ハロー、全国約72億人のみんな。俺、今君たちのために頑張ってるよ!
「うがああああああああ! もう無理、もう無理です!! これ以上は耐えられないってマジで勘弁してくれないかな!? あああああ、特性シールドがまた一層!! なにこのじわじわくる恐怖? もう拷問の域だよねこれ!!」
視界を覆い尽くす桜色の光。
これ全部、魔力砲なんだぜ。嘘みたいだろ?
完全に、見た目は避けたら地球が吹き飛ぶあれだ。俺はいつから戦闘民族の世界に迷い込んだんだろう。
「あっ、なんか勢いが弱まって……ハハッ、完全に気のせいでした!! むしろ弱まってきてんの俺の方!! もう駄目だってこれ、さっきから魔力ゴリゴリ持ってかれてんですけど!! 馬鹿じゃないの! 馬鹿じゃないの!? 何なの死ぬの!! まあ、今死にそうなのは俺なんだけどねえ!!」
いくら収束砲ったって、こちとら温存してたから魔力はほぼ全快なんだよ! それがどうすればこうなるんだ!!
なにこれ、どう考えても満身創痍の幼女が撃つ砲撃魔法じゃねえよ。
どっちかっていうと、戦場の流れを一気に変える戦術クラスの隠し玉だよこれ。
「もうゴールしてもいいよね!! これ以上は脳みその血管的ななにかが吹っ飛ぶって! ああああああああ、また1枚! また1枚ぃいいいいいいいい!! なんだよチクショウ、お岩さんにでも転職しろってか!? 俺にはまだ帰れる場所があるんだよ!! よし、生存フラグも立てたしあとは根性おおおおおおおおおお!!」
背中にフェイトもかばってるし、これはもう必死になるほかない。
最後の1枚になったシールドを睨みつつ思うのは、どうしてこうなったんだろうなあということだ。
フェイトと白い魔導師が戦って、勝とうが負けようがジュエルシードの奪取を考えていたのに。
おかしいなあ。あと、思考面は意外と冷静でびっくりするなあ。
‡
時間は少し遡る。
朝焼けの海上、海鳴市の海浜公園。その両側に立つのは、フェイトと白い魔導師の少女。
白と黒の間を朝霧が通過していく。まだ消えていない街灯と、僅かに顔を出した太陽の光に照らされ、2人のコントラストは実に栄えている。
うん、絵になるね。これから始まることを思えば頭は痛いけど。
「フェイト。たぶん管理局に監視されてると思うが、お前は目の前のに集中してろ。全周警戒は俺の仕事だ。やばくなったらまたタックルするから覚悟しとけ」
『出来れば、もう少し穏便な方法を考えてください!』
ああ、冗談通じるようになってきたね。いい兆候だ。
よくわからんけど、機嫌もいいらしい。丸1日死んだように眠ってたが、なにかいい夢でも見たのだろうか。
アリシアじゃないとか言ってた気はするが。誰だそれ。
「さて、アースラはどこかな? ちょっくらお邪魔しますよっと」
フェイトが戦端を開いたので、合わせてこちらも空間モニターとキーボードを展開する。
こちらの動きを追随するように空を結界が覆っていく。管理局ではないが、アルフでもないな。白い魔導師のお連れだろうか。
まあ、なんでもいい。今回は俺も結界の中だ。ハイド魔法を重ねたおかげで、最初から範囲内にいたとは思われていないだろう。
2人がドンパチやってくれるおかげで、結界内の魔力量が飽和状態に達している。おかげ様で身を隠しやすくなるからありがたい。
今や内部は、天然のチャフで満たされている状態だ。
まあ、どう考えても子供の魔力量じゃないけどね。最近の幼女は怖いなあ。
「わあい、戦艦のシステムなのにザルだなあ。あ、でもしっかりネットワークとシステム部分は切り離してあるのか。これはめんどくさい」
これじゃあ、船を乗っ取って時の庭園に特攻とかは出来なさそうだ。残念。
当初の予定通り、ゆっくりとデータの転送をおこなっていく。
サーバーは昨日のうちに用意したフリー領域だ。追いかけてきても俺はいない。
「名付けてバケツリレー。作動率はまずまずってことろかな。一気に情報やると、こっちの決着が、あ?」
ちょっと目を放した隙にフェイトが大技を使っている。
バインドで拘束された白い魔導師に、無数の魔力弾を打ち込んでいるところだ。
最後に残った燃えカスみたいな魔力を集め、それも全部投げつけるつもりなのだろう。
かなり強力な魔法だ。けど、今の万全じゃないフェイトじゃ威力に難ありといったところか。
案の定、白いのは耐えきった上で最後の一撃に砲撃魔法をかぶせてきた。
残りカスの魔力弾はあえなく相殺。それどころか、とんでもない威力の砲撃がフェイトを襲う。
「うわ、きっつ。これは決まったかな、っておい待てや!」
しばらく白い魔導師の攻撃に晒され続けながらも、なんとか耐えきったフェイトはボロボロだ。
なんてことはない。もう完全に限界が来ているのだろう。
1日寝た程度で全快するなら、世の社畜はもっと元気に働いている。でも、そうじゃないから過労という言葉があるのだ。
タオルを投げ込んでギブアップ。セコンドとしてはそれが正しいのだが、どうも投げ込む余裕はないらしい。
空を埋め尽くす桜色の魔力塊。それが、絶望の象徴にすら見えてくる。
なんか、これが私の全力全開とか言っているが。たとえ非殺傷設定でもこれはあかんやつや!
慌ててショートジャンプを展開し、フェイトの目の前に飛ぶ。
「うわあ! なにこれ近くで見ると死にたくなるんですけど!?」
「えっ、なんで!」
やかましい、説明してる余裕なんてあるか!
「M1903起動! マーキング、フェイト。トライシールド展開、うわあああああ間に合ええええええええ!!」
外側を優先して3面式の鋭角シールドを作り出す。
形状としては三角錐といえばわかりやすいか。展開にラグがあるものの、防御力は絶大だ。
主に大型魔法生物のブレス攻撃なんかに耐えるためのものだが。うん、この幼女そこらの大型魔法生物よりおっかない。
駆除とか捕獲とか面倒な依頼だと思ってきたが、こっちの方が万倍厄介だ。
これは死ぬかもしれないと涙目になったところで、ギリギリ展開したシールドの先端に収束砲が突き刺さる。
威力を受け流すよう計算された角度なんて関係ないとばかりに、全五層の1枚目にひびが入った。
「無理ぽ!」
そんな俺の叫びと共に、話は冒頭へ戻るわけだ。
‡
海上に浮かぶ男を見つけて、僕は杖を向ける。
この事件の重要参考人。加害者側だが、情報提供者でもある人物だ。
「抵抗せず大人しく投降して……そもそも動けないみたいだな」
「そう思うなら助けろよ執務官様。あぁ痛ぇ、ちょっとゲロった」
うっぷと口元を押さえた男は、げんなりした顔で海面を漂う。
仰向けのままほとんど動かないのは、たぶんなのはの砲撃をまともに浴びたからだ。あれをまともに受けたら、流石に僕もどうなるかわからない。
「おい、結局どうなった。フェイトは無事か?」
「無事だ。まさか、こちらの転送ポートに直接ねじ込んでくるとは思っていなかったが」
「かなりシビアな荒業だったが、それなりに収穫はあったろ? ジュエルシードの方は」
「彼女のデバイスが、負けを認めてジュエルシードを排出していたんだが。その隙に物質転送でプレシアが持っていってしまった」
ナンテコッタイと頭を抱えて見せる男は、やはりプレシアの仲間というわけではないようだ。
なのはとフェイトの戦闘が始まった直後から転送されてきたデータ。遅々とした勢いで送られてくるそれらは、早い話が内部告発の内容に似ていた。
物質転送があって無駄にはなったが、時の庭園の位置情報からはじまり建物内の見取り図や動力炉の映像など。中身はこちらにとって有り難いものばかりである。
もちろん疑った。これは罠で、なにかしらの目論見があるはずだと。
ウィルスか、あるいはデマ情報か。あらゆる可能性を考え、少なくともデータの最後に添えられた一文を見るまでは疑い続けていた。
『交換条件だ。俺は守ったぞ、お前らも女の子1人くらい守ってみせろ管理局』
意味もなくなのはとフェイトの戦闘を映すモニターに目が向く。
そこにはとんでもない馬鹿魔力を振り上げるなのはと、呆然とした顔でそれを見上げるフェイトがいて。その間に、なぜか僕を踏み台にした男が飛び込んできていた。
「とりあえず拘束させてもらう。アースラまで一緒に来てもらおう」
「お好きにどうぞ。どうせ動けないから安心してくれ」
力なく両手を挙げる男が、まさしくその人だ。
特殊なシールドでなのはの砲撃をぎりぎり耐え切って、そのまま墜落。
どういう仕掛けか、負けを認めてジュエルシードを排出したデバイスに驚くフェイトを、その直後にアースラの転送ポートへ放り込んできた。
転送オペレーションが自動的に起動したと報告を受けているから、おそらく本当にウィルスが組み込まれていたのだろう。質が悪い。
そのせいで、無防備にさらされたジュエルシードを持っていかれたというのもあるのだが。まあ、ここで言っていても始まらない話だ。
「こちらクロノ。容疑者の1人を確保、ただちにアースラへ帰還します」
「お前、計ちゃんだったのか。ネギやるからお手柔らかによろしく」
「は?」
意味のわからない発言を問いただす前に、送還転送が開始される。
今頃、武装局員がプレシアのアジトに踏み込んでいるはずだ。僕もそれは見ておきたい。
とりあえず不穏当な言葉はあとで問いただすことにしよう。フェイトに関する話で、なのはたちに伝えていない件も気になることだし。
これで決着することを願いながら、アースラの艦橋へ直接転送してもらう。
そこで見た光景に、後ろからため息が漏れた気がした。
思ったよりギャグが楽しくなってしまった。
とりあえず、無印終了ぐらいまで今日から連日投下しますんでよろしく。