秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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改元前ぎりぎりセーフ(滝汗)





出発前の一時

 卯酉の道 心の旅

 

 -------東海道の地下は日本で最も日本的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『遷都』

 

 都を都へ移すこと、また都を替えることを意味する言葉である。反対にかつて都であった場所に再び都を戻すことを還都というが、日本では遷都と還都を同義語として扱う傾向がある。

 

 遷都のパターンとしては、大まかに分けると以下のように区分される。

・政権の交代に伴い、新政権が最適地と判断した場所に移転する。

・政治、経済情勢の変化によって最適地が他所に移ったと判断され、移転する。

・前政権の業績を否定するため、今までの都を廃都とした上で新天地に移転する。

・戦況の変化により、正式な遷都という形でなく軍都、臨時首都のように一時的に移転する。

 

 

 

 詳細に分ければさらに区分することも出来るが、大抵はこの4つが遷都の基本といわれている。

 この中で日本史における遷都の原因は一つ目、二つ目が主だと言われている。西暦643年、皇極天皇の時代に飛鳥板蓋宮に都を移したのが、日本で始めての遷都と言われている。

 

 古来より、現中華人民共和国がある土地から文化を取り入れることが多かった日本は、都作りにおいても、中国の都市を参考としていた。694年に完成した藤原京や、著名な平城京、平安京はその最たるものといえる。

 

 最も、中華式を取り入れ発展した都が、中国から伝わってきた仏教が原因で何度も遷都することになったのは皮肉といえるが。

 

 日本では150年間の間に実に13回もの遷都が行われたのだが、鳴くよ鶯(うぐいす)平安京という言葉で知られる794年、平安京へ都が移ってからは『遷都』という言葉が歴史から消えることとなる。

 そもそも、平安京は一時しのぎとして建てられた仮の都だった。一つ前の都、桓武天皇の元、一大プロジェクトとして建てられた長岡京は度重なる自然災害や疫病、後継者争いなどの権力抗争により10年足らずで荒廃。避難場所として遷都された京都、平安の都が栄華を極めることとなるのだから歴史というものは不思議である。

 

 ちなみに明治2年、東京への首都移転が行われるまで1000年以上に渡り平安京は首都としての役割を果たすこととなる(この時行われたものは奠都であり、厳密い言えば遷都とは違う)。

 

 外国からの技術を積極的に取り入れることでやがて名実ともに日本の中心となった東京都。

 外国の技術を取り入れながらも日本文化を残すことで日本屈指の観光地となった京都府。

 

 形は違えど、日の本の顔となった二つの都市。京都はもちろんだが、第二次世界大戦を経てなお産業革命の波に乗った東京都の繁栄は、世界史をひっくり返しても数えるほどしかない発展速度として語られている。

 

 21世紀に入ってからも技術大国の中心地として、先進国の首都として輝きを放ち続けたその都市が。

 佐渡島に満たぬ面積にもかかわらず、日本の人口の一割以上を萃めていたその都市が。

 

 

 

2100年を前にして再び、遷都の対象になるとはいったい誰が予想しただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 天気は快晴、湿度も快適。

 

 春色の風をその身で感じられる季節の割に早朝の時間肌寒く感じられたのは、昨夜から雲一つない天候だからだろうか。それならあとは恵みの輝きを持つ太陽がその姿を地平線に隠すまで、私たち生物に恩恵を授け続けてくれることだろう。

 

 どうやら出かける直前まで悩み続けていた、ジャケットを羽織るかどうか、という賭けに私は勝ったようだ。未だにアスファルトだらけであろう土地は、私たちが住む場所、京都よりも体感温度は高いはずだ。数日前まで活躍をしてくれたお気に入りのその服は、このまま家での留守番をしておいてもらおう。

 

 最も、現在は肉眼で太陽を確認できない訳だが。

 

 手帳を仕舞い視線を上げると、白を基調とした風景が私を、私たちを囲っていた。1日の間に数えるのも億劫なほどの人物が行き来する場所にもかかわらず、これだけの清潔さが保てるのは技術進歩の成果ともいえる。

 

 古き良き伝統はしっかりと守り、改善できる場所はどんどんと新しく変えていく・・・まさに、完璧な発展だ。これこそ温故知新といえるだろう。

 

 「蓮子、その四字熟語意味が違うわよ」

 

 ・・・と、すぐに突っ込んでくる者が居なければもっと気持ちいい気分で居られたというのにこの方ときたら。そんな思いを持って、本を読みながら時間を潰す相棒に目を移す。

 

 特徴的な帽子に、一般的というにはやや無理のある紫色を中心としたコーディネイトでまとめられている服装。私みたいな人間が纏えば不審者一歩手前、半径3メートルほどの人間限定ATフィールドを搭載することが可能となるが、彼女が着れば違和感のいの字も感じないのだから世の中というものは不公平にできている。

 むしろ違和感どころか、太陽にも負けない輝きを放つ金色の髪との色合いが調和を引き出し、美の結晶と言って差し支えない存在となっている。

 

 現に、周りにいる男性諸君がほぼ全員、彼女に視線をちらちらと向けている。私と同じ方向にいる男性はさりげなく位置をずらし、陰にいる人物に視線を通していた。私のことは眼中にないみたいだった。泣いた。

 

 「メリーは細かいなー。雰囲気で意味が伝われば問題ないのよ」

 

 「私はともかく、物理学専攻のあなたがそのセリフを吐くのはいささか不味いのではないかしら?」

 

 「実験や数式との格闘以外ではずぼらでいいじゃない。超統一物理学が好きなのは確かだけど、人生全てを捧げる気はないわ」

 

 「私は蓮子になら全てをs「はいストップ」」

 

 モテ期が来ないことで少し八つ当たり気味にメリーにチクチクと棘を向けたが、棘どころかグングニルの槍が我が身を貫かんと飛んできた。往来の場で何爆弾発言しようとしてるんだこの女は。

 言葉を遮られたメリーはきょとんとした顔をこちらを向けてきた。いやなんで訳分からないといった顔をしているんだ。むしろこっちがしたいくらいである。少なからず自身に注目が集まっているであろう状態で性癖をさらけ出せるその度胸はいったいどこから来るのだろうか

 

 自重という単語を忘れたメリーは前年度比200%の勢いで私にアタックを仕掛けてくるようになった。以前は二人きりの時のみの行動だったが、今ではプライベートな時も公共の場でもお構いなしに愛の告白をしてくるのだからたまらない。

 

 いつもそんな感じのメリーが近くにいるせいか、最近心なしか同性異性問わず友達に避けられているように感じる。待って違うの。おかしいのはメリーだけだから。私はノーマルだから。

 

 「なら蓮子、こんな言葉知ってるかしら?」

 

 「ごめんメリー電車来るまではそれ以上しゃべらないで」

 

 「えー」

 

 声を伸ばし、頬を膨らませる彼女だが、心を鬼にして発言権をぶん取った。これ以上メリーの口をノーマークにしていたら間違いなくとんでもないパンデミックを引き起こしてしまう。彼女だけならまだしもこっちにも火の粉通り越して火炎弾が降り注いでくる可能性も高いとなれば、事前に刈り取っておくのが吉であろう。

 

 

 

 と、そんな私の苦労が伝わったのだろうか。一本のアナウンスが私たちのいる場所・・・地下に設置された駅のホームに響き渡った。

 

 『本日も、卯酉新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく7番線に、ヒロシゲ36号が到着いたします。安全柵の内側までおさがりください。まもなく・・・』

 

 機械的な音声に続くように、遙か遠くから聞こえてくる、風を切る音。一昔前までは騒音レベルで響いていたといわれる線路の繋ぎ目が引き起こす音も、現在主流となっているリニアモーターカーのおかげで既に過去のものとなっている。

 

 私たちの住む場京都、首都移転が行われて四半世紀以上が経った場所、東京。その二つの区間を結ぶ、ヒロシゲ36号。

 

 4か月ぶりに乗るその列車の姿が、少しずつ大きくなって見えてきた。

 






天皇陛下、今までお疲れ様でした。本当に、ありがとうございました。


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