今回はいつもの倍で,2000文字あります.
「はい,どうぞ」
「ありがとうございます」
畳の部屋に通されて机の前に座った鳳翔は,緑茶の入った湯飲みを自分の前に置いた女性が,向かいに座る男性の横に同じように座ったのを見て話し始めた.
「話をさせていただく前に,こうして家に上げてくださったことを感謝いたします.先ほども名乗りましたが,私は鳳翔と言います.変わった名前だと思われるでしょうが,偽名ではありません.私は人間ではなく,艦娘.大戦時の艦艇の力と記憶を持つ存在です」
「艦娘ねえ……」
「はい.急にこんなことを言われても信じられないとは思いますが,本当の事です」
「鳳翔ってことは大戦後に輸送艦をしていた元空母かい?」
「はい.信じていただけるでしょうか」
そう言った鳳翔は,不安げにうつむいたが,男性が言った次の言葉に直に顔を上げた.
「ああ.信じよう」
「本当ですか!」
「本当だ.玄関であなたを見た時,何故か初めてではないように感じた.ああそう言えば,まだこちらが名乗っていなかったね.わしは佐藤信幸という.こっちは妻の由希子だ」
「初めまして.鳳翔さん.由希子と申します」
「それでな,実は,わしは当時輸送艦だった鳳翔に乗ってこの日本に帰ってきたんだよ」
「え…,そうだったんですか!」
男性.信幸の予想だにしない告白に鳳翔は驚き,不思議な縁もあるものだと思った.
「ああ.言うなれば,お前さんにわしは借りがある.それで,話の続きを聞こうじゃないか.どうして艦娘のお前さんがこんなところにいるのかね」
「はい.でも,それは私にもよくわからないのです」
「わからない?」
「はい.この先何年か後に,海底から現れる艦艇群によって人類は滅びます」
「それはなぜ?」
「地球の免疫反応のようなものです.増えすぎた人口と広がる環境破壊に対するこの星の防衛本能でしょう」
「…」
「そして,私たち艦娘は,それに対抗する為にこの世界に召喚されたのです」
「私たちということは他にもいるのかね」
「ええ.そのはずです.気がついいた時には,ここに一人でしたので他の艦娘がどこにいるのかはわかりませんが…」
「なるほどのう.では,お前さんの事は明日にでも国のほうに知らせたほうがよさそうかの」
「いえ!それはしないで頂けないでしょうか」
「…それはどうしてかな?」
いきなり大きな声をあげた鳳翔に少し驚いた信幸だが,静かにその理由を尋ねた.
「私のお腹の中には赤ちゃんがいます」
「…なに?」
「本来,艦娘は一人目の艦娘をベースにする事で召喚されていきます.つまり,空母型であれば私をベースにすることで召喚されていくのです.しかし,召喚に失敗してしまった私ではその役割を十分に果たすことが出来ないと判断したのでしょう.召喚システムはその不足分を別の方法で補おうとしました.本来,成長した姿で召喚される艦娘を,私の赤ん坊としてこの世に生み出すことにしました.私がこのまま戻れば,この子たちはいつか来る戦場へと出ることになるでしょう.別に,自分が生んだ子たちだからというだけではありません.もう,誰にも辛い思いをしてほしくないという気持ちは本物です.でも,やっぱりこの子たちは私の娘なんです.これは私のわがままです.きっと他の艦娘や多くの人たちに迷惑をおかけしてしまうでしょう.でも,その分は私が埋めて見せます.確かに,旧型の私では力不足かもしれません.勝手なことを言っているのはわかっています.でも,どうか私の存在は秘密にしておいていただけませんか.お願いします.どうか.どうか…」
鳳翔は最後には泣きながら頭を下げた.
実際の所,鳳翔が政府機関のもとに戻って提督とのパスさえ繋がれば,召喚システムは正常に機能するようになり,他の空母も問題なく召喚できるようになる.
つまり,鳳翔の娘として戦場に立つことはない.
そんなことは,鳳翔にもわかっていた.
いや,むしろわかっているからこんな事を言ったのだろう.
先の大戦時には,ただ見送る事しか出来なかった記憶が,心が叫んでいた.
今度こそ彼女たちを自分の娘として愛し,守ることができると.
だから,鳳翔はただただ頭を下げ,懇願した.
どうか,この繋がりを断ち切らないで欲しいと.
「…」
「鳳翔さん.頭を上げてください」
そう口を開いたのは,ずっと黙っていたいた由希子であった.
「鳳翔さんの気持ちはわかりました.あなたたちのことは黙っていましょう.ね,信幸さん」
「ああ,そうだな」
「本当ですか…」
由希子と信幸の言葉に,鳳翔は顔を上げて真っ赤になった瞳で二人を見つめた.
「ええ,本当ですよ.私たちには子供がいません.だから,本当の意味であなたの事をわかってあげられないかもしれない.でもね,子を思う母親の気持ちを誰が無下にできるでしょうか.もう私たちは他人ではありません.頼ってくれていいのよ」
「そうだぞ」
「ああ….ありがとうございます…」
鳳翔の目に涙が浮かぶ.
「一晩なんて言わずにずっとここにいなさい.それに,私たちの事,お父さんお母さん…には年が離れすぎているから,おじいちゃんおばあちゃんだと思ってくれていいのよ.そのほうが私たちもうれしいわ」
「ああ.それはとてもいい考えだな.由希子」
「そうでしょう.信幸さん」
「ありがとうございます…ありがとうございます…」
鳳翔の瞳から涙が溢れ出す.
それは決して悲しみの涙ではない.
冷静に見えても,決意したといっても,この世界に一人で召喚された鳳翔も不安だったのだ.
鳳翔を由希子がそっと抱きしめる.
それからしばらくして眠りに落ちるまで,由希子の胸で鳳翔は泣き続けた.
サブタイトルのセンス…ほしい.
あと,セリフと場面説明の配分って難しいですね.
ですがこれでようやく,次話からストーリーが動き出します.
と言っても,次話は説明文ぽくなるかもしれませんが.
そんなことより,ストックがもう切れました.この2種間何してたんでしょうね?
ここまで読んでくださった人の為にも,そして自分の為にも頑張って書きます.
だって,本当に書きたかった場面はここからですから.
でも,今週から大学の研究生活スタート…….
第4話は次の日曜日に投稿予定です.