目が覚めたらあべこべってた   作:紺南

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第2話

世界が引っくり返ってから一日経った。

カーテン越しの朝日は昨日までと何も変わらない。なんの変哲も無い朝だ。

小鳥のさえずりから吹く風まで、世界が変わったなんてとても思えない。

でも変わってる。外に出れば一発で分かる。

昨日病院行くときに見た。開放的な女子の居ること居ること。下着見えてるだけならまだいい。乳首見えてる奴も居たぞ。どうなってんだこの世界。

今、こうして窓から見える所に乳首はなかった。痴女はいない。それにほっとしたような残念なような。

 

じっくりと外の景色を見ていたら、ぐうーと腹が鳴る。

例え世界が変わろうと変わらない物もある。腹の虫が鳴るように、どんな時でも腹は減る。

食パンを貪って腹を満たす。

 

テレビでは相変わらず女性議員が汚職を追及されていた。追及している方も女性だ。

キャスターもレポーターも予報士も女だ。寝て覚めても世界は引っくり返ったままだった。

寝てこうなったんだから、寝たら戻ってるかもなんて淡い期待は儚く散った。

 

夕べの内に、携帯には体調を心配する連絡が数通入ってた。

学校行くわと返信した。

 

バスで駅に行き、学校へ向かう。

道中、通学途中の生徒があちこちに見られた。

偏見かもしれないが、男子は草食動物みたいに肩身が狭そうにしている。

逆に、女子は檻から解き放たれた捕食者みたいに羽を伸ばしていた。

スカートの丈がやけに短かったり、シャツのボタンを第三ボタンまで外しているのも居た。

ブラジャーが丸見えだ。下半身に悪いだろ。きちんとしろよ。

 

滑りこんできた電車はやっぱり混んでる。

座れたことなんて一度もない。

大人しく隅っこの方で携帯をいじってた。

 

ガタガタ揺れる電車の中で手すりにもたれて一駅通過した。尻に違和感。触られてる。

はあ? と思う。男の桃尻触って何が楽しいんだよ。硬いだけだろ。俺だったら金積まれたって触らない。

こうやって触られても何も感じないし、面倒くさいからリアクションしなかった。

 

それがまずかったのか、動きは段々激しくなる。手のグラインドは大きくなって、首筋に熱い吐息がかかった。さすがにぞくっとする。

携帯を使って背後を確認。そこそこ美人な人がやばい目つきで立ってた。興奮しすぎて瞳孔開いてる。触る方が感じんのかよ。関わりたくねえ。

それでやっぱりほっといたら、痴漢は調子に乗ってファスナーに手を伸ばしてきた。

それはダメだろ。引っ叩く。

 

「……っ」

 

痴漢は思いっきり身を引いた。

息を呑んで我に返ったような顔だ。調子乗んなばばあ。

 

丁度その時駅に着いたので、流れに乗って外に出る。

痴漢は付いてきて無いようだった。

 

駅を出る時、貼ってあるポスターが目に映る。

『痴女撲滅キャンペーン』

この世界で痴漢は痴女と言うらしい。一つ賢くなった。けどなんにも嬉しくねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校は平和だった。

まだ一年も通ってない学校は一見して何も変わらない。

一応進学校のはずだ。スカートの丈は怪しいが、第二ボタンまで開けてるような奴はいなかった。

ここは下半身に優しい場所だ。

 

「ういっす」

 

「おお」

 

教室に着いて自分の席へ。

俺も早い方だが、早い奴はもう来てる。数人だけど。バスの都合とか色々ある。

 

いっつも俺より早く来る北村と言う男がいる。何の因果か、波乱万丈の席替えの末に俺の前の席に座った北村は、声を潜めて話しかけてきた。

 

「昨日どうした?」

 

「悪夢見て錯乱した」

 

「まじかよ」

 

言葉が出ないようだった。

今も悪夢の中だ。これほど酷い現実があるだろうか。

 

「ストレスじゃねえの?」

 

「かもしらん」

 

「昨日会長来てたぞ」

 

「まじかよ」

 

「なんか緊急の集まりがあったんだって」

 

携帯にはなんの連絡もなかったから知らなかった。

病欠だから遠慮したんだろう。

 

「副会長は大変だな」

 

「大変だよ。実際やりたくねえしな」

 

「自分で立候補したんだろ?」

 

「生徒会は進学に有利だから立候補したんだ。まさか当選するなんて思ってなかったし」

 

いくら二枠あるとは言え、二年生にも三年生にも副会長に立候補した奴はいる。

まさかそれを抑えて俺が当選するなんて夢にも思わなかった。ダメでもともとだったはずなのに。

 

「何が良かったんだ」

 

「一年生は何もわかんねえから、とりあえずお前に入れたって奴はいっぱいいるぜ。一年生で立候補とかヒーローだったからな」

 

ヒーロー(笑)

これで落選したら笑いものだったに違いない。

少なくとも一年間からかわれただろう。それが間違って当選してしまったから、本格的に一目置かれた。

見ず知らずの人間と話すたびに距離があるのはそのせいだ。

 

「それで二年と三年に勝てるわけないだろ」

 

「潰し合ったんじゃねえの?」

 

有り得る可能性だった。

票数を思い出しても拮抗していた。本当にそうなら見事漁夫の利を得た形になる。ラッキーだった。

 

「まあおかげで進学に有利なカードが手に入ったわけだ」

 

「来年は落選運動だな」

 

「殺すぞ」

 

「お前言葉遣い汚えなあ」とぼやかれた。

肩をすくめる。

 

それはともかく昨日の分のノート見せろと言ったら快く貸してくれた。

ノートを写している間、会話が途切れる。

 

教室には少しずつ生徒が登校してきていた。

単純作業をしている間、らしくもなく考え事ばかりしてる。昨日から考えてばかりだ。こうしている間も、聞きたいことがたくさんある。

走らせていたペンを止め、窓の外を見ながら素知らぬ顔で聞いてみた。

 

「なあ、痴女ってどう思う?」

 

「最低だな」

 

大真面目な顔だった。

「最低だよあいつらは」と憤懣やるかたないと気炎を上げている。

 

俺の知ってる北村なら、一度会ってみたいぐらい言っただろう。

特に性欲モンスターの高校生なら鼻息を荒くして熱く語ってもおかしくない。

 

「最低か」

 

「ああ。あいつら腕力で勝ってるからって無理やり触ってきやがる。酷い奴は口塞いで来てな。くそったれだよ」

 

なんかやけに生々しかった。

たぶんこいつやられたことある。イケメンだから狙われやすいのかもしれない。美的センスは引っくり返ってない。

実際そこんところどうなのか気になったが、しかし聞き逃せなかった。腕力で勝てない?

 

「……男より女の方が力強いんだっけ」

 

「当たり前だろ。よっぽど鍛えてないと勝てねえよ、あんなもん」

 

悔しそうな口調だった。

半信半疑だったがこれで一つ分かった。この世界は腕力も引っくり返ってた。

朝のことを思い出す。腕力で勝てないとなると、あれってもしかして大ピンチだったのでは?

 

「なあ」

 

「ん……?」

 

「俺今日痴女られたんだけど」

 

「はあ!?」

 

大きな声に教室にいた数人が振り向く。

はっと口を塞ぐ北村は声を潜めて聞いてきた。

 

「お前、まじか?」

 

「ああ」

 

「……怖かったろ」

 

「いや、別に」

 

北村の憐れむ様な眼差しは変わらない。

頬杖ついてるの見たら気にしてないのわかりそうなもんだが。

 

「そう言う時ってどうすんの?」

 

「え、いや、冗談だよな?」

 

「まじでわからないんだけど」

 

「箱入りにも程があるだろ……」

 

嘆くように言われた。

箱入りと言うか引っくり返ったと言うか。無知であることは否定できない。

そこに俺の責任があるなんて一片たりとも思えないけど。

 

「いいか? そういう時は痴女の手掴んで痴女ですって周りに知らせるんだ。そうすれば周りの人が助けてくれる」

 

「ふーん」

 

対処法に変わりはない。

同じことすれば良いようだ。俺にそれができるかどうかはさて置き。

 

北村に聞かれる。

 

「お前駅どっち?」

 

「北村とは逆」

 

「そうか。そうだったな」

 

北村は腕を組んで真剣に考えだした。

途切れた会話に殺伐とし始めた雰囲気。

この空気を変えたい。

こういう時エロい話できればなあ。エロは偉大なのに。

 

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