目が覚めたらあべこべってた   作:紺南

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第12話

生徒会室の棚にはファイリングされた生徒会だよりがある。

歴代の生徒会が律儀に残して行ったものだ。

年数によって文体やフォーマットが異なり、20年以上前のものまであって、そこまでくると手書きで書かれていた。偶に抜けているナンバリングもある。

抜けているのは元々無かったのか、それとも単に忘れたのか、あるいは横着したのか。真相は分からないが、そこに歴史と人の痕跡を感じられて微笑ましくなる。

 

ペラペラとページを捲る。偶に誤字を発見する。暇つぶしには丁度いい。

そんな囁かな楽しみを邪魔するかのように突き刺さる二人の目。

暇なのだろうか。その二人は、俺が生徒会室にやってきてから飽きることなく見つめ続けてくる。

 

「……」

 

「じー」

 

じいっと見つめられる。

一人は難しい顔で、一人は愉悦に染まった顔に声付きで。

ただ真っ直ぐ、あるいはニヤニヤと。

そんな視線を受けて、俺としては困惑せずにいられない。なんだこいつら。

 

「……」

 

「じじー」

 

少し放っておけば向こうから何か言ってくるかと思ったが、葵先輩は顔を難しくするばかりで何も言ってこない。デビルンの主張は少しずつ大きくなっていると言うのに。見習ってほしい。

 

デビルンがあんな顔をしている状況で、こっちから話題を振ると言うのは正直気が進まない。そんなことをしようものならあいつは絶対調子に乗る。

けど、こっちから聞かねばいつまで見つめられるか分かったもんじゃない。

いつまでも見つめていたいと言うならそれはそれで歓迎だが、どうにもそんな気配じゃなかった。

 

「葵先輩。さっきからそんなに見つめて、どうかしました? 弄られ待ちですか?」

 

「………………いや、べつに」

 

「おら一年坊! 彼女できたって本当か!?」

 

逡巡の末に言葉を濁した葵先輩。

その葛藤を全て台無しにして、デビルンは嬉々として声を大にして訊ねてくる。

あなたには聞いてないんだが。

 

「は?」

 

「本当か嘘か、イエスオアノー?」

 

無邪気と言うか空気読めないと言うか。

愛らしいより憎らしいの方が競り勝つデビルンは、目をキラキラさせて煽ってくる。それが余計憎らしい。

 

「先輩。そこのそれと同じ用件ですか?」

 

「いや、まあ……うん……」

 

「ほら、早く答えて! ハリーアップっ!」

 

うぜえなデビル。

 

「それ噂でしょう。嘘ですよ」

 

「それこそ嘘だねっ!」

 

デビルンは立ち上がり、机に両手を叩きつけて断言した。

鼻息荒く、頬は興奮で上気していた。にんまりと吊り上がった口角。内から上がる興奮を抑えきれないのか、ピョンピョンと小刻みにジャンプする。胸が揺れる。こいつまたノーブラかよ。

 

「私ちゃんと君のクラスメイトに確認したもんね。今日の昼休み、女子に言い寄られてたんでしょ! そうなんでしょ!?」

 

「言い寄られはしましたが、告白されてません」

 

「嘘だねっ! ちゃんと一言一句聞きました! 『好きな子いる?』って聞かれたんだろ!? それもう告白だろ! 年上舐めんな、ちゃんと裏取りしてるんだからな! 私のことデビル言ったこと後悔させてやる!!」

 

ひょっとしてこれは、俺は弱みを握られたことになるのか?

それで唾を飛ばすほど必死になれるのかこのデビルンって言う奴は。

あまりの情けなさに思わず溜息を吐いた。

 

「自分がモテないからって情けないぞデビル」

 

安い挑発に、案の定デビルは気炎を上げる。

「私だってモテる!!」それでいい感じに釣れたので、このまま話題を他のことに移そうと思ったのだが、意外にも葵先輩がデビルンの首根っこを掴んで抑えこんだ。

「それ本当なのか?」そう尋ねてくる。

 

「まあ、聞かれましたけど」

 

「じゃあ……」

 

「脈あるかどうか探ってきただけですよ。素っ気なくしましたし、脈なしだって思ったんじゃないですか」

 

「ダウトォォ!!!」

 

女子にあるまじき雄たけびを上げたのはもちろんデビルン。

いや、世界引っくり返ってるからもしかしたら偶に上げるのかもしれないけど、ともかく俺にとってはとても聞き苦しかった。人間の醜悪さが全身に出ている。

後輩の恋愛事情に全身全霊傾けすぎ。

 

「連絡先交換してることは知ってるんだっ!! 何が脈ないだ、ありありじゃねえか!! キープにするつもりか!? 薄汚い小悪魔めっ、浄化されてしまえ! アーメン!!」

 

「すいません。こいつ息の根止めてもいいですか」

 

「うん」

 

葵先輩の許可もいただき、デビルンの首根っこを掴む。

暴れるデビルン。抑え込む俺。

しばらく攻防が続き、何度かその胸を揉んだ後、すっかり力の逆転を忘れていた俺はデビルンに取り押さえられてしまった。

 

「ば、ばかな……!?」

 

「あっははっ! いくら私が脆弱だからって、男が女に勝てるわけないじゃない。焦ったね。動揺してる!? さあ、本性暴こうか!」

 

俺の背中に馬乗りになるデビルンが高らかに勝利を宣言している。腕を後ろ手に拘束されているので抜け出せそうにない。

何をされるか、というかこの状況で何かしようものならそれこそ犯罪なので何もしないだろうが、デビルンに屈服させられたと言う事実は過去最大の敗北感をもたらしていた。こんな奴に……!!

 

「さあ、吐きたまえ。実はこっそり付き合ってるんじゃないの? ちゅーぐらいした? まさかもうセックスまで――――」

 

「してないし付き合ってもいませんよ。人のこと尻軽だとでも思ってるんですか」

 

「思ってる」

 

「え」

 

なんかショックだ。

生まれてこの方貞操は堅く守っていると言うのに。キスだってまだだ。多分親を含めて経験一切ないと思う。

そこんところ、きっちり言葉にすれば伝わるだろうか。うりうりと頬を突っついてくるデビルンには伝わりそうにないけど。

やり返そうにも拘束されているので何もできない。なんだこの屈辱感。

 

「先輩助けてください」

 

「で、実際のところどうなんだ?」

 

俺の助けを求める声を無視して、葵先輩は俺の目の前でしゃがみ込んだ。パンツが見える。

しかしその目には憂いが帯びていて、興奮と一緒にちょっと胸が痛んだ。

 

「なにがですか」

 

「付き合ってんの?」

 

「付き合ってませんよ。信じてください」

 

「でもお前嘘ついたじゃん」

 

「それは止むに止まれぬ事情がありまして――――」

 

なんかもう面倒くさい。

元々隠す意味も特にない。なので全部ゲロることにした。

 

かくかくしかじかと説明する。

話し終えた後、葵先輩は眉をひそめて呆れかえっていた。

 

「はあ? お前それ脅迫じゃん。そんなんと昼飯食うの?」

 

「まあ、事の成り行きで……」

 

「止めとけよ。何されるか分かんねえぞ」

 

「一回だけですよ。それでコテンパンに振ってきます」

 

「チッ」と舌打ち一回。その後頭を掻いて、「あたしが懲らしめてやろうか?」そんな物騒なことを言ってくる。

 

「ちょっと、なにするつもりですか」

 

「話すだけだ」

 

「拳で?」

 

「場合によっては」

 

迷いなく言い切る先輩。

そんなところが格好いい。しかし受験を控える人が言って良いことじゃなかった。

そこのところを注意しようと口を開き、それに被せるようにデビルンが叫んだ。

 

「せんぱ――――」

 

「だめだよ葵ちゃん、そんなこと言っちゃ! 騙されないでっ!」

 

ヒロインみたいな台詞と共に背中に膝が突き刺さっている。

執拗に膝でぐりぐり攻撃してくるあたり、今日は一段と殺意が高い。

 

「こんな小悪魔のいうこと信じちゃダメ! どうせ嘘だから!」

 

「おーいデビルー。膝、膝」

 

「こんな年上を年上と思ってない奴。女遊びで痛い目見ればいいんだよ。ふんっ!」

 

ぐりっと一層膝が突き刺さった。

「ぐええ」と情けない声が漏れる。そこはかとない憎しみを感じた。

 

「ってえ……。くそデビルが。女遊びなんかしてねえよ。膝どかせ」

 

「口では何とでも言えるよ! でも普段の言動見れば分かるんだよ!! この小悪魔!!」

 

「デビルに小悪魔とか言われる筋合いはねえよ! 願い叶える前に魂奪いそうな性格しやがって!!」

 

「なんだとぉ!?」

 

デビルンが全身の力で圧し潰そうとしてくる。

ノーブラの胸が背中に押し付けられた。これにはもう慣れた。

しかし誰の胸だろうと胸は胸だから、この至福の時を堪能させてもらおうと言い合いを続ける。

デビルンが俺の首に腕を回して無理矢理海老反りさせたところで、葵先輩がデビルンの頭を叩く。

 

「いたっ!?」

 

「いい加減にしろ」

 

「葵ちゃん~!」

 

「話が途中だ」

 

泣き真似をするデビルンがもう一度ぴしゃりと叩かれて、俺はようやく海老反りから解放された。

柔らかい感触の名残と背筋の痛み。地獄と天国が並立していた。

 

「約束は明日の昼だろ? あたしも一緒に行くよ」

 

「いや、いいですよ。子供じゃないし一人で出来ますから」

 

「出来る出来ないじゃなくてな」

 

先輩は俺に指をさしてくる。

何を言おうとしたのか、口を半開きにして言葉に詰まった。

俺は突きつけられた指を見つめる。細くてしなやかな指だった。

段々と先輩の頬が上気して、ぐっと唇を噛みしめたかと思うと、ぼそりと言葉を放った。

 

「お前が心配なんだ」

 

「おぉ……」

 

葵先輩がデレた。

羞恥心からぷいっと顔を背けて、それでも俺の反応を気にしてチラチラ横目で見てくる。

なんだかほっこりした。小さなエンジェルが頭上でランラン回っている。

背中で嘆くデビルンがいなければ、愛を告白していたかもしれない。

 

「なんてことだ……なんてことだ……!!」

 

嘆きの声。悲嘆に暮れている。

顔は見えないが、その声音でどんな表情なのかは大体分かる。

女の子がしちゃいけない顔をしていると見た。デビルンが苦しんでいるだけで飯三杯はいける。その自信がある。

 

「葵ちゃんが、毒牙にかかる……? そんなの嫌だ。葵ちゃんが、こんな……こんな小悪魔なんかに……」

 

「おい、ルン。勘違いするなよ」

 

先輩が声を上げる。

それに乗っかる形で俺も自分の要望を述べた。

 

「いい加減人を小悪魔扱いするのは止めてもらいましょうか」

 

「がーっ!!」

 

しかしながら、俺たちの言葉は奴の耳には届いていないようで、背中の上でそんな雄たけび。野獣のような猛獣のような声だった。

背中に何度か頭突きを食らって、やがて静かになったと思ったら、ぽつりと呟く声が聞こえてきた。

 

「もう、殺すしか」

 

背筋にぞくりと悪寒が走る。

 

「お前を殺してわたしもしぬ」

 

「瑠音先輩と心中は地獄に落ちるより苦しそうなので遠慮します」

 

「お前に拒否権なんかなーい!!」

 

「がおー!」といつもの調子で襲われそうになったが、如何せんうつぶせに押し倒されている。逃げることは出来ない。

半ば死を覚悟した。具体的には首筋辺りにがぶりと噛みつかれることを。

けれど凄惨な未来に描いている間に、「ぷぎゅっ」そんな可愛い鳴き声が聞こえて、バタリとデビルンは倒れた。

 

「……なにしましたか」

 

「鳩尾に一発。あたし喧嘩はしたことないけど、結構強いと思うんだよな」

 

シュッと虚空に拳を突き出す。

それは確かに鋭いような気がした。まあ、相手デビルンだし。人類最弱と言っても良いぐらいの弱さだ。参考にならない。

 

「明日一緒に行くぞ。あたしが守ってやる」

 

「たかだか告白されるぐらいで大げさですね」

 

「ただの告白ならあたしだって遠慮する」

 

言外にただの告白じゃないと主張していた。

菊池由香ってやつが普通ではないのは確かだが、だからと言ってそれほど身の危険は感じていない。

やっぱりただの考えすぎだと思うのだが。

 

「お守りはいらないっす」

 

「お前が何と言おうと同行する」

 

「先輩、考えて見てください。告白しようと好きな子呼び出したら異性同伴で現れるって状況を。あんまりに酷じゃありませんか?」

 

「酷だな」

 

「でしょう?」

 

先輩は頷きながら「でも」と異論があるようだった。

 

「極端な話、お前レイプされるかもしれないぞ」

 

予想していた斜め上の発言に、思わず黙ってしまう。

レイプされるって言う発想はなかった。

なにせ俺は男だし。男がレイプされるってホモに狙われる以外にありえないシチュエーションだ。そんなシチュエーションは考えたくもない。

 

「ありえませんよ。ここ学校ですよ。何を根拠に」

 

「お前無防備だから」

 

「めっちゃ警戒してますから。バリバリです」

 

「どうかな。暗にひと気のない場所に誘導されてるのに、気づいてないだろ」

 

「でもここ学校だし」

 

「学校でもやろうと思えばできるだろ」

 

出来るか?

レイプだぞ。たかだか一時間足らずで、しかも絶えず人がいる学校で。

そんなことされそうになったら暴れるし大声も出す。そうしたら人が駆けつけるだろう。やっぱりありえない。

 

「私なら指定した場所に数人待機させとく。それで一斉に襲い掛かって口塞いで手足縛って一丁上がり。まな板の上の鯉だ。何されても抵抗できないぞ。実際何されると思う?」

 

「そんなこと聞くなんていやらしい。先輩むっつりですか?」

 

「茶化すな」

 

「調子が外れる」と髪を掻く先輩はじとっとした目で睨んでくる。

それは目論見が外れて不貞腐れた子供のような顔だった。

 

「こんだけ脅したのに屁でもないって顔しやがって。やっぱお前無警戒だ」

 

「考える頭はついてますんで」

 

「普通少しぐらい危機感持つもんだけどな」

 

「持ってますよ」

 

「いや、持ってない」

 

断言されてしまってはどう反論したものかと頭を悩ますしかない。

しかし俺が何を言おうと先輩を納得させれそうになかった。実際、担任にも似たような指摘は受けていた。

 

「お前はもっと危機感を持て。なんでそんなに危機意識薄いんだ」

 

「あると思いますけど」

 

「ない」

 

二度目の断言にむぅと唸る。

仮に危機感がないと言うなら、それは世界が引っくり返った弊害だろう。

俺にとっての常識は、今のこの世界では少しばかりずれている。

それを理解できていない現状、治すこともままならない。そもそも治す気がさらさらないのだが。

その辺を忠告してくれる葵先輩の親切心は素直にありがたい。

 

「明日はあたしも一緒に行くぞ。いいな?」

 

「ダメです」

 

だからと言って、男の子には譲れない物がある。

まさしく、告白の場には一対一になるよう赴くのが道理と言う物だろう。

この世界では理解されないのかもしれないが。

 

「……殴るぞお前」

 

「どんだけ言われようと決めた物は決めたんですよ、っと」

 

背中で事切れていた瑠音先輩を投げ出すようにして立ち上がる。

ごろんと転がった瑠音先輩は「むにゃり」とわざとらしい寝息を立てていた。

 

「絶対一緒に行ってやるからな……」

 

剣呑な目つきの葵先輩。

そんな目で、そんなことを言われてしまうと反抗心が表に出てしまう。絶対一人で行ってやる。そう思う。

 

「……」

 

「……」

 

バチバチと睨みあう。睨みあうだけでお互い行動には移らない。先輩はこの間のあれを反省したらしい。むやみやたらに手を出してこなくなった。

俺は基本受け身なので、手を出されないのであれば何もすることがない。

そうなると、こんなことを続けるのは不毛でしかない。たぶんこのまま日が暮れるだろう。変に拗れて明日を迎えるよりも、この場で決着をつけた方が後のことを考えると良いはずだ。

 

「じゃあ勝負しますか。勝ったら好きにするってことで。文句はなし」

 

「……いいぜ。なにする?」

 

寛大な葵先輩は勝負内容をこちらに委ねてくれるらしい。

腕相撲など力比べは性別の差で勝負にならない。

かと言って頭を競っては葵先輩があまりに不利だ。

なので、しょうがないのでこうする。

 

「相手のいいところをより多く言えた人の勝ちにしましょう」

 

「は?」

 

「勝負は今この瞬間から。行きますよ」

 

「おいまて」

 

「よーいスタート」

 

大きく息を吸う。

葵先輩は狼狽えている。こういうのはスタートダッシュが肝心だ。勝ちが見えた。

 

「スポーツしてる時はキリッと凛々しくて、どんな不利な状況で諦めない、主人公みたいな先輩まじ格好いい。でも勉強になると途端に格好悪くなって、涙目で机に噛り付いてる所なんかギャップも含めて貪りたくなる愛らしさ。エッチなことに疎くてその話題になるとすぐ顔赤くして話題変えようと必死になるところは年齢以上に少女感あってたまらないです。そう言う意味では偶に年下だって錯覚しちゃうけど、でも肝心なところはきっちり締めてくれるんで、やっぱり年上なんだと再認識。先輩まじ格好良いっす。そんな格好良すぎる先輩もイチゴパフェ食べてる時は年齢相応な顔つきになって、目をキラキラさせてますよね。それが見たくて見たくてこの間ついに写真とれたんですよ。見ます? え? そうですこの間見せたやつです。いやですよ渡しませんよ。これは瑠音先輩にもあげてないとっておきなんですよ。いくら出すって聞いたら10万って言ったんですよ。物凄い価値あるんですから。いくら被写体の言うことでもそれだけは聞けません。もっと値段吊り上げて良い頃合いに放出しようと思ってるんですから。絶対に渡しませんよ。携帯壊しても無駄ですよ。10か所に分けて保存してるんですからね。雷落ちたってなくなりませんよ」

 

「葵ちゃんマジナイト。白馬に乗ったシャイニーアーマーナイト! 葵ちゃん以上に格好いい人間はこの世に存在しない! 男も女も葵ちゃんと比べれば蝋燭の煤以下の存在で、葵ちゃんの吐いたゲロにも劣る。神を崇めろって言われれば迷いなく葵ちゃんの前に膝をついて一心不乱に葵ちゃんの幸福を願うよ。お天道様に感謝する前に碧ちゃんに感謝しなきゃ。だって作物が育つのも人が成長するのも日本が平和なのも全部葵ちゃんのおかげだもん。ああ、葵ちゃん本当に格好いい。惚れる。惚れた。私の全てを葵ちゃんに捧げるよ。葵ちゃん葵ちゃん葵ちゃん葵ちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃん 」

 

なんか途中で変なのが入ってきて、過剰に葵先輩を崇め奉り始めた。

カルト宗教みたいな演説にはさすがに俺も引く。葵先輩は瑠音先輩が乱入した辺りで顔を真っ赤にして、必死に制止を繰り返していた。

 

「やめろ……やめろ……やめてくれ……!」

 

「照れた葵ちゃん可愛い。写真とらなきゃ」

 

意に介さず、ぱしゃぱしゃとフラッシュが光る。折角ご神体が神託を下しているのに、無視して写真を撮りまくるのは如何な物なのか。

何も聞かぬデビルンと度重なるフラッシュに、先輩はもう耐えられないと顔を両手で覆ってしまった。

俺はデビルンの肩に手を置く。勝敗は決まった。もうやめろと言うつもりだった。

 

「瑠音先輩」

 

「可愛いよ葵ちゃん。最高だよ葵ちゃんぺろぺろしたい……あぁ、ぺろぺろ……」

 

聞きやしない。けれど諦めずに繰り返す。

 

「瑠音先輩?」

 

「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」

 

ダメだこいつ。

存在がもうダメだ。言動が完全に薬キメてる。正直関わり合いになりたくない。

 

俺は二人から少し距離を取って、しばらくの間二人の睦み合いを眺めていた。

だが二人のやり取りを見ている内に、葵先輩の恥じらいに我慢できなくなって参戦してしまった。

どっちがベストショットを撮れるか競争し、それは葵先輩がトイレに駆け込むまで続いた。

トイレの前でカメラを構えているところを会長に見つかって、瑠音先輩共々御用になった。

無念だが、結局告白云々はうやむやに出来たので良かったと思う。

そう生徒会室で正座しながら思った。


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