キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 お待たせしました。



四十七話 シロの想いは

 夏の日差しが真上から下がり始めた頃、村崎家内は見たもの全員が首をかしげる状況に陥っていた。

 

 あれから、クロの見事な手捌きによる完璧な女体の亀甲縛りでしっかり動きを封じられた透の姉こと村崎 楓は、暇潰しと興味本位で編み出した縄脱け術を駆使してクロの強固な亀甲縛りから抜け出してしまった。

 

「透くぅん!」

「うそぉ!?」

 

 世紀の大泥棒よろしく飛び上がってからの透に目掛けてダイブした。

 

「あの状態から抜けるとは、やはりただものじゃない」

「言ってる場合じゃない!」

 

 楓の手が透に触れる寸前、クロは透を無理矢理手繰り寄せて抱き締める。

 そんなことをすれば現在ナルガと白疾風の混合装備を身に纏っている彼女の大胆にも危うい面積で包まれた可愛らしい胸に否応なく顔を押し付けてしまう。

 

「ぐむ!?」

「……んっ、ご主人いらっしゃーい」

 

 クロは一瞬濡れた声を漏らしかと思えば、すぐに透を抱き締め、次いでに自分の股の隙間に透の手を添えるように入れさせる。

 

「ごめん、変なとこ触った」

「いいの。わざとだから」

「くそッ、確信犯め!」

 

 「もっと激しく……」等と楓に見せ付けるようにじゃれていれば、半ば理性を失っている楓が怒るのも当たり前だ。

 

「私の、透くん、渡してもらう……!」

「姉さん!?」

「ご主人の貞操は私がもらい受ける」

「そうじゃないだろう!?」

「ワタサナイ」

「誰か助けて!」

 

 透の悲痛な叫びが近所中に響いた。 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 うって変わってシロを含めた山グループはウィンドウショッピングとシロの着せ替え及び夏に向けての買い物を済ませ、このあとどうするかを決め悩んでいた。

 

「どうする?」

「どうしよ?」

「どこいく?」

「なにする?」

「脱ごう」

「待ってください」

 

 山中が服に手をかけたところでシロが必死に止めに掛かる。尚も無言で掴んだ布を持ち上げようとするのでシロは服が破けないギリギリの力加減を保ちつつ、脱ごうとする山中の抑止に尽力せざるを得なかった。

 

「うちらも粗方済ませたし、シロさんの夏用品も買っちゃったし、あとは脱ぐだけかな」

「山田さん?」

「暑いしね。脱ぐか」

「山本さん?」

「そだね。脱ごう」

「山口さんまで!?」

 

 シロが全員を見回してあわあわと泣き出しそうになったところで皆は吹き出し、頬を膨らまして拗ねるシロを慰める。

 

「ごめんよシロさん。あんまりに可愛くて」

「もう知りません!」

「許してクレメンス」

「ふんっ」

 

 山田がなんとなくシロの膨れる頬を潰してみるとぷひゅう、とこれまた可愛らしい音を出してシロの口から空気が漏れる。

 

「もう!」

「あははははははは!! ぷひゅう、ぷひゅうだって!」

「いひひひお腹痛い……!」

「ひゃー!」

 

 可愛らしく怒るシロを全員で宥め、可愛がり、よしよしと頭を撫で回す。

 

 それでも機嫌が直らないシロを引き連れ、山田たちはクレープ屋に赴く。

 昼時が過ぎた頃でやや人数の多い時間ではあるが、そこまで混雑しているわけでもないのでそそくさと列に並ぶ一行。

 

「ひーっ、これ奢るから許してシロさん?」

「……一番高いモノがいいです」

「ハイ喜んで!」

 

 すぐにきた自分達の番に、山中は一番大きいサイズの、クリームたっぷり。果物全部のせソース全種、ダメ押しの全てのトッピングを載せた物を注文してみせた。店員は軽く引いていたが、手際よくクレープを巻いて中身が溢れないよう優しく山中に渡す。

 

「シロさんお待たせ、はいどーぞ!」

「わおぉ……いただきます」

 

 両手で持ってなお余るクレープを目の前にして圧倒されつつも、シロはあぐ、と口を開いてかぶりつく。クリームを溢さないよう先に歯を通し、そのあと唇を閉じて一度クレープから顔を離す。

 断面に見えるバナナとチョコレートソースを見て口のなかに入っているものを確認し、もにゅもにゅと数回噛んで飲み込む。

 

「美味しいです」

「ヨシッ!」

 

 甘い喉越しと一緒に怒りは流れ、シロは蕩ける程の高揚感に包まれながら手の中の巨大なクレープを瞬く間に平らげてしまった。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「マジで食べちゃったよ」

「いや多かったでしょ」

「流石シロさんよく食べる」

「いっぱい食べる君が好き」

 

 意図も容易く完食してみせたシロに戦慄しながらも、いつもの調子は狂わされない女子たち。

 

 

 ややあって、白鳥高原女子たちは解散することになり、シロが家に帰れるか何度も確認したあと、ようやく別れてそれぞれ帰路に着く。

 

 

 

 一人、また一人と人数が減り、最後にシロと居たのは山田だった。

 

「ねぇシロさん」

「なんでしょうか」

「シロさんはさ、あの村崎のことどのくらい好きなの?」

 

 山田の問いに顔を赤らめるものの、山田の真剣な表情に冷まされ、シロも改めて自分が透をどう思っているのか具体的に考えた。

 

「……トオル君のことは、誰より強かった父より尊敬しています。誰より優しかった母より慕っています。そして、世界で一番、トオル君が好きです」

 

 だけど。

 

 

 

 シロの言葉を聞いた山田は目を伏せ、静かに頷いたあと直ぐにいつものおちゃらけた調子に戻って朗らかに笑ってみせる。

 

「そっかそっか。それならいいんだ、それなら」

 

 じゃあね、バイバイと手を振って別れた山田にシロは会釈をし、自分も家に向かって足を進める。

 

 

 

 マスターの事が誰よりも好き。

 それの気持ちはクロにも、島田さんにも、マスターのお姉さんや家族にでさえも負けたくない。

 

 だけど、それは多分許されないから。

 

 今は塞ぎこんでしまおう。

 

 きっと、どうせ、忘れるだろう。

 

 

 一筋の涙が頬を伝って落ちるのに気がついて、雫を払いながら歩いていると、いつの間にかもう家についていた。

 今度はしっかり涙を拭い、いつもの笑顔を作って玄関を開く。

 

「マスター、帰りました、よ?」

 

 ドアを開いて聞こえてきたのは壁越しに伝わる喧騒の音。

 シロは一度荷物を置いてリビングを開けると、突然透がシロに飛び付いてきたので考える暇もなくシロは透を受け止め、慌てる。

 

「良かった、シロが帰ってきた! お帰り、とりあえず助けて!」

「あ、え、ど、どうしました、マスター!?」

 

 状況を整理するよりも早く、目の前に楓が現れて自分の腕の中にいる透を奪取しようとしてきた。

 その腕を叩き落とし、シロは慌てて自分の陰に透を隠す。

 

「な、どういう状況ですか!?」

「姉さんが壊れた。一先ず落ち着かせないと話も出来ない」

「はえぇ!?」

 

 目の前では楓を押さえようとしたクロが宙を舞ってネコ科の動物並の身体能力で華麗に着地をし、また飛び掛かるが片手でいなされ同じように投げられている。

 

 さっきまで思い悩んでいた感情は消え失せて、楓を押さえ込む事に躍起になるしかなくなったシロ。

 

 

 なんだかどうでもよくなった気がして、多少気が楽になった。

 

 

 

 

 もう少し、此処に居てもいいですよね。

 

 

 




 足りない、イチャイチャが足りない……。
 もっと、イチャイチャさせたいのに……。

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