秘封倶楽部(仮)   作:青い隕石

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金沢東方祭お疲れ様でした。旧作ゲームの試遊が本当にありがたい・・・。



快晴の下の星読

 懐かしさを感じる。

 

 故郷の地に降り立って1時間。寄り道をしながら私は、私達は都心から少しずつ離れていく。

 

 最盛期でも東京都の4割ほどは地方都市寄りの田舎だったと聞いているが本当だろうか?歴史の脚色は世の常であるが、東京の発展と衰退、そして変異の軌跡までもが幻ではないかとさえ考えてしまう者もいる。

 

 時代の隙間に真実を隠したのは政府か、都知事か?はたまた真実なのか?過去を知るときに人は写真や映像を見るが、その真偽を確かめることは出来ない。その写真は改竄されたものかもしれないし、映像は捏造されたものかもしれない。どれだけ証拠を集めて積み重ねようと、人は『過去』を視ることは出来ないのだ。

 

 

 それが一般人であるなら、だ。

 

 

 一枚の写真を空に向かって突き出す。太陽の光を隠すように掲げられた、切り取られた風景。道路と家を遮るように建てられたブロック塀。その内側には小さいながらも庭が広がり、新緑色を拡げる木が数本立っている。

 車道の反対側に見えるのは、公園だろうか。小さな子供が元気いっぱいという様子でジャンプしており、公園の端にいる親が苦笑しながら見守っている姿が映っている。

 その光景の4分の1ほどが黒く、暗く描かれているのは、風によって舞い降りた葉が、タイミングよくレンズを横切ったからだろう。 

 

 

 私の人生において、見慣れているとは言いがたい緑に囲まれた景色。緑化運動を経てなお、関東や中部、関西では珍しい優しさを持つ土地の写真。

 

 一度、見上げていた目線を水平に戻す。私の目に映る景色は、未だ空を靡く写真とは似ても似つかぬものだった。

 碁盤のように綺麗に区切られた道と、その目に合うように建てられた数多の一軒家。以前は東京に家を構えるなど一部のエリートしか叶わなかった夢だったらしいが、現在は所狭しと言った具合で乱立されている。土地の価格が現在進行形で下がっていることもあり、関東周辺の者が通勤に便利なこの土地に住居を移す事例が後を絶たない。

 

 小奇麗に整備されたこの場所は視覚的に鮮やかな色で構成されている。住む人々が思い思いの願いを家の形、色に反映している様は、一人一人が自らの願望を目に見える姿で具現指させた展示会とも受け取れる。

 

 無駄を極力排除したような町並みは一種の芸術である。有力企業が出て行き、活気を失った都心より郊外のベッドタウンの方が清潔だというのだから面白い。 

 

 無駄なものはないのだから、当然ではあるが敷地を食う公園はない。1本あるだけでも土地の面積を埋め、見晴らしを悪くする木々もない。

 

 信じられるだろうか、この場所がまさに、写真に移っている場所であるなどと。

 

 様変わり、などというレベルではない。変化した場所よりも変化していない場所を探すほうが遥かに難しく、名残や面影といった単語が欠片たりとも出て来ない。異世界と入れ替わったと言われたほうがまだ納得できるくらいには、何もかもが違う場所。

 

 それでも、私はここだと確信できた。今年でやっと二十歳を迎える年齢ゆえ、大昔の風景など子の目で拝見したこともなければ、手に持つ写真が加工されているものか確かめられるわけでもない。それでも私は、私だけは分かるのだ。

 

 写真を再び掲げる。大昔の記録を映す、1コマの映像に映る青空と、今という時間に存在するどこまでも広がる青空。

 

 二つの青を、重ねるようにして見比べる。太陽の光を隠すように頭上に挙げた一枚のパノラマを見て、目を細める。焦点を合わせるように写真の、もっといえば写真の青空のみを注視して見つめる。

 

 見続けて、見続けて、徐々に浮かび上がってくる粒子のような光を確認する。瞬きをしても消えない『ソレ』を、私の目で視つめる。その行為を行うことで、一瞬で視界に表示される情報が浮かび上がる。それは写真の風景が示す、日付と場所だった。

 

 一旦写真を持つ手を下ろし、空を見上げる。眩しい輝きが目に降り注ぐが、急いで写真を仕舞い、手で太陽を隠す。少し光が漏れるが、この程度であるなら問題ない。無視するように天を仰ぎ、青を見つめた。

 

 同じように浮かび上がる光を掴むように、かき集めるように見渡して情報を浮かべる。出てきたのは、今私が立つ場所の場所と日付。

 

 ため息をついて、顔を下げる。上を見続けた所為か首に軽い違和感が生まれたのでぐるっと円を描くように動かす。何度か繰り返した後、軽く背伸びをして身体全体の調子を整える。少し体は楽になったが、精神的には余裕を持つことが出来なかった。

 

 私が持つ特異な目を通して得たもの。今まで一度たりとも疑いを持ったことのない異能の力は、今得た情報が真実であることを教えてくれる。だからこそ、ため息が出る。何度視ても、二つの場所は一言一句違わない。食い入るように見ても、片目をつぶってみても、二つの空を重ねても、文字に修正が起こる気配はない。

 

 高度経済成長期は十数年で様変わりしたのだ、その2~3倍の期間があるなら面影を消し去るほどの変化など容易いだろう。

 

 この町並みを見て生まれ育ったためか、変な感慨というものはある。だが、それだけだ。昔は昔、今は今だ。オカルトに絡まない事象であれば、大抵のことは受け流せることが出来る。

 

 もう一度、空を見上げる。光と共に表示される数字と文字。私は黙ってそれを見つめた。 

 

 

 

 

月と星が見えないのに、時間と場所が分かる。

 

 

 自分の目の変化に気づいたのは、マヨヒガでの幻想的な体験を終えた2週間後だった。非日常から帰還した私達が過ごす、平穏で平凡な日常の最中に何気なく空を見上げた。そのままぼーっと空の青色に思いを馳せていたら、視界にキラキラと点滅する何かが浮かび上がってきたのだ。

初めは太陽の影響かと思ってすぐに視線をそむけるだけで終わった。しかし翌日、曇り空を見上げた際にも同じ現象が起こったのだ。

 

 訳が分からずそのまま空を見上げていると、粒子がどんどん散らばるように増えていき、やがて見慣れた数字が浮かび上がったのだ。 

 

 驚いた、なんものではない。星々と月が輝く晴れの夜、という条件化でしか使用できなかった能力が今具現化しているのだ。その日の内に何度も試し、翌日以降も時間をずらして空を見続けたが私の目はことごとく今という事象を正確に読み取り続けた。

 

 明らかに能力が進化している。この事実をすぐにメリーと共有し、メリーの目についても尋ねてみたが彼女の方は特に変化なしとのことだった。

 

 原因を考えるとするなら、八雲さんとの邂逅が挙げられる。しかし、それなら何故私だけだったのかが分からない。どちらかと言えば自分よりもメリーのほうが、八雲さんとの関連性がありそうなだけに謎である。

 

 それから半年、私の目はそれ以上の進化も退化もせずに時間と場所を表し続けている。快晴の日も、大雨の日も、吹雪の日も、意識を集中させれば粒子と共に私がいる事象を私に教えてくれた。

 

 ・・・・・・まあ、自分の能力が進化したからといって、日常に変化はなかったのだが。

 

 仮定の話になるが、メリーの能力が進化すれば秘封倶楽部活動に大きな影響(いい意味で)を及ぼしていただろう。オカルト関連の活動においては、メリーの境界把握が絶対条件だからだ。ノーヒントでやるなど、鳥取砂丘から砂金を見つけることに等しいが、彼女の目があれば話は別だ。

 

 もし・・・もしもだ。境界を把握するのではなく、『境界を操る』ことができるなら。幻想の地にいた八雲さんの能力が手に入ったなら。

 

 無い者ねだりということは分かっている。それでもその先を、さらなる力を求めてしまうのは人間の性だろうか。だがそこまで考えて、首を振った。八雲さんが自分の力を説明してくれたときに私は思ったはずだ。

 

 その力は個人が持っていいものではない、と。

 

 もっと秘密を追い求めたい気持ちはある。境界を自由に暴きたい気持ちもある。

 

 

 それ以上に、メリーが遠いところに行ってしまいそうな恐怖がある。 

 

 

 無鉄砲で後ろを向かずに秘密を追い求める私の、絶対に超えたくない一線。メリーと一緒でなければどんな冒険も色あせたものになってしまうのだ。

 

 秘封倶楽部は2人で1つなのだ。彼女の手を取らないまま行う活動など、考えたくない。

 

 ふふ、と笑みがこぼれる。なんだかんだ、自分もメリーに依存しているみたいだ。普段の彼女の行動、言動はアレだが、私もメリー無しでは生きていけないのかもしれない。

 

 「どうしたの蓮子?」

 

 前を歩くメリーから声が掛かった。珍しそうに辺りを見回しながら観光兼観察に浸っていた瞳は、私に向いている。思った以上に独白の時間が長かったみたいだ。

 

 何でもない、と言いメリーの横に並んで歩き始める。一歩一歩ゆっくりとした足取りは、今という時間を大切にしたい気持ちの表れか。

 

 額に流れる汗を拭きながら目的地・・・私の実家に向けて歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「げっ・・・」

 

 「会って一言目がそれとは、随分な身分のようですね小町」

 

  

 

 嫌な人物が来た、という感情丸分かりの声が出てしまった。

 

 目の前に立つのは、見慣れた自分の上司。どうやら今日が休日のようで、自分の職業を表す道具一式を外している。そしてこれまた見慣れた光景だがここ、三途の川を通って此岸へと赴こうとしている。

 

 幸い、今日は『珍しく』真面目に仕事をしていたせいか、出会って早々仕事に関する小言を言われることはなかった。態度に関してはご愛嬌で済ませて欲しい。割と切実に。

 

 そんな彼女は今日も今日とて幻想郷に赴くのだろうか。人のことに口出しする趣味はないが、よく続けられるものだと思う。貴重な休日を他人のために使うなど、私には到底出来そうにない。

 

 「考えが顔に出てますよ、小町」

 

 「おっとこれは失礼しました」

 

 怠惰で邪な思いが伝わったのか、四季様が鋭い目で見つめてくる。私がどんな気持ちでいようと、仕事をしっかりとしていれば長時間の説教はないことがせめてもの救いだ。

 

 「では四季様、今回も幻想郷までですか?何ならお供しますよ」

 

 「自然な流れでサボろうとしないで下さい。それに今回は幻想郷には行きません」

 

 「あれ、じゃあどこですかね?地底や天界ですか?」

 

 「いえ、少し外の世界までです」

 

 「ああ、そうですか・・・・・・」

 

 

 

 ・・・・・・はい?

 

 いつも通り流そうとして、思考が急停止した。あまりにも予想外の行き先を聞いたせいか、脳が言葉の意味を理解するまでに時間が掛かった。 

 

 慌てて呼び止めようとしたが、気づいたときには、彼女の姿は既に遠くにあった。

 

 

 

 

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