キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 よし書けた!
 ちまちま書いてなんとかいった!
 ではどうぞ!


三十九話 正妻戦争 その3

 次は長座体前屈。

 

 足を伸ばし、上半身が地面から垂直になるように座り、計測台を肘を伸ばして持ち、出来る限り前に押すもの。

 ある意味中休みのようなもの。

 最後に残された種目のための。

 

「セイッ」

「ソォイッ」

「ロッショイッ」

 

 謎の掛け声で計測台を押す男子連中。

 なんの掛け声だそれ。

 

 男子平均はおおよそ43cmといったところか。

 全国平均から見ても大した差はなく、まずまずというところ。筋肉質な体型の人間が多いのでそこまで伸びないかもと思ったが、案外いけるようだ。

 なら自分ももしかしたら結構良い数字が出るのではないだろうか。

 

「おりゃ」

「20cm」

 

 伸びない。

 嘘だろ、流石に硬すぎやしないか?

 

「ご主人、ん、硬い・・・・・・」

「言い方」

「マスター! その、今度私が、お身体ほぐしましょうか?」

「だから言い方」

 

 妙な言い回しをしてくる二人を宥めて自分のお粗末な記録を用紙に記入する透。

 複雑な視線を向けるクラスメイト(男子)達が一連の流れを見て何かを閃いた。

 

「アアー、カラダがカタくてノビナイー」

「アー、オレモー」

「アー」

 

 女子からは軽蔑の眼差し。教師は呆れた様子で首を振り、シロは何事だろうと慌てている。クロはあまり気に留めていなかった。

 

「お前ら、ちゃんとしなかったら最低評価にするぞ」

「なーんてめっちゃ体柔らかいんだーオレー」

「みてみてこんなに倒れるー」

「腰がかるーい」

 

 おふざけも大概にしなければいけない。

 

 そうしてシロとクロの番。

 クロは十分なほどの柔軟で体を解している。

 アキレス腱を伸ばしたり手首を伸ばしたり、上体を前後に倒したりしている。

 直立で上体を前に倒し、何ともないような顔で両掌を付け根まで地面にぺたんとくっつける。

 

「ん、んー・・・・・・。ふぅ、よし」

 

 見せつけるように柔軟をして、クロは計測台の前に座る。

 

「この勝負、貰った」

 

 猫のように、液体のような滑らかさで台を一息に押す。

 顔が腿にぴと、と付き、手足は折ることなく一直線に伸びている。

 

「っ、ふー・・・・・・」

 

 一仕事終えた後のように上体を起こして台から立ちあがり、吐いていた空気を吸い込み、また吐き出す。腰に手を当て上体を反らしたり横に傾けたりとぐにぐに動かしストレッチをしている。

 そして振り向き、真顔からむふー、と鼻から空気を抜いて若干口角を上げたドヤ顔をキメてきた。

 

「63.5cm!」

 

 記録係が計測台からその記録を言う。

 怖ろしいほどに柔らかい。

 並みの体操選手やバレエの選手よりもしなやかなのではないだろうか。

 

 続いてシロの番。

 なのだが。

 

「う、うぅ・・・・・・」

 

 なんだか落ち着かない様子。

 退けた腰に八の字に垂れた眉で困り顔を引っ提げた彼女が計測台の前でたじろいでいる。

 

「シロさん、どうしたの?」

「な、なんでもありません! なんでも・・・・・・」

 

 煮え切らない感じでこっちを見たりあっちを見たり、計測台をふと見てはすぐに目を反らしたり閉じたりとしていて一向に測ろうとしない。

 

「何、してるの? 早くしなよ」

「わ、わかってます! こ、こんなの、すぐに、終わらせます・・・・・・!」

 

 遂に決心したシロが計測台の前に、実に綺麗な姿勢で背筋と腕を伸ばしてすとんと座る。

 表情は険しく脂汗が一筋、頬を伝う。

 

「シロさんのタイミングでぐーんと押してねー」

「は、はい」

 

 目を閉じ、呼吸を整えて、やっと台を握る。

 そしてシロが台を押した。

 

「むっ!」

 

 可愛らしい掛声で台が押された。

 

 押された?

 

 

 あまり動いてない。

 いや動いてはいるが、先ほどのクロのように驚くほど進んだりしていない。

 一般的、いや平均に達さないほどか。

 

「んん~!」

 

 目をぎゅっと閉じて頬を膨らまし、出来る限り台を押そうと必死に体を曲げ、腕を伸ばすシロ。しかし悲しいかな。計測台はピクリとも進まず依然として前進しなかった。

 

「可愛い・・・・・・」

 

 そんな言葉を誰が発したか、みんな微笑ましくシロを見守っていた。

 透はどうフォローしようかと悩む。

 クロはその手があったか、という下心といや勝たねば、という乙女心(狩人)が無表情の下で葛藤していた。

 

「シロさん23.7sm。うん、その、可愛かっt・・・・・・んん! どんまい!」

「うう~・・・・・・」

 

 一瞬本音が漏れかけた女子生徒。

 シロは女子生徒らに慰められながら記録を書きにいった。

 

 

 

 いよいよもって最後の項目。

 20mシャトルラン。

 徐々に加速するテンポの内に20mの距離を往復していく内容。最初こそ優しい速さだが三桁を越えると難易度も高い。

 

 並みの人間なら百と余十ぐらいか。日頃鍛えている者なら百五十を悠に越えて八十に達するほど。

 

 ではあの二人は何処まで往けるのか。

 

 一先ずは男子から計測。

 体育館を目一杯使い全員が一列に並び立つ。

 飯田先生が音響の準備をしている間、運動部員等は足腰のストレッチをしている。

 

「おーし、始めるぞー」

「「「よっしゃァ!!」」」

 

 気合い十分という具合で全員がラインに爪先をつける。

 教師が音響のスイッチを入れると無機的な説明が流れ、ようやく始まった。

 ピアノの音階がドから始まり、ゆっくり上に上がっていく。

 みんな競歩か軽いランニング程度の速度で走りだし、余裕をもってラインを超えた。

 

 そしてゆっくり、ゆっくりとテンポが速まって往く。

 

 五十を越えたころ、おおよその男子はまだ余裕たっぷりだ。透は若干息が切れている。

 

「トオルくーん! 頑張ってくださーい!」

「がーんばれ、がーんばれ」

 

 約二名の熱い声援を受けて、運動とは別の理由で赤くなる顔を振り冷ましてシャトルランに集中する透。

 その様子を端から見て羨ましいとも妬ましいとも思う男子諸君はその邪な熱意をおのれの足に宿し、少しでも自己ベストを越してやろうと闘志を燃やしていた。

 

 

 人によっては疲労が見えてきだした五十台。

 文化系は数名余裕もなくなってギリギリラインを越えられるぐらいまで体力が落ちてきた。透もこの内に入り、一回目のライン未到達を出してしまい、もう後がない。

 運動部はまだまだ余裕があるようで、平然としている。

 

「もう、無理・・・・・・」

 

 透がダウン。

 記録は54回。

 萎んだ風船のようにふらりと床に腰をおいて荒く呼吸を繰り返している。

 そこへシロとクロが水筒やらタオルやらを運んできて透に手渡していた。

 ここでまだ計測中の男子達の額に青筋が走る。

 

「どうぞトオル君」

「あー・・・・・・ありがと・・・・・・」

 

 村崎 透(妬み相手)が倒れた!

 一転して今度は閃光が脳裏を透過する。

 好機、ここでカッコいいとこを魅せて自分達だって案外イケるんだ、なんてことを考える男子連中。

 

「「「ウォオオオオオオ!!!」」」

 

 抜くか抜かれるか。

 一番の問題がリタイアした今こそ、追い上げ時だ!

 そう確信、いや誤信した憐れ者が続々と己のペースを上げていった。

 

 そして100回に到達するかしないかで次々と再起不能へと誘われた。

 

「馬鹿な・・・・・・」

「この、俺が・・・・・・」

「無念・・・・・・!」

 

「バカだ」

「アホだ」

「手遅れだ」

 

 全方向、いまだ倒れていない男子と様子を見ていた女子団体から非難の視線が降り注ぐ。

 そんなこともありつつ男子の計測が終る。

 

 順番は変わって女子の番。

 クロとシロが混じることによって華が増える、いや平均の底上げが行われるのではないだろうか。

 妙な期待が女子から積もりつつあることを知らない二人に視線が集まる。

 

 さっきと変わらない無機的な説明が入り、ブザーと共に計測開始。

 

 開始直後は流石に男子の時と変わらない。

 だが二桁に入ったところで数人が追い付けなくなってきていた。中には十台で終了する人もいた。そのほとんどが文化部の人だったので仕方ないと思う。

 

「いけー女子ー」

「走れー」

 

 なんとも気の抜けた応援である。

 さっきまで走っていたのだから仕方ないと言えばそうなる。

 

 二十台、点々と脱落者が出つつ、女子の計測が続く。

 文化部はほとんどが居なくなり、残っているのは運動部と一部の帰宅部員。そして例の二人。

 

 三十台、上がっていくテンポに合わせて歩調も強まり、ランニングも速くなっていく。

 残っている者は大半は軽やかに走り、喰らい付いている者はなんとか残っているという印象も持たせる。

 

 四十台、ここで一定の人数が絞られ、常日頃運動なりなんなりしている者が残った。

 

「おー、減った減った」

「こっからが本番だな」

 

 ここまで来たらあとは中々減らない。

 五十を越えてからは黙々と走るだけの作業感溢れる光景。

 男子は疲労で動けず、皆々汗を拭い水分補給をしながら、黙りこけて女子の計測を眺めている。

 

 ただ呆然と眺めているだけ。かと思いきや、内藤が距離を詰めて耳打ちをするように細い声で話してきた。

 

「良いよな」

「何が?」

「女子の計測」

「何処が?」

 

 何を言っているんだコイツは。透は思ったが「あれを見てみろ」とさされた先を見る。

 そこには走る女子がいるだけだったが、それに首を傾げた透に内藤は重点的にポイントを絞らせ、顔を指差し、ゆっくりと、下に差した指を落として揺れる巨峰を差す。

 

「何処を見てんだ・・・・・・」

「良いよな」

「やかましい!」

 

 コイツの煩悩はいつになったら消えるのか。そもそも消えることはあるのか心配になってきた。

 

 ゆっくりと回数も進んでいき、今は六十台。

 そろそろ残っていた帰宅部員がしんどそうな顔をしだして四、五人ほど脱落していった。

 

「ぜんぜんよゆー」

「こちらもまだまだ!」

 

 むん、と可愛らしくも険しい顔で走るシロとその隣で口笛でも吹きそうなほど軽い様子を見せるクロ。それを

見ていた紳士淑女は疲れも癒され、計測中の淑女はペースアップをしだした。してしまった。

 

「私はまだ走れる! 走れるんだぁぁああ!!!」

「山田さん!?」

「バカ! 今とばしたら後がもたないぞ!」

 

 山田さんを筆頭に数名の女子がペースを上げてしまい、七十台に到達して数回往復したぐらいで暴走してしまった人たちは軒並みダウンしてしまった。

 

「無茶しやがって・・・・・・」

「良いヤツだったよ・・・・・・」

 

 苦い涙を流して倒れていった者たちを置いて走り出す女子。

 それに困惑しながらも付いて行くシロとクロ。

 

「えっ、えぇ?」

「気にしたら、負け」

 

 けして振り向くことなく、尊い犠牲(山田さん)になった彼女に続かないよう暴走しないことを肝に命じて走り出した女子一同。

 山田さんは先に抜けた女子たちに介抱されていた。

 

 ようやくやってきた八十代。

 

 よく見れば女子達の大半が息切れを起こしていた。

 流石にもう体力的にも厳しいのかみな余裕がなくなり滝のような汗を流して走っていた。中には既にライン到達がギリギリになっている人もちらほら。

 

 運動部のはもう少し行けるようだが、それでも後も残り少ないだろう。

 しかし健気に食いついていたのも僅かな間だけ。大半がここで脱落してしまった。

 

「流石に、疲れてきたんじゃ、ないかな」

「まだまだ、いけます!」

 

 あの二人は本当にタフネスだ。

 ペースもさることながら未だに疲れが顔に出ていない。他の女子生徒はもう虫の息だ。残っている女子生徒は数人で、それらも明らかに足取りが重そうだった。

 

『九十』

 

 無機質な声が回数を示す。

 加速する音階と反比例してラインまでの距離が遠く感じて余計に足に力が入り、更に疲労が溜まっていく。

 ここまで来ると明確に人数が減り出してもう片手で数えられる程しか残っていない。

 

 その女子生徒たちもラインまで届かなくなってしまい、学生組は誰もいなくなってしまった。

 

 そして遂に本当の戦い、狩人二人の競り合いが始まる。

 後に引けない二人。

 

「絶対、 負けない・・・・・・!」

 

 思っただけか、それとも声に出たか。そんなことも分からない程に気を張った身体が昂る。

 焦燥感で重く感じていた体がよく動く。足取りも軽く踏み込みも強まって保たれる。

 

『百』 

 

 到達回数が二桁から三桁に切り替わり、いよいよ終わりも見えてきたのではと誰もが思い始めた。

 しかし二人はバテる様子もなく、それどころかまだ俄然走れるぐらいだった。

 

「続くなー」

「長いなー」

 

 声援が止み静かな空気の中、床を蹴るシューズの音が木霊する。

 

 三桁も百から進んで百十、二十と進み、百五十までこのまま変わらずに進んでいたが、ここで変化が現れた。

 

「ッ!? おい、あれを見ろ!」

「なんだよ・・・・・・ッ!!」

「あれはッ!?」

 

 なんだよその物々しい言い方は。

 大々的な表現で計測中の二人を差す集団に釣られてシロたちを見る。

 

「しゅーっ・・・・・・ふーっ・・・・・・」

 

 見ると、クロの方が疲れてきだしていた。

 

「この勝負、見えて来たんじゃないか!?」

「これはシロさんが勝つかもしれない!」

「いや、良く見ろ!」

 

 またも往復する二人を見やる。

 なんとシロのほうもバテてきだしているではないか。このままシロの独壇場かと思っていたが、こうなると勝敗がどっちに傾くのか分からない。

 

「限界、の、ようで・・・・・・!」

「どの口が、言ってますか・・・・・・!」

 

 横目で互いを睨み、荒い呼吸の合間で挑発をするクロとそれを受けるシロ。

 

 二人とももうフラフラなのに速度は変わらないし時間制限にも追い付けている。けれど今の時点でギリギリだから、恐らく後も残り少ない。

 

 無慈悲に響く音階。

 百八十の台に入って後どれだけ続くのか。そんな気持ちで二人を見守る。

 

 そして遂に、二人の勝敗が決した。

 

「も・・・・・・無理・・・・・・」

 

 ラインに到達出来なかったのは、クロだった。

 体力が切れたのか終わったと悟ったクロはびたんと床に倒れてだくだくと汗を流している。

 

 倒れたクロに意識を向けて一瞬でも立ち止まったシロに、まだ計測中と言うのもあって一人の女子生徒が走るように促してシロはまだ走る。

 

 重しが取れたのもあってか、シロの足取りは軽くなる。

 しかしその軽快な足取りも長くは続かずすぐに元の鈍重さに変わり、結局百を通りすぎて二百まで進み、最終的に二百六までいってついに終わった。

 

「ふひゅ・・・・・・。もう、走れま、せん・・・・・・」

 

 体力の限界を迎えたシロがふらりと床に倒れる。

 駆け寄った女子たちが称賛の声をあげながら寝そべって動けない二人を介抱する。

 

「シロさんお疲れ様~!」

「水分補給しなー!」

「クロさんもお疲れさーん」

「汗拭いたげるよー」

「そ、んな、自分で、やれまひゅから・・・・・・」

「うご、ける・・・・・・か、ら」

 

 断ってしまおうにもその体力すら切れてしまった二人はされるがままになっていた。

 

「シロさんが勝ったってことは」

「勝敗はどうなった?」

「六戦二勝二敗二引き分け。決着着かずか」

 

 最初クロが提示した勝負は、きれいにあいこで終わったようだった。

 

「おーう終わったかー」

「今終わりましたせんせー」

 

 音響機材の操作をしていた飯田先生が出てきて生徒に片付けや整列の指示を出す。

 

「やー、興味本位でシロさんを呼んだが、まさかこんなになるとはなぁ。けどまぁ面白かったし、良いか! そんじゃ記録書いて終わり! 解散! お疲れさん!」

「「「ありがとうございましたー!」」」

 

 教師の号令で皆々解散。

 

 競技もとい計測も無事終了し、午前の授業が終わったチャイムが鳴った。

 男女それぞれ教室と更衣室に着替えに行き、そこから弁当を取りに行ったり学食に行ったり、購買に直行するものがいたりとぶっ続けの体力テストで消費したカロリーを摂取しに行く。

 

「あー! 腹減ったー!!」

「ホントなんでこんな日程なんだよ・・・・・・」

「キツかったー!」

 

 異口同音に授業の愚痴を吐きつつ汗を吸った体操着を脱ぎ捨て、べたつく体を拭いて制服に着替える男子組。

 

「早く着替えて飯食おう飯」

「当たり前だこの野郎」

 

 皆空腹感に襲われいち早く着替えて昼食に飛び付きたいほどだった。

 

 

 更衣室。

 

 

「シロさん凄かったねー!」

「えへへ、ありがとうございますっ」

「クロちゃんカッコよかったよー」

「それほどでも、ある」

 

 更衣室では女子達が今日の主役だった二人を囲うようにきゃいきゃいと盛り上がっていた。

 シロは照れながら受け答えをして、クロは少しどや顔をしながら天狗になっていた。

 

 

 やっと教室に帰り、空になった腹を満たそうとそれぞれ持参したものや購入したものを頬張る。

 

 透も自分用とシロ用に作ってきた弁当を持って教室でシロが来るのをじっと待つ。

 

 山田さんたちに連れられてシロとクロが教室に入ってきた。

 シロ、クロは透を見つけると一目散に駆け寄っていき、空いていた席にそれぞれ座る。

 

「トオル君! ごはん食べましょう!」

「うん、こっちおいで」

「ご主人。ごはん食べよ」

「う、うん。クロはこっち」

 

 二つ分作ってきた弁当の片方をシロに渡し、そこでふと固まる。もう片方をどうしようかと悩んだ。

 何故二つあるかと言うと、今日シロが学校に来ることはもう事前に知っていたので、今朝二人分作ってきたのだ。しかしクロが出てきたのはイレギュラーすぎて用意も予想もしてなかった。

 

 ので今手元にはシロと俺の分と言うことで持ってきた弁当が二つ。

 そしてあり当てられるべき人数は三人。

 如何様にして分けるべきか。

 

「はい。クロ」

「トオル君!?」

「え・・・・・・ご主人、いいの?」

 

 透は仕方無いと小さなため息をついてクロに自分の弁当を渡す。クロは意外そうな顔をして素直に両手で受け取り、手元の平たい箱と主人の顔を交互に見る。

 

「俺はあんまり動いてないし、クロも頑張ったろ?」

「でも私、ちゃんと勝てなかった・・・・・・」

 

 勝敗の事を気にしていたのか、しゅんとなる彼女を慰めようと身を屈めて頭を撫でる。

 

「勝ったとか勝てなかったとか、俺はそんなの求めてないし、それで優劣は着けないからね。だから食べて欲しいなって」

「ご主人・・・・・・」

 

 潤んだ瞳でこちらを見つめ、湿った声で彼を呼ぶ姿にシロが嫉妬を覚える。

 

「はい! 話がついたのならご飯にしましょう! トオル君はお弁当がないなら私のお弁当の中身分けますよ!」

「し、シロ?」

「あ、白いの。抜け駆け卑怯・・・・・・。ご主人、私も分けるよ」

「く、クロも・・・・・・?」

 

 左右に座る美少女にずずいと詰め寄られて心臓を握られる感覚に陥る透。

 それを端から見ていた男子連中は血涙が出そうなほど睨み、それだけでなく女子生徒たちも面白そうにニヤニヤ眺めながら、数人はいいなーと指を咥えていた。

 

 『一難去ってまた一難』ってこう言うときに使うのかな、と思いながら、二人の手から伸びる弁当の中身を恥ずかしさと一緒に飲み込んだ。

 

 

 楽しい昼食も終わって午後の授業。

 あと二時間もすればこの空間から解放されると思ったらそれなりに粘れるが、四時間動いた後で飯を喰らい、授業を受けるとなると、並みならない眠気が体と瞼に張り付いて取れない。

 

 クラスを見回しても睡魔と交戦している者がチラホラ見受けられ、中には敗北者もいた。

 

 そこでふとシロとクロは大丈夫かな、と疑問が浮かんだ。今日一番張り切っていた二人なのでもしかしたらもうダメかもしれない。

 

 そう思って二人が並んで座っている、教室の後ろを覗いてみると。

 

「すぅ・・・・・・」

「んく・・・・・・」

 

 教室の隅で、お互いがお互いにもたれ掛かるように、二人ともぐっすりと眠っていた。

 

「おい、あれ」

「なん・・・・・・ほほう」

 

 その幼児のように純朴な寝顔に、教室にいた誰もが見居って、和んだ昼下がりだった。




 はい。正妻戦争編終わりました。
 三話に分けて書く長い内容でしたが楽しんでいただけたでしょうか。

 体力テストの項目は全部ではありませんがこんなだったなと言う記憶から出しました。

 ではでは。
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