妖怪が実在する世界で妖怪を否定するだけの話 作:すねこすりすり
「見上げ入道?」
最近なにかと話すようになったクラスメイトの犬山さんの質問を一度聞き返した。
「そうそう見上げ入道ってどんな妖怪か知ってる?」
「そりゃあまあ、全国的に有名な妖怪だしね」
見上げ入道、または見越し入道、全国的に資料が残っている妖怪だ。
「じゃあじゃあ! 見上げ入道の弱点とかも知ってる?」
「弱点っていうと、やっぱり一番有名なのは見上げ入道見越したかな」
「凄いね! 私そんなこと全然知らなかったよ」
そんなたいそれたことではない気がする。そういった話が好きな人なら誰だって知ってるような基本的な事だ。
「それに正体は所謂化け狐だとか化け狸だとか、下から上へ見上げていくと際限なくデカくなっていくけど逆に上から下へ見下げていけば小さくなって消えるだとかいろいろあるね」
「へえー! あーもう先にその事を聞いてればなあ」
「聞いてれば?」
「うん、そうすればすぐに見上げ入道を退治出来たのに」
退治って本当に見上げ入道に会ったみたいな言い草だけど、当然そんなことはないだろう。ただ怪しい宗教団体の信者疑惑のある彼女の言葉を単純に否定してしまえば、逆上して何をされるか分かったもんじゃない。ということで適当に合わせるとしようか。
「そうはいっても日本全国に分布している妖怪だから、単純に全ての弱点を持っているってわけでもないんじゃないかな。地域毎にそれぞれの弱点を持った見上げ入道がいるんじゃあないかな」
「地域毎って、あんなのが他にもたくさんいるってこと!?」
「まあ妖怪ってそういうものだからね、それに加えて言えば入道に分類される妖怪はたくさん種類がいるから見上げ入道と別の入道が同一視されることもあるよ」
「同一視?」
「そう、つまり二つの異なる妖怪が同じモノだと見なされること。もともと一つだったモノが二つに分かれて同じモノ扱いされたり、二つだったモノが一つとして扱われることもあるよ」
「それって、くっついたり離れたりするってこと?」
「そんな簡単な話じゃあないけど、まあそんな認識でも別に困ることはないよ」
「へえ~、それじゃあ他に入道ってどんなのいるの?」
「そうだね、坊主も入道に含めたらそれこそたくさんいるよ。見上げ入道から青入道、蟹坊主に珍しいとこだと岩魚坊主、それに加牟波理入道なんてのもいるし、山伏の恰好をしている天狗も広義的に入道になるかもね」
そもそも入道とは要するに出家して坊主になることを指す。つまり坊さんの恰好してる妖怪は総じて入道系に分類してもいいだろう。
「天狗って名前は知ってるけど入道だったの!?」
「あくまで広義的にはね。詳しく説明すると宗教の小難しい話になってくるんだけど、一説では天狗と仏教には繋がりがあるなんて言われてるからね。もっとも源流を辿っていけばどちらかというと神道よりだと俺は考えているけど」
「妖怪について知るには宗教についても知らないといけないのかなぁ」
「そりゃあ勿論だ、妖怪と宗教は切っても切り離せない関係にあるんだから。日本民俗学の礎を築いたある学者は『妖怪とは神が零落したものだ』なんて述べてるからね。妖怪を知るには神を知る必要がある、神を知るって事は信仰、宗教を知るってことと同義だと思うね」
「難しそうだなぁ」
「気になるならいつでも教えてあげるよ」
犬山さんが怪しい宗教団体の信者かどうかはともかく、好きな事を真面目に聞いてくれるってのは存外うれしいものだからね。
「ほんと!? じゃあじゃあ連絡先教えてよ!」
「いいよ」
とは言ったものの、友達も少ない身の上では有名なSNSアプリケーションの使い方をいまいち知らないので、彼女にスマホごと渡して操作してもらう。
「ありがとう、ほいほいっと」
彼女がササっと操作するとあっという間に彼女の名前が友達欄に追加されていた。
「はい出来上がり、じゃあ何かあったらまた聞かせてね」
そこでいつものようにチャイムの音が鳴ったので彼女は自分の席に戻っていった。
数少ない友達枠が増えて嬉しいが、この先かなり頻繁に彼女から妖怪対策を聞かれることになるとはこの時の俺には知る由も無かった。
坊主タイプの妖怪多いんじゃあ