前々話投稿時点では、えーき様と小町が登場する予定はありませんでした。
今回の話も、書き始めた頃とは2回転半ほど違う場所にすっ飛んでいく内容となりました。
次話がどうなるのか、この章がどのような結末を迎えるのかは誰にも分かりません。筆者にも分かりません。マジでどうしよう。
そんな感じで最新話です。
日本は言う国は北海道、本州、四国、九州に大小さまざまな島が合わさって一つの形を成している。昔の日本は世界の国々と比べると、特別広い国土を持っているわけでもない・人口は多いが突出してはいない、という取り立てて恵まれた国ではなかった。
そんな日本が長い間、世界に誇る経済大国、技術大国と呼ばれ続けたのには当然理由がある。
戦後の驚異的な復興に重なるように起こった、高度経済成長期。重化学工業分野での技術革新、国内市場の拡大、為替変動による輸出への追い風、有能な内閣による経済改革・・・。
上げればキリがないが、様々な要因が重なり合ったことで日本の景気は回復どころか過去にないインフレ度合いを見せた(バブルというさらに大きな山については、ここでは割愛する)。
待っているだけで山のように入ってくる受注。働けば働くだけでる色のついた残業代。当然のように行われる事業拡大。
それは、焼け野原しかなかった十数年前とは天と地ほどの差、いやそもそも比べること自体が失礼に当たるほどの違いがあった。
働けば働くだけ金銭的に豊かになっていく生活。子供の頃は米を食べることも困難だった自分が、今では和食にするか洋食にするかをその日の気分で決めることが出来る。子供のときに夢見ていたマイホームも、決して夢ではない。
より幸せに、幸福に生きるために人々は働き続けた。景気、改革が追い風となりさらに好景気、給料増加に結びつく好循環。比例して、『24時間はたらーけますか?』というフレーズが特徴的なCMが流行るほどに残業時間も増えていった。
どこまでも豊かに、どこまでも幸福に。
仕事に人生を費やす人々が飽和状態になったその日、今まで日本が積み上げてきたものが、一つの形となって示された。
国連調査による世界各国の幸福度調査。
先進国最下位、『日本』。
確かに、物資面、経済面では世界有数とまで言われるほどに発展を遂げた。だがそれは、日本人が取り立てて優秀だから、というわけではない。
元々全人類がホモ・サピエンスという一つの括りの中にある。個人単位で天才が生まれることはあるが、1カ国全てのヒトが秀才であることなどありえない。もし日本という島国が秀才軍団であったならば、当の昔に地球の中心となっていたはずだ。
では何故か?
簡単な話である。日本人は、自らの時間を犠牲にして、会社に貢献し続けただけなのだ。1年2年だけならまだしも、10年単位で長時間労働に勤しむ者が多く、その代償は、過労死などといった形で返ってきた。
貯金が貯まっても、それを自分のために使う時間がない。
金銭的に豊かになったはずの日本は、感情面で幸福を感じることが出来なくなってしまったのだ。
日差しが暑い。
地面を焦がす太陽は、雲という遮蔽物がないこともあり、惜しみなく地上に熱を送っている。
季節は春。本来であれば母性を感じさせる日の光が、どことなく厳しさを覗かせるのはこの土地だからだろうか?
私、マエリベリー・ハーンは頬を伝う汗をハンカチで軽く拭きながらうんざりとした気持ちで歩いていた。
53分間の仮想体験を経てたどり着いた場所は、私達の住む京都とは何もかもが違っていた。
駅を出た瞬間に、身にまとわり付く熱気。3月だと言うのに熱さを感じる原因は、少し前まで京都にいたことが挙げられる。緑地運動にも取り組んでいる京都は、アスファルトの地面を少しずつ減らして合成土壌を地に固める計画を順調に進めている。
それに比べ、東京はそんな大掛かりな工事をする予算など存在せず、昔の町並みのまま時が止まっていると聞いていた。
訪れてみて初めて、なるほどと思う。灰色だらけの地面に、どこまでも高く建てられた鉄の箱。かつて栄華を誇っていたという都心は、地方都市ほどの人口ほどしか見受けられない。早歩きで道を行くサラリーマンやOL、少々奇抜な衣装をした同年代の若者もおり人自体はそこそこいるのだが、町全体に活気が感じられない。
田舎のような、人が少ないながらも穏やかさを感じた場所とは違う『何か』を感じていた。
「ゴーストタウン・・・ってわけでもないのだけれど。建物は多いのに都会と言う印象を受けないわね」
「言いたい放題言ってくれますねえメリーさんや」
土地の感想を呟いていると、横から抗議の声が聞こえた。いつも通りの服装に身を固め、帽子を外して自身に風を送っている私の結婚相手(予定)、宇佐見蓮子である。
自身の故郷のダメだしをされた所為か、彼女からはどことなく不機嫌という名のオーラが漂っている。そんな蓮子もまた可愛いのだが。
「蓮子はよくここで過ごせてたわね・・・。3月でこの暑さとか私にはちょっとキツイわ」
「暑さだけじゃないわ。今から1ヶ月前は氷点下近くよ」
「えぇ・・・・・・急すぎるわね。暑さと寒さで相殺することは出来ないのかしら。それなら1年中過ごしやすくなるのだけれど」
「メリー絶対田舎居住に向いてないわよ・・・」
呆れた表情を向けてくる蓮子を視界の端に収め、一歩ずつアスファルトの地を踏みしめていく。
スマホで確認した限りでは、気温自体は東京京都に差はあまりない。むしろ、若干ではあるが京都のほうが高いくらいだ。それなのに、身に感じる熱量はこちらの土地が多く、強い。アスファルトが主な原因だろうと推測を終えているが、理解が出来たところで納得できるかどうかは別である。
今回、私達2人がここを訪れたのは秘封倶楽部活動のため、ではない。
お彼岸、という日本の風習のために春休みを使って実家に帰る蓮子。その付き添い兼蓮子のご両親への早めの挨拶をするために、私も便乗した形である。
ここでいい印象を見せることが出来れば、また外堀を埋めることが出来る。無理に蓮子本人を習い続ける必要は無い。周りから攻め立てるのも一種の常套手段である。
それに初めての訪問となる東京という土地自体にも関心があった。未知なるものへの興奮はオカルトであろうとなかろうと変わらない。降り立って1時間もしないうちに気持ちが急降下してはいるが。
改めて周りを見渡す。
昔は当たり前だったという、大型店舗が立ち並んでいる。1つの建物に数十もの店を詰め込んで経営することで集客力を高めるといういささかレトロな方法。昔ならいざ知らず、現在の人口数を鑑みると時代にあっているとは言い難い。
閉鎖された小さい建物を彩る生長した植物。暗い緑色をしたそれらは、どことなく『自然』ではない。
「・・・そういえば、まだ言って無かったわね。メリー」
建物を観察しながら歩いていたとき、思い出したように蓮子が話しかけてきた。
横に目をやると、先ほどまで団扇代わりにしていた帽子を被り、不適な表情で笑っている。かっこつけたがる、彼女の癖の一つである。
帽子に片手を掛け、蓮子は静かに口を開いた。
「時代に取り残された土地、『東京』にようこそ。メリー」
幸福度最下位だった日本が変わる切欠となった出来事、遷都。京都に首都が変わったことを切欠に、日本は本格的な労働改革に取り組んだ。
結果、下がった給料を補って余りある精神面での幸福を国民は手に入れ、わずか十年で日本は精神の景気が回復した。幸福度ランキング最下位を脱出し、少しずつ、確実に順位を上げていったのである。
京都の動きに追従するように広がっていった改革。それを受け入れ切れなかった場所があった。
過去の栄光を忘れられなかった土地、東京都。
有名な会社が軒並み京都に移住し、ベットタウンと化した現状でなお、過去のやり方で、発展してきた昔ながらの方法を続けた。もう一度、輝くために。
快晴の日の下で笑う蓮子。その姿は影がかって、日中なのに少し見えづらかった。