キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 クロの話。
 


四十八話 カフェイン耐性がないと発情するって本当ですか?

 俺はゲームが好きだ。

 RPG、FPS、アクション、レース、対戦、マルチ、ソロ、ファンタジーからSF、リアル、サバイバルなど色々なゲームをやってきたし、これからもプレイするだろう。

 

 ゲームをやるときというのは、別に誰かが居ようが居なかろうが、邪魔に感じない程度に騒いだり茶々を入れられたりするのは別に構わない。俺も気にしない。

 

 だが。

 

 

「透君、このあとどうなるの? お姉ちゃん気になる」

「膝を借りるよご主人」

「こら、クロ。ます、トオル君の邪魔しないの!」

 

「……」

 

 右にシロ、膝にクロ。背後に楓姉さんと、美女と野獣計三人に囲まれた状態で、どうやって平然を保ちながらゲームを楽しめるだろうか。

 

 思春期真っ只中な男子高校生にこの所業は一体なんの拷問か。膝をクロの上体が、腕はシロの柔肌が、後頭部及び肩には楓姉さんの豊満なそれが。

 見せしめのように当てられて生体反応を見せないための奮闘も無惨に散ってしまいそうだ。

 

 だが、ここで無下に「どいてくれ」なんぞ言おうものなら確実に涙目を拝むことになる。それは後味が悪いし気を使ってしまう。なので決して今のこの状況に快楽的感情を得ているわけではない。決して。

 

「……あっ」

「あわわ」

 

 そしてさっきからミスが多い。手元が震えるせいか誤操作を連発している。全くもって集中出来やしない。それ故にゲーム画面では主人公が嬲られ続けて地獄絵図。目も当てられない状況になっては死に、コンテニューのサイクルが出来上がっている。

 

 透は一つ深いため息を吐いてクロの頭を退け、立ち上がる。

 

 台所に立って濃い目のアイスコーヒーをじっくり淹れ、他に三つ、カフェラテ、カフェオレ、ミルクコーヒーを全てアイスで淹れて運び、三人に振る舞う。

 

「はい、お待たせ」

「わぁ~ありがとう透君!」

「頂きますね、トオル君」

「いただき、もす」

 

 楓はカフェラテ、クロはカフェオレ、シロはミルクコーヒーを手にとって呷る。

 

 透もアイスコーヒーを一気に流し込み、カフェインが脳の隅々に届いて冴え渡る。体が少し熱くなって目が覚める。

 ヨシと息を吐いてコントローラーを掴み、ゲームを再開した。

 

 魅力たっぷりの三人を飲料で釣っている間にゲームにかかり、攻略が思い通りに進んでいく。クロが寝転んでいない。シロがくっついていない。姉さんが乗っかってきていない。なんと体が軽いことか。

 

 冷房の風が衣服の隙間を通って火照る体を冷まし、冴えて熱を持ち始める頭に適温をもたらしてくれる。

 

 

 カップを握って画面を眺める三人はポケーと呆けているが、目まぐるしく視界情報が切り替わる画面に何を聞いていいのかすらわからず、ただ圧倒されるだけだった。

 

「トオル君スゴいです」

「本当に何が起こってるのかわかんない」

「そっちいただき」

「あっ、クロ!」

 

 シロのミルクコーヒーをかっさらってちうちう飲むクロに振り回されるシロに心のなかで完結して御愁傷様と合唱しつつ、透はさらりとゲームクリアを果たしてソフトをハードから抜き取り、また新しいソフトを挿入してスタートを切って連打が始まる。

 

「透君は今流れてる台詞読めてるの?」

「うん、大まかに」

 

 一瞬で表示される台詞の単語をなんとなく読み取り、それを適当に解釈してストーリーの流れを汲み取る。

 

 もっとじっくりストーリーを読んでもいいのだが、こうでもしないとまた三人に絡まれてミス連発からのゲームオーバーなどをしかねないのでさっさとムービーは飛ばしてゲーム画面に突入したいのだ。 

 

「ちゅぽっ、んっ、ご主人の、濃い……」

 

 口をすぼめていち早く透の淹れたカフェオレを飲み干したクロ画面を意味深な台詞を吐いて透の手を乱す。

 

「何をいってるんですか!」

「何に聞こえたのかな」

「それは、ほら、あの……」

「むっつりめ」

「なぁ!?」

 

 クロはそんな軽口でシロをからかって遊んでいたが、ゲームの片手間で様子を眺めていると、何やらクロの頬が少しばかり赤くなっているに思えた。そもそもクロは褐色肌なので、窓からでも強く差し込める日差しで幾分か血色が良く見えるのだろうと思ってすぐさま意識を切り替えたが、事件はもう始まっていた。

 

 

 

 

 それから十数分、それは突然起こった。

 

「ねぇ、ごしゅじんんん⋯⋯⋯」

 

 いつもよりも甘ったるい猫なで声。艶のある声音あらに色っぽさを足したようなクロの言葉に、内心ぴくりと反応しながら振り向くと、クロは徐に透にへばりつき、熱烈な抱擁をする。

 

「は、な、なに!?」

「何してるんですかクロ!?」

「クロちゃん!?」

「んん⋯⋯ご主人、なんだか、私体が、熱いの⋯⋯」

 

 そう言いながらクロはいつもより少しだけ高くなっている身体を着させた透に、野生動物が縄張りに匂いを付ける様な仕草でこすり付ける。

 

 躊躇いもあったものではなく首に腕を回されて胸は押し潰れてしまうほどにくっつき、柔らかさと張りの同居した腹部、骨盤の硬さを感じさせる鼠径部、何故か体温よりも更に熱を帯びた下腹部、柔和でとろけてしまいそうな大腿部は大胆にもソファーに座る透の膝上に置かれ、しゅるりと絡んでくる。

 

 クロに理性の色が見えない、なんて悠長に分析なんてしていたら、クロは透の上に馬乗りになって所謂対面座位の態勢になって透に抱き着く。

 そして密着させた体全面を艶めかしくこすり付けてくる。わずかに感じる上体の突起と下腹部の熱、擦れるごとに小さく漏れる嬌声と妙な色香と相まって妖しい雰囲気が漂っていた。

 

「く、クロ?」

「ごしゅじん⋯⋯愛して、慰めて⋯⋯?」

 

 耳元で濡れた声で囁かれ、一瞬にして理性と言うものが驚くほど軽く飛んでいきそうになった。

 

「トオル君から離れなさぁーい!!」

「げぶぅ」

 

 だが、シロがなんと惜しい時に、絶妙なタイミングでクロを透から引きはがし、自分の懐に抱きとめる様にして透を抱える。

 

「いつも挑発的なことをするとは思ってましたが、今日はいきなり何事ですか!」

「シロ、これはこれでヤバイ」

「知らない、ドキドキして、止まらない⋯⋯」

「私聞いてないんですけど」

 

 さっきからダイレクトに顔側面に当てられるシロの性格を象徴するような、控えめで大胆なそれがこれでもかと透にとっては生き地獄が生殺しになっただけだった。

 

 それはさておきクロの様子が可笑しいのは明白だ。

 

 まるで発情期の獣のような状態だ。媚薬でも盛られたか、それとも何かがそのスイッチを入れてしまったのか。

 

「コーヒー飲んでこうなるのかな?」

「そんなわけが」

 

 呑気にカフェラテを飲みながらそんなことを言う楓の言葉にまさかと否定しようとしたが、もし全くの耐性が無ければこういうこともあり得るのではと思い始めた。

 

 思えば初めてコーヒーを飲んだ時は夜遅くまでハツラツしてた記憶がある。

 それがクロの場合がこうだったということだろうか。

 

 だとしてもそんなに効くか?

 

「ごしゅじん⋯⋯」

「⋯⋯はぁ」

 

 仕方ない、自分が蒔いた種だ。これは自分が始末をしなくてはいけない。

 透はコントローラーを置いてクロを迎え入れる。クロは手を広げて会える透の胸の中に飛び込んで、宛らマタタビで酔う猫のように喉を鳴らしながら全身を擦りつけ一頻り甘える。

 

「トオル君、いいんですか?」

「俺のせいでこうなったんだから、仕方な⋯⋯お、クロ。そこはヤバいから触らないで」

「ご主人、好き、好き、好き⋯⋯」

 

 完全に変なスイッチが入ってしまっているクロをひたすら宥める様に抱きしめたまま頭や背中を撫でてみるが、一向に収まる気配はなく、それどころか首元の布を噛んでくるのでシャツはベトベトになっている。余計に発情している気がしてならない。撫でるごとにクロは小さな喘ぎ声を漏らし、それも次第に大きくなる。

 

「もう、我慢、できない⋯⋯!」

「く、クロ!?」

 

 ついに何かが我慢の限界を迎えてしまったクロは一度透から離れて一瞬にして透と自分の服を脱ぎ払い、シロと楓の目があるにもかかわらず自分の中に湧き上がるその感情のままに動こうとした時、すぐさまシロが動いてクロの口の中に淡い青色の木の実らしきものを突っ込み、飲み込ませた。

 

「これで落ち着きましたか!」

「んぐ、ぐぇ⋯⋯、なにこれ⋯⋯」

「ウチケシの実です」

 

 ようやく平静を取り戻したクロははたと辺りと自分の恰好を見回して、さっきとは違う様子で顔を真っ赤にし、今し方自分が脱ぎ捨てた服をひったくって胸元を隠し、カーテンに直行したかと思えば一瞬で姿を消してしまった。

 

「⋯⋯収まった」

「ご無事ですかトオル君!」

「なるほど、シラフならもしかしたら⋯⋯」

「姉さんそれ以上は怒るよ」

「くぅ」

 

 その後、クロが現れることはなく、夕方を過ぎて夜になり、皆々部屋に戻って寝床に着いた。

 

 

 透の部屋。冷房の風が夏の熱帯夜を心地良くしてくれるお陰で透は安眠していたが、暗闇の中、自分の腹の上に何かが被さってきて、息苦しさを感じて目を開けると、そこにはインナー姿のクロが掛け布団の上から透に覆いかぶさっていた。

 

「く⋯⋯」

「ご主人、静かにして。お願い、何もしないから」

「⋯⋯」

 

 透は押しのけようともしたが、マウントポジションから肩口を抑えられ、そのままゆっくり、優しい力加減でまた枕に頭を落とされる。クロはベッドの上で横たわらせた透の上に背を丸めて被さり、小さな囁き声で耳元に語り掛ける。

 

「ねぇ、ご主人」

「なに?」

「お昼の事、忘れて?」

「お、おう」

 

 クロの声は生娘のような気恥ずかしさからか震えており、肩を掴む手にも手汗が滲むほど熱い。いつもの余裕綽々な態度は影もなく、今透の上に居るのは一切取り繕えていない彼女の姿だった。

 

「あれは、なんか変な気分になってただけで、私の本心じゃ、いやそうだけど⋯⋯違くて、その⋯⋯」

「あー、あれは、その、俺も悪かったし⋯⋯、うん。お互い様だよ」

 

 今にも泣きだしそうなクロの背中に手を回して優しく撫でる。クロは一度ぴく、と身体を震わせてから、脱力して透の上でとろけてしまう。

 昼の時と同じように密着するが、今は妖艶な雰囲気は薄く、借りてきた猫を宥めているような心境だった。

 

 それ故に肌の感触などよりも鼓動の音や吐息、クロの体温を強く感じていた。

 

「ご主人とは、もっと、純粋に、したいから⋯⋯」

「え?」

 

 そう言った途端にクロは勢いよく飛び上がって透から離れ、透が持っていた掛け布団をマントのように一度はためかせるとナルガ装備を身に纏う。

 

「それじゃあー、またね、ご主人⋯⋯!」

「え、おい」

「ドロン」

「まっ⋯⋯てよ」

 

 もう一度掛け布団を頭から被った途端、掛け布団は中に居るはずのクロのふくらみを作らず、そのまま重力に任せて床にへたり落ちる。

 掛け布団を持ち上げれば中には誰もおらず、いつもの術であちらの世界に逃げたのだと確信する。

 

「案外ウブだよなぁ⋯⋯」

 

 クロの言葉で変に目が覚めた透は、その晩寝付けず、翌日隈を作ってシロに心配された。

 

 

 




 何を飲むかってのは何でもよかった。
 興奮剤でもあるカフェインならこうなるんじゃないかなと十割妄想で書きましたが、そもそも妄想でしかないからいいよね。

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 ではまた。

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