手の服装だと言うのにしなやかな体のラインは見えているので露出が少ないのに艶やかだ。
「特に無いなら話でも……」
「え~い」
「おふっ」
こちらの話を聞くことなくシロXはがばりと腕を広げて抱きつく。いや抱き締めてきた。俺はシロの胸の中に頭を埋めるような体勢になり、その上しっかりとホールドされてしまい動けない。
「今度はこうか……」
「うふふ~あったかぁい♪」
攻守逆転と言おうか。二人目まで此方が抱擁していたのに対して今度はシロに抱き締められている。
これまでこのような状況になったこともあるが、如何せん回数が少なくて正直慣れていない。そもそも誰かに大胆に甘えるとか、この歳になってしまうとなかなかどうして恥ずかしい。
「なんか、むず痒い」
「それなら私がかきましょうか~?」
そのふわふわした声音で言われると疲れも癒されて微睡んでくる。あ、ヤバい寝そう。
「トオルくんいいこいいこ~」
「おぅ、これはやばい……」
ゆっくりと頭を撫でながらそのようなことを繰り返し言うシロX。
未だかつて体験したことのない天国のような沼に嵌まりそうになっている。このままだと骨抜きにされかねない。けど無性に心地好い……。
「なんか、眠く、なって……」
「おやすみですか? ならどうぞ私の膝枕で~」
「う、ん……」
言われるがまま体重に任せ頭を彼女の膝の上に乗せる。弾力と柔らかさが感じられる極上の枕。以前されたことのあるそれとはまた違った、より柔らかい厚みが、これにはあった。
「少ししたら起こしますから、それまではゆっくり休んでください~」
「うん、おねが、い……」
抗えない温もりに甘んじて、微睡みの海に着水した。
◇
「あらら、可愛らしい寝顔♪」
肘の上で眠る少年の前髪を掻き分けてやる。
なんとも言えない幸福感が胸の中に広がって溢れそうになる。
愛らしい、そんな言葉では言い表せないほど普段はあまり見せないような純粋な寝顔にギャップを感じ、胸が熱くなる。
「そろそろ交代だよ」
「もうそんな時間なの~? ざーんねん」
キリンXRを纏った自分が入ってきた。
やれやれと腰に手をあてがい私の肘枕で気持ち良さそうに眠る少年の顔を楽しそうに覗く。
「よく寝てるじゃないか」
「お昼寝には良い時間ですから~」
もっとこの至福の時間に浸っていたいが約束なので仕方ない。
私は少年を起こさないよう、ゆっくり頭を持ち上げ、体を滑らせて抜け出し退出する。
「あとはお任せしますね~」
「あぁ、任された」
ひらひらと舞い散る花弁のように、捕らえきれないような足取りで退室するするシロX。
部屋を出る間際顔を覗かせうふふと含み笑いで「お願いね」と言い残し、今度こそ部屋からいなくなる。
残されたシロXRと眠る主。
「さて、どうしようか」
起きる気配を見せない主を見て薄ら笑いを浮かべるキリン少女。
今の間にイタズラでもしようかと考えてはみる。
「やめよう、ボクのキャラじゃない」
一先ず起きるまではなにもしないことにした。
◆
ぱちりと目が覚める。
仮眠で微妙な眠気が取れて体が軽くなった気がした。
睡眠に落ちる寸前まで感じていた柔らかさはなく、無機質なソファーの弾力だけが頭を支えていたようだ。
「あれ、Xいないのか」
「おはよう、マスター君」
「その呼び方は……えぇと、XRか」
「あぁ、正解」
声のする方を向くと足を組んで深く腰かけたシロXRがいた。シロはこちらに振り向き、今までの可愛らしいものではなく格好いいと言える笑顔で微笑む。
これまでの三人は大小あれど可愛らしさがあったがXRは何処かクールな性格をしてしているような気がする。
「随分と気持ち良さそうに眠っていたから、起こすのも野暮かと思ってそのままにしていたよ」
「あ、あぁ、ありがとう」
そう言えば時間制限を設けて四人それぞれと相手をするようにしていた。
それがシロXから放たれる謎の魔性による睡眠欲に抗えず、そのまま眠ってしまった。
あれは卑怯も超えて若干恐ろしいほどの魔力だ。
「おかげでボクの時間が少なくなってしまったよ」
「それは、ごめん」
大袈裟に肩を竦めて首を振るシロXR。なんでこんなにも様になっているんだろう。男らしいと言うか、そう言うようなもので圧倒的に負けた気がした。
「それよりも、埋め合わせ出来るくらいボクと遊ぼうじゃないか、マスター君」
「おぉ」
頷いたものの何をしようか。このタイプの人間と遊んだことはないしそもそも関わったことがない。
強いて言えば姉の知り合いみたいな人に意識高そうな人がいたような気もするが、すぐに姿を見なくなった。
「でもこの距離はちょっと寂しいな」
「今でも大分近いけど」
「よしこうしよう」
「うぉう!?」
突然脇と膝裏に腕を回されて抱き抱えられる。所謂お姫様抱っこと言うやつだ。
「やめて、ホントにやめてくれ。あと今すぐ降ろして」
「イヤだね。もっと楽しませてくれなきゃ離れないよ」
抱えた状態で顔を寄せ、目と鼻の先で囁いてくる。背筋がぞわぞわと粟立ち背中から全身にかけてから力が抜ける。足にまわされていた腕が抜かれ、胸に這わせてきた。淫猥な触り方で撫でられるのは妙な感じがするので止めてほしい。
「ふふ、可愛いなぁ」
「止めて耳元で囁かないで」
女性らしい艶のある声で少し低めで、鼓膜が震えて止まらない。
「食べちゃいそう……」
「本当に、やめ……!」
胸を登る細やかに蠢く掌が鎖骨に到着し、そらに首筋、頬に達し、一切の力みもなく引き寄せられる。
「もう満更でもないだろう?」
光を受けて煌めく唇が、止まって見えるほどの時間をかけてゆっくりと、ゆっくりと接近する。何度目かに味わう貞操の危機に諦めてしまおうかと一瞬頭を過った。
「だ、ダメぇえ……!」
「おぉっと」
咄嗟にシロXRの顎と肩口に手を当てて無理やり押し退ける。特に驚く素振りも見せず、シロXRは押し込まれる主の腕力に従って両手から力を抜いてほどけるように離れる。
「あは、流石に早すぎたかな?」
「あったり前だよ……!」
口元に手をおき目を細めてクスクスと笑うキリン少女。余裕たっぷりな態度は何一つ崩れない。
「力付くでもやれるけど、それは好みじゃないしなぁ」
「な、なにを」
「マスター君が決心してくれるまで待ってるよ」
そう言ってシロXRは立ち上がって出入り口の前に立つ。
「何処に」
「一人ずつの対面も終わった。みんなを呼んでくるよ」
「お、おぉ」
じゃあね、と廊下に消えたシロXRを無言で見送る。
一人部屋に残された透はソファーの背もたれに深くもたれ掛かり、手を額に当てて大きく息を吐く。
「はぁ……」
やっと終わった。
皆個性的だった。目新しくもあって、けれども知っているようでもあり、不思議な気分で胸が満ちていた。
「みんなシロ、か」
魅力的だった彼女たちの姿が脳裏に蘇る。
明るかったり、臆病だったり、優しかったり、格好よかったり。
だが何か違う。
こうじゃない、気がする。
そんな違和感が落ち葉のように募っていた。
一人物思いに耽っていると、外から爆発にも似た物音が家に響いた。
「ッ!?」
思わず飛び起きて部屋を出る。
一体何が起きたと言うのか。シロに何かあったか、もし大事になっては大変だ。不安や心配が頭を巡り体を突き動かす。
部屋の一室、シロの部屋になっているところこら煙が上がっている。
本当にシロに何かあったか!?
吹き飛ばす勢いで扉を開き、中に入る。
「シロっ!!」
煙幕で視界が塞がってしまいよく見えない。
害は無さそうだが煙たいのはあまりよろしくない。立ち込める白煙を手で扇ぎながら中に入ると咳をしている一人の声がした。
「シロ!」
「けほっ、えほっ……。あれ、マスター?」
そこには涙目で座り込み、両手で口を押さえ咳をする白い少女がいた。
いつもの、見慣れたシロだ。
「うぅ、頭が痛い……」
記憶が混乱しているのか頭を抱えてぐわんぐわん揺れる少女に駆け寄り肩を押さえて倒れないように支えてやる。
「シロ、大丈夫?」
「ちょっと、記憶があやふやで……」
あうー、と、唸るシロの頭を擦りながら肩を貸してやり、やや俯き気味にして楽な体勢にさせる。
やがて落ち着いたのか苦しそうだった呼吸が整いだして正常な呼吸になる。
「ふぅ、治まりました……」
「もう苦しくない?」
「はいっ」
えへ、と笑う少女。
それを見て、先ほど感じていた違和感がするりと抜け落ちた。
答えを見つけたかその寸前か、透は思わずシロを手繰り寄せ抱き締める。
「ひゃあ!? ま、まま、ますたぁ?」
「あぁ、シロだ……」
安堵で体から力が抜ける。
お互いに体を支えるような体勢になり、持ち上げていた腰がすとんと床に落ちる。
暫くそのまま動かず、誰にも、何にも変えられないと感じた少女の熱に触れていた。
シロも抱き締めてくる主に困惑したが、それでもなんだか嬉しくなっていたのだった。
「シロ……」
「はい、マスター。私はここに居ますよ」
少女の暖かさが、随分と久しく感じた透だった。
その夜。
「今日の昼の、分裂したときのこと覚えてる?」
「思い出して、い、一応、覚えてます……」
羞恥心でお湯が沸けそうなほど真っ赤になったシロがいたとか。
どっかのイタリアマフィアの人がキレそう。
どうでしたでしょうか四人のキリンちゃん。
本当はご飯にとかお風呂とか就寝とか書きたかったのですが、何分量が多くなったのでここいらで纏めてしまいました。長いと遅れるしね、多少はね。
個人的には満足です。
こう言うのしたかった……!
寝かしていたネタでもあったので出せて凄く嬉しいです!
それでは。