キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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六十三話 もう一度

 熱波。

 

 陽炎。

 

 蝉時雨。

 

 

 ひりつく太陽から逃れて公園の日陰になっているベンチで加藤と二人、アイスを頬張りながら二画面携帯ゲームハードにかじりつく透は、さっきまでとは違うデータでプレイしていた。

 

「なぁ、いくつデータ作ってるんだ?」

「三つ。内二つはお守りマラソンも終わっている」

「キメェ」

 

 やり込み要素を終わらしているという発言に加藤は心のままの感想を垂れながら棒アイスから棒だけを引っこ抜く。そのまま仰向けで流し込むように実の部分を飲んだ加藤はそのままベンチにもたれ掛かる。

 

 その横で一心不乱に遊んでいる透のゲーム画面をなんとなく眺め、さっきとはデータが違っていたことに気が付いた。

 

「お、男でやってるのか」

「おう。なんかこっちでもやってみたくてさ」

 

 そうかと言いながら加藤はベンチから立ち上がり、小銭入れを鳴らしながら飲料水を求めて自販機にかけていった。

 

 太陽に焼かれながら飲み物を買いに行った加藤の背中を眺めていた透はすぐに視線を手元のゲーム画面に戻す。

 すると画面の向こうにいる自機の男と目が合い、次の瞬間男が迫って画面から腕を伸ばしていた。

 

 

 ミツケタゾ。

 

 

「は?」

 

 画面の中から出てきた腕に頭を捕まれ、抵抗をする暇も与えてくれなかった謎の腕にされるまま透は画面の内に引きずり込まれた。

 

「お待たせ~……あれ、村崎?」

 

 二本の缶ジュースを持って帰ってきた加藤は閉じたゲームハードだけが転がっているベンチの前で立ち尽くしていた。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「なんだここ……」

 

 暗転した世界。

 自分の存在ははっきり確認出きるのに、周囲は何があるかもわからないような暗闇で、舞台上でスポットライトを当てられているような自他の明暗のギャップに違和感を覚える。

 

 気が付いたか。

「お前、誰だ?」

 

 目の前には見知らぬ男が一人、いつの間にか現れてピクリとも動かずに立っていた。

 マネキンのような、つるつるした無機質な白さを見せる全身は毛の一本も生えておらず、辛うじて人としての輪郭を保ってはいるものの、顔に一切のパーツは無く、全裸だというのに穴も棒も見当たらない。

 

 私はハイパーエージェント、赤い男(レッドマン)

「色々あぶねーよ」

 

 なんだコイツ。

 本当になんなんだコイツ。

 ヤバイ、変なやつに絡まれた。

 逃げ出したいのに逃げ場がない事が既に問題で、さらに頭に問題を抱えたやつが目の前にいて絡まれているこの状況も一周回って大惨事だ。

 

 案ずるな。

「案じてるのはお前の頭だ」

 

 何がレッドマンだ。真っ白じゃねぇか。

 目の前のマネキン野郎は腰に手を当てていかにもやれやれと言いたげに頭を振っていて余計に腹が立つ。

 

「帰りたいんだが」

 お前を返すわけにはいかない。

 

 どうやらただでは返してくれないようだ。

 何をすればいいのか検討もつかないが、何をねだられても与えてやることが出来ないはず。もしもコイツが狙っているものが俺の菊の花だとすれば、俺はコイツを殺さなくてはいけない。

 

 何も変なことはしない。

「目的は」

 

 一先ず私と一つになれ。

「やっぱりそれが狙いか!」

 

 にじりよってくるマネキン野郎を目前に尻を押さえながら決して背を向けないよう、後ろ歩きで逃げようとするが、浮いているような感覚のこの空間では逃げる先もない。

 

 チクショウ端から嵌められてたのか!

 

「俺に近づくな変態!」

 お前も私を変態と呼ぶか。ふはは。

 

 何を笑っていやがるこのやろう。

 絶対に逃げてやる、そんな意気込みも虚しく俺は変態に捕まってしまい、モゾモゾと全身をまさぐられながら空間の闇に飲み込まれていった。

 

「これはなんだ!? 何処に連れていく気だ!!」

 案ずるな。彼女の居る所だ。

 

 なに、失った記憶はあちらにある。取り戻せるはずさ。

 

 何を、言って……。

 

 

 闇に呑まれ、身体の輪郭が消滅するような喪失感が指先から這い上がってとぷんと自分が消えた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「こ、こは……」

 

 寝心地の悪さで目覚め、飛び起きると石造りの部屋のなかに居て、尻を触って確認したところどうやら処女はまだ失っていないようだった。

 

 全身をまさぐってすぐに自分の異常に気が付く。

 

 まず服装が違った。

 家を出てから来ていた半袖とズボンではなく、やたら白い革のような素材の服装……否、防具だった。

 グローブやブーツ、ベルトに脛当や胸当てなど、淡い燐光を持っているようなそれらの装着物は何処かで見たことがあった。

 

 そうだ、ゲーム。

 些かサイズが縮こまっているが、ゲームの自機に身に付けさせていた装備と全く一緒だった。

 

 待てよ、じゃあ今、俺は一体誰だ?

 

 部屋中を見回し探し回り、鏡か反射する物を求めて壁や天井、ベッドの下やポーチ等を漁ってようやく手鏡を見付けた。

 

 大の男が手鏡片手にマジマジと自分の顔を覗く姿は実に滑稽だとは思うが、それでも今自分がどんな格好でどんな顔をしているのか気になった。

 

「いつもの、俺だ……」

 

 馬の頭部を模した頭飾りを押し上げながら此方を覗いていたのは、見慣れた平凡でつまらなさそうな顔をしている自分だった。

 

 しかし違う点もある。

 骨格は自分の物と変わらないが、骨の回りにへばりついている筋肉等の密度が決定的に違っていた。貧弱なもやしだったはずだが、一緒になった(仮定)影響でその辺りにも何か起こっているのか。

 

 それにしたってレッドマンと名乗っていた。

 

 その名前は、ついさっきまで使っていたデータのキャラクターではないか。

 コイツも一緒なのか?

 

 まて、()()()()

 

 肩で息をしていたのも束の間、疑問符だらけの頭のなかに突然頭痛が脳天に突き刺さって頭を抱える。

 

「次、からッ……次へと……ッ!」

 

 割れるような痛みはすぐには治まらず、傷跡を残すようにひび割れる痛みを引きずって頭前から後ろへ流れるように去っていった。

 

 訳もわからず混乱するこの状況に苛立ちながら、痛む頭を押さえて一先ずは現状の確認を取る。

 

 まず自分。

 服装が変わっている。手鏡で見るにキリン装備を着ているらしいがあまり露出が少ないのは有難い。

 

 次に部屋。

 石畳の部屋には簡素なベッドとそこそこ大きいボックス。それと暖炉があり、見覚えのあるこの間取りはモンハンのベルナ村にあるマイハウスと同じものだった。

 

 最後は突然起こった頭痛。

 今のところ問題はないが、治まってから変な記憶が甦った。

 

 消えた女の子。

 

 そんなフレーズが頭の奥に傷跡を残し、腑に落ちないまま今の状況と照らし合わせる。

 

 ゲームの世界に迷いこんだ……というより引きずり込まれた。

 思い出したのは目の前で女の子が消えてしまう記憶。

 

 

 誰かに連れていかれた、真っ黒な少女に……。

 

 

 断片的な記憶はそこで途切れていて、手掛りになりそうなもなのもない。

 ここで足踏みしていてもしょうがないので気持ちの整理をするのと外の空気が吸いたくて表へ出ると、晴々とした青空と石や木造の家々が点々と建ち並ぶベルナ村の景色が見えた。

 

 飛行艇の着陸地点が近いだけあって標高は高いらしく、山岳が近場にあり日が昇っているのにうすら寒い。

 

「すっげ……」

 

 一度は行ってみたいと思っていた場所が現実となって今目の前に広がっており、一端のハンターとして存在している自分がなんだかイレギュラーのような気がして落ち着かなかった。

 

「お、おはよう! 今日もキリン探しに行くのかい?」

「はぁ?」

 

 突然話しかけてきた同業者らしい格好の男に声をかけられ、妙な内容の質問に思わず素っ頓狂な声が漏れた。

 

 キリン探し?

 狩るのではなく?

 いやまぁ古流なわけだしそもそも探すところから始まるのも理解は出きるが、何故ピンポイントにキリンなのだろうか?

 

 男データでのキリン装備集めのため一時キリンのクエストを漁っていたが、それが原因だろうか。

 

 キリン装備……。

 

 キリン……。

 

 やけに引っ掛かるその響きにまた頭を痛めつつ、情報収集をするべく話しかけてきたそいつともう少し話し込む。

 

「あぁ、何か新しい情報とかないか?」

「そうだな、何でも最近『真っ赤なキリン装備の女ハンター』がよく出るって話だぞ」

「赤いキリン装備?」

 

 はて、そんなもの見たことも聞いたこともないが。

 キリン装備は原種の白と亜種の黒、限定的だが希少種の金色が存在するらしいが、赤は今まで聞いたこともないし、このMHXXでも見たことがない。

 

 ただ、防具の彩色変更で赤くすることも出来なくはないが、キリン装備の殆どはピアスだったりバンド部分だったりと、地味なところの色しか変わらなかったと思うのでこれも定かではない。

 

「赤……これまた親近感の沸く色だな」

 

 そいつと別れ、極力怪しまれないよう片手剣ぐらいは担いでおこうと一振り腰に身に付け、片手を右手に集会所に赴く。

 

「別段変わったやつはいないけど、クエストに行ってるのか?」

 

 カウンターに座ってファイルを整理していた受付嬢のお姉さんに声をかけ、例のキリン装備?ハンターについて訪ねる。

 

「そういえば、最近キリン装備の方が連日クエストに出掛けていますよ」

「その人の特徴とかはわかりますか?」

 

 なんでも幾つかのクエストを同時に受け、ひとつ終われば次の狩場に直接出向いてまた狩猟……というサイクルを延々と繰り返している女ハンターがいるらしい。

 

 その女ハンターは変わったキリン装備を着ていて、殆ど集会所に戻ることもなく狩りを続けているので返り血にまみれて真っ白なキリン装備が深紅に染まっているのだとか。

 

「報告では一度に受けていかれたクエストはほぼ達成されているので、もうそろそろ戻られると……あ、帰ってきましたね」

 

 受付嬢の言葉に振り向いて見回すと、丁度竜車から降りてきた例の女ハンターが盾斧と大きな包みを背負い、荒んだ眼差しで虚空を眺めながらとぼとぼ歩いていた。

 

 純白のキリン装備は返り血にまみれて真っ赤に染まっており、腰まである長い髪は手入れがされていないのかバサバサになっており、それを側頭部の髪を左右から挟んで申し訳程度に結わえている。

 

 肩や腹が見えている防具だが、身体の全面を中心に鮮血を浴びたのか殆ど原色は見えないくらいに血濡れていた。

 

 そして何より、変わったキリン装備と言われていたことが気になっていたが、彼女を目にしてそれが今理解出来た。

 

 

 

 

「し、ろ……?」

 

 

 

 

 彼女の名前を呟いた瞬間、遠くを歩いていたシロと目があった。




 まずは、今まで失踪していてすみませんでした。
 色々あって逃げてました。

 逃げたので帰ってきました。

 別の作品と平行して書いていたのですがそれが難しくなり、日々の仕事に追われ話の流れも手放してしまい自分のなかで燃え尽きてしまってました。

 亀のような更新になりそうですが、こんなものもあったな、と読んでいただけたら幸いです。

 よろしくお願いします。

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