生き残って役に立て   作:屑の鑑

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9A-91が好きだから書いた。それだけです。


甘ったれ

 旅は道連れ世は情け、などと昔にはそんな諺があったらしいが。もしもそんな言葉を吐く輩が居るのならば、この世の何処に情けがあるんだと吐き捨ててやる。

 

 国がまともに機能せず、力のある企業に自治が任されるこの世の中。崩壊液によって大地は汚染され人類は多くの土地を奪われた。その上で、崩壊液によってミュータント化した人類と、鉄血人形などという敵対勢力に人類は晒され続けている。

 

 人間が生きていくためには、力のある企業か国に傅く他に方法はない。そんな最後の砦にさえ切り捨てられたのであれば、放浪の末に野垂れ死ぬか、捨て駒として使われてやる程度しか道がない。

 

 

 

 俺は、捨て駒として使われてやることをよしとしなかった。

 企業の為に死ぬなんて真っ平ごめんだ。人類の為になどと言う大義名分を飾って死ぬなどふざけるな。自分の為に、自分が生きたいから、これからも生き続ける。

 

 だから、任務を言い渡されたときは、煙に巻いて逃げてやった。鉄血のエリアボス相手に一人で時間を稼げ? 笑わせてくれる。手切れ金代わりにスモグレくらいはばら撒いてやったが、弾までやるつもりはない。追撃してきた輩には鉛玉をぶち込んでやったが、それだけだ。身代りも偽装工作もしていないが、たかが一人の下っ端を追うくらいなら、もっと有意義に時間を使うことだろう。追っ手のことなど考えない。そもそも、工作するだけの資材がないわけだが。

 

 さて、晴れて俺は自由の身だ。これからどうするかなんて、考えていない。ひとまず物資の補給ができる地域を探す必要があるだろう。最悪、鉄血の司令部に潜り込んでもいい。もと雇い主のところにちょっかいを掛けたら、もれなく人形のスナイパーで俺のド頭をぶち抜かれるからなしだ。

 

 確か、この近辺には鉄血の司令部があった筈だ。エリアボスは生憎、俺を追ってか、あるいは俺が逃がした部隊を追って留守にしている。空き巣をするにはちょうどいい。一張羅のドラグノフを至近距離の相手に向ける事態にならないことを祈ろうか。

 

 裏工作を引き受けてやるのだから、見つかった時の言い訳も万全になるというものだ。

 さてさて、鉄血のエリアボスとやらは一体、司令部にどれだけの物資を溜め込んでいるんだろうねぇ。

 

 

 

 潜入のために下調べをしたが、奴らの司令部には雑魚しかいなかった。貴重な弾丸を空っけつになるまで使って、中身は殲滅した。足りない分は銃剣で頭部を突き刺した。我ながら見事な不意打ちだと自画自賛しながら、油臭いやつらの司令部を悠々自適に闊歩する。

 

 まず、弾薬はリュックに詰め込めるだけ確保した。スモグレと閃光弾も補充した。この世紀末世界では、銃弾は食糧の次に価値が重い。食糧と弾薬が満たせるのならば、裸になろうと構わない。根無し草の俺には住処などは無縁の代物だ。食糧、武器、これさえあれば上等だ。性欲? そんなものはそこらに転がった人形とよろしくヤってろ。それが嫌なら自家発電でもするんだな。

 

 それにしても、電灯もなしによく住み付けるものだ。油臭さは鼻が曲がるほど。腐肉を放置してるんじゃないかと疑うレベルだ。もしかすれば、人間や人形を拷問でもして不法投棄してるかもしれないが。俺の知ったことではない。

 

 資材置き場の個室とはおさらばだ。帰り際に余った資材は全部爆破するか、リアカーにでも積んで根こそぎ運ぶとしよう。

 

 今更だが、鉄血の司令部は廃棄された寂れた工場を使いまわしているだけだった。天井には物資を運ぶためのリニアレールらしき線路が張り巡らされているが、どれも機能はしないだろう。真っ赤に錆びついてみるも無惨だ。

 

 次の部屋は、中央に大机の置かれたそれなりに広い部屋だ。大方、お偉様のために用意された場所なのだろう。妙に質のいいところが腹立たしい。ご丁寧に戦略地図まで置き去りだ。中身を見てみれば、これからの計画が綿密に書かれている。よほど仕留めたい相手が居るのか、書き込みの量が尋常ではない。地図が辞書になりそうなほどに。何故、こんな機密書類を燃やさなかったのかは知らないが、トンズラこくために精々利用させてもらうとしよう。俺は地図を丸めて、ポケットに突っ込んだ。

 

 他に目ぼしいものは無く、最後の部屋だ。何故か、部屋の隅にあった木箱の中にチョコレートが山積みにされていた。しかも、妙に鉄臭い。しかし、贅沢を言っていられるものでもない。腹に詰め込めるだけ詰め込んだ。喉が焼けそうだが仕方がない。

さて、木箱ごと持ち去ろうと持ち上げると、おっかなびっくり。まさかの地下室への入り口だ。梯子が現れた。それもここだけは、生臭い。鉄臭い。油臭い。全部が入り交ざって、鼻がひん曲がりそうだ。はっ、臭い物には蓋をしろ、ってか?

 

 怪しさ満点だ。この臭いから地下室の使用用途の察しはつく。俺は木箱を降ろして、梯子に手を掛けた。想像した使用用途が正しければ、間違いなく物資があるはずだ、と。

 

 地下に入ってみれば、鼻だけじゃなく目に染みた。目を開いているだけで痛みが走るほど澱んだ空気に思わず涙が出てくる。あぁ、いてぇったらありゃしねぇ。暗すぎて何も見えねえ。夜戦用のライトをリュックから取り出して使ってみれば、予想通りの有様だ。部品がゴロゴロと転がってやがる。赤い油のアートはよくもまぁ映えている。昔のスプラッターホラーなんて目じゃないね。独房ごとに模様が違うのは作者のセンスだろう。

 

 拾うのはとりあえず、転がった銃器のパーツだ。使えそうなものをチョイスして、リュックにポケット、とにかく突っ込んでいく。涙で視界が霞んでやりにくいったらありゃしない。

 

 血に濡れていたが、人間の服も手に入れた。男物だ。二対のドラコーンの紋章の上質な制服。かっぱらって上に着こんだ。シャツやパンツはとてもじゃないが使えない。まだ蛆が湧いていなくてよかった。

 

 茶色のイカしたベレー帽は二つ拾った。一つはダミー用、もう一つは趣味だ。

 

 そうして物資を回収しながら独房を回っていると、いよいよ一番奥だ。ここにきても涙が止まらないほど空気が酷いのだから、さっさとおさらばしたいものである。

 

 独房の中を照らしてみれば、びっくらこいた。まさか、原型を保って稼働しているヤツがいるとは思わなかった。腹部から下半身まで一部透明な生地を使った痴女丸出しの格好。よく見える腹部には小さな穴が十箇所ほど。赤い油が流れ出ている。白い頭髪はストレスで脱色したのか元からか、ボサボサになって地面に汚く垂れている。両手両足は鎖で繋がれて、傷がないところを探す方が難しい有様だ。だが、確認してみれば息がある。

 

 勿体ない。素直な感想が頭の中に浮かんで、思わず溜息が漏れる。涙を流し過ぎたせいか震えた息だ。情けない。

 

 鎖の鍵を探そうと対面の独房を見てみれば、あっさりそこに放られていた。ついでに使い込まれてはいるが、原型を保ったアサルトライフルもある。大当たりだ、と思わず口元が二やついて止まない。緩んだ心を引き締めるために、口は真一文字に結び直した。

 

「捨てる神ありゃ、拾う神ありってな」

 

 自分の震え声には甚だ嫌気がさしたが、それでも嬉しさの方が勝った。急いで拘束を解いてやろうと思えば、そいつは顔を上げて虚ろな瞳で俺を見ていた。

 

 目が死んでいる。そのことが気に食わない。俺が拾うのだから、使い物にならなくては意味がない。一発、渇を入れてやるかとそいつの肩に手を置くと、あからさまに身体を跳ねさせて怯えてやがる。はははっ、笑いものだ。

 

「生きろや。悟った様なツラする暇あったら、今生きることに全霊を注げ」

 

 相変わらず、甘ちゃんのようなしゃがれ声が耳障りだ。涙だって止まらない。こんなことなら、防塵ゴーグルを捨てなきゃよかったと思ってしまうが、何分あれは嵩張る上に実用性が皆無だ。不満は飲み込んで、痴女の死んだ目を力強く見返してやる。

 

 そうし続けていると、徐々に女の目に光が戻ってきた。そうして縋るように希望を宿すと、安心したように意識を手放した。しかし、息はある。幸せそうに眠っている女に、思わず溜息がこぼれる。運ぶのは俺か、と。

 

 鍵を使って鎖付きの手錠を解いた後、俺はそいつを姫抱きにして運ぶ。相変わらず、幸せそうな寝顔が癇に障る。

 

「俺は囚われの姫を助ける王子さまってか?」

 

 反吐が出る。臭い空気を詰め込んだ唾を吐き捨てて、俺は機械仕掛けの姫を運びながら地下を脱出する。ようやくまともな空気にさらされても、涙はしばらく止まることは無く、流れ続けていた。

 

 

 

 俺は戦利品を両手と背中に抱えながら、鉄血の司令部を後にする。思いの外温かくて柔らかい戦利品を、さてどうやって活用してやろうかと考えながら。

 

 背後で、鉄血の司令部が大爆発を起こした。どうやら、資材の爆破には成功したようだとほくそ笑みながら、俺は誰も居ない元市街地を歩き続ける。

 

 生き残るために。

 ただ、歩き続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて意味不明なクールを決めて、旧市街地の空き家に転がり込んだわけだが。

 

「しきかぁん……どうですか?」

 

 甘ったるく間延びした女の声が耳につく。特上の枕の上に頭を置きながら、俺は横向きになってリラックスしていた。耳の穴をほじくられているというのに、安心感ときたら豪奢な寝具に身を包んだ時のような感覚だ。

 

「ん、まぁ。それで続けてくれ」

「はい」

 

 緊張感が、この甘ったるい声に溶かされる。純度100%の好意の声は、どんな心の防壁も飴細工のように一瞬だ。かれこれ一ヶ月間、この空き家で生活しているが、どうにも弛んでしまった。本来ならば拠点を転々とするところなのに、長居していることがその証拠だ。

 

「指揮官」

「なんだ。9A-91」

 

 呼びかけると、9A-91は一度耳かきを引っこ抜き、代わりに顔を近づける。ふっ、と耳の奥まで通り抜ける湿った息が吹きかけられる。背筋に這いずる快感に思わず身体が跳ねる。

 

「かわいい」

 

 不覚だ。まさか、そんなことを言われるなど。というより、救ってやった相手に対して何て暴挙だ。これは今一度、力関係を分からせてやる必要があるかもしれない。だが、馬力の上ではヤツの方が上なのが……どうにも、手厳しい点だ。

 

「ずっと。私の傍から、離れないでくださいね?」

 

 愛の告白にしては、どうにもド直球で重苦しいものだが。それくらい重い方が、息を吹けば飛ぶような俺にはちょうどいいのだろうか。

 

「傍にいたいなら、生き残れ。役に立て。それだけだ」

「はい。指揮官が私にそう望むのであれば、指揮官のために全霊を尽くします」

 

 だから、と相変わらず甘ったるい声で。だが、恐ろしく背筋に寒気を走らせるような気持を込めた声で。

 

「私の傍に、ちゃんと居てくださいね?」

 

 そう言い切ってから、また耳かきを始めるのだった。

 

 

 

 あぁ、どうしてこんな甘ちゃんになってしまったのか。

 俺は自分が情けなくて仕方がなかったが。結局、9A-91とかいう純情の風にあおられて、ひらひらと流されるのであった。

 

 




まだ続く。
気ままに書いていきますとも。

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