キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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六十五話 払うべき代償

 二度と会うことはないと思ったいた人との再会に号泣しながらひしとしがみついて離れないシロに首を絞められる透は飛びかける意識で彼女を抱き上げ何とか命を取り留める。

 

「一先ず、落ち着けるところに行こう」

「ずっ……はいっ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彼女のマイルームにお招ばれされ、嬉しそうにパタパタと駆け回るシロを座らされた席から目で追う。

 

 ベルナ村は石造りの家が殆どで、ここも例外ではなく積み上げられた石の壁には化石のようなものが垣間見える。

 

 一メートルくらいはありそうな筒に棒を突っ込み、ピストン運動をした筒から液体を注いだシロはそこに塩を振り、ソーサーに添えて机に並べる。

 

「お茶をどうぞ!」

「お構い無く」

 

 渡されたお茶を一口啜ると、ほどよく塩気の効いたわかめスープのような、独特な味がした。

 

「変わったお茶だね」

「ムーファの乳で作ったバター茶です!」

 

 羊毛だけじゃなく乳も取れるのかあの羊。

 お茶をしばきながらじっとこちらを眺めて感想を待つ彼女に妙にこそばゆい感じを受けて視線を逸らすが、泳いで行き着く先は彼女の瞳だった。

 

「美味しいよ」

「やった! あ、他にもお料理とかあるんですが……」

「シロ、本題いいかな」

 

 火元の近くであれこれしていたシロは透の言葉にピタリと動きを止め、向かいの椅子にゆっくりと腰掛ける。

 

 本題とはシロのことと、自分自身のこと。

 

「シロはこっちの世界とあっちの世界、どっちに居たい?」

「それは……」

 

 半ば無理やり連れてこられたとは言え自分はこの世界の住人ではない。

 出来るなら帰りたいが、おいそれとシロはそうもいかない。シロにとってはこっちが故郷なのだ。簡単には帰れないからこそ、彼女の意思を尊重したいし、もしそれが今生の別れになったとしても、悔やまない。

 

「どうするか……」

 

「問題はないよ、ご主人」

 

 建物の窓から聞き慣れた声がした。

 

「やぁ、久しぶりだねご主人。二度と会いたくなかったよ」

「……クロ」

 

 最後に見たときと同じ、二本角の生えた黒い仮面を着けたクロが背に背負う武器に手をかけた臨戦態勢で出迎えてくれた。

 

「変な身体だね。魂と肉体に隔たりがある、借り物だから?」

「そんなところだ」

 

 透の今の状態を即座に分析して状態を確認するクロは珍しい生き物を見るように無遠慮にじろじろと透の身体を舐めるように見ていた。

 

「出来ることなら今すぐお帰り願いたいけど、どうやらしばらく猶予はあるみたいだ」

 

 そういってクロは武器にかけていた手を退け滲ませていた害意を消す。

 

 場所を変えようと言われたので、シロに目配せして恐る恐る彼女のあとを着いていく。

 

「あっちにいるだけこっちでの存在がすり減る。存在が消えるんだよ」

 

 曖昧さやギャップを埋めようとして無理を通すんだ。

 どんな手段で行っても同じ。あちらの世界で存在しているのは魂の残留が形を保っているだけで、本体は世界の狭間に遮られる。

 

「文字通り、存在する世界が違うんだよ」

 

 自分がそうだった。

 特殊な蟲の力であっちに行ったのに日が跨ぐ頃には体力の有無にかかわらず身体の感覚が薄れ、鉛を縛り付けているかのような倦怠感に襲われた。

 

 こっちに戻ってきたら身体の重みは消えたけど、それでも戻った瞬間身体は疲労にまみれてた。

 

 あっちにずっといるなんておかしい。そう思って白いのを時々観察してたらこの前ようやくガタがきてた。

 

「愛されていた証拠だ。お前はご主人にとって特別だったんだ」

「それは貴女だって……!」

「メインデータとして、一緒に研鑽重ねて切磋琢磨してきたようなお前にはわからないさ」

 

 現に私は向こうに一日、二日居るのが限界だから。

 だというのにシロは降り立ったその日から何ヵ月も向こうの世界に居座り、ほとんどなんの弊害もなく存在し続けた。

 

「向こうにずっといたいのならそれ相応の代償を払うことだ。あるものならね」

 

 それだけ愛され、思い出いっぱい詰まったメインデータにはゲームとしてじゃない、そこには人に向けるべき愛があったんだ。

 

 

 所詮私はサブデータ。

 

 プロトガンナー(おためし品)に愛情なんてない。

 

 それでも私はこうして自我を持ってしまった。

 

 でも彼とは一緒にいられない。

 

 そんなの嫌だ。

 

 

 そのために子供を作ろうとした。

 けれど嫌な感情が邪魔をして、幾度となく訪れた機会をことごとく無駄にした。

 

 どんな形であれ繋がりの強い贄を出すことで継続した滞在が可能であり、そうしようと彼に迫ったりしましたが途中で思い留まり計画を中断、シロを連れ戻して全て無かった事にしようと思った。

 

「考える時間なんてあげないよ。無理なものは無理、諦めなよ」

 

 クロはマガジンを差し込んでリロードする。

 

「初恋なんて実らないものさ」

 

 たかが一人の人間がどうにかできるほど世界の理とは簡単なものではない。

 

「どうして足掻くんだい」

 

 無理、無駄、非効率、そんなものを切り捨てて私を作った君が、何故今さらそんなことをしている。

 

「今度こそサヨナラだ、ご主人」

 

 仮初の身体を殺せば彼は消える。

 引き金に指を掛けたクロは一思いに透の頭を撃とうとした瞬間、透は緊張の抜けた笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

「クロ、ありがとな」

 

 

 

 

 

 一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。

 

「……この期に及んで何を言ってんだい?」

「何って、ずっと俺を心配してそんなこと言ってるんだろ?」

「っ……」

 

 一歩、クロに向かって進む透。

 連れて気圧されるように後退するクロ。

 

「でもな、好きになった女の子を放ったらかしにできるほど人間が出来てないんだ、俺」

 

 透の声に怒気はない。

 優しく、しかし芯は一切震えていない。

 

「足掻かせてくれ」

 

 壁まで追い詰められたクロは手放し掛けたボウガンを構え直し、透へ銃口を向ける。

 

「私たちを作ったのはご主人だ」

 

 事実だった。

 

「私たちに魂を籠めたのはご主人たちだ!」

 

 感謝だった。

 

「作り物の世界で、想いは人の形に籠められて息づいた、その結果この世の片隅に生きる人形が生まれたんだ!」

 

 憎悪だった。

 

「私たちだけじゃない、沢山の人が自分のキャラクターに想いを籠めた、沢山の人形が息づいた、けどそのどれもがそんなこと知らずに生きてるんだ!!」

 

 結果だった。

 

「私たちを生み出してくれたことは感謝してる、だからご主人につらい思いをさせたくなかったんだッ!!」

 

 本心だった。

 

「なのに、なんで自分からこんなところまで来ちゃうんだよぉ……」

 

 武器が腕からこぼれ落ち、クロはその場にへたりこんでおいおいと泣きじゃくる。

 

「ごめんな……クロ」

 

「ご主人の、ばかぁぁぁ…………!!!」

 

 初めて目にするクロの涙に戸惑いつつも、やっと本心を聞かせてくれた事に嬉しさが勝った。

 泣きべそをかくクロを二人で慰め、ようやく話が出来るようになったところで、今後をどうするか改めて話し合う。

 

「話は聞かせてもらったわ」

 

 突然聞こえた声に、その場の誰もが振り向いた。

 

「待たせたわね」

 

 そこには白金色の長髪を大きな三つ編みにして垂らした、紅い瞳の女性が立っていた。




「私の再来よ!」
「落ち着け」


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