「ねぇ白いの。私と、勝負しない?」
不敵な笑みを浮かべてあからさまな挑発を吹っ掛ける褐色のくの一娘ことクロ。
「いいですよ、やってやります」
睨むほどの眼差しでクロを見やるシロ。
冷ややかな視線の中に熱いものが見えるようだった。
『さぁやってまいりました! 正妻戦争体育編! 熱き魂を燃やし、己の意中の人を手にするためにその肉体を賭して戦い抜きます!!』
「何やってんだ内藤のやつ」
内藤がマイクを握っていつのまにか用意されている司会席に座っていた。本当に何してんの。
「実況は私内藤、解説には今回の優勝者に贈呈される女たらしこと村崎の友人、加藤さんに来てもらっています。加藤さん、よろしくお願いします」
「解説の加藤です。よろしくお願いします」
「あいつも何してんの」
サングラスに無精髭と白い手袋が似合いそうなどこかの司令官のポーズで座る加藤。
あいつも何してんの。それと正妻戦争て何。
何処かの街で七人ほどが戦いそう。
そんな話など他所にそれぞれ準備体操などして身体を解すシロとクロ。
公平さを出すためか好きで着ているのか、はたまたシロに便乗してかは知らないがクロも体操着を着用してきた。赤のブルマだ。
はて、ブルマ、ザザミか……?
「えー、じゃあ体力テスト再開していいか?」
現状の変な空気に若干困惑する飯田先生が内藤と加藤に素朴な疑問を持ちかける。それに二人は「あ、どうぞ」とさっきまでの熱気はどこへやら、素の対応で返していた。
「それでは次の項目にいくぞー」
「「「はーい」」」
気を取り直して体力テスト。
次の項目はボール投げだ。
グラウンドの隅に掛かれたサークルから扇形に伸びる線。サークルの中からボールを投げて何処まで飛ぶかを測る。
一人二回までの計測で順にハンドボールを投げていく。
「つ、次、投げます・・・・・・!」
女子にしては大きい体躯を丸めながら一人の女子生徒、島田さんが円の中に入る。呼吸を整えて全体の半分ほどを片手で掴めるほどの大きさのボールを、なけなしの助走をつけてえいやと投げる。
「え、えいっ」
ボールはへろへろと小さな弧を描いてすぐに地面に落ちてしまった。
記録係が測りに行って直ぐ様その記録が言い渡される。
「9m!」
「と、飛ばない・・・・・・」
落胆し、眼鏡の奥に涙を溜めて戻る島田さんを数人の男子が無言で見つめていた。
「あざとい」
「だがそこがいい」
「そして大きい」
「何がとは言わんが」
真剣な眼差しで島田さんの投球を見ていた男子がそれぞれひた隠しにもしない感想を述べる。
記録こそ著しくなかったものの、その大きな房は男心を擽られるものらしく、女子に軽蔑の眼差しを向けられてもものともしない奴らに感服する。
「何してんだか」
「次、行くよ」
褐色肌を網の目鎧で申し訳程度に隠すクロが躍り出る。さも自信ありげにボールを手で弄りながらサークルの中に入る。
上体を捻り、投げるために肩を大きく回して解し、一度ギリ、と力を込め再度脱力し、大股を開いてボールを持った腕を後方に引っ張る。
そした撓らして縛った棒の紐を切ったような瞬発力で腕を振るい、見事なフォームでハンドボールを飛ばす。
「フゥーッ・・・・・・」
溜め込んでいた息を吐きだして張っていた肩の力を抜く。
大きく飛び上がったボールは一瞬で小さくなり計測係が慌てて追いかける。遠くからポーン、とボールの跳ねる音が小さく響く。着地点に計測係が立ち、メジャーでその長さを発する。
「よ、43m!」
その記録を聞いた途端に勝ち誇った顔をして振り返り、シロを見据えるクロだった。
だがシロの表情は変わらない。
「そんな記録、私が追い越してあげます」
「・・・・・・何?」
訝しげに顔を顰めるクロ。
そんなクロを横目にシロはボールを掴みサークルの中に入る。
クロと同様、脚を開いて屈め、地面を踏ん張る。腰、胸、肩、を捻り腕を曲げて握ったボールを後方に運び、前に出した方の爪先をジャリッ! と音を立てて内に向けて一斉に捻っていた向きを反転させて初速からオーバー気味に勢いの付いた球体を腕が前方に出た時に指先を伸ばしながら手放す。
シロの投げたハンドボールの速度はクロの投球よりも速く、そして高い。胡麻粒ほどのサイズまで落ちた球体がより遠い位置に向かって落下する。それを追う計測係。若干不憫さが醸し出されている。
「ご、57m!」
腕を回しながらボールが落下するまでを見つめていたシロがクロに向き直り、キリリと睨む。
「そう簡単に負けませんよ!」
「フン、上等。いやそれ以上」
挑発とも取れる台詞を吐いて舌なめずりをする褐色の忍。
剣呑な空気が二人の間に漂う。
順々に全員がボール投げを終わらして記録を書き込む。
ちなみに自分は16mでした。
全体が測り終えたところで先生が記入された容姿を抱えて連絡事項を言いに来た。
「次は体育館に入って種目やるから、少し休んで移動な」
「「「はーい」」」
尚も互いに歪み合う二人を連れて体育館へと向かう。館内での種目にはシューズが要るが、二人は持っていないので必要時に他の生徒から借りることになった。
「じゃあ場所移って一発目の競技はー・・・」
遂に競技って言っちゃってるよ。
ただの体力テストから飛躍し過ぎじゃないのか。
なんで楽しそうにしてるんだ教師。止める側じゃないのか教師。おいコラ。
「そうだな、反復横跳びからいくか」
そう言いながら飯田先生は倉庫からタイマーを引っ張り出してきた。集積番号順で三本の線の上に一定の間隔を開け、並んで立つ。
規定時間内にどれだけステップで三本線を踏めるかと言う、瞬発力が試されるもの。
体育系の部活に力を入れている学校なら平均以上の結果が出るだろうが、この学校は一応進学校なので平均が出せればおの字だろう。そしてあの二人は果たしてどれほどのものだろうか。恐ろしい。
「いくぜいくぜいくぜ!!」
「おー、張り切ってんなー伊藤」
我がクラスの運動部代表こと伊藤が張り切っている。
「俺は最初からクライマックスだぜ!」
「それ授業開始に言えよ」
何故今になって言ったのか実に不可解だ。
そして一組目が並び終わったところで先生が確認を取り、ブザーの合図とともにタイマーが稼働する。
床を跳ねる音とシューズゴム底の切れるような音が小刻みに体育館内に響き渡る。
「まぁ速いよな」
「おぉ」
「なるほど」
感想はそれぞれに。今やっている組は運動部が多いほうなので流石と言うか、それだけ鍛えているので当然速い。
狩人二人はこんなのは初めて見る光景なのか、まじまじと見つめている。
「うん、大体分かった」
「何回線を踏めばいいか、ですね」
「そうそう。そんな感じ」
習うより慣れろ。と言う事で二人の番が回ってきた。
途中オレもやったが結果は著しく悪い。当たり前だけど。インドア派に運動神経を求める方がおかしいんだ。
「いくぞー」
先生の用意の声に、二人は脚を屈めて低く構える。
ブザーの音が響く。それと同時にまたももの凄い速さで二人は反復運動を始めた。
「「!!」」
これまで断続的に途切れていた踏み込みの音が、二人の場合は殆ど間隔が空くことなく、継続して音が鳴る。
二人の足が霞んで見えてきだした。疲労かな。
「あと二十秒!」
「まだまだ!」
「負けません!」
ここまで殆ど二人の記録に誤差は無く、横並びの数字になっていた。後半になって前半優勢だったシロがばててクロがシロの記録に追いついてきたようだ。
「残り十秒!」
「うぅ・・・・・・!」
「くぅぅ・・・・・・」
秒単位の経過時間が長く感じられる。それほどまでに緊迫した状況下にいる二人の表情は苦しそうだった。しかし負けられない。その一心で跳ねる。跳ねる。跳ねる!
「終了!」
「はぁっ・・・・・・!」
「うぁっ・・・・・・」
ブザーが鳴り、二人の足が止まる。
限界まで粘ったのか二人とも腰から下の力が抜け落ちてかくんとヘタリこんだ。
「はっ……はっ……」
「ふっ……おぉ……」
肩で荒く息をする、倒れそうな体を 両手で支える二人。整った顔の顎に伝う汗がより生々しい。
「おぉ……」
「すげぇ」
「なんかエ」
「それ以上いけない」
「ゴホォッ」
何かを言いかけた生徒が隣にいた友人らしき人物に腹パンされてガクッ、と倒れる。えぇ……。
「き、記録は……」
「あぁ、二人とも83回だ」
「そんな……」
「勝ち越しなんて、させない……」
勝てず肩を落とすシロと濡れた前髪からシロをしたり顔で見やるクロ。今のところはお互い一勝一敗一引分けで同点。果たしてここからどうなるのやら。
「まだ、これから、です……!」
「そんなの、当たり前……!」
「ちょっと休めお前ら」
書けた……。
Q.何で時間あるのに書かないの?
A.なんか何も浮かばなくて。あとツイッター楽しくて。
ギルティ。
チョマ アッ。
はい、投稿遅れてすみませんでした。
体力テストの記録やら平均やらを覗きながら書いていたらいつの間にかこれだけ日が空いている……。
遊ぶのも程々にしなきゃ。
体育編は次回で終わりそうです。
なんとかして書きます。
遅蒔きながら、この小説が日刊ランキングに掲載されまして、なんと四位まで昇りました。
これまで読んでくださった人。新しくお目に触れていただいた人。すべての人に感謝します。
感想、評価お待ちしております。
誤字脱字等ありましたらご報告ください。
では。