秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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蓮子
STR 8 CON 12 POW 11 DEX 9 APP 11 SIZ 8 INT 15 EDU 15

メリー
STR 7 CON 10 POW 11 DEX 8 APP 17 SIZ 8 INT 13 EDU 15



この小説内での二人のステータスはこんな感じです。


一時の別れ

 

 「その・・・本日は色々と、ありがとうございました」

 

 正門の前まで見送りに着てくれた人物、八雲さんと猫耳の少女に私達は二人で礼をした。時間にしてみれば1時間ちょっとという、わずかな間の縁(えにし)だったが今日この日、得ることが出来た体験は一生忘れられない物になるだろうという確信があった。

 

 今回の遠征における目的は大まかに分ければ、蓮台寺での出来事をもう一度現実のものとする、そして桜と共に散ったあの女性と会う、という2つのものがあった。今後2ヶ月以上は食事内容が2ランクほどグレートダウンするくらいの金額を使ってまで決行したにもかかわらず、どちらの目標も達成できないまま、明日京都に帰ることとなるだろう。

 

 それでも私は心の底から、来て良かったと思った。

 

 時間があるなら、くらいの優先順位ではあるが、訪れたいと思っていたマヨヒガへの到達。何より、八雲紫さんとの出会い。彼女から教えてもらった情報は、オカルトサークルを名乗る私にとって非常にありがたい情報ばかりだった。

 

 最初の内は初対面ということと、伝わってくるオーラに呑まれ、話を信じることが出来ずにいた。それが中盤、幻想郷という場所について語る彼女を見て氷解した。

 

 今思えば、あの時だけは八雲さんが本心から笑っていたのかもしれない。そう思えるほどの純真な笑顔で、幻想郷への愛を伝えてくれた。彼女の熱の篭った話を聞いていると、まだマヨヒガという部分でしか知らないこの場所について好意を持ってしまうくらいには惹きこまれるものだった。

 それに・・・幻想郷を語る八雲さんのことを、何故か他人だとは思えなかった。内容は違えど心に大きな想いを持つもの同士、シンパシーを感じたのかもしれない。

 

 こんな笑顔をする人が、嘘偽りを言うとは思えない。我ながら甘い考えだとは思うが、自分の勘は、しょうもないところでは外れるがここぞの場面では当たる方なのだ。

 

 「ふふ、礼を言うのはこちらの方ですわ、宇佐見さん」

 

 門の境に立つ八雲さんが、笑顔で答えてくれる。

 

 「帰る際は、この道を真っ直ぐに行きなさい。決して振り返っては・・・まあ構いませんが、名残惜しくなるだけなのでお勧めはしませんわ」

 

 扇子で口元を隠し、ジョークだか本気だか分からない事を言ってくる。もし、ずっとこの場所に入れるならと一瞬考えてしまったが止めておいた。幻想郷のとある場所に存在すると言われているこのマヨイガは怪奇を追い求める者たちからすれば、垂涎の的だ。

 だが、それが目的ではない。私達は、様々な神秘を、怪奇を、オカルトを追い求めたいのだ。一つの怪奇に立ち会ってその場所で安住するなどという選択肢はない。世の中には無数の謎があるのだ。一つの怪奇で満足するだなんて、そんなにもったいないことは無い。

 

 神秘を追い求めて早数年。秘封倶楽部を結成して約半年。その短い期間だけでも様々な発見が、出会いがあった。それをまだまだ続けることが出来るとなれば、足を止める理由など無い。

 

 まだ、夢の途中。今回の体験もしかと心に刻み、また歩みを進めようと誓う。

 

 「はい。八雲さんも、お元気で・・・・・・」

 

 頭を下げ、マヨヒガに、八雲さんに背を向けた。

 

 

 

 

 

 なだらかな斜面を黙々と歩いている最中、言葉を発したのはメリーだった。

 

 「蓮子、結局八雲さんの目的はなんだったのかしら?」

 

 同じ歩幅で歩きながら質問を投げ掛けてくる。横を見ると、困惑顔の彼女と目が合った。

 

 私もそうだが、メリーにとっては非常に内容の濃い一日となっただろう。マヨヒガでの体験はもちろんだが、自分の分身とも言える人物と会ったのだ。混乱が収まるわけがない。

 

 そんな彼女が聞いてきた疑問は八雲さんについてだった。彼女が境界を操作して自分達を招きいれたといっていた。実際に境界操作をしている場面を見ることは叶わなかったが、それは仕方ない。

 八雲さんは自身の能力について語るとき、どこか辛そうな表情をしていたし、メリーが自分も使えるようになりたいと申し出たときも拒否した。普通であればでまかせを言って誤魔化していると考えるところだが、私は自分の勘を信じることにした。

 

 その上で、何故彼女が自分達を呼んだのか?

 

 彼女ほどの力を持つものが、どうして私達みたいな一般人を招きいれたのだろうか。単に暇つぶしというわけではあるまい。さらには、帰るときに八雲さんは私達を引きとめようとする仕草をしなかった。もし、目的があって呼んだのであれば、私らが解放された現時点で彼女の目的は達成されているということになる。

 

 私達と会うため、だけでもないだろう。そもそも、上品蓮台寺での出来事も彼女が起こした可能性が極めて高いのだ。単に私達に会うためなら、八雲さん自身がこちらの世界に来るだけで事足りる。わざわざ2回も結界を歪ませ、かつこちらから会いに行くという面倒な手順に頼らずともいい訳だ。

 

 単純に、私達に神秘を経験させたかったのかとも考えた。ただ、それはそれで疑問が残る。少なくとも、八雲さんとは初対面だ。見ず知らず(あちらがどうかは分からないが)の人物にこれだけ肩入れしてくれる理由が思いつかない。

 

 メリーが鍵となるのかもしれない。が、見る限りでは八雲さんとメリーの間で何かが起きた様子は無かった。

 

 分からないことだらけ・・・・・しかし、一つだけ推測がある。根拠も何も無い馬鹿らしいものだが、オカルトを追い求める時点で根拠などあってもなくても問題ない。

 

 「メリー。突然だけど、マヨヒガの伝記については全て覚えているわよね」

 

 「え、・・・まあさすがに分かるわ」

 

 息をするように私の手を握り(しかも恋人繋ぎで)、言葉を返してくれたメリーに、さらに問いかける。

 

 「今回私達がもらった『もの』。これを気付かせたかったんじゃないかしら?」

 

 「へ?私達何かいただいたかしら?」

 

 困惑顔で聞き返してくるメリー。私はそんな顔を見ながら、八雲さんの最初で最後の質問を思い浮かべた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「紫様、良かったんですか?」

 

 マヨヒガにある居間の一室で寛ぐ主に、思わず質問してしまった。

 

 「あら、何がかしら?橙。」

 

 「その、紫様が彼女らに問いかけた質問についてです」

 

 最初に来たときと同じようにお茶を飲みながらのんびりとしている紫様。二人が屋敷から出てからは纏っていたかすかなオーラも消えたため、彼女がここに来た目的を無事にやり終えたのだろうと推測する。

 

 彼女達との会話が目的であれば私もすんなり納得しただろうが、最後の質問がそれを遮る。

 

 紫様が二人に質問をした時、思わず私も身構えてしまった。紫様が戦闘時かと思うほどのオーラを纏い、圧を全身から発したからだ。彼女が本当に本気で『気』を発していたなら私も含めて3人とも気絶してしまっただろうから、ある程度抑えていることは分かる。

 それでも、普段めったに見せないその姿を出したからには、あの質問はかなり重要なものだったはずだ。

 

 その質問に対し、彼女達は何と答えたか?

 

 「『・・・・・・分かりません、見つけられると信じている、ということしか言えません』ですよ。」

 

 紫様は根拠の無い答えをあまり好まない。なのに、その解答を聞いた彼女は『気』を緩め、笑顔・・・いや、安堵したかのような表情をしたのだ。

 

 おおよそ主らしくない行動に戸惑ってしまう。そんな私の考えを見透かしたのか、紫様は静かに言ってきた。

 

 「ふふ、ただ安心しただけよ。彼女の目を見て、ね」

 

 「え、目ですか」

 

 「ええ。私に目を合わせられて嘘を吐ける人間など早々いないわ。そんな中で彼女は口でも、目でも真っ直ぐに私を捉えていた。口からは彼女の本心を聞きだせたし、目からは、覚悟を感じたわ。絶対に見つけ出してみせる、という強いものをね。彼女達なら、きっと『気づいてくれる』でしょうしね」

 

 遠いどこかを見るように紫様は言った。その目には負の感情は見受けられず、ある種の達成感が漂っているのようにも見えた。

 

 私はそばから見ていたため分からなかったが、紫様にとっては十二分に満足の行く答えだったのかもしれない。

 

 「す、すみません、出過ぎた真似をしてしまいました」

 

 「もーそんなの気にしてないわよ・・・あ、橙。お菓子お代わりお願いね♪」

 

 「はい!」

 

 確かまだ台所に残っていたはず、と思いながら部屋から出る。障子を閉めて目的地に向かおうとした瞬間に、紫様のその声は聞こえてきた。

 

 

 それは、消え入りそうな、静かな、儚い声音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ・・・・・・本当に、懐かしいわ」




やっと蓮台野夜行編終了。

ちなみにこの後の展開。と下書きの進捗

蓮台:終了
夢違:白紙。たぶん飛ばす
卯酉:白紙
大空:白紙
鳥船:白紙

第二部
???:白紙
???:白紙
???:白紙
???:白紙
???(最終章):7割完成


はは、ワロス(無表情)



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