キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 なんかもう、何を書けばいいのかわからなくなってきました。



六十話 色褪せる過去

 最近、マスターが積極的です。

 

 それ自体は別に良いのです。

 この前の夏祭りで晴れて恋人同士になれて、お互いに足りないところもありつつ新しい関係を築けたのですから。

 

 でも……。

 

「あの、マスター?」

「ん?」

「流石に密着されたままというのは……」

 

 今、私がソファーで休んでいたところにマスターがおいでになり、何も言わずに隣に座ってこられて膝の上に乗せられたところです。

 

 こうも毎日密着されていては、こちらの理性が吹き飛んでしまいそうで怖いです。

 ずっと胸がどきどきとしていて、今にも破裂してしまいそうです。

 

 でも、幸せ⋯⋯。

 

 シロがされるがままに手を握られたり肩口に添えられた頭を撫でられたりしていると、透は不思議そうに顔をしかませてふやけきっているシロに顔を向ける。

 

「なぁ、シロ。ちょっと手を握ってくれ。全力で」

「構いませんが、どうかしましたか?」

「ちょっと気になって」

 

 神妙な表情を浮かべる彼の言う通り、シロは指を絡める彼の少しだけ大きな手を有らん限りの力を込めて握ってみせる。

 

「あ、あれ?」

 

 だが、結果は予想より外れてしまう。

 力ませているはずの手にはあまり力が入らず、頭のなかでは骨を軋ませて手を振り離す透の姿が見えたのに、現実ではなんともないというふうに握られている手を見つめる透がいた。

 

「痛くないですか?」

「全然」

「我慢とかは」

「してないよ」

「あれれ⋯⋯?」

 

 シロはなおも手を握るが力が入る様子はなく、唸るばかりでびくともしない。

 むしろ透が握りあう手に力を込めれば、体格差で負けてしまいそうになっている程である。

 

「ビーチバレーの大会の時かな、気になってたんだ」

 

 透は互いに握り合っている手をほどき、話を続ける。

 シロはさっきまで握っていた手を摩りながら「恋人繋ぎ⋯⋯」などと呟きつつ、透の話に耳を傾ける。

 

「なんか昔に比べてさ、シロ。弱くなったんじゃないか?」

 

 至近距離で発砲された弾丸を打ち落とすほどの芸当を見せていたシロが、まさか平手で打たれたボールを追いかけられないというのは些かおかしい。さらに言えば、身の丈よりも大きい武器を振り回していたような彼女が、虚を突かれたとはいえ腕を引っ張られただけで体勢を崩したことも、透は不審に思っていた。

 

「私が、弱くなった⋯⋯?」

「そうなったと思う」

 

 透の言葉に納得いかなかったらしいシロは透の膝脳から飛び起きて、二回にある物置もとい彼女の部屋まで走り、いつからか見なくなったピンク色のハート型ポーチを持ち、キリン装備に着替えて降りてきた。

 

「まだ決まったわけではありません! 装備を着れば武器だって!」

 

 そう言いながら彼女はポーチから剣と盾のストラップを放り投げ、宙で肥大化したそれを掴んだ瞬間。

 

「はえっ?」

 

 腕が武器の重量に負けて床に崩れ落ち、ばごん、と派手な音を立てて床に凹みを入れた。

 すぐさましゃがんで持ち上げようとするが、弓矢の弦のように張り詰めた腕が曲がることはなく、むしろ膝は床について立ち上がることはなく、そのまま沈んでしまうそうだった。

 

 武器の下敷きになりそうなところでシロは武器をストラップに戻し、そのまま四つん這いになってぜえぜえと肩で息をしている。

 

「どうして!?」

 

 その言葉には、只管困惑している彼女の感情が載せられていた。

 透はシロの前に膝を着き、息を切ら急いている彼女の肩を抱いて優しく起こしてやる。透に支えられて顔を上げるシロは、今にも泣きだしそうな、行き場のない怒りが爆発しそうな、酷く歪んだ感情を抑えきれずに唇を噛んでいた。

 

 狩りをしてないから? 武器を振るっていないから? 感覚が鈍ったから?

 

 

 それともこっちの世界に身体が慣れたから?

 

 

 一つの答えに辿り着き、ハッとなって口を塞ぐ。

 

 こちらでの生活に、マスターとの生活にうつつを抜かし、狩人としての何もかもを全てさび付かせてしまった。

 まともに剣を握ったのはいつだっけ、スキルを使ったのは? 狩りをしたのは? 薬品の調合は? アイテムの手入れは? 武器の扱いは?

 

 死ぬかもしれない戦いをしたのは?

 

 全てが遠い過去のようにおぼろげに消えて行っている気がして全身が泡立つ。自分を作り上げていたものが失われて、何も残らないような気がして、自分という存在が何処にも残らないような気がしてならなかった。

 

「シロ」

 

 震える腕で体を抱き、浅い呼吸を繰り返すシロを、透は包み込むように抱き締める。

 

「マスター……私、私は……」

「いいんだよ、弱くなっても」

 

 耳元で語りかける透の声は優しく、穏やかなものだった。

 

「正直、心の何処かで安心してる自分がいる」

「え……?」

 

 明らかに弱くなって、守れなくなっているというのに、何故マスターは笑っているのですか?

 

「なんか、角がとれたっていうか、馴染んできたっていうかさ。シロが普通の女の子になってる事がなんとなく嬉しいんだ。自分勝手だとは思う」

「マスター……」

 

 へたり込むシロは無気力な眼差しで透を見上げる。

 

「もう、きっと、マスターを守ったり出来ません」

「俺が強くなればいいじゃん」

 

 光の失った彼女の髪を撫でながら、透はシロの言葉に優しく答えていく。

 

「スキルだって使えなくなるかもしれません」

「生活に必要な技を身につければいいさ」

 

 呆けていたシロの目には涙が溜まり、今にも決壊しそうだった。

 

「私、狩人でなくなったら、何が残るんですか……?」

「シロはシロだろう? ハンターじゃなくなっても、武器を取れなくなっても、君は君だ」

 

 何も残らなかったとしても、それが今のシロであり、それまでの彼女とは違う新しいシロである。

 それも全て受け入れてこそ彼女を愛せると、透は信じていた。

 

 

「残念だけど、そうはいかないんだ」

 

 

 空気の読めない誰かの声が、冷たく部屋に響いた。

 

「プロトガンナー黒式。参上」

 

 角が生えた仮面を被る彼女は、今までのどの時よりも冷徹な空気を纏っていた。




 ガンダムユニコーンはだいたい10年前。
 ウルトラマンゼロもだいたい10年前。

 XXが発売されておおよそ三年、Xから五年経ちましたが皆様如何お過ごしでしょうか。
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