キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 ちょっと前回の続き。
 これが書きたかった。



三十三話 拗ねた少女は気難しい

 シロのご機嫌があまりよろしくない。

 ご飯や朝、顔を合わせるときの一瞬は笑っているが、その度「しまった」というように言葉を詰まらせてツンとそっぽを向いて「なんでもありませんっ」と元に戻る。

 別にそれで死にそうなほど悲観にくれるわけではないけども、あまり話をしない人間からすればちょっと寂しく感じてしまう。

 

「・・・・・・はぁ」

 

 ため息が漏れる。

 

「どうした辛気臭い顔して」

「あぁ加藤」

 

 紙パックのイチゴオレを吸いながら加藤が声を掛けてきた。

 現在は学校の休み時間。

 授業も意識半分でいつの間にか終わってしまい、気が付けば板書を映したノートが出来上がっていたのを見て自分でもちょっと重症じゃないかと思った。

 

「実は、シロの事で悩みがあって」

「なんだ、惚気か?」

「いや違う」

 

 なんで即行で惚気話だと思うのか、実に不服である。

 そんなに話してる覚えはないが、そうなのだろうか。控えねば。

 

「実はさ、最近シロがあまり話してくれなくて」

「何故に」

「あんまり分からない」

「俺も状況が掴めん」

 

 加藤は俺の前の席に座って腕を組んで考えている。

 もっと情報くれというので大まかな日付と出来事を話した。

 

「クラスで大人しい島田さんを家に招いた、と」

「うん」

「はぁ・・・・・・」

「どうした」

 

 加藤がやはり、みたいな顔をして頭を抱えた。

 なんかダメな事でもしてしまったのだろうか。

 こう、女性にとって触れてはいけないこととか。

 

「やっぱり惚気じゃねぇか」

「どこが」

「全部」

「なんだと」

 

 ほれ、と加戸が周りを示すと周囲で盗み聞きなりして俺たちの会話を耳にした生徒の大半が口元を抑えて軽く悶絶していた。

 

「あれはどうしたんだ?」

「大体お前のせいだ」

「俺の?」

「あぁ」

 

 コーヒー買っとけばよかった、と加藤が愚痴がっていると授業開始のチャイムが鳴り、生徒の大半が悶々とした教室の風景に授業に来た先生がぎょっとしていて、よく分からずとも申し訳ない気持ちになりながら授業が終わった。

 

 

 結局なんの相談も出来ず、重たい足取りで家に帰る。

 

「ただいま・・・・・・」

 

 出迎えは無い。

 最近まで毎日のように帰ってくればシロが飛び込んできたので、急にいつもの(ハグ)がなくなると胸回りが寒く感じる。

 リビングに入るとぽつんとソファーに座ったシロが何も言わずテレビを見ていた。

 

「・・・・・・」

「シロ、ただいま」

「・・・・・・おかえりなさい」

 

 一度此方を見た後しかめっ面をしてまた画面に目を向ける。

 全く興味を示されないというのはこんなにも心にくるものなのか。

 いつもあでも引きずるわけにはいかない。

 けれど何かアクションを起こすほどの考えが自分にあるかと聞かれたら言葉に迷ってしまう。

 とりあえず、とシロの隣に腰かけてテレビを見る。

 

「ねぇ、シロ」

「・・・・・・」

「なんでそんなに怒ってるんだよ」

「別に怒ってません」

 

 むすっとした表情のままこっちを見ようともしないシロに、俺はちょっと目頭が熱くなるのを感じながら彼女の肩に頭を乗せた。

 

「なっ、ちょ、マスター!?」

「ねぇシロ」

「な、なんでしょう」

 

 気が滅入っている自分とはまったく反対にシロは焦ってしどろもどろになっている。

 そんな彼女の様子など気に止めれるわけもなく、シロの手をするりととってゆっくり握る。

 

「シロ、俺が何か君の感に触ることをしたなら謝る」

「・・・・・・」

「全部変えるって言うわけじゃないけど、出来るだけ直す、うん」

「そんな、マスターは悪くないですっ!」

「うぉあ」

 

 自分の声が後半湿ってきたぐらいでシロが俺の頭を抱き寄せて、頭をぎゅうと抱き締めてきた。

 陰る視界が急に柔らかいモノが押し当てられることによってさっきまでの暗い気持ちが吹き飛んだ。

 柔らかい。いや待てそんなことを言っていい空気じゃないのは考えなくても分かるだろう。

 あまりに急なことで感情の整理が追い付かない。

 

「先日クラスメイトの島田さんが来ましたよね」

「うん」

 

 俺を胸に抱いたままシロが話し始めた。

 え、マジで?

 このまま?

 

「島田さんとマスターが話しているのを見ていて、少し嫌な気持ちがあったんです」

「そっか・・・・・・」

 

 しかと抱き締めたまま話されることは明るい話ではなかった。

 

「島田さんと対面してからずっと胸の内がモヤモヤとしていて、息苦しかったです」

 

 そういや島田さんが家に来たときシロは殆ど俺たちの会話に入ってこず、ずっと別室にいた。

 

「マスターが島田さんと楽しそうに話している姿を見て、モヤモヤが膨らんで・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 話がそこで止まった。

 抱き締める腕に力が入ってより深く頭が沈む。

 このままでは話半分でまともに理解出来そうにないのでシロの腰を掴んでちょっと離してくれるように促す。

 

「シロ、とりあえず離して」

「あ、はい・・・・・・」

 

 夢見心地、いやそうじゃない。

 さっさと本題に入らないと脳内の本題が脱線してしまいそうになる。

 

「ねぇシロ。島田さんのことは嫌い?」

「いえ、全く」

 

 シロはすぐさま頭を振って俺の質問を否定する。

 

「じゃあ苦手?」

「はい・・・・・・」

 

 今度は俯いて躊躇いがちに肯定した。

 まぁそうだよね。

 嫌いじゃないけど好きになれないってよくあることだよ。

 

「苦手ならそれでいいと思うよ」

「そうでしょうか・・・・・・」

「無理に接する必要なんてないし、ずっと気を使ってたら相手も疲れるし自分もしんどいからね」

「・・・・・・はい」

 

 無理に友好関係を築こうとしても負担が大きいとどこかで綻びが出来てしまう。

 その結果お互い気まずくなって疎遠になったりしてしまうことも少なくない。

 

「人それぞれ距離感を持つのも大事だよ」

「・・・・・・分かりました」

「うん」

 

 しゅんと縮まった彼女の頭を軽く撫でてやると上向き気味にこちらを覗き、えへ、と笑顔が戻ってきた。

 なんとか不機嫌が収まって何よりである。

 

「じゃあここ最近あまり構ってもらえなかったから今日はじっくりと浸らせてもらうね」

「えっ」

 

 おかげでこっちも本調子じゃなかったんだ。

 いつもはシロがくっついて離れない、という構図が主だったために最近接触がなくて腕回りとかうすら寒い。

 

 

 いつもと攻勢が逆転して終始俺がシロにくっつき、シロが赤面して動かなくなると言うことになっていた。

 

「あの、マスター、今日は別々で寝ませんか・・・・・・?」

「だーめ」

「あうう・・・・・・」

 

 シロを抱き締めてベッドに潜る。

 頭一つ下がってシロが俺の腕辺りまで下にずれているので、シロの頭を抱える形になっている。

 あぁ、この暖かさ。落ち着く。

 じっくりとシロを愛でて撫でてと堪能し、その日は熟睡だった。

 

 

 翌日加藤になんとかなったと事の顛末を話したところ「殺す気か」とコーヒーを啜りながら怒られた。

 

 

 




 形勢逆転。
 シロちゃんピンチ。
 それもしたかったというだけ。
 今回は最近に比べると短いですがまぁ元はこのぐらいだったと言うことで。
 
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 では。

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