キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 進捗駄目でした。

 妄想が進んだので着手した次第です。




六十二話 誰もいない記憶

 楽しい楽しい夏休みも終盤戦。

 

 八月の後半に何をするわけでなく、いつもと変わらない惰性の日々。

 

 天変地異など関わりもない平凡な日常は何かもの足りないような気がして、しかしそれがなんなのか分からないまま漠然とした喪失感だけが心の内に広がっていた。

 

「おぁよぉ~……」

「おはよう楓姉さん」

 

 まだ大学は夏季休業中で家にいる姉から間の抜けた返事を貰い、半ば舟を漕ぎながら椅子に座る駄姉の前に皿を置く。

 

 食卓に透の作った朝食が用意され、いざ手をつけようとしたところで楓ははて、と首を傾げた。

 

「透くん、これ誰の?」

「は?」

 

 言われて指を指した先には誰も座っていない席の前に出されていた食事。

 

 作った自分と帰省中の姉、そしてもう一人分用意していたそれに、透自身理解出来なかった。

 

「誰の、だろう」

「もぉー。寝ぼけてるの?」

 

 姉のからかいに多少イラつきながら、多めに出した皿にラップをかけて冷蔵庫に閉まっておく。

 放っておけば姉が食べるだろうから。

 

 

 今日は出掛けねばならない。

 友人に遊びに誘われている。

 どうせ家にいても暇を持て余して落ち着かないので家を出ることにした。

 

「行ってきます」

「いってらっしゃ~い」

 

 お世辞にも残暑とは言えない日照りの朝から家を出る。

 

 首を伝う汗を指の腹で拭いながら、日陰の道を選んで歩く。

 いつも通りの道のり。

 変わらないはずの歩み。

 

 どうして腕が軽いと感じるのだろう。

 

 何も触れていない掌に奇妙な違和感を感じて少しだけ握り締め、訳も分からずポケットに突っ込んだ。

 

「……気が狂う」

 

 加藤宅に着いてチャイムを鳴らせば、だらしない格好をした茹だるそうな加藤がアイスを食べながら玄関の扉を開けて出てきた。

 

「来たな? 手伝え」

「開口一番にそれか」

 

 懐から取り出したゲーム機を見せつけながら加藤は不敵に笑う。呆れつつ家に上がらせてもらい、早速二人で通信プレイに勤しんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「親御さんは」

「仕事。静かでいい」

「静かすぎるのもあれだけどな」

 

 友人の部屋に案内され、持ってこられたジュースをペットボトルのまま呷って喉を潤す。

 

「お、装備変えたのか?」

「あ? あぁ、うん」

 

 指摘されて画面を見ると、今まで通りそこにいるハンターは、これまでとは違う格好をしていた。

 

 確かにキリンシリーズの複合装備ではあるが、各部がすべて別のものに変えられており、整っていた前期型に比べて少し疎らな印象があった。

 

「なんか、カッコよさに振ってるな」

「そんな感じ」

 

 XRの長い髪は腰まであろうかというほど。

 チューブトップで腹部は剥き出しになっているが、腰はローブを纏い膝から下はブーツでしっかり固めている。

 左右非対称の腕には末広がりな革の袖と、格子状に余れた結び紐がそれぞれ二の腕から手首まで伸びている。

 

 これまで通りチャージアックスを背負っているが、種類は角竜(ディアブロス)のものから閣蟷螂(アトラル・カ)のものに変わっており、鈍い金色が怪しく光る。

 

「まぁいいや、二つ名やるぞ燼滅刃」

「めんどくせ」

 

 いざ狩猟が始まり、角笛の小気味良い音を奏でて二人と二匹が出発した。

 

 燼滅刃の斬撃を防ぎ、粉塵の爆破をいなし、瞬く間にブレイブゲージを溜めて速攻でブレイブ状態に持っていく。

 青く発光する盾を確認して剣と盾を合体させ、強撃瓶の強攻撃を連発し、ものの数分でモンスターが沈む。

 

「やっぱ、つえぇわ」

「どうも」

 

 テンポよく次へ次へとクエストをこなし、レベル1から始めた燼滅刃は既に超特殊許可クエストまで出現させ、あっという間にクリアしてしまった。

 

「強くね?」

「なれた」

「廃人かな」

「もう手伝ってやらないぞ」

 

 その後も加藤の思い付きのままあれやこれやとクエストをこなし、資金も素材も有り余ってボックスから溢れる程貯まった。

 

 時計を見れば昼時を回る頃。

 何か作るか、いや食べに行こうと話が落ち、一旦ゲームを閉じて二人で飯を食いに行った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 少し歩くと町中に出た二人は、近くのファミリーレストランに逃げ込んで屋内の冷房を全身に浴び、水にさらしたミイラのようにふやける。

 

「死ぬかなと思った」

「あっち……」

 

 出されたお冷とドリンクバーから注いできたジュースを飲み干し、ようやく昼食にありつく。

 

 注文して開いた時間、加藤は窓の向こうの景色を眺め、透は懐から取り出したゲーム機を開き、飽きずにソロプレイに励んでいた。

 

「おま、まだやる気か」

「楽しいし……あとなんかもやもやして」

 

 加藤は肩を落として椅子の背もたれにもたれ掛かり、呆れたように上を向く。

 

「……今なにやってんだ」

「ヒストリー2」

「ストイックだわ」

 

 会話しながらも透の目線は画面に釘付けになっており、瞬く間にモンスターが地に伏していく。

 

 しかしどれだけモンスターを屠ろうと、透の心の雲が晴れることは無かった。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

 血濡れた闘技場。

 生暖かい返り血を浴びて紅に染まった真っ白い一角の剣士は脱力しているが、手に持った盾と剣はひしと握り締めて離さない。

 

 辺りに転がる殺めたばかりの有象無象はどれもこれも暴れ狂っていた獰猛個体だったが、関係無いと言わんばかりの勢いで斬り、打ち、砕いた。

 

「…………」

 

 何も感じない。

 恐怖も、怒りも、喜びも。

 今まで感じていたそれらの気持ちが嘘のように消え失せ、果てしない虚無感だけが心の内に広がっていた。

 

 背後に無機質な視線を感じる。

 飽和した達成感はもはや何も喜びを与えてくれない。

 きっと飽きてしまったのだろう。

 

 それとも思い出せないのだろうか。

 どちらにせよ、二度と会うことはない。

 

「マスター……」

 

 




 シロが戻った理由は次回に回す惰性。
 
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