キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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本編後の物語
少し先のお話


 アラームの電子音がかすかに聞こえてくる。

 

 ベッドの温かい世界から腕だけを這い出させ、音の発生源である小型デジタル時計を半ば叩くようにスイッチを押し、今日の務めを終わらせてやる。

 

「ぐ、ぁー……」

 

 項垂れるように上体だけ起こし、頭を掻きながら垂れてくる前髪を少しかきあげて、ぼやける意識が覚醒するのを待ちぼける。

 

 カーテンの隙間から差す朝日の眩しさを、ベッドの上から眺めて少し冴えてきた頭でベッドから出ようとして、隣で寝ていたらしい同居人がもぞもぞと同じ様に身体を起こした。

 

「……にゃむ……」

「なんて?」

 

 開いていない目をしながら猫背で俯いたままの彼女は、支えを求める幼子のようにひしとしがみついてかる。

 

 睡魔に抗っているのか「ゔ〜……」と唸ったりしているが、口から漏れている声の半分は寝息へと変わっているのでおそらく睡魔に負けている様子。

 

「おはよ、シロ」

「おあようごじゃいまふ……」

 

 丸まった背中を擦ってやりながら短い言葉を投げかけると、まったく呂律が回っていないもったりした声音で、掠れそうなほど小さい返答が返ってきた。

 

「ぎゅってしてくだしゃい……」

「はいはい」

 

 甘えたがりな同居人はこちらの返事も待たずに両手を体に這わせてきて、頭を擦り付けるように抱きしめてくる。

 寝間着越しの体温は起き抜けで温かく、ゆったりとした脈拍に気を取られて寝入ってしまいそうになる。

 揺り椅子のようにゆったりと上体を揺らしながら、彼女の背をとん、とん、と叩いて彼女の覚醒をじっくり促してみる。

 

 やがてある程度は目が覚めてきたのか、鼓動の音は気持ち早くなり、息づかいは深さを増していく。

 

「今日はずっとこうしてたいです」

「今日だけ?」

 

 いつにもまして甘えん坊なもの言いにちょっとだけ意地悪な質問をしてみる。

 すると彼女は押し付けるようにこちらの肩に頭を擦りつけ、ぐりぐりと左右に振ってくる。要は否定の意だが、まだ血行が行き渡って無いのか弱々しい。

 

「明日も、明後日も、ずっとです……」

「うん」

 

 俺の肩に口元を埋めながら、くぐもった声で彼女は呟く。

 背中に回された両手にやんわりと力がこもり、離したくないという意思表示を示してくる。

 なんとまぁ愛らしい。

 寝ぼけ頭に染みる恋慕が胸をうつ。

 思わず押し倒してしまいそうになるが、朝から盛るのは少しばかり理性に欠ける気がするので、なんとか自重しておく事にする。

 

「じゃあ起きようか」

「や゛〜……!」

 

 気を律してなんとか起きるよう促し、しなだれるシロを半ば引きずるように起こしてベッドから引っ張りだす事に成功した。

 

 

 ◇

 

 

 二人で朝食を囲み、穏やかな朝の時間が流れていく。

 冷たい空気から逃れるように温めたスープを啜り、焼きたてのトーストを一口齧る。

 コーヒーで口の中のものを流し込みながら、俺は今日の予定を頭の中で組み立てていた。

 たまの休日、今日は学校もバイトも無いのでとても暇だ。

 シロも休みなので、なんと二人ともフリー。

 

 よし。

 

「今日は街に行こう」

「むぐ、わかりましたっ」

 

 サラダを頬張りながら頷くシロ。

 久しぶりに二人で居られると知った彼女は、普段にもまして嬉しそうだった。

 

 

 ◆

 

 

 お昼前の午前帯、二人で街に繰り出した俺達だが、別段あてもなくふらふらと街中を徘徊する。ウインドウショッピングに勤しみ、服を見たり、雑貨を眺めたり、カフェに入って腰を落ち着ける。

 

 テーマパークに行っても良かったが、まぁ今日はのんびりと過ごすのもいいかも。

 

 などと考えていたら、向かいの席に座るシロと目があった。

 テーブルの上に鎮座するソーサーを弄りながら、頬杖をついて何やら嬉しそうにニマニマと微笑む彼女。なんだかむず痒くて思わず目を逸らしてしまうが、そんな仕草さえも嬉しいのかより一層えくぼを深くする彼女に辛抱たまらず聞いてみる。

 

「なんだよ」

「いえ、トオル君が私の耳飾りを着けてくれてるのがなんだか嬉しいなぁ、て思って。えへへ」

 

 そういう彼女の右耳に提げられた同じ羽飾りがふわりと揺れる。

 大学に進学した際、記念に何かしたいなと思ってピアスを開けたのだが、その記念にシロから羽飾りの片割れをもらった。

 こうして出掛けるときはよく着けるのだが、今日はお揃いのものをしているようだった。

 

「そういうシロこそ、そのカチューシャずっと使ってるんだな」

「トオル君がくれたものですから、当然ですっ」

 

 けして高いものでは無かったそれを、シロは丁寧に手入れしながら使い続けてくれている。

 

 そんな彼女のにへらとはにかむ笑顔にあてられて思わず顔が熱くなる。

 誤魔化すようにエスプレッソの小さなカップをつまみ、一口で一気に飲み干す。喉の焼けるような熱さで頬が緩むのを有耶無耶にし、早々に店を出る。

 

「ほら、行くぞ」

「ふふふ♪」

 

 だらしなく口角を上げるシロに腕を組まれながら、しばらく歩いて見つけたのはアクセサリーショップだった。

 名ブランド、というわけでもないのか値段はそこそこ手に取りやすいが、どれもこれもピンとこない。というより何が違うのか正直わかってない。

 

 ファッションだメイクだのはよくわからないが、姉や友人などにすすめられ色々試すうちにこういったアクセサリーを着けるようになった。

 

 指輪、腕輪、ネックレスにピアスなど、多種多様なシルバーアクセが並ぶショーケースはパッと見豪勢ではあるが、値札をみればそこまで高くないので複雑な気持ちになる。

 

 俺が色々と見て回る傍ら、シロも別で商品を眺めていた。

 その中でもシロが見ていたのはお洒落などでつけるようなものではなく、人に贈るようなウエディングリングだった。

 

「指輪、ですか?」

「うん」

 

 ショーケースに並べられた輝びやかなリングの数々は、どれも小さな輪の中に秘めた大きな個性を存分に魅せていた。

 

「それは結婚指輪だよ」

「けっこ……っん……!? はわー……」

 

 なんの為のものかを知って途端に目の色を変えるシロは、またまじまじと指輪を眺めながら興奮気味に息を漏らしていた。

 

「やっぱり憧れるものなの?」

「いぁ、いえ!? そんな、そんなヤマシイ気持ちではなくてですね!? あの、えっと、その、うぅ……」

 

 具体的な未来像を想像していたようで、耳まで真っ赤にしながら否定したいのか肯定したいのか要領を得ない言葉を連ねるシロの手を取り、まだ何も填っていない薬指を撫でる。

 

「いつか君にプレゼントしてあげられる時が来るまで、待っていてくれますか?」

 

「〜〜〜〜っ……はいぃ……」

 

 空気の抜けるような声で返事をするシロが何より可愛くて。

 彼女の事を好きになって良かったと、心から思う。

 

 いつか二人で約束を果たせられるよう、今できる事をしていこう。

 俺はそう彼女に誓った。

 







 どうも屍モドキです。
 完結しといて更新というのもどうかとおもいましたが、思いついてしまったので投稿した次第であります。
 楽しかったです。

 ではでは。
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