生き残って役に立て   作:屑の鑑

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二人三脚

 

 あぁ、寝不足だ。やらかした。普段なら「拾い物」に夜間の警戒を任せて仮眠をとるのに、おっぱじめたせいで徹夜だ。頭の中はミントガムを噛んだときの口の中並にすっきりしているが、思考能力は鉛玉を詰め込んだリュックのように重苦しい。幸せそうな顔で俺の見事な胸板に顔をうずめて休眠している「拾い物」には心底腹が立つ。

 

 しかし、幸いだったのは敵がこちらに気付かなかったことか。いや、この「拾い物」が中途半端に命令を守ったおかげでもある。こいつのポンコツっぷりは身に染みた。だが、それを込みにしても、これからも現場には連れてくるだろう。それくらいの価値が、この「拾い物」にはある。睡眠不足など必要経費と割り切ろう。

 

 こんな時に「ユキ(覚せい剤)」かタバコでもありゃいいんだが、そんな贅沢品は当然ながら持っていない。そもそも、タバコなんてふかそうものなら煙で位置がモロバレだ。

 

 敵の司令部に、未だに動きらしい動きはない。今は夜間装備を外した鉄血の雑魚がうろついている。数は最低でも五人一組。陽が昇る前の警邏状況も確認したが、俺らの見える範囲では、その時点で夜間装備と通常装備が半々だ。

 

 もしも相手の司令部に強襲を仕掛けるなら、陽が昇る前。このタイミングしかない。だが、俺たちの目的はあくまで「空き巣」だ。強襲に必要な物資も人員もあるわけがない。そんなリスクを冒してもリターンが少なすぎる。

 

 あと四日だ。四日、何も無ければ撤退する。それだけの時間何も無ければ、俺の推測が間違っていたと認めるしかない。また他の鉄血の司令部に狙いをつけて、空き巣を狙うとしよう。

 

 今日も退屈な見張りの日々が始まるのだろう。憂鬱な気分に思わず溜息を吐きそうになった、まさにその時だった。

 

「――っ!?」

 

 横に置いていたドラグノフに思わず手を掛けて、寸でのところで自制する。あまりに衝撃的な光景に、息を殺して注視する。頭の中の憂鬱な気分など吹き飛んだ。思考は一息でクリアになった。意識が覚醒した。

 

 鉄血の司令部の入り口に堂々と、見覚えのある人形が現れた。長いバレルに黒いサイレンサー、銀の銃身のアサルトライフルを持った、桃髪の女。だが、後ろには誰も居ない。他に誰かを引き連れた様子もない。囮か? それとも内通か? 寝返って密告。あるいはダブルスパイ。どんな状況だって考えられる状況だ。敵対しているには、あまりに堂々とし過ぎている。

 

 あの人形の名前は確か、「ST AR-15」だったか。まさか、グリフィンの指示の筈もあるまい。誰がスナイパーの居る砦に照明引っ提げながら特攻するものか。それくらいの野蛮で愚鈍で有り得ない光景だ。

 

 人形は、まるで散歩でもしているかのように敵司令部へと入って行った。警備の穴をついたのか? それともサイレンサーで音が聞こえなかった? まさか本当に鉄血に寝返ったのか? ダメだ、現状じゃまるでわからない。

 

 だが、状況は動いた。間違いなく無駄足にはならない筈だ。まさか同業者(空き巣)なわけがあるまい。グリフィンか。あるいは鉄血か。あの人形か。アクションは必ず起こる。その起こった瞬間、隙間を狙って……資材を貰い受ける。

 

「こいつが起きたら、銃の整備から始めるか」

 

 そうすれば、あとは見張りだけで事足りる。

 あぁ、これほどまでにことが上手く運ぶなんて。最高だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃の整備も終わり、事前のリロードも終えて。後は見張りをして機を窺うだけとなった頃合い。陽は既に傾き、沈みかけている。もうすぐ夜になるということもあってか、夜間装備を頭につけた雑魚がちらほらと見え始める。

 

 昨日から一睡もしていないが、状況のおかげで眠気はない。「拾い物」の調子も良好だ。起きてからは恙無く警戒に当たっている。今日は警戒に当たって徹夜をする。仮眠をとるのは、明日の明け方からだ。まさか、グリフィンも人形も、朝っぱらや昼間から強襲を掛けるわけがあるまい。そんな時間から暴れたなら相当な馬鹿か、夜戦の大嫌いな民族だけだろう。

 

 あの桃髪の人形は、司令部に入ったきり出てこなくなった。バラされたか、人質にされたか、それとも寝返ったのか。どの可能性も考慮に入れて動かなければならない。

 

 鉄血の雑魚が、また目の前を通っていく。距離にしてみれば15mくらい開いているが、目視するには十分すぎた。こいつもまた夜間装備を持っているとなると、既にほとんどの相手の雑魚は夜間装備に切り替えていることだろう。

 

 さて、今日もつまらない警戒にならないことをお祈りする時間か。いない神にご利益なんてあるとは思えないがね。くだらないことを考えながら警戒していると、急に鉄血の雑魚の動きが止まった。

 

「警戒」

 

 予め決めていたワードで「拾い物」にも伝達する。緩んでいた弦がピンと張り詰めるように空気が変わった。何をやっているのか、注意深く見ていると、雑魚どもは司令部の周辺を回り始めるのをやめて、入り口の方に向かっていく。何だ、作戦会議か? いや、雑魚を集める必要はない。まさか鉄血が人間よろしく「朝礼」などをやる筈もない。そうだとしたら俺は大声で笑い転げて射殺される自信がある。

 

 現実的な線としては、特殊装備への換装だろう。ならば、侵入は今がチャンスか? いや、内部構造が分かっていないのにそれはない。最悪、囲まれてハチの巣にされる。中にボスも居るのだから、猶更だ。ここは、待ちの一手に限る。

 

 しかし、予想は斜め上を向いて裏切られた。奴らは、司令部に入るわけでもなく、何処かに出払っていきやがった。思わず目が丸くして、二度三度、瞬きをして現実を確かめてしまった。目を擦って、自分が現実を認識できているかを疑った。まさか、俺は自分が知らないうちにヤバい薬でも服用してたのだろうか。鉄血の雑魚が軒並み明後日の方向に出撃していく姿に、頭の中が真っ白になっていく。

 

「おい」

「どうかしましたか?」

「俺の目には、鉄血の雑魚が明後日の方向に出払ったように見えるんだが」

「出払いましたね」

 

 何事もないように落ち着いた「拾い物」の声が癪に障る。こいつは本当に状況がわかっているのだろうか。

 

「これは夢か? 俺は気づかないうちにヤバい薬でも服用していたか?」

「現実です。お薬も、そんな高価なものはうちにはありませんね」

「俺は拾い食いとかしていないよな?」

「チョコばかり食べてましたよ? 虫歯には気を付けてください。あ、毎晩のように私を食べてくださってもいいんですよ?」

 

 おかしい。どうして「拾い物」のこいつは落ち着いているんだ? ひょっとしてグルか? 鉄血と組んで俺にドッキリでも仕掛けようとしているのか? そんな馬鹿なことがあって堪るか! あと、虫歯は余計だド阿保。仕方ないだろ、チョコしかないんだから。それと、テメエは食われる側じゃなくて食う側だろうがポンコツ。

 

「おい」

「何ですか?」

「命令だ。これが現実だと証明しろ」

 

 こんな荒唐無稽なことが現実になって堪るか。鉄血のエリアボスがそこまで馬鹿なわけがないだろ。俺たちの今までの苦労は何だったんだ。もしもそれだけお馬鹿な相手なら、笑いながら殺してやる。この屈辱を忘れてなるものか。

 

「指揮官。こちらを向いてください」

 

 現実を証明する手段を見つけたのだろう。言われた通り「拾い物」の方を向いた瞬間、頬をこいつの両の手で掴まれて、そのまま人工呼吸と洒落込みやがった。

 

 思わず身を引くが、後ろが木のせいでさがれない。他所を向こうにも、引き剥がそうにも、力が強過ぎて抵抗できない。周りに誰も居ないことをいいことに、執拗にいやらしく音を立てて、舌を絡めとり、更に隙を見計らって俺の後頭部を押さえつけ、もう片方の手は背中に回してきた。燃え尽きそうなほど情熱的に、苛烈に、まるで自分の所有物だと好き勝手にマーキングするほど無遠慮に口の中で暴れてみせた。呼吸が苦しくなり、肩を叩いて知らせても止まらない。いよいよ意識を失いそうになった時、俺は本気で「拾い物」の腹部を蹴りつけて引き剥がした後、関節をきめてその場に押さえつけた。

 

「ごほっ、ごほっ……がはっ。あぁ、クソ。テメエ、何のマネだ!?」

 

 大声をもって怒鳴りつける。幸い周りには誰も居ない。声を出すことを憚る理由はどこにもない。怒りの感情のまま、腕に力を込めて拘束をきつくする。もう片方の手で首を絞めつけて、返答次第では、と眼力に殺意を乗せた。

 

 だが、「拾い物」はさも当然のように笑って見せた。「ほら、言った通りになった」とばかりに、計画が上手くいったときの上機嫌な笑い方だ。

 

「現実を証明してみました。役得です」

 

 えへへ、とこんな状況にも関わらず朗らかに蕩けた笑みを浮かべる「拾い物」を前にして、毒気を一気に抜かれる。舌打ちをしながら、拘束を解いて自由にしてやった。

 

「だからってあんなやり方があるか」

「夢は、痛みや苦しみがないと目覚めないので。指揮官の限界まで、キスしちゃいました」

「しちゃいました、じゃねぇよド阿保」

 

 おかげで酸欠だ。頭に血が溜まっていくのがわかる。顔が馬鹿みたいに熱くなってきた。やり場のない怒りが腹の底に沈殿している。

 

「あぁ、わかったよ。ここが現実だってことはな。現実なら、早く行くぞ」

「はい。あっ、指揮官。ちょっとお腹が痛くて立つのが難しいです。手を貸してくれませんか?」

「置いていくぞ」

「指揮官のいけず」

 

 まるで夫婦漫才だ……と思った時点で、俺の頭は末期なのだろう。こんなポンコツを拾ってしまった俺は、もしかすれば世界一不幸せな指揮官とやらではなかろうか。

 

 あぁ、一匹オオカミの頃が恋しいと、そう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 中に入ってみれば、相も変わらず鉄血の司令部は汚らしい。ここもまた廃棄工場跡地だった。最低限の照明はついているが、それだけだ。鼻につく古い油の臭いが不快感を煽る。積み上げられたパーツは錆びついていて使い物にならない。一階の大広間は外れだ。

 

 資材を積み上げるなら、間違いなく奥の小部屋の何処かだ。こんな戦場になりそうなど真ん中において、敵の銃弾や手榴弾で爆破されたら目も当てられない。警戒しながら、薄暗い敵司令部の中を進んで行き、目的の小部屋に辿り着く。「拾い物」にアイサインを送ると、すぐさま扉の前に待機してドアノブに手を掛ける。そして俺がドラグノフを構えたところで、扉を開けて中へと転がり込んだ。

 

「……クリアです」

「誰も居ねえのか。こりゃあ、雑魚が全員出払っているかもしれねぇな」

 

 俺は部屋に入ってから扉を閉めて鍵をかける。カチッ、と耳当たりの良い音に「拾い物」はいち早く反応して、こちらに期待するような視線を向けてきたが無視した。俺に無視されて「しゅん」と落ち込んでいたが、知ったことではない。手分けをして、中の棚や机を漁り始める。

 

「……鉄血の、二年ぐらい前の資料か?」

 

 夜間用のライトで照らして出て来た書類に目を通すが、小難しいことばかり書いていてよくわからない。要約すれば「製造計画」と「売り上げ目標の推移」について書かれているとみていいのだろうか。何かの隠喩や暗号ならお手上げだ。

 

「指揮官。ワインがありましたよ」

 

 棚を漁っていた「拾い物」が、その中から両手で抱えるほどの大きな瓶を取り出して見せてくる。嗜好品として素晴らしいモノを見つけて来た「拾い物」からすぐさまワインをふんだくろうとしたが、その手をひらりと躱される。何の真似だ、と目で訴えかけると、「拾い物」は俺の方を真っ直ぐに見て口を開く。

 

「帰ってから、期待してますね?」

「……あぁ、わかった」

 

 拒めば地面にワインを叩きつけそうな勢いだった。背に腹は代えられない、と俺は渋々了承してから、ワインを受け取ってリュックの中に詰め込んだ。しっかり尻に敷かれているような事実には、目をつぶる。今は酒が大事だ。酒の喜びに純粋に浸ろう。酒浸りになって嫌な事を忘れよう。

 

 ワインとつまらない資料以外には特に何もなく。俺たちは次の部屋に向かおうと扉を開けた瞬間。

 

 ――銃撃音が、工場内を木霊した。

 

「警戒」

 

 言いながら、ハンドサインで指を二本立てる。すぐさま「拾い物」が前衛に立ち、後衛が俺に入れ替わる。狙撃の構えを取り、さてどこにいるかと目と耳を澄ませた。

 

 次の部屋の近くまで進みながら、周囲の警戒は怠らない。銃撃音から、細かく連続した音はある程度の連射性能があるとみて一人はアサルトライフルだろう。マシンガンにしては排莢の音が控えめだ。もう一人はほぼ同時に三回の発砲音が二回……三点バーストのハンドガンを二丁持ちといったところか。

 

「無視」

 

 交戦中に割り込む趣味は無い。味方とわかっているならともかく、そうじゃなければ最悪混戦で、共倒れになる。藪をつついて蛇を出さないためにも、静観してこちらはこちらの作業に移らせてもらうとしよう。

 

「警戒」

 

 先ほどと同じ手順で、次の小部屋の入り口に。突入した後は「拾い物」の合図を受けてすぐさま扉を閉めて鍵を掛ける。一見したところ、ここにも物資はない。ならばまた嗜好品でもないかと、手分けして漁ることにする。銃撃戦はBGMとして受け入れるのが吉だ。

 

 今度は俺が戸棚を調べたが。結果は外れだ。精々、いつのものか分からない茶葉が置いてある程度だ。紅茶は好きではないが、あるに越したことは無いとリュックの中に詰め込んでおく。「拾い物」の方を見てみるが、目ぼしいものはなかったのか首を横に振った。

 

「ちっ。まさか、司令室に溜め込んでいないだろうな?」

 

 そうだとしたら厄介だ。漁夫の利を取りたいものではあるが、混戦になった時は目も当てられない。とにかく、小部屋は残りひとつ。最後の一室にあることを願うしかない。

 

「警戒」

 

 二本指を立てて、流れ作業のように部屋から出て行き次の部屋に進んで行く。ここまで来て鉄血の雑魚と遭遇しないところを見ると、本当に出払っているのだろう。銃撃戦と用心のために警戒はしたままだが、少しは気が楽になるというものだ。

 

 ふと、鳴っていた銃撃の音がぷつりと止んだ。

 

「隠蔽」

 

 即座に工場内の物陰にお互いが別々の場所に身をひそめる。ドラグノフは股の間に立てかけて、物陰に隠れるようにする。二階から鳴っていたであろう音が鳴り止んだということは、下りてくる可能性が高い。進路一番先にある階段の様子を窺っていると、「拾い物」が俺の方を見て来た。その目を見てから、俺は指を三本立ててサインを送る。

 

 階段との距離はおよそ10メートル。「拾い物」のところからは5メートルといったところか。リュックの中から音を立てないように銃剣の刃を取り出して、ドラグノフの先にセットする。

 

 合図は、アサルトライフルの銃撃音だった。なり始めて瞬きした間に、階段を駆け下りる音が鳴り響く。その瞬間、俺は地を這うように、「拾い物」は通常の姿勢で物陰から飛び出して階段に向けて走りだした。

 

「――っ、お前は!?」

 

 階段から飛び出したのは鉄血だった。それを見た瞬間、いや見る前から「拾い物」は飛び出してくるのに合わせて自身の名前を冠するアサルトライフルを発砲した。弾丸はしかし、鉄血が両腕で防いだことによって頭には当たらない。すかさず弾幕を張る「拾い物」は鉄血との距離を即座に詰めていく。鉄血は防御しながらも、虎視眈々と格闘戦の準備をしていた。眼光が鋭く、怪しい光が宿っている。

 

「甘い!」

 

 鉄血が「拾い物」に格闘戦を仕掛けようとした直後、それを躱して鉄血の横を通り抜けた。階段を踏み鳴らす音に、ポカン、と呆然とした一瞬。俺は鉄血を銃剣の間合いにおさめていた。この一撃で脳天を貫くために確実に、相手の手前で踏ん張りをきかせ、そこで生まれた力の全てを腕に込めて鉄血の脳天を串刺しにせんと突きを放つ――!

 

「――ッ!?」

 

 しかし、寸でのところで首を横に向けて躱される。野性の本能か、それとも機械の特別な感知能力か知らないが、避けられた。驚きの二連続に、しかし鉄血が硬直することは無い。無慈悲に俺に向けて手に持っていた二丁拳銃のうちの一本を向けて来た。

 

「死ね」

 

 カチ、と先に小さな音が響く。鉄血はまだ引き金を引いていない。俺の手に伝わるドラグノフが少しだけ軽くなる。そうだ、それでいいと俺は嗤った。

 

「馬鹿が」

 

 銀色が閃いた。次の瞬間には鉄血の首に深々と刺さる銃剣の刃。トリガーを引ききることも忘れて呆然となる鉄血の頭に向けて、俺は軽くなったドラグノフの銃口を突きつけた。

 

「死ね」

 

 重々しく、ドラグノフの銃声が木霊する。鉄血の頭はこの一撃により破裂して、汚い油をぶちまけながら力なく地面に倒れ伏した。

 

 なんてことは無い。「拾い物」が地を這うように突撃する俺を隠しながら襲撃と牽制を行い、「拾い物」とスイッチして俺が銃剣で仕留めることを狙い、それが外れれば予めターンをして待っていた「拾い物」がドラグノフにつけられた銃剣を外して敵の首にぶっ刺す。そして、俺のドラグノフの銃弾でフィニッシュだ。

 

 同じ相手には、一度きりしか通用しない奇襲だが。鉄血のエリアボスクラスにもなれば、これくらいしなければ仕留めきれない。前衛と後衛のありきたりでは、予想を上回った身体能力や特殊武装によって攻撃を躱され、結局、狙撃手の俺が先に殺される。

 

 だから、その全てを無力化するための刹那の攻防。これが、鉄血のエリアボスを相手取るために必要な方法。少なくとも、今の俺はそう考えている。

 

 相手の土俵に上がってやる義理などない。

 

「お疲れさまでした、指揮官」

 

 鉄血の首にぶっ刺した銃剣を引き抜いて、油を振り落としてから「拾い物」は渡してくる。俺はそれを受け取り、リュックの中にすぐに詰め込んだ。

 

「お前もな。パートナーくらいには認めてやるよ」

 

 こいつの身体能力は、夜戦時、暗闇の中では特に真価を発揮する。銃剣を一瞬で解除するなどという神業を、平然とやってのける。精確無比な射撃もさることながら、体術に体捌きに至るまで他の人形とは一線を画する。視線の切り方は絶技の域だ。

 

 夜のこいつは、絶対に相手取りたくない。

 俺は、心底そう思う。

 

「上のヤツも片付けますか?」

 

 普段の甘ったるい声とは違う。凛々しく、頼りがいのある声が耳を打つ。その声色はまさしく軍人や、戦士が数十年も戦いに身を置くことで手に入る玄人のものだ。

 

「いや、いい。どうせグリフィンだ。下手に処分して目をつけられちゃ堪らねぇ」

「わかりました」

 

 今のこいつの目は、普段の蕩けた様な、甘える様なものではない。眼光が鋭利なナイフのように鋭く、冷え切っている。きっと頭の中では、戦場の状況を完璧に把握して冷静な分析を下しているのだろう。

 

「愛してるぜ。これからもよろしく頼むわ」

「今は目の前のことに集中を。指揮官を失ってしまったら、私にはもう……何も、残されないので。ですから、ご自分の事を優先してください」

 

 あぁ、やっぱりこいつはポンコツだ。

 だが、だからこそ俺にはピッタリなのだと、そう思う。

 

「行くか」

「はい」

 

 これくらいメリハリついていた方が、俺の覚悟も固まるというものだ。

 俺はこいつと、地獄の果てまで付き合うことになる。

 

 長年の勘が、もう逃げられないぞ、と呟いている。

 

 上等だ。

 最期まで付き合ってやる。

 

 「拾い物」を拾ったのは俺だ。

 最期まで面倒を見るのは、持ち主として当然のことだろう?

 

 

 

 さて、資材をかっぱらって、おさらばするとしますかね。

 

 

 

 





さっそくですが、誤字報告の方、ありがとうございます。適用させていただきました。

こんな感じでこれからも続けさせていただこうと思います。
9A-91ちゃんは「かっこかわいい」。これ正義ね。

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