一話 朝起きたら自機が添い寝していた。
pipipipipipi・・・・・・。
朝。
目覚まし時計のアラームが聞こえてくる。
時刻は午前5時半。多少早いと思うが両親も姉も仕事やら大学などで出払っていて家事をするのは自分だけ。起きなければいけない。
だが起きようとする気持ちに反して意思は弱く、寝床から出ていこうとはしない。
そこに朝日がカーテンを透かして眠気眼に刺さる。
「んん、眠い・・・・・・」
俺はこのまどろみを放したくないというように体の向きを変えた。
むにぃ。
柔らかい何かがそこにはあたった。
眠かった目が少しだけ覚めた。
ベッドの上には毛布と枕と俺しか存在しないはず。
その中で柔らかいものは毛布と枕だけ。
そして枕は俺の頭に、毛布は今俺の体を覆っている。
ではこの感触は一体何か。
この肌触り。
「ん・・・・・・」
この弾力。
「あっ」
この温もり。
「んぅ・・・・・・」
人の、肌?
ここで一気に目が覚めた。
それと同時にどんどんと顔が青ざめているのがわかる。
俺のベッドに俺以外の人がいる。
しかも女の子だ。
すぐさまベッドから抜け出し転げ落ち、床を這って壁にもたれ掛かる。
「ん、くぁあ~・・・・・・」
素知らぬ顔で女の子が眠りから覚め、もぞもぞと体を起こして辺りを見回し、こちらに気づいた。
まだ眠たそうに瞼を擦っていたが、ぱ、と嬉しそうに破顔して挨拶をしてきた。
「あー、おはようございます~」
こっちは寝起きから心臓が破裂しそうな勢いで焦っていると言うのに、その原因たる彼女は間延びした、リラックス仕切った声でおはようなどと言ってきた。
まだ完全には覚醒しきっていないチカチカする頭をフル回転させ、状況の整理をする。
どういうことだ!?
ベッドに知らない女の子がいる。
挨拶してきた。面識があるのか!?
絶対にない。あるはずがない。
昨日は何があった!?
普通に学校に行って、買い物して帰ってモンハンをしていた。
モンハン・・・・・・?
自分の問答の中でふと気がついて彼女の格好に目を通す。
その娘は見たことのある格好、というより、俺のモンハンでのキャラクターと全く同じ格好をしていた。
キリンRホーン。
キリンXRベスト。
キリンXRアームロング。
キリンRフープ。
キリンSレガース。
頭からつま先まで全て同じ装備、同じ見た目。同じ作り。同じ格好をするコスプレ女が知らぬ間に家のなかにいる。
なんだこれ、ゲームが現実に? まだ寝てんのか? 俺。
夢なら早く覚めてくれ、思考が追い付かない。
「あの、大丈夫ですか……? マスター」
ます、たー?
この娘は何を言っている?
俺がマスター? そういうプレイ? そんな好奇心旺盛な彼女はいないし、いたとしても止めている。
「えーっと、さ。君は誰・・・・・・?」
警察につき出すよりも一先ず、取り敢えず俺はその子に問いかけた。
するとどうだろう。その娘は一瞬硬直したかと思えばじわりと目に涙を溜めだした。
「そんな、私がわかりませんか? マスタぁ~・・・・・・」
わからないかと言われても……理解が追い付かない。
彼女はしゃくりながら目尻に溜まった涙を拭い、それはもうぼろぼろ泣きながら訊ねてくる。
「わからないというか、信じたくないというか・・・・・・」
それを認めたくない、けれど頭の中にはその答えしか浮かんでこない。
俺はこの答えが違っていてほしいという気持ちで震える指先を彼女に向け、目の前の少女に問いかけた。
「も、もしかして、シロ、なのか・・・・・・?」
「っ! はい、私は貴方のシロです!」
満面の笑みでそう言われた。
あぁ、願いです神様、夢なら覚ましてください、すっごいキツいから、精神的に・・・・・・。