モンハンのゴア娘のフィギュアがリアル美少女になってた【完結】 作:屍モドキ
今回の話は簡単に言ってifストーリーの番外と言う扱いなので、本編とはあまり関わりはありません。
本筋通りならシャガルのお姉さんでしょうけど、生憎とメインはゴアなので、仕方ないね。
ではどうぞ。
夏真っ盛りのこの頃、一人(?)の竜の少女はだらしなくソファーに項垂れて冷房の風を全身に浴びていた。
現代社会に馴染み込み過ぎではないだろうか。とも思うが、彼女の火や熱に対する耐性の弱さを鑑みればああなってしまうのも分かる気がする。
「ねぇシンジぃ、何か冷たいモノとかなーい?」
「アイスならあるけど」
「ちょーだい~」
「はいはい」
ソファーの肘掛けから頭を逆さに垂らし、舌を少し出して「入れてください」と言わんばかりにだらしなく待ち構えるレシカに、劣情こそ抱くが夏の暑さに燃え尽きる。
俺は冷凍庫からアイスキャンディーを二本、取り出して袋を向き、片方を雛のように口を開けて待ち構えているレシカの口に突っ込んでやる。
「あむぁ・・・・・・」
「お行儀悪いからちゃんと座って食え」
「はぁ~い⋯⋯」
アイスを咥えたままもごもごと返事をしたレシカは溶けそうなほどに横にしていた体を起こしてきちんと座る。
それにしても暑い。冷房を点けているとは言え、外は猛暑が続いて外出すら億劫だ。
「海にでも行きたいところだがなぁ⋯⋯」
「外とか絶対イヤ」
これだもんなぁ。
そんなとき、スマホに電話が入る。取り出して画面を見ると、そこには小林さんの名前が表示されている。
はて、仕事は送ったはずだが。
何にせよ出てみないと用件は分からない。
「はい」
『やぁ村瀬君、元気かい?』
「この季節に元気な奴はいないでしょう」
『それもそうか、ははは』
彼女はそれはそうと、と続いて本題を持ってくる。
『ところで今度の日曜、海に行かないかい?』
「海」
このところ暑さも増して煮えてしまいそうだったので、この提案には流石に反応せざるを得なかった。
振り向けばソファーにだらしなく項垂れながらアイスをもごもご咥えているレシカ。
俺は受話器を持ち直して、正した姿勢で勢いよく答える。
「是非とも同行させてください」
『よし、決定!』
受話器の向こうで元気な女性の声が響いていた。
浜辺近くの公道。
小林さんの車に揺らされ、日照りが強い中開けた窓から差し込める風を受け、涼を取っているレシカをバックミラー越しに眺めながら、先日のいざこざを思い出す。
◆
「行こうって!」
「ぜぇぇぇっっっったいに行かないからッ!」
頑なに外出を拒む彼女を必死に説得していた。
いつからこんなにインドアに目覚めたのか。
確かに近年の夏場は酷暑も温いと言わんばかりの気温で、火耐性皆無も通り越してマイナスにめり込んでいるほどの彼女の体では、外に出るのも困難なのは分かる。
しかし、だからといって家に籠りきりでは体に良くないし、何より電気代というのが幾分怖い。
「なんでこんな暑い外に好き好んで出ていかなきゃいけないのよ!」
「いやだって、折角のお誘いな訳だし、それに海楽しいだろうから」
「あの女ね。私よりあの女を優先するのね!?」
うわめんどくせぇ。
何処からそんなメンヘラ染みた台詞覚えてきたんだよ。
額に浮いてきた青筋を抑えて、どう説得しようか悩む。
お、そうだ。
「そうか、レシカは来てくないのか⋯⋯」
「⋯⋯何よ」
黒髪の彼女に背を向けて、如何にもと言わんばかりの演技をし始めるシンジ。
「レシカの水着、見たかったんだがなぁ⋯⋯」
「は、はぁ?」
そう、水着。
それは男のロマンでもある。
更衣室の、プールの、海の!
様々なシチュエーションに置かれる水着と言う存在は、世の男性の心を掴み、虜にしてきた。
更に、水着は種類を増し、学校の青春時代から成人してからの夏のビーチに至るまで、多種多様な環境に適応してきたのだ! スクール水着からビキニまで。子供から大人まで、そのときめきを水着は与えてきたのだ!
「そんなの、今すぐにでも、その⋯⋯み、見せてあげるわよ」
そう言ってレシカは着ていた黒いフリルのついたミニワンピースに手を添えて、得意の形態変化を応用して服の形状を変えようとした。
だがシンジはそれを良しとしなかった。
「待ってくれレシカ!」
「きゃあっ!? な、なによ!?」
飛び付くように肩を掴まれ、無理矢理に制止されたレシカは心臓を跳ねさせて形態変化を止めた。
強い力で掴まれているが、さほど痛くもないうえ寧ろ 間近で触れられていると言う状況の方が、とても心臓に悪かった。
「部屋で水着を眺めたところでそんなのただのコスプレ撮影なんだ」
「へ?」
「夏の、季節が絡んでいるときだからこそ輝くものだってあるんだ……!」
「何を言って」
「今の君の水着は、夏の浜辺だからこそ輝けるんだッ!!」
「わかった、わかったからちょっと離れてぇっ!」
だんだんと顔を近づけられながら力説されては折れるしかない。やっと肩から手を離してくれたシンジは、必死の説得
当のレシカは床に手をつき、胸にもう片方の手を当てて乱れる呼吸を必死に抑えていた。
◇
山を通り抜けて暫く平坦な道を進むと、片側が拓けて目を刺すほどの日差しとさざ波をたてる鮮やかな海。賑わう人の喧騒が聞こえてくる。
「よし、着いたよ」
「おぉ~!」
止められた車内から降りれば蒸すような暑さと、海から吹く潮の匂いを乗せた瑞々しいひんやりとした風が全身を撫でる。
「どうだレシカ、海だぞ」
「凄い、広い⋯⋯」
俺が知る限り、初めて目にするであろう海と言う存在を前にして、レシカは感極まったと言いたげな表情で目の前の巨大な海面を眺めていた。
被っていた大きな麦わら帽子のつばを握り、靡く風に飛ばされないようしっかりと、放さないように握るレシカの姿は、純粋な少女そのものだった。
「先が見えないのね」
「おぉ、海は広いと言うからな」
歩み寄って麦わら帽子の上に手を置く。
レシカは俺の影に隠れ、裾を握ってきたが、目線は目の前の海に釘付けであった。
「怖いのか?」
「うん、怖い」
巨大過ぎる存在を目の当たりにし、無力感からか諦めたような声を出すレシカ。しかし裾をつかむ手には力が抜けるような気配はなく、寧ろより強く握ってきた。
「けど、アナタが居るから怖さも少ないわ」
「そっかそっか」
密着した距離感に安心するのは依存なのか、それとも信頼の証か、それでも一緒に居たいと思うのは悪い事ではないと信じたい。
「おーい二人ともー。荷物出すの手伝ってー!」
「あ、わかりましたー」
「待ってよー!」
呼ばれて振り向けば車からパラソルやらシートやらを出している小林さんがいたので、早々に駆け寄って荷出しを手伝う。
◇
少々多かった荷物も出し終え、パラソルの日陰で休む俺達。
小林さんは「酒でも飲みたいけど、無理かなぁ」と愚痴りながら、クーラーボックスから取り出した缶飲料を開けて煽っていた。
「私は暫く休むから、二人は遊んでおいで」
「では、行ってきます」
レシカの手を優しく持ってそのまま海に、とはいかず、先ずは更衣室に連れていった。
「一先ず水着に着替えるか。泳ぐし」
「いちいち脱いだり着たりするのって、めんどくさいわね。人は」
「そんな台詞はニートかケモノの言うことだぞ」
「ぶつわよ」
「ごめんなさい」
痴話話もそこそこに、男女それぞれで別けられた更衣室に入り、露出面積が増えた格好にそれぞれ変えて出てきた。
シンジはチノパンの水着で、ビーチサンダルを着用。無難なところを行きすぎて影が薄い気がするが、機能性と目立たないことが目的なのでこれで十分だった。
「レシカー、終わったか?」
「う、うん」
呼び掛けに答えたのは歯切れの悪い返事。
どうしたのかと首をかしげるが出てこなければ状況などは予測すら出来ないので扉の前で待つ。
するとやっと出てきたレシカの姿に、言葉も出ることなくシンジは直立不動で見惚れた。
「ど、どう、かしら?」
「ふ」
さっき持っていた麦わら帽子を目深にかぶり、つばで顔を隠しているレシカ。水着は黒のビキニで、濃い紫色のフリルのがあしらわれていた。
片方の股にはリボンが巻かれており、可憐さに一役買っていた。上底のサンダルは恐ろしく長い紐が脛まで伸びており、彼女がよく履いているブーツのイメージをサンダルに置き換えたようだった。
「見様見真似で作ってみたけど、変じゃ、ないかしら?」
不安げな声を漏らすレシカ。人前で下着にも近いほどの露出をするのが途轍もなく恥ずかしかった。
「そんなことない。似合ってるぞ」
「う、うん。ありが、と」
着替え終わった二人は、そのまま海へと向かった。
◆
「沖に行かなきゃ大丈夫だから、早く入ろう」
「うん、わかってる、けど⋯⋯」
波打ち際で、少女の手を取りながらゆっくりと海に足を沈めていく。
水着になったことでさらけ出された上半身が少し熱を持ち出した。と言うところでようやくさざ波が足首を濡らしてきた。それがとても心地よい。
「ちゃんと手は持ってるから」
「うん……」
両手をひしと持ち、小鹿のように震えるレシカ。への時に曲げた唇を噛みしめ、半ば飛び込むようにして、初めての海に足を浸ける。
「ひゃっ、冷たい!」
弁慶が半分ほど漬かるまで海に入り、そこで海面から足を出したり入れたりを繰り返す。ばちゃばちゃと小さな水飛沫が海面を跳ねて、彼女の足を濡らす。
「まだ手持っててね」
「おう」
レシカはそのままゆっくりと進んでいきながら、温度や匂い、色や音を、五感で感じてる。足の付根に揺れる海面が当たるぐらいまで進み、歩みを一度止める。
海水を手で掬いながら、レシカは色々と短い感想を述べていった。
「変に生臭いのね」
「それが磯の匂いってやつだよ」
「それに冷たい」
「海は熱されにくいからな、冷たさからこの時期人がよく来る」
「あと案外ベタベタする」
「天然の塩水だし、当然だわな」
乾けばベタベタするが、そんなもの遊んでいるうちは気にしても仕方ないので気に止めないのが通例だろう。ある程度確かめるのも終わったところで、遊ぶ他あるまい。
俺はレシカの手を引いて彼女の態勢を意図的に崩す。いつもならかのじょのもつ怪力で動くどころか逆に張り倒されそうだが、海で、しかも骨盤辺りまで浸かっていることも相まって体幹など無いに等しい彼女は簡単にこちら側に倒れた。
「それっと」
「きゃあっ!?」
ジャボンと大きく一飛沫。
俺も一緒に倒れたが、まぁ想定内なので海水を飲まないようにしてれば大丈夫。
「~~~~~~っ!!」
「ありゃ」
対してレシカは、虚を突かれてしまったため、慌てて立ち上がろうとするが中々足がつかない様子。仕方ないので脇に手を入れて引き上げてやる。
「⋯⋯ぶはぁっ! な、なな、なにすんのよぉ!」
「いやぁ、驚かそうと思って」
「驚くにきまってんでしょ! うえぇ、しょっぱい⋯⋯」
うむ、満足。
ニヤニヤしながら仁王立ちで満足していると、それが面白くなかったのかレシカはしかめっ面で睨んでくる。
「何かね海初心者君」
「マウント取った気分でイイ気になってたら、大間違いなんだから!」
「うぼっ」
そう言いながら彼女は尻尾を生やして回転して飛沫を飛ばしてきた。諸に顔面に喰らって目を負傷する。
「うぉおおおおお⋯⋯目が、目がぁああああ」
「いい気味ね」
軽く腕組をして見下すレシカ。
二人はそのままヒートアップして、水掛け合いに発展していった。
その様子を遠くから眺める小林。
「若いねぇ」
謎の貫禄を生んでいた。
引っ掻けあいも一息ついて、随分と走り泳ぎを繰り返して最初に立っていたところから結構遠いところまで来てしまった。
「よく逃げたわね」
「そりゃああんなもん出されりゃ逃げますわ」
途中自棄になったレシカが鉈を取り出した辺りで生半可に走っていれば刺されると思い、泳いで沖に逃げた。
レシカも負けじと沖に出ようとするが、泳ぎ方なんぞ教えてもないし知らないので、深みにはまって溺れそうになっていたのを引き上げたりと、まぁ色々と。
「お腹空いた~」
「こう言う海水浴場には大体海の家とかがあったり⋯⋯見つけた、あれだ」
「何それ」
「飲食店だよ」
「へえ」
泳いだ後の空腹に、焼きそば等の香ばしい香りが食欲をそそる。ポケットから濡れた小銭入れを取り出してかろうじて無事な硬貨を数えると、人数分は買えそうだったので店に入った。
「いらっしゃい!」
「焼きそば三つ、持ち帰りで」
「毎度あり!」
活力溢れる男性店員が鉄板の上の麺を混ぜつつ、注文を受けてからパックに焼け上がった焼きそばを詰めていく。
「お嬢ちゃん可愛いね! これ、おまけしとくね」
「あ、ありがとうございます」
そう言って店員はレシカに塩飴を渡していた。おまけと言うか予防じゃないのかそれは。
そしてパック詰めの焼きそばを手渡されるとき、店員に小さく耳打ちされる。
「姪っ子かい?」
「そんなもんです」
「手は出すなよ」
「うるせぇ」
引ったくるように受け取り、にんまりと笑う店員を軽く睨みながら店を出た。
「何か言われたの?」
「なんでもない」
「⋯⋯シンジならいいんだけど」
「それ以上はいけない」
小走りに小林さんが待っていた初期位置に戻り、三人で焼きそばをつついた。レシカはいつも通りに猫舌を発動してそれはそれは丹念に冷ましていた。
「彼女はいつもこんな感じなのかい?」
「そうですね。猫舌のくせに熱いもの食べようとするからいつもああなってます」
「あつっ! な、なによ!」
「なんでもない」
「あはは」
三人と少ない人数で日陰に座り、焼そばをつつくと言うのは静かではあったが、意外と寂しいものでもなかった。小さな会話に花を咲かせ、食べ終わると出していた荷物を車に片付けて、今度は腹ごなしに浜辺を散歩しに行った。
「私も遊んでおきたいからね」
「ビーチバレー大会とかあるんですかね」
「こういうところは何か催しがあったりしても⋯⋯お、みつけた!」
何かを見つけたらしい小林さんが、いつもの三倍ほど乗り気なテンションで催し物をやっているらしい会場の方へ駆け寄っていった。レシカと追いかけて近くを見てみると、砂浜の上にネットを張って、男女関係なくチーム分けをされた二チームがバレーをしていた。
「おぉー、やってんねぇ~」
「すっげぇ」
「ふーん」
レシーブで上がったビーチボールを、砂浜という良いとは言えない足場から高く飛翔して相手コートに打ち込む様は、見ていて爽快感があった。
そこでゲームセットだったのか、チームの入れ替えが行われる。
「ん? あれは」
ふと目についた一人の選手。
黒に赤のラインが入り、左右には雄々しい角が二本。目元を隠すマスクをつけた、深い褐色肌の少女が立っていた。
口元は笑ってはいなかったが、何処と無く楽しそうに見えた。
試合が始まって、ボールがうち上がる。
かと思えば褐色娘によって怒濤の勢いでスパイクが決められ、あっという間に試合が終了した。
「村瀬君! あのガングロの娘凄いよ!」
「小林さんなんか激しいですね」
「見えない~!」
猫のようにしなやかな動きで相手チームからのボールを受け止め、すかさず仲間のトスで上がった球を速攻で打ち返す様は無慈悲なほど圧巻だった。
「目標、達成」
「クロちゃんつよぉーい!」
仮面をつけているというのに分かりやすいどや顔でコートを出る褐色娘に称賛の嵐が降り注ぐ。小林さんもいつもよりも高いテンションで諸手をあげていた。
あまりの熱狂具合に人波でレシカが流されそうになっていたので、早々に立ち去った。
その後、日も傾きはじめて海水浴場から離れる人がちらほら出てきた時間帯。
思い出と言えるものは出来たかもしれない。それでも物足りないと感じるのは嬉しくもあり、寂しくもあった。
「どうする、まだ残るかい?」
帰宅組を見ながら小林さんがレシカに尋ねる。
少し考えた末、レシカはもうちょっと遊びたいと答えた。その答えに小林さんは静かに頷き、こちらに向きながらレシカの背中を押してやった。
「行っておいで。私は先に車で待ってるよ」
「ありがとうございます」
小走りに寄ってきたレシカに引き連られて、海辺を宛もなく歩く。
会話はない。
ゆったりとしたさざ波の音が繰り返され、夕焼けになり始めた日の光が横顔を照らす。
「今日は楽しかったか」
「うん」
短い言葉。
返された返事はくたびれていたものだったが、満足げな気持ちが載せられていた気がした。
「また来れたらいいな」
「そうね」
立ち止まって、海に沈んでいく太陽を眺める。
するとレシカが不意に手を絡ませてきた。
「ん?」
「握って」
「うん」
断る理由もない。俺はレシカの小さな手を握り返してやる。海で遊んで潮気でベタつくのも気にならない。濡れたあとに風に晒され、多少体温が落ち込んだらしい。
それでも彼女の掌は暖かく感じた。
ひっさびさに書いたらどんな書体か忘れた。
海でやりたいこと盛り込んだらちょっと長くなりました。すみません。
みんな性格や性癖が多少歪んでしまった気もしますが、どうせイフですから。問題ない!
ではでは。