キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 不定期更新とは言ったけどこんな乱れるもんですかね。
 夏の終わりに投下します。



四十三話 友が語る昔話

 本日は終業式。

 夏真っ盛りな朝から学校の大掃除、全校集会と暑さが尋常じゃない。

 だがそれを乗り越え、各所注意も済ませた生徒たちは各々帰宅したりもう遊びにいったりとそれぞれの放課後を過ごしていた。

 

 時刻は昼前。

 まだ昼食というには早い時間。

 

「じゃ、俺は帰る」

「待てや村崎ッ!」

「なんだ加藤」

 

 帰宅と言う名の逃走を図ろうとしたら原因に止められた。

 

「課題写させて」

「諦めも手段も全部速いわ」

 

 俺だってまだあまり手をつけていないと言うのに何故もう完成していること前提なのか。

 

「他の奴等は」

「最終日に片付けるってさ」

「あいつらもか」

 

 今から考えていたら頭が痛くなってきた。

 

「俺もまだ出来上がってないし、家でやらせてくれ」

「了解!」

 

 断ってもあとでたらたら言われるだけなのは目に見えているので、先に折れて教えるのが一番だ。

 

 図書館にでも寄りたいが、家に待たしているシロにすぐに帰ると言っているのでそうもいかない。

 

「飯はどうすんだ?」

「買っていこっかなーて」

「無いならうちで食っていけよ」

「マジで? やったぁ!」

 

 そうして加藤が家に来た。

 

 

 村崎宅。

 

「ただいま」

「お邪魔しまーす」

 

 蝉のうるさい炎天下、汗を流しながら帰宅すると、ノースリーブのシャツにホットパンツを履いてポニーテールにした涼しそうな格好のシロが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさいっ!」

 

 肌色成分が多すぎる気がするシロをみて加藤が近づいて耳打ちしてきた。

 

「羨ましいこと」

「うるせぇ」

 

 加藤を放っておいて家に上がり、シロと話す。 

「飯作った?」

「いえ、まだ作ってません」

「今日は俺が作るよ」

「ありがとうございます」

 

 この暑さだと飯も喉を通らない。

 何か適当に作るか。

 

「加藤、飯作るから部屋で課題やっとくか?」

「お前がいないと集中出来ないからだらだらしとく」

「分かった」

 

 鞄を片手に俺の部屋に入っていく加藤を見送ったあと、自分も台所に立って調理を始めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 透の部屋。

 ゲームソフトや攻略本が棚に所狭しと並ぶ様は圧巻で、好きでやっていると言うよりかはどこか鬼気迫るものがあった。

 

「昔よりかは変わったのかねぇ」

 

 感慨深そうに呟きながら、加藤は棚を眺める。そのうちの一つのソフトを手に取り、テーブルに置かれていたゲームハードに差し込んで起動させた。

 

「少し遊んでやろう」

 

 からからと笑いながらドット絵が似合うRPGゲームで遊ぶ。

 少しすると、お盆にジュースと菓子を乗せてシロが部屋に入ってきた。

 

「加藤さん、こちらま……トオル君からです」

「あぁシロさん、ありがとう」

 

 持ってきたものを置いたシロを見て、加藤はふとシロに訊ねた。

 

「なぁシロさん。村崎がこんなにゲームをやってる理由、知ってる?」

「え?」

 

 加藤は持っていたコントローラを置いてシロに向き直る。

 

「あいつさ、昔はこんな大量にゲーム買ったりとかしなかったんだよ。それこそ本棚の一段を少し埋める程度で、やり込んだりとかも知れたほど。普通と言うか、一般的と言うか」

「は、はぁ」

 

 感慨深そうに語る加藤にどう対処したらいいのか分からないシロ。

 

「いつからだったかな。村崎があのお姉さんと比べられるようになってから」

「!」

 

 姉と言うフレーズにピクリと反応するシロを一瞥した加藤は続けて話す。

 

「アイツのお姉さんって完璧なぐらい何でも出来るのは聞いたことある?」

「はい、それとなく」

「あ、あるんだ。で、そんなお姉さんと姉弟なんて言われりゃ比較されるのはよくあることで。アイツはずっと『万能なお姉さんの弟』と見られてたわけな」

「……」

 

「回りから期待されてるんだ、誰でも応えようと努力はする。けど昔のアイツは要領が悪くてね。伸び代はあったけど中々伸びなかったんだ」

「そうなんですか?」

 

 意外そうな顔をしたシロに頷いて肯定する。

 この棚一時期全部勉強本ばっかりだったんだぜ? と茶化すように言う加藤だが、少し苦しそうに見えた。

 

「一を聞いて十をこなすお姉さんと、十とは言わないけど、五を聞いて一をこなすアイツ。まぁ回りは落胆するわけだ」

「そんなの、当て付けじゃないですか」

「そうだよ」

 

 話をする加藤のの表情は楽しそうなものではなくなりだした。どちらかと言えば面白くない、少し苛立ちが見える。

 

「平凡以下だったアイツはお姉さんを目指して努力してたんだ。認めてもらおうって。けどそんなアイツをみて世間は『出来の悪い子』と言って見向きもしなかった」

「⋯⋯勝手過ぎじゃないですか」

「そう、勝手だ。けど他人なんてそんなやつらばっかりだよ」

「⋯⋯っ」

 

 聞きたくない、けれど聞かねばならないとばかりに苦虫を噛み潰したような顔をしかめるシロを見ながら続きを話そうか迷う加藤だった。

 けれど、彼女には知っていてほしいと思った。

 

「ずっと頑張ってたアイツはさ、期待されてた回りから見られないようになってからか。それまでやってた勉強やらお姉さんがやってた合気とかも全部止めて暫く塞ぎ込んでたんだよ。その時ぐらいかな、この棚一杯にあった参考書や問題集とか、全部捨ててたな」

 

 シロは何も喋らない。

 俯き勝ちに加藤の話を聞いているだけだった。

 

「あの時は悲惨だったよ。ヒステリック気味だったアイツが途端に学校来なくなって、気になって見に行ってみれば部屋は滅茶苦茶アイツはボロボロ。家の中でぶっ倒れてた村崎を介抱してたら泣き出して、大変だったよ」

「でも、今は」

「今は普通、かは分からんけど、シロさんが来てからは何となくだけど笑うようになった気がするな」

「私、ですか?」

 

 それまでの重たい雰囲気とは打って変わって、加藤は朗らかな表情を見せて優しい笑顔を浮かべた。

 シロはきょとんとした状態でフリーズしていたが、下の階から透が二人を呼ぶ声がして気を取り戻す。

 

「うし、飯出来たっぽいし行こうぜシロさん」

「え、あ、はい!」

 

 下に降りると食卓に三人分の器と大皿に盛られた真っ白な細麺が置かれ、彩りの良い薬味が添えられていた。

 

「暑いし素麺にした。はよ食え」

「おぉっ、良いねェ! いっただっきまーす!」

「⋯⋯いただきます」

 

 それぞれが席に着き、透は素知らぬ顔で薬味をツユに添え、加藤は満足げな表情で麺を啜り、シロは何処か複雑な顔をしながらもそもそと黙って食べていた。

 そんな暗いシロを横目に眺めながら、透は訝しむように咀嚼していた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 おかしい。

 加藤に飲み物を運ぶように言って、シロが部屋から帰ってからと言うもの、彼女の様子がおかしい。

 いつもは元気一杯で微笑んでいるのが常だと言うのに、今はだんまりと喋らず、黙々と素麺を啜っていた。

 

 素麺、美味しくなかったのかな。

 人によっては「蕎麦の方が越しがある!」とか「うどんの方が食べ応えがある!」とか「ま、マカロニ⋯⋯」とか色々意見があるだろうが、そこまで露骨に美味しくなさそうな顔をしてしまうだろうか。

 

「シロ、美味しくなかったか?」

「あ、え? い、いえ! 美味しい、です⋯⋯」

 

 もしかして加藤に何か言われたのか。

 人のことは言えないが明るい性格をしている反面、若干プライバシーに踏み込む節があるからな。

 それで助けられたこともあるが、憚れるものでもある。

 

「(加藤、シロに何か言ったか?)」

「(んあ? あぁ、お前の昔のこと話した)」

 

 小声で訳を聞いてみれば、個人的な過去の地雷話を話したらしい。

 

「(おま、そんなのわざわざ話さなくても)」

「(話しといた方がいいんじゃないかなぁと)」

「(⋯⋯)」

「(シロさんとよろしく出来ない理由なんじゃないのか?)」

「(それは、その⋯⋯)」

 

 黙るしかなかった。

 姉さんが一度帰ったときに何となく知られた程度で、後は一度だって昔のことをシロに話したことがなかった。

 

 カッコ悪いとかキャラじゃないとか、そんな理由で話さなかった訳じゃない。

 単に思い出すのが嫌だっただけだ。

 

「なんだ、その、悪かった」

「別にいいよ。薬味貰うぞ」

 

 加藤は何も気にしていないと言う風に素麺を啜っている。

 俺も箸の進みが遅くなった。

 

 程なくして昼飯を食べ終え、夕方まで加藤と一緒に夏休みの課題に手をつけた。

 

 

 ◇

 

 

「それじゃ、お邪魔しました~」

「おう、また来いよ」

「おーう」

 

 半ば缶詰め状態で課題を済ませた加藤はくたくたになりながらも家を出て帰っていった。

 

 家に上がると、シロが後ろめたいような、遠慮がちに袖を摘まんできた。

 

「どうかした?」

「あの、 マスター」

 

 躊躇っている。いやなんと言えばいいかと言葉を選んでいるシロは、少しの間を開けて遂に口を開いた。

 

「マスターは今の生活が、私といる時間は苦ではないですか?」

「んん?」

 

 突然の質問におどけたような態度を見せる透。

 分かってなかった訳ではないが、遠回しに言われた話の内容を理解するのに時間がかかった。

 

「嫌じゃない。寧ろシロが居てくれて凄く助かってるし、その、凄く嬉しい、よ」

 

 改めて言ってて恥ずかしくなってくる。

 

「でも、私はあまり支えになれていないです」

「なってるよ、十分」

「でも⋯⋯」

 

 尚も食い下がるシロ。

 何をしたらいいのか分からない。今まで気にしてこそいたが、事の大きさが分からず手をつけなかった話題なだけに、今更何をすればいいのかと悩んでいた。

 

 多分何かしないと気がすまないだろう。しかし吹っ切れたのも事実。今更掘り返すこともない。

 

「傍に居てくれるだけで嬉しいから、ね」

「うぅぅ~⋯⋯」

 

 煮え切らないと言った顔で見つめてくるシロを宥めて、部屋に戻る。

 

 

 

 残りの課題を済ませていると、いつの間にか夜になっていた。

 

「マスター、そろそろお夕飯ですよー」

「あ、あぁうん」

 

 部屋に入ってきたシロの方を向くと、どこか気を使っている様子だった。

 

「昼の話、まだ気にしてるの?」

「それは、当然に」

 

 座卓で課題をしていた隣に膝を着くシロ。

 向き直って何を放そうかと頭を回す。

 

「シロ、あの話は⋯⋯」

「マスター!」

 

 どうにか捻りだした言い訳を遮られ、シロがずいと詰め寄ってきた。

 上体を仰け反らせて逃げるが、横腹に腕を通されるような体勢になり、目と鼻の先で彼女の顔があることに硬直して動けない。

 

「な、なに?」

「マスター、失礼しますね」

「は」

 

 そう言うとシロは更に近づき、膝を腰にまでずらして両手を俺の頭に回し、有無を言わさず抱き締めた。

 顔に押し当てられる柔らかいそれにすら気にする暇もなく、動けないまま優しい拘束を受ける。

 

「ひろ、こえは」

「マスター、辛かったら頼ってくださいね」

「うあ?」

 

 頭を撫でられながら優しい声音で囁かれる。頭頂部に乗せられたシロの顎から声が漏れる度、成体の振動と彼女の熱が髪越しに伝わってきて、緊張も裏返りそうだった。

 

「あくまでマスターの問題です。私は極力干渉しません」

「うん」

「でも⋯⋯」

「でも?」

 

 シロは抱擁状態を解いて俺の肩に手をかけたまま、至近距離で悪戯っぽく笑みを浮かべながら見つめてくる。

 

「あまり焦らされると拗ねちゃいますよ?」

「⋯⋯用心します」

「はい♪」

 

 速まる動悸になんと言い訳をしようか。

 夏の暑さ以外で熱くなる顔でシロに顔向けするのは容易ではなかった。

 

 

 

 

 

 




 はてさて、なんでこれ書いたんだろう。
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