ムー国 アイナンク空港
ㅤ晴天。
ㅤ雲はまばらに浮かんでいるだけであり、視界は極めて良好だ。
ㅤ第二文明圏最強にして機械超文明国、ムー。
ㅤこの国は永世中立を掲げているものの、第二文明圏を統括する列強にして神聖ミリシアル帝国に迫る可能性を唯一持つ誰もが認める真の列強だ。
ㅤそんなムー国の技術士官、マイラスは突然の軍を通した外務省からの呼び出しを受けて困惑していた。
ㅤ呼び出し先は空軍基地が併設されている民間空港、アイナンク空港である。
(わざわざ空軍基地に呼び出すとは・・・一体、何の用だろうか・・・?)
ㅤ控え室の窓辺に立ち今回呼ばれた理由をぼんやりと考えていると、控え室の扉が開いた。
ㅤ開いた扉からは情報通信部部長、つまりマイラスの上司と外交用礼服を着た2人の男が入ってきた。
「待たせたな、マイラス君。・・・彼が、技術士官のマイラス君です。」
ㅤ上司が外交官に自らを紹介する。
ㅤマイラスはあまり得意ではない笑顔を作って外交官の握手に応えた。
ㅤ一同がそこそこ上等そうなソファーに座ると、上役らしき外交官が話を切り出した。
「何と説明しようか・・・。君を呼び出した用だが、端的にいうならば正体不明の国の技術水準を探って欲しいのだよ。」
「グラ・バルカス帝国ですか?」
ㅤマイラスが考えつく直近で脅威となりそうな国の名前を挙げてみる。
ㅤだが、外交官は首を横に振った。
「いや、違う。だがこちらも新興国でな。本日、ムーの東側海上に白っぽい船が一隻と灰色の船が四隻現れた。海軍が臨検したところ『ダイニホンテイコク』と名乗ったそうだ。心当たりは?」
ㅤマイラスは脳内から『ダイニホンテイコク』という国の名前を探す。
「・・・詳しいことは分かりませんが、ロウリア王国を敗北に追い込んだ国という話だけは伺っております。」
「なら話が早い。船にその日本の大使がその船に乗っていて、我が国と国交を開きたいと言ってきた。
ㅤ・・・ここまではよくある事なのだが、問題は彼らの乗ってきた船だ。・・・彼等の船は、帆船ではないのだ。」
ㅤその話を聞いてマイラスは驚きの表情を浮かべる。
「なっ⁈そ、それならばまさか・・・!」
「魔力感知器にも反応はない。・・・おそらくは機械による動力船と思われる。
ㅤしかも、彼の国では一般的だそうだ。」
「そうですか・・・。」
「だが、それ以上に大問題なことがある。」
「?」
ㅤ急に顔を曇らせ、自分も信じられんと言うような顔をする外交官。外交官は疑問符を浮かべたままのマイラスに衝撃的な事実を告げた。
「使節団の護衛に随伴していた戦闘艦は旋回砲塔を持っているようなのだ。」
「なっ⁉︎ほ、本当ですか⁉︎」
ㅤ驚愕するマイラス。
ㅤなんせ、旋回砲塔といえば我が国ですら最新鋭戦艦のラ・カサミ級にしか搭載していない最新鋭の技術である。
ㅤそれを主力では無い戦闘艦にまで搭載していると言うことは、ダイニホンテイコクは少なくとも造船分野では我が国と同等か我が国を越すレベルにある可能性が高くなる。
「大使の説明では大日本帝国は第三文明圏フィルアデス大陸よりもさらに東に位置するそうだ。
ㅤ・・・ここだけ聞くと只の文明圏外国だが、港から送られてくる戦闘艦の情報を見るに我が国に匹敵する力を持つように思える。
ㅤ・・・我が国との会談は1週間後に行われるので、それまでに彼らを観光に案内し我が国の技術を見せつけつつ同時に敵の技術水準を探ってくれ。」
「・・・わかりました。やってみます。」
ㅤマイラスの返答を聞いた後、4人は一斉に起立し解散したのであった。
ㅤマイラスは一度深呼吸して緊張を取り払ってから空軍詰所の応接室の扉をゆっくりと開ける。
ㅤすると、4人の人間種の男がソファーから立ち上がってマイラスを出迎えた。
「はじめまして。会議までの1週間ムーを紹介させていただきます、マイラスと申します。」
「大日本帝国外務省の絹沢です。今回、ムーを紹介していただけると言うことで大変嬉しく思います。
ㅤこちらは補佐の芒野と丹波・鈴鹿です。」
ㅤ彼らは互いに挨拶と握手を交わす。
ㅤマイラスは文明圏外国とは思えない落ち着いた態度と丁重な言葉使いを受けて少し安堵する。
ㅤどうやら日本の使者は既に出発準備を終えているようだ。
「長旅でお疲れでしょうから本格的な案内は明日からとします。本日はこのアイナンク空港をご案内した後、首都のホテルへお連れします。」
ㅤマイラスは空軍格納庫に4人を連れて行く。
ㅤそこには全体が白く、青のストライプが施された機体が安置されていた。
「この鉄竜は、我が国では『飛行機』と呼んでいる飛行機械です。最大速度はワイバーンロードよりも速い380㎞、前部に機銃ーーええと、火薬の爆発力で金属の弾を飛ばす兵器ですね。これを搭載し、1人で操縦可能なように設計されています。空戦能力もワイバーンより上です。」
(ーーーどうだ!)
ㅤ自信満々の説明を終えて日本側の反応を待つマイラス。
ㅤ日本人達の顔を見てみると、彼等は興味深そうに飛行機械を眺めていた。
「ーーー成る程、複葉機なのですね。」
ㅤその中で少し目が鋭い・・・確か、丹波と名乗った男が反応の言葉を返した。
(複葉機・・・?)
ㅤ彼の発した『複葉機』と言う言葉に若干違和感を覚えるマイラス。
(何故、飛行機械ではなくわざわざ『複葉機』と言った?)
ㅤマイラスは一抹の不安を覚える。
「おお、ちゃんとした星型レシプロエンジンが有りますね。」
ㅤ今度は鈴鹿という男が声を発した。その内容にマイラスは驚愕する。
(こ、この男・・・『エンジン』を知っているーーー⁉︎)
「に、日本はどの様な飛行機械をお持ちで・・・?」
ㅤ若干遠慮気味に日本の大使に質問するマイラス。すると目の前の丹波という男は少し何かを考えてから答えを返した。
「・・・我が国では『複葉機』は零式観測機などがありますね。」
「そ、そうですか。」
(態々『複葉機』と言ったということは、複葉機以外を保有しているのか・・・?
ㅤ・・・となれば、日本は『単葉機』を保有している・・・?いや、まさか・・・。)
ㅤ単葉機。それは、機械文明立国にして世界第2の力を誇るムーでさえ未だ試作すらできていない兵器だ。
ㅤ現在、世界広しと言えど単葉機を量産・配備しているのは第一文明圏を統括する誰もが認める世界最強国、神聖ミリシアル帝国のみである。
「は、ははは・・・。因みにですが、日本の戦闘機はどれくらいの速度が出るので?」
ㅤ戦闘機において速度は大事である。特に一撃離脱戦法が主流の現状であると速度が速い方が圧倒的に有利だ。
「申し訳ありません。それは機密情報ですのでお答えできかねます。」
「そ、そうですか・・・。」
ㅤマイラスは大体予想はできていたとは言え少しがっかりするのであった。
次の日
ㅤムー国と日本がまさかの同じ世界の同じ星出身であるという驚愕の事実が発覚した後、一行は海軍基地へと自動車で向かった。
ㅤ列強1、2を争う軍事力を誇るムーの勇姿を見せつけるため、マイラスは自信満々でラ・カサミの停泊する港を案内する。
「ほぉ・・・戦艦、ですか。」
ㅤ目の前に停泊する戦艦ラ・カサミを値踏みする様に眺め回す丹波。
「おおっ!絹沢さん、見てくださいよ戦艦ですよ戦艦!やはり戦艦は男のロマン!最高ですね!」
「そうですね。」
ㅤ無言でじっくりと舐め回す様にラ・カサミを見る丹波とは裏腹に芒野のテンションは上がり、絹沢はもともと興味がないのか淡白な反応だ。
(日本人でもわかるか。戦艦は男のロマ・・・ん?待てよ、戦艦を知っている?)
「ふむ、海軍の戦艦三笠に似ているな。」
ㅤマイラスは絹沢の横に立ちラ・カサミを見ていた鈴鹿の言葉をマイラスは聞き逃さなかった。
(ま、まさか・・・日本も戦艦を保有しているのか・・・?)
ㅤマイラスの背中からドッと汗が噴き出す。
ㅤ今まで以上の強烈な嫌な予感に苛まれつつマイラスは先ず『戦艦は存在するのかしないのか』を確かめる事にした。
「日本にも戦艦があるのですか?」
「あー・・・えーっと。」
ㅤその質問を絹沢達にすると、芒野や絹沢は気まずそうに、はたまたどうすれば良いのか悩んでいるかの様に曖昧な声を出した。
ㅤマイラスは地雷を踏んだか、と思い内心戦々恐々としつつ彼等の方を見る。すると、いつの間にやら絹沢達の後ろに立っていた丹波が絹沢達に変わり返事をした。
「現在、我が国は10隻の戦艦を保有しております。」
「そ、そうですか・・・。」
(・・・ふむ。とすれば、日本は我が国と同等レベルの力を持つという事か。)
ㅤマイラスは冷や汗が頬を伝う感触を感じつつ日本の戦力を推察する。
ㅤ取り敢えずは自国と同等だろう予想した彼は次の疑問。『ミカサ』なる戦艦に似ているという事について聞いてみる事にした。
「ところで、先程『ミカサ』に似ていると仰いましたが、日本にも似た様な艦があるのですか・・・?」
「はい。今より41年前に我が国において『敷島型戦艦』という船が就役しました。その戦艦の4番艦、『三笠』にこの艦、『ラ・カサミ』は似ているのですよ。」
「そ、そうですか・・・。」
ㅤ日進月歩の機械動力戦艦において40年の差は大きい。
ㅤ・・・誠に驚きだが、どうやら日本の造船技術は我が国をはるかに凌駕している様である。
「で、では次の場所へご案内します・・・。」
ㅤマイラスは引きつった笑みを浮かべながら他の場所へ日本大使団を案内した。
ㅤその後、マイラスは翌日には首脳陣に届く報告書を書き上げた。
ㅤ普通なら到底信じられず受け入れられない内容だが敵対的でなく強力な武力を有している可能性が高い点は重視された。
ㅤ特に第八帝国の脅威が迫る中で友好的かつ大きな戦力を期待できる日本を拒む理由もなかった。
ㅤムーは日本と国交締結を決定。2ヶ月後には無事に通商条約も結ばれた。
ムー国視察が終わった後
大日本帝国所属あるぜんちな丸 電信室
『・・・よって、ムーは我が国にとって軍事的には脅威になりえないと判断される。
ㅤしかし、彼の国はパーパルディア皇国と違い我が国に迫る技術水準であるため十分に注意が必要。
ㅤしかし、パーパルディア皇国と違い友好的であるためすぐさま脅威となる事はない。』
ㅤ外務省所属の丹波・・・もとい、帝国海軍所属の丹波利道はあるぜんちな丸の電信室にて本国の軍令部に報告を行っていた。
ㅤ彼は陸軍に所属する鈴鹿と同じく外務省に出向という形で今回の使節団に参加。列強ムーの戦力の推察を命じられていたのである。
「さて、こんな所か。」
ㅤ報告書の文を練り終わった彼は電信機を使い本国へと報告するのであった。
その後、時期を前後してドイツもムーと国交を締結。通商条約を結ぶのであった。
ムーって凄いですよね。一国だけでWW1(一部は戦間期)まで技術力あげてるんですもんね。