大日本帝国外務省管轄貨客船あるぜんちな丸
ㅤ第三文明圏の南端付近に位置し、文明圏外にして文明圏内国に迫る力を誇った文明圏外の大国、アルタラス王国。
ㅤそのアルタラス王国の西端から西に数百キロ進んだ海上。
ㅤ寒さ厳しい冬の海では冷たい潮風が吹き荒び、その寒さは痛く感じるほどだ。
ㅤアルタラス王国の若き姫、ルミエスは外交交渉に来ていた同じ文明圏外である新興国、大日本帝国の有する船に乗り1人国を思っていた。
「・・・っ!」
ㅤ固く結ばれた両手は一時も離さず、ずっと国の民と自らの父である王の無事と安寧を。それだけを一心不乱に祈っていた。
「姫様・・・。」
ㅤ些事の確認の為に声をかけようとしたルミエスお付きの女騎士、リルセイドは物陰で静かに涙を流す。
ㅤ先程まで一緒にいたアルタラス王国関係者達の前では気丈に明るく振舞っていたルミエス。
ㅤその様子を見てリルセイド含むお付きの者たちは元気をもらっていた。
(やはり、姫様も無理をしておられるのだな・・・。)
ㅤしかし、今は元気で明るい雰囲気は微塵も感じられず顔は悲壮感に包まれている。
ㅤだが、それも無理はないだろう。
ㅤルミエスはこちらに何の落ち度もないにも関わらず、列強の横暴で国を侵略され無垢の民と、唯一の肉親である父を失うのだ。
ㅤしかも、それでいて自分は何をしているのかというと偶々王都を訪れていたまだ国交も(正式には)結んでいない国に匿って貰いながら逃走しているという始末。
ㅤ・・・いくら王の、実の父の頼みと言えども心優しいルミエスは民を裏切ってしまった、と考えずには居られず罪悪感に苛まれていた。
(父上・・・どうかご無事で・・・!)
ㅤそんなルミエスを乗せたあるぜんちな丸は順調に進み、大日本帝国の帝都東京を目指した。
「こ、これは・・・。」
ㅤ思わず漏れた、呻きにも近い声。
ㅤあるぜんちな丸のデッキに上がったアルタラス王国の関係者達はそのあまりにも異様な光景に瞠目していた。
ㅤ何かもわからない素材で作られた港に、停泊する謎の巨大軍艦。
ㅤそれらはあまりにも巨大な魔導砲を搭載している。
ㅤその奥にはずらりと広がる市街地が見えており、その規模は計り知れない。
ㅤ・・・少なくとも、アルタラス王国王都、ル・ブリアスの何倍もの規模があることは間違いないだろう。
「・・・。」
ㅤルミエスの隣に立っているリルセイドはポカーンと口を開けて立ち尽くしており、先程から一言も発していない。
ㅤ・・・どうやら、刺激が強すぎたようだ。
ㅤ彼女以外のアルタラス王国関係者も度肝を抜かれたのか目を白黒させて目の前の、謎の新興国の大日本帝国が誇る巨大都市を眺めていた。
「そろそろ到着します。お忘れ物のないようご注意ください。」
ㅤルミエス達に降りる準備をするように日本側の担当者が声をかけるまで、ルミエス達は日本の首都・・・帝都東京を眺めていた。
「・・・いやはや、あの船に乗った辺りから気づいていましたがこの国はそこらの国と格が違いすぎますね。」
ㅤ日本の客船・・・たしか、あるぜんちな丸と言ったか。
ㅤそれから降りて自動車と言う内燃機関を搭載した輸送機械に揺られること数十分。
ㅤ帝都東京に所在する外務省の一室に通されたルミエスはリルセイドと雑談をしていた。
「特にあの軍港らしき所に停泊していた恐ろしい大きさの軍艦!
アレに搭載されている巨大な魔導砲・・・。考えただけでも恐ろしいです。」
ㅤあの情景を思い出したのか少し身震いするリルセイド。
ㅤその様子を微笑みながら見るルミエスであったが、内心はリルセイドと同じ意見であった。
ㅤ王国の一外交官として活躍しているルミエスにとって軍事は全くの領域外であり、軍事・兵器は全くの素人だ。
ㅤ・・・しかし、そんな素人のルミエスでさえあの軍艦の恐ろしさはわかる。
ㅤこの国は・・・ムーや神聖ミリシアル帝国並みに危険だと、自らが培ってきた外交経験が物語っている。
ㅤ出来るだけ友好な関係を築けるよう・・・それこそ、対立などしないように気をつけなければならない。
ㅤしかし、そこで疑問も生ずる。
「・・・それにしても、何故大日本帝国は我々の受け入れを承諾したのでしょうか?」
ㅤリルセイドはふと頭に浮かんだ疑問をルミエスにぶつける。
ㅤアルタラス王国を出発した後に船中で大日本帝国外務省の者から正式に大日本帝国がルミエス達を匿うということを知らされた彼女は、一人祈るルミエスを見た後は自室でその理由を考えていた。
ㅤこの国の力であれば憎き敵、パーパルディア皇国など容易に吹き飛ばせるだろう。
ㅤだからこそ臆せずにパーパルディア皇国と戦争中の国の王家という、ほかの文明圏外国どころか列強ですら嫌がるような人物を匿えたのだろうが、こんな事をして大日本帝国に何の得があるのだろうか。
「・・・もしかすると、大日本帝国はこれを機に我が国の魔鉱山を手中に収めるつもりなのかもしれません。」
ㅤルミエスは暗い顔で話す。
ㅤ・・・しかし、日本は今までの国交開設に向けた交渉からして理性的な国であるということはわかっている。
ㅤ少なくとも、パーパルディアよりはマシなはずだ。
ㅤそう思っていると、この部屋の扉が開けられた・・・。
大日本帝国帝都東京のとある家
ㅤアルタラス王国の亡命した姫、ルミエスは大日本帝国外務省の者に連れられて暫しの東京観光を楽しんだ後、市内某所の一軒家に落ち着いた。
「・・・。」
ㅤしかし、ルミエスの雰囲気は重い。
ㅤそれもその筈、彼女はつい先程日本の外交官から『祖国の敗戦』というとても残酷な事実を教えられたのである。
ㅤアルタラス王国とパーパルディア皇国の戦争はアルタラス王国の悲惨な敗北という形で終わった。
ㅤそれはつまり、ターラ14世を筆頭とした王族の皆殺しを意味する。
ㅤ・・・しかし、彼女達にも希望はあった。
「・・・それにしても、まさか日本でこんなにも反波感情が高いとは思いませんでした。」
ㅤリルセイドが街で見た新聞やデモの様子を思い出しながら気分を変えるように話すと、ルミエスも返答する。
「・・・ですね。・・・上手く行けば、この国の支援を取り付けて祖国を奪還できるかもしれません。」
ㅤと、口では強気な事を言うがやはり父親の、親族の死というのは流石に耐えられないのかフラフラとしながらルミエスは自室に篭り、1日の間出て来なかった。
クイラ王国 大東洋諸国会議
ㅤ大東洋に位置する各国が参加して行われる大東洋諸国会議。
ㅤ何か大きな出来事が起こった際に臨時的に開催されるこの会議では元々会議の主催国が文明圏外国であったため列強を含む文明圏国は『参加するだけ無駄』として不参加を表明している。
ㅤ今回行われた会議は毎回の開催国であるクワ・トイネ公国の治安・財政悪化を受けてクイラ王国に変更されて行われていた。
「これより大東洋諸国会議を始めます。」
ㅤ開催国であるクイラ王国の代表が始めの挨拶をして会議を始める。
ㅤ無論の事議題は最近できたばかりの新興国、ドイツ国と大日本帝国についてである。
ㅤ各国代表には事前に日本とドイツがした事がまとめられた紙が回されており、要約すると以下の通りである。
・日本とドイツはロデニウス大陸北東部に突如現れた新興国であり、本人達曰く異世界から転移してきたらしい
・ドイツはクワ・トイネ公国の国境で、日本はドイツの仲介でクワ・トイネ公国と国交を結んだのが初接触である
・クイラ王国から大量に謎の石・液体を輸入しており、代わりに武器・インフラを輸出している
・日独はロデニウス大陸の戦争においてクワ・トイネ公国側陣営として参加。理由は恐らくクイラ王国の石や液体の確保と思われる。
・フェン王国の軍祭では皆周知の通りだとは思うが日本は驚異的な大きさと威力の超巨大魔導砲を搭載した軍艦を保有。
ㅤドイツは海中に潜る船と言って良いのかわからない船を持つ。
・パーパルディア皇国のワイバーンロードを20騎叩き落としている
「そして、最後に日独と接触した国々で共通しているのが『強大な力を持った国』という事だ。」
「各国の認識をお聞かせ願いたい」
ㅤクイラ王国の代表が各国へ発言を促すと早速マオ王国の代表が挙手し、発言を開始した。
「マオ王国です。我が国は日本とドイツと国交がないが極めて危険な国だと思っている。
ㅤ何故なら日本とドイツは『気にくわないロウリア王国』を滅ぼしたからだ。
ㅤ圧倒的な戦力で、ロウリアほどの大国を滅する。特に日本は帝政。つまり帝国主義である可能性が高いし、ドイツも日本に準ずるか匹敵する力を持つのであればいつ拡大政策に乗り出すかわからん。
ㅤよって、日本もドイツもパーパルディア皇国の様に侵略してこないとは言い切れんのだ。
ㅤ・・・それに、ドイツ国のロウリア統治は過酷な物であると聞いている。両国がパーパルディア皇国とは違うとは言い切れん。」
ㅤそれを聞いて各国の代表が『うーん・・・』と唸る。
ㅤすると、トーパ王国が手を挙げた。
「トーパ王国です。我が国は日本とドイツと国交がありますが、取り敢えずは『理性的で話ができる国家』と思っています。
ㅤ少なくともパーパルディア皇国の様に文明圏外国だからとあからさまに馬鹿にしてきたと言うことはありませんでした。
ㅤ・・・少なくとも、彼らにとって不利益になることをしなければ目を付けられる事はないかと。」
ㅤこの発言に日本とドイツと国交を結んだ国々は確かにな、と頷く。
ㅤそれに、本当に文明圏外を武力で併呑する気があるならばクイラ王国の戦力を強化したりしないだろう。
ㅤ・・・だが、マオ王国のいうことも最もであるし何よりも日本の『帝政』が足を引っ張っていた。
『帝政』
ㅤ第三文明圏外諸国がこの言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる物と言えば、間違いなく帝国主義とパーパルディア皇国であろう。
ㅤ無論なこと、神聖ミリシアル帝国の様に理性的で帝国主義的ではない帝政国もあるのだが、彼等に馴染み深い帝政の国であるパーパルディア皇国は理不尽な暴力で各地の国々を併呑する典型的な帝国主義的・・・と言うよりかは覇権主義・膨張主義的な国である。
ㅤその為、彼ら第三文明圏外諸国には最早アレルギーの様に『帝政=覇権主義・膨張主義』という刷り込みが行なわれていた。
ㅤその為に日本とドイツがいつ侵略に乗り出すか、と心配でならないのである。
ㅤ結局、その後も日本とドイツへの対応・反応は長々と協議され結局、
『大日本帝国とドイツ国とは敵対しない』
『パーパルディア皇国は情勢を慎重に見守る』
ㅤということが決まった。
今回はあまり話が進まなかったですね。