目が覚めたらあべこべってた   作:紺南

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第8話

有意義な時間は一時間足らずで終わった。

会長が痴女被害について私見を述べて、それについて生徒会としてどういう方針を取るのか。一体何ができるのか。現実的な案としては三つだった。

 

1.学校集会を開き注意喚起

2.生徒会だより発行。痴女被害の多い時間帯や友人と登下校するなどの対策を周知

3.保護者へ向けたプリントを発行し注意喚起

 

妥当な案だった。ちなみにこの三つは皮肉先輩が提案した。

これ以上を求めるなら、それは生徒会ではなく大人の仕事になると言う皮肉先輩の発言に、会長含めて誰も異論を挟まず、現状生徒会としてこれ以上出来ることはない。教師と協力して今後の活動を模索していくと言う結論に達した。

 

この会議に於いて、この結論に達する過程が普段のそれよりあまりに順調だったものだから、また会長たちの間で一波乱あるのではと身構えていた分拍子抜けした。

しかし、聞いたところでは昨日、俺が休んでいた時に実は一波乱あったのだとか。

今日の会議はその決着をつけるために開かれたのだが、思いのほか会長と皮肉屋先輩の戦意が低く、あっという間に決着がついた。皮肉屋先輩の勝ちだそうだ。

勝った先輩は勝利に酔うこともなく淡々と帰り支度をしている。

 

「それじゃあお疲れ様です」

 

「ええ、ご苦労様。気を付けて帰ってね」

 

穏やかにそんな会話までして去って行った。犬猿の仲と言う程ではないが、いがみ合う二人にしては珍しいことだ。帰る先輩の背中をまじまじ見てしまう。

 

「あれってどういうことですかね?」

 

頬杖をつくデビルンに聞いてみる。物思いにふけっていたデビルンはチラッと横目に見てきて、訳知り顔で頷いた。

 

「葵ちゃんって可愛いよね」

 

「確かに」

 

つまりそういうこと。

わざわざ言葉にするまでもない周知の事実だった。

 

やがて役員たちは会長と俺とデビルンの三人を残して帰宅した。

しかしまだ一人、葵先輩が戻っていない。

デビルンは先輩を待っているようだ。俺はデビルンが消えるのを待っている。

 

窓の外を見ていた会長がため息交じりに呟く。

 

「鍵、どうしよう……。葵はまだトイレかしら?」

 

「たぶんね~。……よし。副会長、行くよ」

 

「行かねえよ」

 

これ幸いと悪魔は囁く。失敗したやり口を繰り返すのは頭が悪い。俺は敬語をやめた。

もう目は覚めた。さっきまでの興奮は嘘のように波引いている。今は、下品な言い方をするなら賢者モードだ。

いや、別に出したわけじゃない。神気にあてられて邪気がなくなったのだ。

 

「デビ――先輩一人で行って来たらどうです」

 

「うん分かった。でもその前に、今なんて言おうとしたかあっちで話そっか」

 

基本頭悪いのに変なところで目敏い。

デビルと言いかけたのに気づいたらしい。まさか原型がデビルンルン先輩とは夢にも思うまいが。

 

「先輩に舐めた口聞いて~」と引っ張ってくるのを全身の力で抵抗する。

この人は虚弱体質だ。元々力が弱かった。性差が引っくり返っても早々負けることはなさそう。しかし、そうは言っても性別のアドバンテージはデカい。長々引っ張り合ってると先に体力が切れかけたのはこっちだった。

これはいかんと喝を入れる。ノーブラ健康法なんかに負けてたまるかよ!

 

「すんません。デビルン年上ってこと忘れてました」

 

「言った! 今デビル言った! そーゆーとこが舐めてるって言うの~!!」

 

なりふり構わず体重使って引っ張ってきた。

さすがにそんなことされたら負ける。だけどデビルンは綱引きに勝った後のことを考えていなかった。

デビルンは仰向けに倒れて、俺がその上に覆いかぶさる。

 

「おう」

 

「わ、おもっ……」

 

お互いそんな声が漏れた。

俺の胸の下でたわわに実ってる胸がむぎゅっと潰れている。

マシュマロみたいに柔らかい。これだからノーブラは下半身に悪いって言うんだ。

 

「……遊ぶのは、後にしてもらえるかしら?」

 

頭上から呆れた声が聞こえる。

会長がデビルンの頭上に立って、冷たく見下ろしていた。

命令するような鋭い口調で指示する。

 

「デビルン、葵の様子を見てきて」

 

「デビルンいうなあ!!」

 

俺の下から這い出したデビルンは「べー」と舌を出して駆け出した。

ぐちぐちと文句は言いつつ、結局は聞いてくれる。根は素直なのだ。中身が少し幼いだけで。

 

「いくつなの、あの子……」

 

会長の呟きに同意する。あれで高三は嘘だろう。いいとこ高一ぐらい。

デビルン先輩を一言で言い表すと、『天然を装った策士を気取る天然娘』ってところだ。

間に一つ変なのが入ってるだけで実態はただの天然でしかない。しかも無自覚天然。

 

俺の周りにはそう言うのが多い。

葵先輩にデビルンルン。その二人を天高く突き放す生粋の変態北村。

三人とも高校に入学してからの付き合いだ。この高校変なのが多いな。

 

デビルンを待つ間暇になった。

俺は席に座って、会長はダンボールを漁っていた。

 

「紅茶でも飲みましょうか」

 

電気ケトルを取り出す。

白い小さなやつ。学校に備え付けられてるはずもない。会長の私物だ。

 

「いいんですか、校則違反でしょう」

 

「いいのよ。私が飲みたいんだから」

 

似合わない傲慢っぷりについ笑った。会長も微笑む。

 

こぽこぽと湯の沸く音が静かな生徒会室のBGMになった。

会長は「今日はどれを……」とストックしてあるティーバッグを品定めしていた。

俺は普段紅茶を飲まないのでどれがいいとか意見は言えない。言っても「味わかる?」とからかわれる。緑茶派なのだ。

 

シュコーッとケトルの注ぎ口から蒸気が噴き出した頃、パタパタと上履きの足音が聞こえる。

一瞬、教師かと思って腰を上げたが、よくよく聞くとこの足音はデビルンのものだったので胸をなでおろした。

少しずつ大きくなる足音は、扉の前で一度止んだ。ひと時の静寂を経て……、

 

「うわーん! 葵出てきてくれなーい!」

 

と悲痛な叫び声と一緒に扉が開いた。

悲しみに打ちひしがれているのか、おぼつかない歩き方。表情は暗く俯きがちだ。

「私悲嘆に暮れてます」と自己主張が激しすぎてまるっきり大根役者だった。

もっと上手くできないのかと思うほど下手くそな演技だった。演技がばれてる時点でピエロにしか見えない。いっそ白化粧でもしてきたらどうだ。

 

「出てきてくれないんですか」

 

「うん」

 

「困りましたね」

 

「うん。だから副会長一緒に来て?」

 

再三聞いた言葉に、つい吐き出す。

 

「デビルがっ」

 

「また言ったな!?」

 

まるで先ほどのやり取りをリピートしているようだった。

デビルは「先輩の威厳~!」と頭の悪いことを言っている。

二度目の開戦は、さすがに会長が許さなかった。

 

「では、副会長。あなたが行ってきなさい」

 

毅然とした物言いに、若干キレているのが見て取れた。

素直に頭を下げる。「なんで怒ってるの……」とデビルの気勢が猛烈に削がれた。

 

「ルンはこっちへ。一緒に紅茶を楽しみましょ?」

 

「ええ……。ちょっと遠慮……」

 

「どの道あなたをここから出すわけにはいかないのよ。何するか分からないじゃない」

 

会長に捕まったデビルンは「あー!!」と大声を上げて逃げようとする。

「なんであっちが良くて私がダメなの!!」と文句を言っている。いや、お前今行ってきたじゃん。

まあ、この期に及んで何を言おうが、虚弱体質が逃げられるはずがない。

この間に俺はトイレに向かう。

 

「あ、紅茶飲んだらトイレ近くなるじゃん! トイレ行かせてよ!」

 

「まだ飲んでないでしょう」

 

「今飲むっ。はい、いただきます!」

 

「ちょ、それまだ――――!?」

 

背後で紅茶を噴き出す音が聞えた。咽る声と心配する会長の声。

たぶん湧いたばかりの紅茶を一息に呷ったんだろう。

火傷したんじゃないかあの馬鹿。まあ火傷したとしても口の中だからまだましだ。

しばらく物食べる時は地獄の苦しみだろうけど。

 

扉越しでも聞こえる喧騒から意識を外してトイレに向かう。

葵先輩、外から呼びかけて出てきてくれないかな。




Q. 1万文字以上生徒会室でごちゃってるね?

A. 葵先輩とデビルンが暴走を重ねて文字数が伸びてます
  葵先輩がヒロインレースに参戦確定した時点でプロットは破り捨てました
  1話3千文字縛りも地味に効いてるみたいです

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