生き残って役に立て 作:屑の鑑
今まで、俺の物語というのはいつも俺だけで完結していた。
雇い主の命令には確かに左右されたかもしれない。戦場の不確定要素に作戦をかき乱されたことなど数知れない。だが、その全てを俺は一人で乗り切ってきた。利用できるものは何でも利用した。志を同じくした奴を囮に使って逃げたことなど数え切れない。任務のためなら、同じ勢力の司令部さえ切り捨てて行動した。
生きるために。自分の為に。それだけを胸に俺は戦い続けてきた。
永遠に一匹狼のまま、そんな俺らしい最期、どっかで惨たらしく死ぬものだと思っていたが。思わぬ「拾い物」が全てを変えてしまった。一匹狼の肩書を消し飛ばした。
だが、俺を指揮官だと敬っているのは表面上だけだ。本当にそう思っているなら命令違反を起こすものか。
「なぁ」
だから、俺は試しに聞いてみようと思った。
「俺がもし、お前に”俺を殺せ”と命令したら、どうする?」
そんなくだらない質問に、「拾い物」のこいつは綺麗な笑顔で答えた。
「指揮官の捨てた命を、私が拾わせていただきます」
「具体的には?」
瑞々しい唇に、ちろりと舌が這う。恍惚な笑みを浮かべて、背徳感と愉悦に染まった醜い表情で、「拾い物」は酔いしれるように言った。
「指揮官を監禁します」
「そうか」
「指揮官を私の好きにします」
「へぇ?」
「指揮官には私の為に生きてもらいます」
「御免だな」
「指揮官には私しか見えないくらい、私に溺れてもらいます」
「そういうのは胸の内にそっとしまっとけ」
「指揮官が私なしじゃ生きられないように仕向けます」
「どんな言葉で?」
一瞬も迷うことなく。醜さがさっぱり消えて、花園のように可憐な笑みが浮かんだ。
「生き残って役に立て。今生きることに全霊を注げ。悟った様なツラする暇があるなら、私の為に生きなさい、と」
最初から手遅れなのだと、そう思った。
人形のくせして、聖人のように綺麗な笑顔で涙を流しながら言う「拾い物」の姿を見て、俺は確信した。
「なら、死ぬわけにはいかねぇな。お前にタマ握られるなんざまっぴらごめんだ」
「はい」
嬉しそうに頷く「拾い物」を見て、俺は目をそらすように天井を仰いだ。ボロ臭くて所々に染みが合って、場所によっては穴すらあいている有様が。
どうにも、他人事のようには思えなかった。
敵司令部への空き巣はつつがなく終わったのは、もう一週間も前になる。予想通り、階段に一番近い小部屋に資材は置いてあり、鉄血の雑魚すらいないのをいいことに、運べるだけ運び出してやった。ついでに、鉄血の使っていた二丁拳銃もちょろまかした。
結局、上に居たのであろう桃髪の人形とも出会うことはなく、万事順調に事を終えることができた。拠点に帰ってきた晩には盛大にワインを飲み明かしたが、その後のことはよく覚えていない。気づけばいつも通り、「拾い物」と一緒のベッドで寝ていた。頭痛と腰痛を感じたが、無視だ、無視。気にしていたら禿げそうだ。
資材は思っていた以上に潤沢だ。特に、弾薬と「拾い物」を修理するためのパーツには事欠かない。夜間ゴーグルに夜間スコープも鉄血の基地の中で拾えた上に、徹甲弾と焼夷手榴弾のおまけつきだ。
今のところ、一番の問題は食糧だ。そろそろ、チョコレートばかりでは体にガタが出始める。ここらでひとつ、まともなパンやら野菜やらを補充しておかなければまずい。だからこそ、休業していた傭兵活動を再開しようと決めた。
「傭兵活動、ですか?」
「そうだ。俺の食糧がそろそろまずい。主食がチョコレートとか笑えねぇ。せめて炭水化物がなきゃやべぇってもんだ」
だが、グリフィンからの依頼を受けるのは少し不味い。街に行く程度であれば構わないが、依頼を受けるとなればまた無茶ぶりをされかねない。何より、トンズラこいた身としてはこれ以上関わってもロクなことがないのは明白だ。
「グリフィンに戻るんですか?」
「んなわけあるか。任務煙に巻いて逃げて来たからな。おちおち出て行けば、また捨て駒に使われるか、最悪頭に鉛玉だ」
「でも、この周辺にはグリフィン以外の有力な団体は……」
こいつの言いたいことも、まぁ理解できる。俺たちが拠点にしている周辺には後ろにグリフィン。前は鉄血。上下は緩衝地帯。そんな場所だ。他から依頼を受けるためには、拠点を移すほかにない。そう思うかもしれないが。
「いや、ツテはひとつだけある。こんなことなら死体運びもやればよかったが……まぁ、これがあれば十分だ」
そう言って俺が取りだしたのは、鉄血のエリアボスがもっていた二丁拳銃だ。「拾い物」はそれを見て目を丸くして、まさか、と口を開いた。
「16LAB……ですか?」
「大正解だ」
グリフィンと密接な関係にある研究機関。それが「16LAB」だが、何も一枚岩というわけじゃない。俺たちの価値を鉄血のエリアボスの無力化、及び武装の奪取をみせれば、さぞ食いつきが良いことだろう。たかだか傭兵の一人二人、匿うのは容易なことだ。それで優秀な人材が確保できるなら、間違いなく乗ってくるはずだ。
「これから、16LABと接触を図る。その中で金をもらって、食い物買って、食い繋ぐ。プランはこれでいこう」
この後、特に予定もない。善は急げという言葉もある。早速、身支度を整えようと椅子から立ち上がる。それとほぼ同時だった。
――コンコン、と控えめなノックが耳を打つ。
「警戒」
一本指のハンドサインを送りながら、退路である路地裏に繋がる窓に視線を配る。最悪、すぐに逃げられるように。リュックを背負って。後ろ手にスモグレと閃光弾の二つを手に持った。
『あれ、返事がないね』
『無視しているのよ。潜伏場所にいきなりですもの。警戒するのは当然よ』
能天気な様子の高い声と、落ち着き払った女の声が扉越しに聞こえてくる。どうやら、いきなり殺そうなどとは思っていないらしい。まぁ、当然だ。殺すなら外から手榴弾なり、この一帯を爆破するなりすればいい。お行儀よくノックをするくらいだ。話し合いがあるのだろう。だからといって、逃げる準備は怠らないが。
「継続。開けろ」
「拾い物」は俺の指示に従って、警戒を継続しつつ扉をゆっくり開いた。薄暗い路地裏の、対面にある煉瓦造りの家の壁が見えてくる。「拾い物」の先には、茶髪と鼠色の髪の瓜二つの女が、サブマシンガンをこさえて立っていた。
「ハロー、傭兵さん。今いいかしら?」
「これから用事があるんでな。お帰りくださってどうぞ」
「あら、軽口を叩くほど暇なら問題ないわね。お邪魔していいかしら?」
人の話を聞かない女だった。というより人形というべきか。どういうわけか、左目の傷を修復もせず残している奇特なやつ。部屋に招き入れろとは、お互いに信用しようという魂胆か。お前の部屋を攻撃すれば私たちにまで被害が及ぶから、攻撃はしないよ、という。もしそうなら、笑わせてくれる。
「はっ、人形が。ダミーじゃない保証はあんのか?」
「保証は出来ないわ。でも、こういう時こそ殿方の甲斐性の見せどころじゃない?」
「何だ、そういうお誘いか?」
冗談まじりに言うと、絶対零度の視線がこちらに向いた「拾い物」が夜戦の時にも見せたことのないような視線で、俺を凝視していた。地雷か、と俺は溜息をひとつこぼし、肩竦めて「冗談だ」と口にする。
「お人形さんに尻に敷かれるのが趣味なのかしら?」
「はっ。抱き心地は最高だぜ?」
「下品ね。まぁ、いいわ。実力はよく知っているから」
児戯のような舌戦は、このくらいで十分と思ったのか。矛先は俺の情報に向いてきた。
「簡潔に言うわね。あなた、私たちの部隊に入ってみない?」
あぁ、なるほど。部隊とは、そういうことか。傭兵稼業をやっていれば、嫌でも耳につく。こいつらは、なるほど。そういう目的だったのか。
「生憎、まだ墓場に入るわけにはいかねぇな」
「勘違いしないで。これは純粋な勧誘よ。次の作戦、私たちだけだと被害が大きそうだから。人手が少しでも欲しい所なの。それこそ、死んだ者扱いされている、都合の良い傭兵さんがね?」
何だ、やはり勘違いではない。知らない人間を、それも女所帯に勧誘なんざ。しかも被害が大きそうだから人手が欲しい? 死んだ者扱いの都合の良い人材? ふざけるのも大概にしろ。
「欲しいのは鉄砲玉の間違いだろ?」
「そんなことない! 部隊に入れば、みんなかぞくだ!」
鼻で笑って言った俺に、今まで話していなかった茶髪の方が大声を上げて反論してきた。その内容がますますおかしくて、俺はくつくつと喉を震わせた。
「家族? ままごとなら他所でやれ。それとも何か? 俺は別の墓場にいくのか? あるいは、義兄弟の杯とか洒落たことヌかすのか?」
「そうじゃなくて――」
「無駄よ、ナイン。そいつは一匹狼よ? 私たちの考えがわかるはずもないわ」
「なら、ちゃんちゃらおかしいな。まったく考え方の合わない俺を勧誘なんて。まさか、
「……どういう意味かしら?」
俺はめいっぱい顔を歪ませて、嘲ってみせる。いやらしく、心底バカにした風に、可哀想なやつを見る様な視線を鼠色の女に向けて。
「自虐ネタなんだろう?
『ぷっ――!』
俺の言葉のすぐ後に、嫌に粗い音声が響いた。どうやら、何かしらの通信装置で仲間と連絡を取っていたらしい。まぁ、当然といえば当然だろうが。俺の言葉は、どうやら通信相手にはご好評のようだ。
「……今笑ったわね?」
『し、仕方ない……じゃない……! だって、ぷっ、あははっ!』
「おーおー、お仲間にも笑われて。え、そんなに気にしてたの?」
「っ、大体あなたのお人形も――!」
「こいつのは手頃なサイズだな。手にすっぽり。で、壁って掴めるの? 正面から。抉らないと無理じゃね?」
『――ッ! ――ッ!』
通信先のお相手の大変ご満悦の様子で俺も気分が良くなった。要らないとわかっていても、トドメを刺してやろうかと、思わず嗜虐心が芽生えてしまった。そのせいか、口からぽろりと。
「で、見つかったのか? パッドは」
ぷつん、と通信を切るような音が聞こえて来た。鼠色の髪の人形は血色の悪い顔から一転、顔を真っ赤にして、親の仇とばかりに俺を視線だけで射殺そうとしてくる。それがあまりに面白おかしくて、追撃に鼻で笑って肩を竦めてみせた。
「……オッケー。交渉決裂ね。夜道には気をつけろよゴミ」
「おう、忠告ありがたく受け取っておくぜ? ラッテンフェンガー」
結局、言葉を交わしただけでお相手……
「何だったんでしょう? あの女たち」
「知るか」
何はともあれ、16LABに向かうため、俺たちは身支度を始めるのであった。
別に45姉が嫌いなわけではない。うちには100レべが二体いる。好きな部類。でもなじるのは止められない。
二話の時点でこの話はやろうと決めてた。
404=サイトが見つかりません=UMP45姉の御胸が見つかりません。
大満足☆彡