俄然やる気を上げて試合を勝ち進めていくシロと俺。
大概の得点はシロの攻撃が殆どで、俺は基本的に球拾いに徹していた。
俺もフェイントで仕掛けて点を入れたりしたが、やはりシロの活躍が大きかった。
対してクロも順々に勝ち残り、遂に決勝まで進んでいた。
向こうもクロが得点を入れることが多いらしいが、純粋なスパイクでの攻撃が基本のシロに対して、クロは技術的というか、打つ球のほぼ全てが変化球となっており、無回転からバックスピン、落ちる魔球なんてものも折り込んで攻めていた。
「イェーイ!」
「いぇい」
笑顔と仮面のハイタッチ。見ていてかなりシュールだが、相方の女の人はもう慣れているらしい。凄い胆力だと思う。
特に苦戦を強いられることなく、シロの活躍あって決勝まで進んでしまった俺とシロ。
「絶対勝ちます」
「ほどほどにしてくれ」
何やら隣で拳を握って脇を絞めているシロ。
ほどほどにやってもらわないと、恐らく危険なことになりそうだ。
「勝とうねくろちゃん!」
「アイアイサー」
大して向こうは随分と軽い雰囲気だったが、実力はクロは然ることながら女の人も相当なものだった。
実力の高さゆえの軽さなのだろうと思うとゴリ押しでは敵いそうな相手ではない。
「シロ、耳を貸してくれ」
「はい、何でしょうか?」
そのまま小声でシロに耳打ちをする。
彼女は小さくふんふんと頷いてから首を傾げるが、それでも了承はしてくれた。
「分かりました。それでやってみます」
◇
本来ならそれなりに時間を掛けて行われるはずだったのだろうが、シロのパワープレイとクロのテクニックであっけなく決勝まで来てしまった。
司会席では運営者の人たちが困った顔で何かを話し合っていた。周囲の喧騒で内容は聞こえてこなかったが、十中八九試合を続行するか中断するかという事だろう。誠に申し訳なく心苦しい。
話し合いの結果、仕方無く決勝戦は執り行われるなった。
俺とシロ、クロと女の人の四人がコートに入る。
外野にいる観客はかなりの数を増やして人の壁が出来ていた。
中に紛れている中で中学生か小学生くらいの、長い黒髪に緋色の瞳を宿した少女が隣に立つ成人の男性の裾を引っ張ってやたらと興奮気味に質問をしていた。
『えー。これよりビーチバレー大会決勝戦を始めたいと思います! 選手の方は前に出てきてくださーい』
暑さによるものではない汗を流しながら、司会者がマイクを片手に事の発表を始めた。
呼ばれた俺達四人は一つだけ残されたバレーコートにそれぞれ並び、ネット越しに向かい合う。
「よろしくねー!」
「お手柔らかに」
「⋯⋯よろしくお願いします」
「ヨロシク」
それぞれの温度差がありすぎる挨拶を済ませてじゃんけん。
先行は向こうが取り、お姉さんがサーブを打つ。
「それ!」
球は綺麗なカーブを描いてコート内に落ちるが、それを俺が拾い、シロがトスで上げた。
それを俺が相手コートに打ち返す、これまでとは攻守を逆転してみたのだ。
無論俺に力はないので打つ球は全く飛ばず、速くもない。
「なんだ? 軽い球だね!」
拾おうとしたお姉さんが距離をみて位置を合わせに後ろに下がるが、それよりボールはネットを越えた辺りで勢いを無くし、砂浜に落ちた。
「なにゅ!?」
「っ!」
軽い球だからこそ、すぐに落ちる。
力がない球は簡単に墜落してしまうが、これまで散々シロの豪速球をみてきた相手にとって、今の落ちる球は虚を突くには十分だ。
狙い通りクロとお姉さんはネット際に落ちる球に反応しきれず、ボールはそのまま重力に従って砂浜に落下してしまった。
「まずは一点」
「わぁ! 凄いですトオルくん!」
ビーチバレーでフェイントって結構シビアな判定だったはずだけど、そこまで真剣な催しでもないようで判定は緩く、すんなり点が入ってしまった。
飛びついてくるシロを意識しないように宥める。
サーブは変わってこっちのチーム。
シロのサーブではじまり、ネット際を狙うようなラリーが広げられる。
「もらったぁ!」
「まだっ!」
お姉さんのスパイクがライン縁を狙うが、シロがそれをギリギリで防ぎ、持ち上げる。
それを急いて相手に返すが、狙いすましたかのようにクロが跳躍し、俺の打ち返した球をスパイクで押し返してきたのだ。
間を開けない攻撃に追いつけず、相手に点を許してしまう。
「ふふ、ナイストス」
「こいつ、うまいことするなぁ⋯⋯」
意地悪い微笑をするクロ。
それに対して悔しそうに睨むシロを撫でて落ち着かせる。
まだ一点ずつ。勝負は始まったばかりだ。
◇
『両チーム、互いに瀬戸際の、手に汗握る凄まじい攻防を繰り広げ、三セット目のデュースとなりましたッ!! 次にどちらかが続けて得点した方がこの大会の勝者となります!!』
初めの戸惑った空気は何処へやら、司会席は熱く実況をやりだし、ギャラリーも釣られて盛り上がりを見せ、人だかりは大きくなっていた。
一セット目は向こう、二セット目はこちらが勝ちを取り、続いた三セット目でデュース。さきに2点制した方の勝ちとなり、たった今向こうチームが一点入れて続いてのサーブ。
後に引けない俺とシロは得点し、向こうの勝ちを阻まなければならないが、焼けるような炎天下、照らされた砂浜は今更ながら眩しく眩き滲み出す汗を蒸して身体が火照り、ただでさえ少ない体力をなんの悪びれもなく奪い去っていく。
だがそれは向こうも同じなようで、お姉さんも笑ってはいるものの眉を顰め、辛そうな気持ちを隠しているのが分かる。クロは仮面で表情が見えないが、初めに比べて動きが鈍ってきてミスが増えていることから伺える。
勝機はあるかもしれないが、体力の消耗が激しいのはこちらも同じで、シロも余裕がなくなってきていた。
「シロ、いけるか⋯⋯」
「大丈夫、です。勝って、みせます!」
朦朧としていた彼女の瞳に闘志が宿る。
「往くよ!」
お姉さんのサーブ。
小細工なしの真っ直ぐなサーブはレシーブもしやすいがそれだけ勢いがついており、下手な姿勢で受けていれば簡単に倒れてしまいそうだった。
打ちあがった球をシロがトスで上げなおし、俺がスパイクを入れてみるがクロがネコ科を思わせる柔軟さを見せて球を拾い、お姉さんがすかさず飛んで攻撃に転じて飛ばしてくる。
「せぁ!」
「くぅッ!」
コートギリギリを攻めた一本。
これまでそういった攻撃は何度もあったが、疲労が溜まってきた今にやってくるとは思わなかった。あの笑顔はただのハッタリではなかったようで悔しい。しかしそれ以上にお姉さんの実力は尊敬できる。
だが、ただでは終われない。
追いつけなかった俺に変わってシロが球を拾い、俺がトスをする。
「任せた、シロ!」
「お任せください!」
トスを上げた先にはすでに飛び上がり、腕を振り絞ったシロが宙に居るのが見えた。
着地する瞬間、シロが目前を通過する球を思い切り打ち抜いて、相手コート目掛けて一直線のスパイクを放った。
これは決まった。
と誰もが思っていたのに。
「よっと」
クロが低い姿勢でレシーブをしてスパイクを受け止めてしまっていた。
呆気に足を掬われたオレとシロをしたり顔で笑うお姉さんは軽いトスを上げてクロに譲る。
「キャラじゃないんだけどな。こういう
咄嗟に身体を動かしてコート後ろに下がろうとしたがもう遅い。シロの着地と同時にクロのスパイクが撃たれ、コートのど真ん中に、見事な直線で球は砂浜を跳ねてギャラリーの手に収まった。
「勝った。ビーチバレー、完」
謎の指差しキメポーズで平坦なテンションのまま勝利を謳うクロ。
『け、決着ゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!! 勝ったのはクロネコチームです!!!』
皆が固唾を吞んで見守っていた一試合。耳鳴りがするほどの静寂の後に、司会席の声を皮切りに辺りは熱狂の歓声を上げて、コートに立つ俺達を称えた。
「うぉぉぉ、凄かったぁーー!」
「仮面の女の子カッコよかったぞーーー!!」
「白髪の娘もよくやった!」
「お姉さんも凄かったぜ!!」
「兄ちゃんもよくついてったなぁ!」
老若男女、様々な人々れたちを取り囲んで拍手喝采、称賛の声を送ってくれる。
全身砂だらけになった俺達は呆けたままだったが、仮面を外ししながら近づいてきたクロを見上げると、陰りを見せる顔には清々しいばかりの無表情に、僅かだが笑顔を見た。
周囲はやっと仮面を外したクロに動揺と好奇の声がざわついていたが、そんなもの意に止めずに、クロは熱い砂浜に仰向けになっている俺の頭の前でしゃがみ、頬をつついてくる。
「ふふ、珍しく激しかったね。ご主人」
「言い方」
中々拝むことのないクロの表情は乏しいがゆえに感情豊かに映り、今回のビーチバレーを純粋に楽しんでいたことが伺える。
シロもクロのことはあまりお気に召していないようだが、負けたことに関してはあまり気に留めていない様子で、夏の快晴に負けないほどの晴れやかな笑みを浮かべていた。
「それじゃ、何かゴホービ頂戴」
「なんで」
「どうしてそうなるんですかっ!?」
いい話で終わろうとしたらこれだ。
だが負けた者に言い分を並べる口は無い。
諦めて了承し、シロとクロに引き上げられながら立った俺はクロのお願いを聞くことにする。
シロはさっきまでの満足感を台無しにされたと不貞腐れ、お姉さんはなんだか楽しそうにこちらを覗いている。恥ずかしいのであまり見ないでいただきたい。
「⋯⋯要件は」
「別にここで脱げとかは言わないから安心して」
「当然です!」
クスクス笑うクロはさてどうしようと腕を組み、顎を撫でながら考えていたが、すぐにピンときた。と何かを思いついて耳打ちしてくる。
「ごにょごにょぺろぺろ」
「やめれ」
最後耳の周りを舐めてきたクロを強引に引き離して要件をのむ。
良く見ても分からないぐらいの微細な角度だけ口角の端を持ち上げ、瞳を閉じて顔を突き出す様は所謂キス待ちの顔⋯⋯。というやつだが、本当にやる気なんてない。
俺はクロの手を取り、その指先に小さく口付けをする。
「どういうこと、ご主人⋯⋯?」
「別に場所は指定されてない。キスをしてくれ、と願いは聞き入れてやったからな」
クロからのお願いは『キスをしてほしい』とのことだった。
だが、そんなことを真正直に受け入れられるほど俺も慣れてるわけじゃない。
「だからこれで了承してくれ⋯⋯」
シロに変わって今度はクロが膨れていたが、やがてため息を着いて呆れたような笑顔を浮かべる。
「⋯⋯わかった。今回はこれで我慢してあげる」
「ありがとう」
その後、表彰式があったが、いつの間にか姿を眩ませたクロを探そうとギャラリー運営が躍起になって探したがみつからず、景品はお姉さんが持って帰る事になったそうだがあまりの量だったので幾つか頂くことになり、俺とシロは思わぬ収穫を持って加藤たちの下に戻った。
「いやぁ熱かったなぁ。決勝戦」
「あの二人が対峙すると毎度激しいよねー」
「激しすぎて死ぬかと思った」
好きなことを宣う加藤たちに愚痴ってみるが、あまり共感はもらえない。
むしろ余興をありがとうと言われる始末に肩を落とすしかなかった。
傾き始めた日差しは空を蒼から茜色に変え始め、釣られて海水浴に来ていた人も次第に数を減らしていく。
俺達もそろそろ帰ろうとなり、カブトムシが守をしてくれている荷物を録りに戻る道のりで、俺はシロに引き留められた。
振り向くと、肩をすくませて小さくなる水着姿の彼女がいる。
「シロ?」
「ごめんなさい」
突然の謝罪に何か、と考えたが、さっきのビーチバレー大会の事だと思い返して直ぐに慰める。
「気にするなよ。ただの余興なんだし」
「でも、勝つっていったのに……」
「あー……じゃあ目ぇ瞑って」
こう言うとき、責任感の強いシロは何かしてやらねば引き摺ってしまう。
ならば今、何かしてやったほうがいい。
シロは言われて目を瞑り、ぎゅっと全身を力ませて硬直する。
「いくぞー」
「は、はいぃっ」
固まったシロの顔を優しく持ち上げて、その頬に軽く口付けをする。
すぐに離れてもういいよ。と言うと、シロは口付けをされたところを撫でて顔を赤らめた。、
「あれ、マスタ、今のって……」
「あーあー気にするな。俺も血迷った。何も言うな。いいな!?」
やっておいて耳の先まで赤くなってしまう。
相変わらず絞まらないやり方をしてしまった、と後悔したが、シロはまんざらでもなさそうにクチヅケされた頬を撫でながら、思い出すようににやけてはそれを手で押さえてを繰り返していた。
「えへ、マスターのちう。ちゅう……」
「あーもう! 帰るぞ!!」
なんだか変なスイッチが入ってしまったシロを無理矢理引き摺りながら、ほぼ片付けを済ませてしまっていた加藤たちと合流して帰路についた。
帰り道、一部始終を遠目から見ていたらしいが、加藤たちに生暖かい目で包まれながら、俺は今にも倒れそうなくらいの羞恥心に苛まれて帰るはめになった。
海、終わり!
次、家か祭り!
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では。