目が覚めたらあべこべってた   作:紺南

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第1話

昨日まで普通だった。

少なくとも、夜に見たニュース番組に変わったところはなかった。普通に寝れたし、引っかかるものはなかった。

それで朝目が覚めて、天気予報を見てたぐらいからなんかおかしいと思い始める。

 

政治ニュースの議員が全員女だったり、主夫必見とか言う単語が出てきたり。

ドッキリ番組でも流してんのかとチャンネルを変えてもどこも一緒だった。

女性議員の変わらぬ汚職とか、増えない男性議員とか、男性差別とか。

慌ててパソコンにかじりつく。どこの報道記事も微妙なニュアンスが頭おかしかった。

極め付けはAVサイト。トップページが男の全裸と言う吐き気を催す邪悪が占拠していた。

思わずうずくまった。吐き気がした。がちで。まじで。

 

「モザイクかけてもありあり分かるだろ……。薄汚いキノコとかよぉ。やめてくれや……」

 

確認のためとりあえず開いた動画は男主体でそんな感じ。もう二度と開くまい。

女の裸が存分に見れる動画は、サイトの端っこの方のカテゴリーにひっそり隔離されていた。

目の保養にクリックして、揺れる乳房に安堵した。

 

「いや、一息ついてる場合じゃねえぞ。なんだこれ」

 

女性議員が大勢を占めてる時点で日本やばいと思うけど、やってることは男の政治家と変わらなかった。

元気に汚職に励んでる。

 

夢中になって情報をかき集めている内に、いつも登校する時間を過ぎていた。

けれどやめられない。例え地震来たってやめられねえぞ。この世界どうなってんだ。

クリックしてクリックしてクリックする。

色々なサイトで情報をかき集めて、一段落した時には10時を過ぎていた。

絶望的な現状が目の前にある。

 

現実逃避に目を逸らす。携帯に友人から安否確認の連絡が来てた。

 

『無事か』

 

文字を打つ。

 

「俺の頭がやべえ」

 

『何があった』

 

「助けてくれ」

 

『何があったんだ』

 

指が止まる。

この現状をどうやって言葉にすればいいんだろう。

最適な言葉が思いつかない。必死こいて受験勉強したのに何の役にも立たねえ!

 

「落ち着け落ち着け。こういう時こそクールだろ」

 

考える。

俺は今一体どういう状況だ?

昨日まで要職は男ばっかりだったのに、今や全部女にすげ代わってる。

主婦は主夫になり、手弱女は手弱男になって、益荒男は益荒女になってた。

世界が丸っきり男女引っくり返ってしまっている。そんな中に俺は一人取り残されたっぽい?

 

まるでオセロだ。リバーシブルだ。

例えるなら、白で埋め尽くされていた盤上が、ど真ん中を除いて黒になっていた様な状況。

こんなんどうやって伝えるんだよ。伝わる訳ねえだろ。頭どうかしてる。やっぱり俺の頭がおかしいんだ。

 

考えに考え抜いた挙句、俺はこの文章を打った。

 

「男女あべこべってる」

 

『病院行け』

 

行ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院に行った。

俺は記憶障害的な何かそんな感じの病気であると女医に診断された。

治療法は、ほっとけば治ると言われた。勘だけど、たぶんあいつやぶだと思う。

 

そんなわけで特に診断書も貰えず、俺は明日から学校に通わなければいけない。

今日のところは錯乱してるってことで先生に伝言を頼んだ。実際してる。

 

そう言えば、学校とかどうなってんだろ。

そう思って『小学校 プール』で検索した。

男の水着姿ばかり出てきたからすぐ閉じた。

 

何もかも嫌になって寝っ転がってると電話がなった。

 

『あんた学校サボったんだって?』

 

母ちゃんだ。

 

「母ちゃん……俺おかしくなっちゃったよ」

 

『はあ?』

 

「男尊女卑って知ってる?」

 

『あんたそんなフェミニストみたいなこと言って』

 

この世界では女尊男卑が一般らしい。元の世界だとそんなこと言ったら鼻で笑われたのに……。

て言うかフェミニストってfemaleから来てるんじゃないのか。

語源滅茶苦茶じゃねえか。

 

『不良とか、許さないからね。ちゃんとおしとやかに育って、金持ちの家に婿に行くんだよ。そのために勉強させたんだからね』

 

「母ちゃんあんま変わんねえな」

 

元の世界では上場企業に入社して年収1000万稼げとか言ってた。

それを考えるとむしろマイルドになったのではとすら思う。

 

「明日は学校行くよ」

 

『そうしな。男の価値は顔と性格で決まるからね」

 

もういや、この世界。

 

『あ、そうだ』

 

「……なによ?」

 

嫌な予感がした。

こういう唐突に思い出したみたいな時はたいてい碌なことじゃない。

前はなんだったか。家に外人軍団押し寄せたときだっけ? 

……思い出したくもなかったわ。

 

切ろうかとも思ったが、聞くのを先延ばしにするだけで何の意味もない。

前もって準備できるのでむしろ助かることもある。

 

『あんたの妹のことだけど』

 

「は?」

 

準備も糞もなかった。爆弾発言だ。

 

もちろんだが、俺に妹なんていない。

今俺は一人暮らししてる。高校生だけど、一人で暮らしてる。

家族は電話してる母親一人だけだ。

 

『ん? 電波悪いのかな?』

 

「しっかり聞こえてるよ。でももう一回言ってみろ」

 

『私が外で作ったあんたの妹のことだけど』

 

「おい待てババア」

 

初耳だった。

いや、知りたくはなかったけど。

外に男作って子供まで作ってたとか、知りたくなかったけど。

 

『あんた、母親のことババアって……。私そんな子に育てたつもりないよ!!』

 

「てめえ自分の身省みてもう一回言ってみろ!!」

 

『なんちゅう声出すんだい! あんた本当に大丈夫なの!?』

 

「俺の頭がおかしいとか言うな! おかしいのはてめえの貞操観念だろうが!!」

 

間違ってるのは俺じゃなくて世界の方だった。

少なくとも、俺は正しいことを言ってると言う自信がある。

例え今がオセロみたいに引っくり返っていても、元の世界で愛人とか不倫とか、あれだけ叩かれるんだから、そこは変わらないだろう。

というかそうであって下さい。お願いします。

 

『ちっ。うっさいね。ロシアの男ってのはイケメンばっかりなんだよ。目の前に餌ぶら下げられて我慢できると思ってんのかい』

 

「おい、合意だよな? そこは守ったよな? 人として越えちゃいけない線だぞそこは」

 

『責任は取ったよ』

 

「ったりめえだろうがぁ!! 責任とかの前に償うようなことしてねえのか聞いてんだよぉ!!!!!」

 

『はあ? 犯罪なんてしたらこうして電話できるわけないだろ? 少しは考えな』

 

「……で?」

 

『被害届出されなければいいんだよ』

 

「一回閻魔に舌抜かれたらどうだ」

 

『閻魔なんて言うぐらいなら、よっぽど立派なもん持ってるんだろうねえ……』

 

だめだ。こんな奴には閻魔も匙投げるわ。

 

「で、妹がなんだよ」

 

『んあ? 妹ぉ? ああ……アーニャのことだけどね』

 

涎を啜る音が聞こえる。

 

『そろそろ日本に定住させようかと思ってね。近々帰るよ』

 

「あ、そう」

 

少し考える。

まだ認識の切り替えが上手く出来てないが、何となくやばいってことだけは分かった。

 

「それってこの家に住むってことか?」

 

『そうだよ。部屋余りまくってるだろ? ちゃんと掃除しとくんだよ』

 

「……日本語は?」

 

『ペラペラさ。日本国籍取らせるつもりだから』

 

そこはお前が口挟まないで好きに取らせろよ。

で、ようやく気付いた。何がやばいって俺の身がやべえ。この世界性欲も引っくり返ってるんだ。

 

「それ俺大丈夫なの? お前の娘だろ?」

 

『あんただって息子だろ。ま、性別で性欲にも差があるけどね。でも大丈夫さ。あの子私を反面教師にしてるから』

 

「子供が親を反面教師とか悲しすぎて泣きたくなるわ」

 

ほんと泣きたい。こんな親持って。

これで引っくり返る前と全然変わらないってのが余計に悲しい。

性方面が少し奔放になってるぐらいか。前の世界でも愛人の一人二人いてもおかしくない。

さすがに子供は作らんだろうけど。

 

『仕事の都合もあるから、帰る前にまた連絡入れるよ。楽しみにしてな』

 

それだけ言って電話が切れた。

何を楽しみにすればいいんだ。

性欲お化けが来日することをか。

 

世の男子どもよ逃げろ。

 




モットー
1.息抜きなので毎回3000文字ぐらいでかるーく
2.特に見直しはしない。でも誤字は直したい
3.投稿後に見返してちょくちょく変える

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