ㅤ時は少し、日本がまだムーへの使節団を派遣したぐらいの頃まで遡る。
第三文明圏南部 アルタラス王国
ㅤ国内に魔石を大量に産出する鉱脈を持ち、魔石輸出により築いた莫大な富を使い文明圏国並みの力を持つ文明圏外の大国、アルタラス王国。
ㅤ円を基調としたデザインの建築が特徴的な王都ル・ブリアスの外務局をとある国が訪れていた。
「ふむ。文明圏外国にしては発展しているな。」
「ですね。」
ㅤドイツ国の外交使節団長、アイグナーは文明圏外の中でも極めて強い力を持つ国、アルタラス王国へ国交開設の為に赴いていた。
ㅤこの国は外務局の担当者の雰囲気も良く、温和な国民性はアイグナー達ドイツ使節団には好印象であった。
ㅤ今通されている応接室もほどほどに豪華でケバケバしさがなく、過ごしやすい印象を受ける。
ㅤそれからすこし経つと、応接室のドアが開き1人の女性が数人の部下を引き連れて応接室に入室してきた。
ㅤアイグナー達は立ち上がり、礼をする。
「初めまして。ドイツ国外務省のアイグナーと申します。本日はこの様な会談の席を設けていただき、誠に感謝します。」
ㅤアイグナーの挨拶が終わった頃を見計らい、アルタラス王国側の担当者も挨拶を返す。
「初めまして。今回の交渉を担当させていただきます。外交官のルミエスと申します。」
ㅤお互いが挨拶を終えたところで、二カ国は国交締結に向けて協議を開始した。
すこし前 アルタラス王国 外務局
「ドイツ国・・・?あの、ロウリア王国を退けた国、ですか?」
ㅤ国内に豊富な魔石鉱山を有し、その強い財力を活かして文明圏並みの力を持つ文明圏外国、アルタラス王国。
ㅤ王都ル・ブリアスに位置する外務局で外交官であり、この国の王女でもあるルミエスは聞き覚えのない国の名前を聞いて首を傾げていた。
「はい。そのドイツ国が国交を開設したい。と外務局を訪ねてきています。」
ㅤルミエスは急いで頭の中の『ドイツ国』の情報をかき集める。
ㅤ・・・確か、ここ最近ロデニウス大陸付近に突如出現した新興国でありながら同じ新興国の『大日本帝国』と力を合わせロウリア王国の侵略を撃退。さらには帆を使わず航行する船を有するなど不思議な噂の絶えない謎の国。と情報局から聞いていた。
ㅤ幾ら二カ国で、とは言えあのロウリアの侵攻を跳ね返すとは只の新興国ではなかろう。それに他の文明圏外国とも友好に接している様であるし、特に国交開設を拒む理由もない。
「・・・わかりました。私が出向きましょう。」
ㅤその後、ドイツ国はアルタラス王国と国交を樹立。その1ヶ月後には通商条約を結ぶのであった。
中央歴1639年11月18日 アルタラス王国 外務省
「ふぅ・・・。これで漸くひと段落。ですかね。」
ㅤ大日本帝国外務省職員の町田はアルタラス王国の王都ル・ブリアスのホテルで最後の交渉に向けて身だしなみを整えていた。
ㅤ外務省内ではどことは言わないが約束を守らなかったり宣戦布告をせずに攻撃してきたりする自称列強だったりと何かと悪い噂しか聞かない新世界各国との交渉だが、この国は暖かくて過ごし易く、温和な国民性のためとても居心地がいい。
(こりゃあ当たりを引いたかもな・・・。)
ㅤそう思いつつ、最後にちょこっと残った諸々を終わらせる為に外務局へ向かう町田であった。
(・・・?何だ?やけに騒々しいな。)
ㅤアルタラス王国外務局に到着した町田は何やら違和感を感じた。
今までとは違い、外務局内では怒号が飛び交い皆が殺気立っている。
ㅤ何が起こっているかはわからないが一大事が発生した。
ㅤそう考えた町田は大慌てで窓口に駆け寄り、担当者に問いかける。
「すいません。大日本帝国外務省の町田です。お忙しい中申し訳ありませんが、何かあったのでしょうか?」
ㅤと聞くと、外務省の担当者は早口で急かす様に返答した。
「大日本帝国の方々ですね?国王様がお待ちです。案内の者を付けますので大至急王の間へ向かってください。」
「は、はい?わ、わかりました。」
ㅤ町田はお辞儀をしてから自分を先導するアルタラス王国の外務局員に連れられて王の間へ向かった。
「そなた達が大日本帝国の使者殿か。」
ㅤ王の間で椅子に座り、こちらを見る男。
ㅤアルタラス王国国王、ターラ14世は目の前で礼をしながら挨拶をする同じ文明圏外である新興国の役人を見据え、真剣な表情で語りかけた。
「本日、パーパルディア皇国が我が国に宣戦布告をしてきた。・・・直に、この王都も戦火に包まれるであろう。大至急避難していただきたい。」
「そ、そうなんですか⁈」
ㅤ町田は国王が一国の大使に対応するという事だけでも驚いていたが、まさかの列強が侵攻してくるという事態に直面してさらに驚いた。
ㅤ日本、特に外務省では列強とは思えない未熟な対応に加え少し前の海軍駆逐艦襲撃事件を受けてパーパルディアは蛮族というイメージが強い。
『文明圏外国人だから』と公然と、平気で人を殺すような国が文明圏外国の外交使節をどう扱うかは想像に難くないだろう。
ㅤ町田が頭の中で対応を考えていると、ターラ14世はさらに驚くべきことを町田に告げた。
「・・・誠に不甲斐ないが、国力差を考えれば我が国は負ける。王族は皆処刑となるだろう。
ㅤ・・・大日本帝国の使者殿よ。我が娘、ルミエスは知っておるな?」
「は、はい・・・。」
ㅤ王女ルミエス。彼女は外務局で外交官として働いており、国民からの人気も高いアルタラス王国の若き王女だ。
ㅤ町田も国交開設に向けた協議で何度も会話を交わしている。
「もし、ルミエスが捕まればこの世の地獄を見るだろう・・・。大日本帝国の使者殿よ。どうか、我が娘。ルミエスを匿ってはくれぬか・・・。」
ㅤ頭を下げるターラ14世。既に王としての彼はなく、只々娘のことを思う父親の姿がそこにあった。
「・・・ほ、本国に、確認します。」
ㅤまさかの一国の王が娘を助けてもらうように一国の外交官に頭を下げる。
ㅤ想定外にもほどがある状況に直面した彼は頭が半ば真っ白になりながら辛うじてこの言葉だけを吐き出した。
ㅤ町田から事の顛末を聞いた大日本帝国では戦争準備が整う前にパーパルディアと衝突する火種を持つのは好ましくないとしてルミエス保護に否定的な意見が多かった。
ㅤ・・・しかし、アルタラス王国がパーパルディア皇国皇都エストシラントに極めて近い事を受けて地理上対波戦争に使えるという事で極秘にルミエスを保護するということが決まった。