キリンちゃんとイチャつくだけの話【完結】   作:屍モドキ

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嘘もほどほどに

 エイプリルフール。

 

 それは嘘をついていい日。

 一日中ついていいとか半日までとか実は企業が願掛けに始めただとか色々諸説やら言われやらあるらしいが、大雑把に言えば嘘をつく日で間違いないと思われる。

 

 しかしそんな風習、シロのいた世界にあったかどうかは知らない。たぶんなかったと思う。

 

 なので試しに嘘をついてみてどんな反応をするのか見てみよう。

 

「シロー」

「はーいなんですかー?」

 

 家の中、一階から呼んでみると上の方から声がして、パタパタとスリッパで床を鳴らしながらシロが小走りに来た。

 

 目の前で立ち止まった彼女に何を言おうかとすこし悩み、パッと思い付いた言葉を、ここ一番のいい笑顔で伝えてみる。

 

 

 

 

「シロ。大嫌い」

 

 

 

 シロの目から光が消え、体は硬直し、重心バランスを失った体はそのまま後ろに向かって重力に引かれて倒れる。

 

「し、シロっ!?」

「か、かひゅっ、ひっ、ひっ、ほゅっ……」

 

 全身が痙攣を起こして過呼吸に陥り、瞬く間に顔色は青く染まって今にも死にそうなシロ。

 直ぐ様抱えてソファーに寝かせ、布を口許に当てて息を整えさせる。

 

「悪かったシロ、ウソウソウソ、嘘だから、今の嘘だからしっかりしろ!!」

「まひゅ、ま、わたし、きらい、うふふふふ……」

 

 虚ろを見つめながらシロは青い顔のままケタケタわらって止まらない。瞬きを忘れた瞳から止めどなく涙を溢し、更に不気味さを増して後悔する。

 

 自分でも何を言ったか忘れてしまったほど動転した透は、シロが正気に戻るむで只管あやしまくった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「ふんっ」

「ごめんなさい」

 

 腕を組み、そっぽを向き、頬を膨らまし泣き腫らした目元を拭いながら「怒ってます」と全身で伝えてくるシロの目の前で土下座する透は渾身の謝罪をしていた。

 

 まさかたった一言で死ぬ寸前までいくとは思ってませんでした。なんて言えば逆鱗に触れるどころではない。地雷原でタップダンスとはよく言ったものだ。

 

「本当に悪いと思ってるんですか?」

「思ってます。心のそこから思ってます」

 

 まだ涙目のシロが眉間にシワを寄せて睨んでくる。

 いつも笑顔で接しているだけあって怒った彼女に対しての耐性がないので余計に恐ろしい。

 大人しい人間が怒ると怖いと言う言葉は本当だった。

 

 どうすれば機嫌を取り直してくれるだろう、と考えていると、突然ぐいと頭を掴んで持ち上げられ、シロアぢ下で睨んでくる。

 申し訳なさと気恥ずかしさで妙な汗を居ながら視線を逸らしてしまうが、「こっちを見なさい」と割と低い声で言われたので、冷や汗をかきながら彼女の据わった眼を覗く。

 

「本当に悪いと思ってるんですね?」

「ひゃい」

 

 頬を両側から掴まれているせいで発音が曖昧になっている。

 消してふざけている訳じゃないのに場の空気が緩みかねない。少し力を緩めては貰えないか。無理か。

 

「私、まだ怒ってますからね」

「ほんほうにしゅみましぇんでひた」

 

 活舌が面白いことになるのでそろそろ手を放してくれないだろうか。

 

「くふふっ⋯⋯」

 

 お前笑ってんじゃないよ。

 自分でやっといて何笑ってんだ!

 俺だって恥ずかしいんんだよ!

 

「じゃ、じゃあ、今から私が満足するまで、その⋯⋯本当の事を言ってください。いいですね!?」

「お、おふ」

 

 赤くなりながら地味にとんでもないことを口走ったシロ。

 言った後で若干後悔しながらも、いやじぶんが悪いんじゃない。と心の中で正当化しながら目の前の主人を急かしてひしとしがみつく。

 

「あのシロさん」

「なんでしょうか」

「抱き着く必要って」

「恥ずかしいのではじめてください」

「あ、はい」

 

 仕方ないので抱き合った状態のまま、一つ咳払いをして透は一言、二言、と言葉を紡いで本音をシロの耳元で呟く。

 

「シロ。君が好きだ」

「はい」

 

「シロがいてくれて毎日が楽しい」

「はい⋯⋯」

 

「いつも傍にいてくれてありがとう」

「えへへ⋯⋯」

 

「血迷い事でも先走りでもない。シロ、大好き」

「⋯⋯本当ですか?」

「本当だよ」

 

 不安げな眼差しでこちらを見つめてくる彼女の目を、見逃さない様に見つめながら、自然と湧いて出てきた言葉をそのまま言葉にして伝える。

 

 

「私も、マスターのことが大好きです⋯⋯!」

 

 

 そう言ったシロの顔にもう涙は無く、華の様な笑顔が咲いていた。


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