背伸びしたがりの子供には好きにさせるべし   作:あくたたか

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前回の「貴方の髪結い」の仕返しが発生しました。
風呂場での壮絶なりヤマトさんの仕返しがあります。

ちなみにもはやキャラ崩壊し始めてきたので、「ウッ」となったら早急にお逃げください。


背伸びしたがりの子供には好きにさせるべし

 時が過ぎるのと言うのはあまりにも早すぎて、瞬き一つする頃にはもう一年経つ様な感覚がするのは恐らく歳の所為であろうと思う。

 ずず、と暢気に茶を啜っていれば、向かい合わせにいたセイギは小さくカタカタと震えている。

 

 季節は冬。ヤマトがセイギを引き取り暫くして、同じ屋根の下に住み始めてから初めての冬がやってきた。

 

 一応炬燵を用意して、今も炬燵の中でのんびりと過ごしているのだが、どうやら今年の冬は少し寒さを増していて、秋頃から既に冬を彷彿とさせる肌寒さであった。

 

 幾ら北の地方で育ったからと言って、決して寒さに慣れている訳でもないらしく、その様子を見ていてあまりにもいたたまれない。

 

 時計を見ればもう午後6時。そろそろ晩飯の準備をせねば――と思うも、うむ、とヤマトは悩む。

 

 自分自身は柔な鍛え方をした訳ではないから、多少の寒さであれば耐えられるが、確かに幼い頃は寒さに強かったかと言われれば否。

 

 一応今日の献立は鍋にしようと考えていたが、ヤマトは少しだけ悩むと「よし」と呟く。その声にセイギは首を傾げた。

 

「セイギ、やはり今日は冷えるから先に風呂を済ませよう。」

どこか明るい表情を一瞬見せた後、こくこくと頷くとヤマトは頬笑み返し、早速風呂を焚きに行かねば――と、風呂場へと向かった。

 

 

 

 

「セイギ」

 暫くして風呂の準備が整えられると、ヤマトはセイギへと声を掛ける。

「とりあえず風呂に入っておいで。寒いだろう?」

 

 またこく、と小さく頷く。先程箪笥から取り出した手拭いと寝巻用の着物を渡すと、軽く頭を撫でてやる。しかしセイギはそれを受け取っても、ヤマトを見つめたままだ。

「?」

 

 まだ引き取った初めは一緒に風呂に入っていたが、どうやら一人で風呂に入るのにも慣れたようだからと背中の流し合いをしたのは随分前の事。暫く続く無言の後に、セイギは小さく呟く。

「…一緒に入りませんか?」

「おや、今日はどうした?」

「…」

 

 ヤマトが追求するもセイギは答えない。しかしヤマトもヤマトで断る理由はないし、今更である。肩を小さく竦めると、またセイギの頭を優しく撫でる。

 

「すぐに準備する。だから先に湯船に浸かっているといい。」

 こく、とどこか嬉しそうに頷くと、先にセイギは風呂場へと向かう。その小さな背を見送ると「まだまだ子供だな」とヤマトは無意識の内に笑うのであった。

 

 

 

 カポーン、と言う音が風呂場に響く。否、勿論これはヤマトとセイギの両者の脳内の中でだが。

 

 先に軽くかけ湯をした後に湯船に浸かって今に至るが、そろそろ洗髪したり身体を洗わなければと思い、ヤマトは「セイギ」と声を掛ける。

 

「?」

「折角一緒に入ったんだ。たまには背中を流してやる」

 

 こくこくと頷くと、浴槽から上がって予め用意してあった椅子に座ると、ヤマトもまた浴槽から上がり椅子に座るとボトルからシャンプーを500円玉程度の大きさの分だけ出しては、軽く両手で擦り、そのまま頭皮を柔らかく刺激するように洗っていく。

 

 セイギもまたシャンプーが目に入らない様に目を瞑り、大人しく座っていた。一通り洗い終わり、シャンプーをお湯で洗い流すと、手拭いを濡らしては次は身体も洗ってやる。

 

 ヤマトも最初は慣れなかったが、徐々に要領を掴んでは、今ではすっかり父親の様に手慣れていた。身体も洗い終わると「よし」と呟く。

 

「さて、出来た。とりあえず湯船に――…」

 ちらり、とセイギはヤマトを見るが、椅子から立ち上がると、浴槽ではなくそのままヤマトの肩を叩く。するとこう呟く。

「今度は俺が背中を流します。」

「いいのか?」

 

 こく、と小さくセイギは頷くと、「なら」とヤマトは目の前の椅子を除けて前に詰めてやる。そして背中を流しやすい様に、既に高く結ってあった髪を前へと除ける。

「なら御言葉に甘えよう。」

 

 セイギはとりあえず自分の持っていた手拭いを絞って余分な水を落とす。石鹸で手拭いを泡立てるとごしごしとヤマトの広い背中を擦っていく。

 

 ただでさえ成人男性の平均身長より高く、鍛えあげられているから幼いセイギからみれば広くて逞しいだろう。

 

 一方ヤマトは口元を緩めていた。

 

 育て親として嬉しいと言う気持ちも勿論ある。だがその気持ち半分とくすぐったい感じに笑いを堪えているのだ。

 

 確かに少年と言ってもセイギはまだ幼いし、力も自分と違って鍛えている訳ではないから、本当に子供の力でしかない。しかし子供なりに懸命に洗っているのだからと複雑の気持ちで一杯でしかない。

「…ふふ、」

「どうかしたんですか?」

 

 一瞬堪えていたくすぐったさに笑った事に気付くと、「ん?」とヤマトは誤魔化す。

「いや、随分と懐かしいと思ってな。」

「そう、ですか?」

「ああ、だがお前がそう甘えてくるのは珍しい。」

「…」

 

 ヤマトの一言と同時に、セイギは黙り込むが、ヤマトは「ああ」と心の内で思う。――なんだ、照れているのか、と。

 

 終始背中を流し終わるまで無言が続くが、二人とも決してそれは苦ではない。寧ろ心地良い。

 

(…さて、この親子の様な関係がいつまで続くだろうか。)

 

 ふとヤマトはぼんやりと思う。だが何故だろうか?なんとなく寂しく感じてしまうのは。

 

 いつかきっとこの子は自分以上に立派になると確信はしているのは、育て親としても軍人としても期待しかない。だが自分を追い越してしまえば、きっと今の様に優しく名など呼んでくれない。それがどうしようもなく寂しかった。

 

 

 

 

 一人セイギは軍務を終えた後に風呂に浸かっていた。

 

 少し今日は疲れた様な気もしなくはない――そう自身の肩に乗った憑き物でも落とすようにのんびりと浸かっていたものの、遠く幼い頃の記憶を思い出す。

 

 そう言えば――と幼い日の頃ヤマトの背を流した事を思うと、まず思い浮かぶのはあの逞しい背中だった。

 

 どちらかと言うと、背中を流してもらう事が多かったが、いつもあの背中を見る度に、セイギは憧れと羨望の念を抱いていた。

 

 自分も大人になれば、一人前の軍人になればこんな背中になれるだろうか? この人に追いつけるだろうか? と、憧れを強く込めて。

 

(俺はまだまだだろうな…)

 

 まだあの背中に追いつけない。自分の最終目標であるあの人に追いつくまで後何年――否、十年単位かもしれない。だなんて考えこんでしまう。

 

 洗髪も済ませ身体も洗い終わった為に、そろそろ上がろうと立ち上がったその瞬間、ガラリ、と風呂場の戸が開く。

 

「おや?」

 

 そこには先程まで脳裏に思い浮かべていた男、カミナギ・ヤマトそのもので思わずセイギは呆気を取られるが、ヤマトはきょとんとしている。

 

「セイギ、いたのか。」

「…お先に失礼しています。」

 

 苦し紛れに答えるも、「ああ」とセイギは小さく心の内で苦笑する。

 

 この人はまだ自分の憧れたままだ――と。かけ湯をしているヤマトに目線を向けていると、偶然視線が合う。相変わらずヤマトは「どうしたのだろうか?」と言った表情を浮かべているが、こんな事を考えているのを読まれるの

は少し嫌かもしれない。そう小さく呟いてセイギは不思議そうな表情をするヤマトへこう言った。

 

「ご苦労様です、カミナギ・ヤマト大佐。お背中お流し致しましょうか?」

 一瞬、ヤマトは目を丸くするも、すぐ小さく笑って。

「…風呂場で上官呼びは止めてくれ。昔の方が可愛げがあったんだがな…全く。」

「自分に可愛げなど元からありませんよ。」

 

 くっくっく、とおかしそうに笑う様子を見てセイギは少しだけ後悔する。

 

 いくら認められようとも、この人から見れば俺はいつまで経っても子供なのか――と。

 

 

 全く、とヤマトは心の内で溜息を吐く。

 

 言葉に甘えて背中を流してもらっているが、何故こうもなったのだと。

 

 体つきはもはや軍服の上から見ても判るが、軍人としてはよく鍛えられた方だとは思うし、あの頃の小さな背中はどこに行ったのやらと少しだけ昔を懐かしみつつ、自分も歳を取ったものだと再確認する。

 

「懐かしいよ、本当に。」

 

 自然と零れたヤマトの言葉に、セイギはただ不満そうな顔を浮かべているのはヤマトには見えないが、伊達に長い時間を過ごした訳ではないから、そんな事など手に取る様に判る。

 

「何だ?一丁前に成長したのに照れているのか?」

「照れてません」

「…ふっ、冗談だよ。」

 

かぽーん

 

 

【fin.】




かぽーん(反射音)
長くなって申し訳ありませんでした
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