フェン王国沖西に120㎞ 第二機動艦隊所属 第二水雷戦隊
ㅤ大東洋沖の冬の海の波を割りつつ進むいくつもの船影。それらは船体に取り付けられた煙突からもうもうと排煙を上げつつ敵を目指して進む。
ㅤ軽巡洋艦神通を旗艦とする大日本帝国海軍第二機動艦隊所属の第二水雷戦隊はフェン王国に向けて侵攻中というパーパルディア皇国皇軍撃破の為に大東洋を進んでいた。
「穏やかな海だな・・・。」
ㅤ第二水雷戦隊司令長官、三条は目の前に広がる海を見つつ感想を述べた。
ㅤかつての世界の冬の日本海のような荒れ模様は無く、寒いものの穏やかな潮風が吹いていた。
『こちら電探室!敵艦隊は当艦より西に150㎞付近を航行中!』
ㅤ内地で取り付けられた試作型水上レーダーを運用する電探室から報告が入る。
ㅤそれを聞いた三条は艦隊の針路を微調整すると誰ともなしにぼやいた。
「全く。最近は試作型の物が多くないか?電探は試作型、ソナーは試作型。特に新鋭艦の秋月型など試作電探試作ソナー試作砲弾と試作ばかりではないか。」
ㅤ彼の隣に立っていた神通艦長、東堂大佐はそれを聞いて苦笑しつつ返答する。
「まぁ、内地の技術者達は独逸に追いつけ追い越せと凄い事になっているというじゃないですか。おそらく一刻も早く実戦での情報が欲しいのでしょう。
ㅤ・・・まぁ、ちゃんと動作するかは確認済みらしいですし大丈夫ですよ。」
「そうでなければ困るのだが・・・。」
ㅤ三条は若干不満そうに鼻を鳴らしてからまた正面に広がる大東洋を睨んだ。
日本海軍第二機動艦隊 旗艦:蒼龍
ㅤ転移後、大日本帝国のドイツ大使館を通じて太平洋戦争、ひいては第二次世界大戦の戦局を色々探った日本海軍内部では『武蔵が米海軍の航空攻撃で沈んだ』という情報を手に入れ、航空主兵論者の勢いが強くなっていた。
ㅤこの勢いに乗り遅れるなと言わんばかりに山本五十六や井上成美により色々な艦隊からの寄せ集めであった南雲機動艦隊は正式に機動艦隊として再編成され、当艦蒼龍は同じ二航戦の飛龍と新造の軽空母3隻を含む第二機動艦隊を編成。
ㅤ蒼龍は旗艦としてこの艦隊を率いる事になった。
ㅤそんな新設日本海軍第二機動艦隊の初代司令長官、小沢治三郎海軍中将は蒼龍艦橋で作戦参謀達と共に作戦の最終確認を行っていた。
「本作戦では航空攻撃により敵の竜母艦隊を真っ先に潰した後、第二水雷戦隊が突入して敵主力戦列艦隊を沈める事になっております。」
ㅤテーブルに広げられた大東洋を示す地図。それはとても大きく、周辺国家の名前や地形など詳細な情報が書かれていた。
「また、第二防空駆逐隊および第四戦隊は空母部隊の護衛として待機します。」
ㅤ先のロデニウス沖大海戦時。
ㅤ4400隻のロウリア艦隊を対米戦に向けて編成していた南雲機動艦隊で迎え撃った日本海軍はその後、絶望的なまでのコスパの悪さに驚愕した。
ㅤなにせ、戦列艦ですらないちっぽけな木造船をわざわざ空母6隻、戦艦2隻を含む大艦隊で迎え撃ったのである。
ㅤただでさえ燃料を大量に食う戦艦をたかだか木造船を破壊するために投入することができるほど日本は裕福ではない。それは航空母艦や艦載機も同様である。
ㅤよって、日本海軍ではこの戦訓を活かしてパーパルディアの持つ『竜母』という空母的な物のみを航空攻撃で撃破し残った戦列艦は全て駆逐艦・軽巡洋艦による砲撃で片付ける事にしていた。
「二水戦からの報告によると電探には2つ反応があり、1つは現在フェン王国より西に270㎞程、もう1つは西に300㎞距離程の地点を航行中とのことです。」
「うむ。」
ㅤ・・・そこで、話が止まる蒼龍の作戦室。
ㅤここにいる人間は皆が皆それぞれ思い思いの表情を浮かべているが、心の内では同じ事を考えていた。
「・・・空母は、竜母はどっちだ?」
「現在、彗星1号が270㎞地点を航行中の艦隊を偵察に向かっています。もう少しすれば、攻撃目標が定まるかと。」
ㅤ小沢長官が皆が思っていた事を代弁すると作戦参謀の1人がすぐさま返答する。
ㅤそれを聞いた男達は大人しく彗星1号からの報告を今か今かと待っているが、その間も刻一刻と時間は過ぎていく。
ㅤ各空母の甲板には飛行準備を整えた大量の航空機が並べられており、蒼龍の飛行甲板からも力強い発動機の音が響き艦橋内部まで聞こえてきている。
ㅤいつでも発艦は可能だ。
ㅤ秒針が正確な時を刻み、60に到達すれば分針がまた一目盛動く。時計以外に全く動きがない艦橋内の空気はまるで少し突けば崩れてしまいそうに感じるほど張り詰めていた。
ㅤ小沢長官の頰を焦りの汗が伝い、床に落ちた瞬間。とうとう運命の時はやって来た。
「彗星1号より入電!『眼下ヲ航行中ノ敵艦隊ニ空母ハ確認デキズ』とのことです!」
「よくやった!」
ㅤ正確に言えば空母ではなく竜母なのだが、今はそんなことはどうでもいい。
ㅤ作戦参謀たちは一丸となって敵目標が定まった事を喜び、直ちに発艦命令を出す。
「攻撃隊、発艦開始!」
『攻撃隊、発艦開始!』
ㅤ小沢長官が発した発艦開始の命令は敵目標の位置と共に無線機を通して5隻の空母に届けられる。
ㅤ各空母で発艦のために飛行甲板で待機していた戦闘機隊は一斉に大空へ飛び立った。
パーパルディア皇国皇軍 竜母艦隊
ㅤパーパルディア皇国皇軍竜母艦隊は整然と隊列を組み、冬の大東洋をフェン王国目指して進撃していた。
ㅤ竜母はワイバーンを搭載し、発着を行うため通常の戦列艦よりも少し大きい。
ㅤこれらはパーパルディア皇国の高い造船技術のなせる技であり、皇国の技術力と武力の象徴でもある。
ㅤそんな竜母艦隊は主力の戦列艦隊よりも少し後ろを進撃していた。
ㅤ艦隊副司令、アルモスは見る者全てに威圧感を与えるこの立派な艦隊を見て愉悦に浸り満足げに微笑む。
ㅤそして、横に立っているワイバーンの竜騎士長に話しかけた。
「竜騎士長!何故、パーパルディア皇国皇軍が強いかわかるか⁉︎」
「総合力です。」
「うむ!そうだ!だが、中核の戦列艦もだが皇国が無敗である真の理由はこの中核たる竜母艦隊があってこそ、だ!
陸上においても海上においても。制空権を制するものが戦争を制する!」
ㅤ自信満々に堂々とした態度で話すアルモス。
ㅤそれを見て竜騎士長も長年の経験を元に適当に音頭をとる。
「流石であります!副司令殿!」
ㅤそれにますます気分を良くしたのか、まるで演説でもするかのように大仰なアクションをしつつ竜騎士長に再び話しかけるアルモス。
「そして見よ!あの最新鋭の旗艦、『ミール』を!・・・あれは素晴らしい!戦体は大きく、機能美に満ちている!そして私が乗っていれば尚の事良し!ㅤ」
「そうであります、副司令殿!」
ㅤ竜騎士長は最後の言葉は何も聞こえなかったことにしてさらに音頭をとる。
ㅤ・・・だが、アルモスの言うことは間違ってはいない。
ㅤパーパルディア皇国の誇るこの竜母艦隊は確かに第三文明圏内外を問わずあらゆる国を恐怖に陥れた最強の艦隊
そう、
パーパルディア皇国皇軍艦隊より東に100㎞程の地点
第二機動艦隊第一派攻撃隊 編隊長機の彗星
『敵艦隊ノ位置ハ・・・』
ㅤ母艦の方から送られてくる敵竜母艦隊の位置。
ㅤドイツ製の物のコピーから始まった航空機無線の改良は技術者達の睡眠時間と引き換えにどんどんと改良が進み転移前と比べ精度がかなり向上していた。
ㅤそれら無線機は水偵や一航戦に優先的に配備されていたが、量産が進むにつれ全空母・水偵の中で標準的な装備になってきている(一部軽空母では未だ不足気味のようだが)
ㅤ攻撃編隊長の松田は彗星の後部座席で地図を見つつ針路の微調整を行なっていた。
「ふむ、敵艦隊に大きな進路変更は無し、と。」
ㅤ母艦からの連絡からすれば目標のパーパルディア皇国皇軍龍母艦隊に大きな動きはなさそうだ。
ㅤ次に彼は無意識の内に針路がズレていないかを確認する。
ㅤ何も目印がなく目に映る物といえば雲と眼下に広がる大海原しかない海上では砂漠よろしくいつのまにか針路が曲がっていた、と言うことになりかねない。
ㅤ特に新造の軽空母の搭乗員は一航戦や五航戦、そして松田らの属する二航戦と比べ少し練度が低めである為いつも以上に針路には気を配っていた。
ㅤ第二機動艦隊から飛び立った攻撃編隊、合計100機の大編隊は敵竜母艦隊を目指して蒼空を進むのであった。
ㅤパーパルディア皇国皇軍竜母艦隊で最も早く異常に気づいたのは上空直掩に当たっていた一騎のワイバーンロードであった。
「・・・ん?あれはなんだ?」
ㅤ皇国の竜騎士であるドグナは、艦隊前方から向かってくる謎の黒点らしきものを偶々見つけた。
ㅤ一瞬見間違いかとも思ったがその黒点は瞬きをしたら消えた・・・と言うことはなく、むしろ急速に数を増やし1つ1つの大きさも大きくなっていた。
「・・・まさか・・・敵騎か⁉︎」
ㅤ驚愕するドグナ。
ㅤここは付近に陸のない大東洋の真ん中。文明圏外国の保有するワイバーンでは航続距離が足りず、竜母のような高等技術が必要な船を持っている国はいない為敵の先制攻撃はまずあり得ない。
ㅤそもそも直掩を上げる意味が無い、と考えていたドグナにとって凄まじい衝撃であった。
ㅤそうこうしている間にもその不思議な黒点はみるみる内に大きくなっていく。
『こっこちら直掩四番騎、敵ワイバーンらしき物を確認!』
ㅤあまりにも驚き過ぎた為少しどもった声となったが自らの属する竜母に魔信は届き、急遽警戒を知らせるムー製の警報機が鳴らされた。
『全機突撃!強襲攻撃!』
ㅤ未だ小さくしか見えないパーパルディア竜母艦隊から警報機の音が鳴り響くのを聞いた第二機動艦隊第一派攻撃隊編隊長、松田は無線機を使い編隊各機に強襲攻撃命令を下した。
ㅤ精度の良くなった無線機は松田の声をノイズの少ない音声で各機に伝える。
ㅤ今回の航空攻撃では二つシナリオが用意されていた。一つ目は『奇襲』であり、二つ目は『強襲』である。
ㅤ奇襲攻撃の場合は水平爆撃が初撃を加えてから急降下爆撃隊が攻撃をすることになっている。
ㅤその理由は『水平爆撃の命中精度向上』である。
ㅤ先に急降下爆撃機が攻撃してしまうと水平爆撃をする頃には急降下爆撃の命中弾による火災などで煙が立ち登る事が当たり前だが予測される。
ㅤ高高度から爆弾を投下する水平爆撃にとって視界不良は致命的な問題だ。
ㅤその為、基本的には水平爆撃→急降下爆撃という順番に攻撃する奇襲を取るように、と事前の作戦説明時には言われていた。
ㅤしかし、敵がこちらの接近に気づいているのならば話が違う。
ㅤ敵が気づいているのにも関わらず悠長に水平爆撃などをしていると敵迎撃機に迎撃される可能性が高くなってしまう。
ㅤその為、敵がこちらに気づいている場合は空母(この場合は竜母)を急降下爆撃で先に沈めて迎撃機を上がれなくする必要が出てくる。
ㅤよって、強襲では急降下爆撃→水平爆撃という順に攻撃するのだ。
ㅤ話を攻撃編隊の隊長機に戻す。
ㅤ松田から強襲攻撃の指示を受けた編隊各機は展開を開始した。
ㅤ彗星や九九式艦上爆撃機で構成される急降下爆撃機は高度を上げ始め、護衛の零戦隊も戦闘に備え高度を上げ始めた。
ㅤ急降下爆撃隊が遙か上空に消えた頃。
ㅤ先程までは小さかったにもかかわらず、今はかなり大きく見えるようになったパーパルディア竜母艦隊では今も警報機が鳴り響いており、飛行甲板では竜騎士が発艦準備をしようとしているのが小さくだが見える。
ㅤ・・・しかし、今すぐ上がれそうな竜騎士は少なく油断していたのか直掩機も少ない。
(絶好の機会だ)
ㅤ松田がそう思った瞬間、上空からいくつもの機影が竜母を目指して急降下してきた。
パーパルディア竜母艦隊 旗艦:ミール
「急げ急げ!早く上げろ!」
ㅤ竜母の中で大人しく檻に入っていたワイバーンロードは久し振りの外だと若干興奮している。
ㅤ人間の成人を普通に超える大きさのワイバーンロードが興奮して暴れるのは非常に不味い。
「はい、どうどう。落ち着け!出撃だぞ!」
ㅤ皇国の竜騎士、マグスは相棒をいつものように叱りつけ大人しくなったのを確認してから跨る。
ㅤ少々幼い性格の相棒はこうしてマグスが喝をいれないと外に出られる度に興奮してしまい、なかなか言うことを聞かないのだ。
ㅤ相棒に跨り飛行帽を被りいざ敵を迎撃せんと飛び上がろうとしたその時。
『敵機直上!まっすぐ急降下してくる!』
ㅤ見張員の絶叫が飛行甲板に響いた。
ㅤマグスがふっと上空を見てみると、そこにはまるで生物ではない・・・例えるならば、ムーの飛行機械のように見える不思議なワイバーンがありえない角度でこの竜母に突っ込んできていた。
ㅤそれはこの船の帆よりももうちょっと高い位置で何やら黒い糞みたいな物を落とすと機首を上げて離脱していった。
「な、何だったんだ?」
ㅤと、言おうとした彼の体は次の瞬間に発生した高熱と爆風、そして衝撃波により消し飛び、その言葉が全て紡がれることはなかった。
お気に入り登録400件突破!総合評価700突破!ありがとうございます!
ところで史実では大淀を空母化する計画があったとか。完成予想図見たんですが・・・1920年代くらいに退化してません?アレ。
作中登場兵器解説
・蒼龍、飛龍
二航戦
・新造空母三姉妹
祥鳳瑞鳳龍鳳の三鳳艦。
・彗星
日本海軍の艦爆。大戦中後期の主力となった。
日本液冷エンジン搭載機の宿命とも言える液冷エンジンに対する技術不足で史実ではエンジンを空冷に換装した物が大戦後期の主力となった。その辺では陸軍の三式・五式戦闘機に通ずるものがある。
わかる人にはわかる苦労
『へんたい』→✖️『変態』
『へんたい』→◯『編隊』
なんなんだよ攻撃変態って攻撃的な変態とか完全に事案やろ・・・