たった3000文字書くのに1ヶ月もかかる作者が居るってマ?
・・・・・・すみませんたぶん今月終わればペースアップできると思いますので許してください何でも(ry
晴天清らかな昼下がり。太陽の光が届かない場所で、その列車は走り続ける。
かつて、53もの宿があったといわれるその道のりを、1時間もかからずに結ぶ列車。
その窓からは、春の陽気も、夏の情景も、秋の風情も、冬の神秘も見られない。映るのは、完成された東海道の美しい景色。
地上かと見間違うほどのリアリティを誇る、カレイドスクリーンを通じて目に飛び込んでくるそれは、日本が生んだ傑作の一つとして海外からの観光客にも人気だ。
次世代型リニアモーターカー『ヒロシゲ』
既に完成されていたといっていい日本の公共交通網に、上記の列車が急ピッチで追加建造されたのにはそれなりの理由がある。
西暦2100年を迎える前に起こった、間違いなく日本史に残るであろう出来事である「神亀の遷都」。
首都移転によって、経済の中心地は東京から京都に変わり、それにともないに本社を関西地方に移す企業が後を絶たなかった。
必然的に人口も流れることになるのだが、東京、もしくはその近辺に家を構えるものはおいそれと引っ越すわけにも行かず、結果として通勤という選択肢を選ぶものが多かった。
100年前と比べると人口が約半分に減ったとはいえ、未だ2000万人ほどの人口を抱える関東地方のサラリーマン、OLら全員の通勤を支えられるだけのキャパシティが、当時の路線にはなかった。
その時の混雑具合たるや、一般的な満員電車が極楽浄土と思えるほどの地獄だったという。何せ、列車の本数と時刻、そして始業時刻は決まっているのだ。油断しているとあっという間に電車内が埋まり、遅刻確定となる電車を待つ羽目になる。
幸い、良くも悪くも同調意識が高い日本のためか、ホームでは長蛇の列こそ出来ても、横入り・乱闘などの騒ぎが起きること稀だった。よって、早く並べば比較的早く乗ることができるため必然的に東京駅に集う人々の起床時間は早くなっていった。
全ては遅刻しないため。欠伸をしながら仕事をする社会人の数は少しずつ増えていき、わずか半年で彼らの仕事中のミスや仕事効率の低下が、各会社で無視できない損失となって現れた。いかに優秀な社員でも、万全の状態でなければ実力を発揮できない。
減らない遅刻者数と、増え続ける睡眠不足の社員。企業単位での解決策はそのほとんどが意味を成さず、頭を抱える経営者の数も比例するように増加の一途を辿った。
経済への悪影響。それは遷都から1年後に公開された年間経済指標によってはっきりとした数字で現れた。数字こそが最高の説得材料であるとは誰が言った言葉か。経済の中心地となった京都で発生した経済停滞を日本人ははっきりと認識し・・・・・・非難の矛先を政府に向けた。
遷都当初は浮かれて盛り上がっていた国民達は手のひらを返すように政策にケチをつけ始める。政治家はそんな国民を見て勝手な奴らばかりだ、と思ったが、彼らとて現状のままでいいとは思っていない。
事態は急を要する。1年だけで、目に見える形での弊害が出たのだ。10年、20年と続けば最悪、日本という国事態がどうなるか分からない。
指標が掲示された数日後に国会で議論が始まり、わずか1ヶ月で『ヒロシゲ』の原案が完成。急ピッチで線路の選定を終え、その年の内に国の一大プロジェクトとして工事が始まった。
「・・・・・政府が国の威信を賭けて取り組んだ新たな交通網、ヒロシゲ。今になってみれば、大成功だったと言うべきでしょうね。」
頬杖をつきながら私はカレイドスクリーンに流れる景色に目を向ける。かなたに見える富士は遠くにありながらもその巨大さ、そして美しさを隠すことなく見せ付ける。その麓に広がるは、新緑鮮やかな色彩。どこまでも広がる青空も相まって、一つの完成された美を形成している。
それだけだ。
正直に言えば、昨年の東北旅で車窓から見た田舎の風景の方が惹かれる。
どんなに素晴らしい光景でも、『映像の世界』に感情移入できないのは私の脳が一世代前からバージョンアップしていないだけなのかもしれない。目でしか見れない天国よりも、この身をもって体感できる地獄のほうがまだマシだ。
日の当たらない場所。太陽が届かない地下を進み続ける、ヒロシゲ36号。最先端の技術が集結して製作されたそれ自体には、私はあまり関心を抱くことが出来なかった。
「新設された卯東京駅と酉京都駅をわずか53分で結ぶ夢の列車、ねえ。数字といい名前といい元ネタを隠す気0ね。」
「名前はともかく、結果は上々よ蓮子。ヒロシゲが開通してから日本経済は無事、右肩上がり。幸福度も上位へV時回復を果たしたのだから、英断と呼ぶに相応しいわ」
2箱目のお菓子に手を伸ばしながらメリーが相槌を打ってくれた。私にとっては退屈でしかないこの映像刺激も、彼女には一定の娯楽となっているのか、乗車時間の大半を仮想風景の観察に費やしている。
映像はゆるやかに流れていく。近代化の象徴とも言えるスクリーンに映るのは、東海道という一帯が受け継いできた、日本の原風景。今はちょうど苗植えの時期である3月中旬ということもあってか、年配の方が広い園地に定植を行っている光景が映し出される。
季節に合わせて1ヶ月ごとに映像が変わるところもヒロシゲの評価点と言われおり、地上の景色を限りなく正確に映し出すその装置は、年を追うごとに外国人からの人気が上がってきている。
「にしても、メリーも飽きないわね。そんな偽物を見たところで何が面白いのかねぇ」
「あら、蓮子はバーチャルリアリティにいい感情を持っていなかったかしら?」
半年前とは違う映像が流れていく。その非現実を写真に収めながら話すメリーは、どこか楽しそうに見えた。
「蓮子って目に見えるものしか信じない主義?」
「というよりは、作り物がどうもね・・・・・・。映画とかはまだ好きなんだけど、お化け屋敷みたいなものはダメね。『驚かせる為に作られた』って意識しちゃうとどうにも盛り上がれないのよね~」
「ふーん・・・まあ、私も蓮子も変な目を持っているからね。普通の刺激じゃ物足りなくなってきてるのかもしれないわ」
「・・・・・・待ってメリー、それよ」
ピンと来た。よくよく考えれば、作り物への関心が薄くなっていった時期と、秘封倶楽部活動が始まった時期が一致していた。
そりゃそうだ、メリーのおかげで御伽噺に勝る体験を何度も行えたのだ。境界を乗り越え、幻想のような現実をこの身で経験できるとあっては、人工的な娯楽に興味がなくなって当然である。
「なるほどね、つまり蓮子は私なしじゃ生きて行けない身体になってしまったと」
「ナチュラルに心読まないでくれるかしらメリー。・・・・・・でもいいなぁ、どうせ異能を宿すなら、メリーの目が欲しかったわ。もし手に入れられたなら、泣いて喜ぶと思うわね。」
じぃーとメリーの輝く瞳を見つめる。彼女はその双眸を瞬かせた後、苦笑した。
「そんなにいいものじゃないわよ、蓮子。たしかにオカルト関連ではこれ以上の力は無いとは思っているけど、それ以外じゃ無用の長物よ。」
「そんなもんなの?」
「ええ。それこそ、こんな映像が面白く感じられる程度には、ね。」
常人がどれだけ見ようと思っても見れないモノを垣間見れる瞳。それを持つメリーは、どこか遠くを見るような表情で、カレイドスクリーンに視線を戻した。
そろそろ京都秘封遠征のために宿の予約をしたほうがいいのかなと思いはじめた今日この頃。
ゲストハウスなら安く泊まれますが、ビジネスホテルのゆったり安心感も捨てがたい。