キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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 投稿を再開したものの、筆の進みは遅いです。





六十四話 焦がれた再会

 彼の視線を感じた。

 

 果てしない境界線からではない、生々しい視線を。

 

 間違えようはずもない。

 ハンターになったあの時からずっと、励まし背を押してくれていたあの視線を。

 

 狩りの最中でもないのにそれを感じ、思わず視線のした方を見ると珍妙なキリン装備を着た小柄な男のハンターが立っていた。

 

「ます、たー?」

 

 呟いたかどうかわからなかった。

 気づいた時には身体が勝手に走り出していて、手に持っていた報酬の包みも投げ出しもつれそうになる足をひたすら前に出しながらの全力疾走。

 

 何をしているのか自分でもわからなかった。

 

 それでも動かずにはいられなかった。

 

 ずっと会いたかった。

 

 無理やり別れさせられたあの日から、ずっと会いたいと思ったいた。

 

 突然走り出した私に驚いている彼はその場でたじろいで動かないが気にしない。

 近付くに連れて感じる匂いや音は多少違っていたりするが、彼から感じる視線は本物だった。

 

 

 

「マスターッ!」

 

 

 

 目前で彼の胸に飛び込み、慌てている彼の意見も待たずひしと抱き着いてそのまま倒れる。

 

 ばたんと勢いよく倒れたが気にしない。

 色んな衝撃で動かない彼の肩に額を擦り付け、背へ回した腕に有らん限りの力を込めてぎゅうと抱き締める。

 

「マスター、マスター、マスター……!」

 

 どれほどこの日を待ちわびたか。

 もう二度と会えないと諦めていたのに、あの日々以上の幸せなんて味わえないと思っていたのに、彼の隣にはもう立つことはないと思っていたのに。

 

 それが叶うなんて、なんて夢のよう。

 もしこれが夢だったらどうしよう。

 だったら目が覚めるまでこうして抱き締めていよう。

 

「ずっと、会いたかったです……」

 

 腕のなかでもぞもぞしている彼を他所に再会を喜ぶシロ。

 

 突然飛び付かれて仰天している彼はなにがなんだか分からないという風に呆けた顔をしていたが、急に頭を押さえて唸りだした。

 

「うぐっ……! が、あぁ……ッ!」

「ま、マスター!?」

 

 ひとしきりのたうち回って踠き、プツンと事切れたように大人しくなって荒い呼吸を繰り返している。

 

 おろおろと狼狽えていると彼は私の肩をぎゅっと掴んで起き上がった。

 

「思い、出したぞ……」

「マスター……?」

 

 泣きべそをかきながらひきつったしかめ面で虚空を眺めている彼の顔を覗き込む。

 何かぶつぶつ呟きながらふと私に視線を戻した彼は、苦しそうな顔をふと綻ばせ、慈雨のような笑みを浮かべた。

 

「ようやく会えたな、シロ」

「…………まぁずぅうだぁぁああ~~~~~!!!!」

 

 胸のなかに再び頭を埋め、止めどなく溢れる涙を拭いもせず心のままに泣きじゃくる。

 そんな私を彼は優しく、あやすように頭を撫でながら慰めてくれる。

 

 この温もりが、何よりも嬉しかった。

 

 

 ◇

 

 

 シロと思わしき人物と目があった。

 

 一回瞬きをしたら彼女が走ってくるのが見えた。

 

 もう一度瞬きをしたら彼女がもう半分程距離を積めていた。

 

 気がついたら視点は青空を見上げており、身体は芝の上に大往生して倒れていた。

 

 彼女は俺の胸の中で大泣きしながら「マスター」と嗚咽混じりに呟くだけだった。

 

 訳も分からず、いきなり飛びついてきた彼女の所存を聞くべく首に回されている腕も退けるため起きようとしたら、突然さっきと同じような頭痛に苛まれてかち割れるような痛みに苦しめられる。

 

「うぐ、が、あぁ……!」

 

 欠けていた記憶、隠されていた人物像。

 今までの自分の中の記憶のなかに確かにいたもう一人の同居人。

 

 晴れやかな笑顔を浮かべ、白い格好がよく似合う歳の程同じくらいの、たった一人の女の子。

 

「思い、出したぞ……」

 

 パズルのピースが填まるような、パーツが綺麗に揃う感触。

 記憶のなかで乱雑に、しかし確実に欠けていたシロとの思い出。

 

 この数ヶ月の間ずっと一緒だった、大切な記憶。

 酸いも甘いも味わって、やっと築き上げたシロとの関係を、よくもぬけぬけと忘れていたものだ。

 

「ようやく会えたな、シロ」

「…………まぁずぅうだぁぁああ~~~~~!!!!」

 

 たくさん謝ろう。

 彼女が心から許してくれるまで。

 

 たくさん愛を囁こう。

 彼女の笑顔が戻るまで。

 

 

 ◆

 

 

「なんだこれは」

 

 窓から差し込む日光から逃れるように、卓上に並べた薬品と種子を交ぜて弾薬を調合していると、不意にアイテムボックスに入れていた淡く白色に光るとかげのような蟲『銀子』が踠くようにのたうち回っていた。

 

 下手なことをすれば自分の記憶すら食われかねないので傍観を決め込んでいたら、突然トカゲの口から白いもやがふわりと浮いて、窓の外へ漂っていった。

 

 このトカゲが食うのは人の記憶。

 ならば出ていったのは誰かの記憶だろう。

 誰か何か思い出したのか。つい最近食った記憶と言えば。

 

「まさか……そんなのあり得ない」

 

 どうにも胸がざわつく。

 いても立っても居られなくなった私は仮面を被り、武器を担いでアイテムの詰まったポーチを腰に下げ、ハウスから飛び出る。

 

「こんな再会、望んじゃいないんだよご主人……!」

 

 黒い射手は憤りを胸に秘め、己の主の執念深さを今一度改めて感じた。




 争いは避けたいですが、どうなるかはまだ不明です。

 応援、文句、なんでも受け付けます。
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