空色の天井の向こうに、燦々と眩い輝きで地平線の彼方まで照らす太陽が、直下より少し手前に傾いて私を見下ろしている。
何もいない、何処までも続いていそうな草原の真ん中で、私は胸までありそうな盾と剣を背負って立っていた。
頭のなかに誰かの声がする。
次のエリアに標的がいる。攻撃する。罠を張る。爆弾を使う。
いろんな指示が飛んでくるが、そのすべてに耳を傾け、理解し、実行する。
そうすれば殆どうまくいく。
⋯⋯⋯
⋯⋯
⋯
やりました!
見てましたかマスター!
此方の声が届くことはない。
しかし助けてくれた恩はいつか返したい。
指示をくれた礼をしたいから、いつも心のなかで頭を垂れていた。
「あぁ、よくやった。シロ」
私はいつの間にかあちらの世界、彼の家の中のリビングに立っていた。
声の聞こえた方を振り向くと、今まで幾度となく助けてくれた彼が、そこに立っていた。
それが嬉しくて、飛び上がってしまいそうな気持ちをそのまま彼にぶつける。
全速力で駆けつけて、その勢いのまま彼の胸に飛び込めば、彼は飛びつく私を受け止めて抱き締めてくれる。
彼の体温、匂い、鼓動、呼吸、息遣い、仕草、癖、柔らかさ、何もかもが尊く、守りたい、守られたい。
ひし、と密着している面から体温は反復して熱を帯び、加速する脈拍によって身を溶かしていきそうなほどに熱く、情熱によって燃え滾っていく。
「マスター、大好きです⋯⋯」
きっとこれは夢だ。
だからこそ恥ずかしげもなく言える自分の台詞は、正直で素直な感情からくる嘘偽りない一糸纏わぬありのままの言葉だった。
「俺もシロの事が大好きだよ」
彼の言葉が耳元で囁かれ、穴に流れて頭の奥で溶けていく。
腰は砕けて背骨から骨抜きにされ、私は力なく彼の胸に寄りかかってしまうが、彼はそんなふやけ切った私を極上の絹を扱うように掬い取り、抱き留めてくれる。
だらしなくしがみつくだけになって更に溶けて滴っている私を、彼は崩れ落ちない様に持ち上げたまま、更に言葉を流し込む。
「シロ、愛してる」
「マスター⋯⋯?」
彼は私の肩口に口元を押し付ける様に腕に力を込めて私を持ち上げてくる。それだけにとどまらず、首元に彼の吐息がかかりくすぐったい。いや、かかっているのではなく吸われている。匂いを嗅がれている。
「ちょ、ちょっと、マスター? これ以上は」
「シロ⋯⋯」
微睡みよりも羞恥心が勝ってしまった私はすぐさま飛び退こうとしたが、彼の抱き締める力が思っているよりも強く、そしてすっかり骨抜きにされている私には彼を引き離すための余力すら蒸発してしまっている、そんな気がしていた。
彼の吐息が首元を掠める度、背筋に甘い刺激が迸り、夢心地の意識は極楽へと召されてしまいそうになっていく。
「ひ⋯⋯ま、まひゅたー⋯⋯わらひ、もう⋯⋯」
彼は何も言わずに私の身体に手を這わせる。
糸の切れた人形のように私はされるがままに全身を彼の芯の通った柔らかい掌で優しく、執拗に愛撫され、腹の下あたりから熱を持った液体のようなものがじわり、じわり、と呼吸に合わせて穂先に溜まった滴のようにしたたり、脳を溶かして思考を乱す。
いつの間にかベッドに横たえられていた私は肌を纏う布や革の感覚がなく火照った体が肌寒いと感じていたらしいが、彼が上から覆いかぶさってその寒さも掻き消える。
「シロ⋯⋯愛してる⋯⋯」
糸を引いて開かれた彼の唇から、艶やかな舌先が伸びて私の鎖骨を撫でる。
濡れた舌で撫でる私の鎖骨を彼は飴玉を舐める様に嘗め回し、前歯で軽く痕が残りそうなくらいに甘噛みしたり、唇を付けて赤子のように吸い付いたりしていた。
皮一枚隔てて骨を弄ばれるのは得も言えないもどかしさとくすぐったさを綯交ぜにしたような感覚が首から頬にかけて駆け巡り、耳の裏を通って脳髄を逆撫でしていく。
我慢ならず身体をベッドの上でよじらせてシーツに皺を刻む。彼はそんな私を見てなお這わせる舌を引っ込めようとはせず、私の腰に手を回して引き寄せ、抱き締める様に肩を力強く抱きしめて胸に甘いキスをしてくる。
上がった息は喉奥から誘われるようにを出してきた嬌声と混ざって短く繰り返され、さながら犬のように品もない息遣いになってしまう。
吸ったり、舐めたりを繰り返す舌は首元からゆっくりと上に伝り、今度は耳を可愛がってくる。
「耳ぃ、だ、めぇぇ⋯⋯!」
夢魔のような舌使いで耳たぶや耳の縁を嘗め回してくる。
ときに唇ではんできたり、ミリメートルもないような距離で熱の籠った吐息を吹きかけてきたり、『穴』を犯そうとしないのが実にもどかしい。そんな気持ちさえ湧いてきた。
穴には入れない。しかし穴の周りを丹念に、慣らしてふやかそうとしてくる感触に感化された私の身体は奥底で熱を生み出し、これより
生み出される熱量に対して出すための穴はまるで対比しておらず、全身を駆け巡る欲求の波によって理性の閂はいとも簡単に壊され、それまで可愛らしい雨漏り程度だったそこからとめどなくあふれ出る。
一先ずの発散が限界を超えた欲望で無理矢理引きずり出されてしまった私の中の熱は、なおもとどまることを知らずに溢れる。
いや、一度決壊してしまったそこからはなおも湧き続けて、溢れ、我慢を忘れて漏れ出る。
彼の首に腕を回して力一杯引き寄せ、達してしまった私を彼は優しく頭を撫でてくれる。
だが優しい顔つきとは裏腹に、彼は私の身体の愛撫を止めようとはせず、熱を溢れさせ、彼を求める
「ひぅ!? そ、そこは⋯⋯」
本能からくる彼への欲求の気持ちが隠れもせずに流れるそこに、彼は何も言わずに受け入れあくまでも優しく、しかし嬲る様にいじめる。
彼が齎す私への刺激は、私の中を駆け巡る熱と絡み、混ざり、一つの流れとなって背骨を走り、さっき感じた一瞬の快楽を、あろうことか絶え間なく繰り返してくる。
押し寄せる快楽の波に私は成す術無く飲み込まれ、流されて淘汰される。
私は両手を伸ばし、垂れている髪をかき上げて彼の顔をそっと掌で挟み、自らの顔に近づける。
もっと、彼が欲しい。
もっと彼を知りたい。
もっと彼を感じたい、もっと近く、私たちを分け隔てる肉体すら超えて。
引き寄せる彼の唇が、私の唇と触れる。
触れる唇は何も言葉を交わすことなく開かれ、互いの咥内を互いの唾液と踊り狂う舌が蹂躙し合っていく。
二人の喉を鳴らす音と、彼の指に弄ばれる音。シーツの擦れる音だけが耳に届くが、そのどれもが薄れていく意識から引き離されていく。
これ以上、されたらどうなってしまうのだろう。
もう何も考えられない。
きっとこれ以上はダメになってしまう。
丹寧に作られた芸術品を自らの手で砕いてしまうような破壊衝動ともとれる背徳感が脳裏をよぎったが、それも一瞬にして喉の奥に流れて行った。
長い長い口づけを惜しむかのように離れた私と彼の距離はまだなお近く、すぐにでも二人の身体を重ね合わせ、コトに発展しそうな距離で私は微笑んだ。
ますたー、あいしてます。
きっとその感情は愛とは程遠くかけ離れたモノだ。
醜いエゴにまみれたそれを、あたかも美しいモノに例えたかった故に汚れてしまった。
そんないろんなものに塗れた言葉を、私は口にしただろうか。
分からない。
意識が身体から浮き出ていく。
まだ近くに居たいのに。
あぁ、マスター。
貴方と 。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
パチリと目が覚めた。
さっきまで感じていた燃えるようなほどに熱かった感情が嘘のように抜け落ちて、清々しいほど落ち着いている。
カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しい。
窓の向こうからスズメの囀りが聞こえる。
「⋯⋯⋯⋯はっ!」
微睡みすら与えてくなかった夢の用を思い出してしまい、すぐさま掛け布団を引っぺがして自分の股座を確認する。
濡れては⋯⋯いや、下着が駄目になっていた。
「うぅぅ、私はいけない娘です、ますたぁ~⋯⋯⋯⋯」
その後赤面してため息を吐きながらシャワーを浴びてきたシロは、たまたま顔を洗っていた透と出くわしてこれまで以上に取り乱し、可愛い悲鳴が朝から家中を駆け巡った。
カッとなってやった。
後悔はない。
ヤッてないからセーフ、セーフだから⋯⋯。
文句でもなんでも聞きますので、許してください。
何でもしますから、シロが。
では。